第7話 雲の上の会話
本日1話目です。
天地と柊さんへの、土方さんの勧誘は続く。
しかも、入ってくれないかな、ではなく、入った方がいいぞ的な雰囲気をふんだんに感じ取られる事からも、相当自分のレギオンに自信があるのだろう。
その後も俺の目の前で、まるで雲の上の会話を延々と続けていたけれど、はっきり言って今の俺には全く関係ない。
土方さんのレギオンはトップ3に位置するレギオンだとか、そのレギオン所属のメリットとか、入っても抜けられるクーリングオフ期間とか、それが過ぎたら1年は抜けられないとか色々言っているけれど、それでもやはり俺には全く関係ない話ばかりだった。
……まあ、いいや。
「とまあ、そう言った理由で我レギオンへ勧誘する」
そうこうしている内に説明は終わったようだ。
天地もちゃんと説明を聞き、ある程度は納得した表情を見せている。
「なるほど」
納得したのか天地は小さく頷いた。
「分かりました。ではそういう事なら是非お願いします。伊織も良いだろう?」
「え?……う、うん……」
「どうした? ぁ……」
「う、ううん……なんでもない」
何となく天地がしまったといった表情を見せた。
そして二人ともが俺を見やる。
もしかして俺を気にしているのか?
だったらそれは間違いだ。
「二人とも、気にする必要はないよ」
「で、でも……」
「土方さんも言ったように、賭けるのは自分の命なんだから、まずは自分の事だけを考えるべきだよ。俺が逆の立場でも、まずはそうする。それが良いとか悪いとかではなく、当然で当たり前なんだよ」
そう説得をしてみたけれど、まだ迷っているようだ。
「大丈夫。俺はしぶといから。ゆっくり慎重に行くよ」
それでいつか足手まといじゃなくなったら――。
そこまで思ったけれど、俺はその言葉を飲み込んで、小さく微笑んだ。
そんな俺の表情をじっと見やっていた柊さんは、少し納得をしてくれたのか小さく頷いて、
「わかった」
そう俺に返事を返してくれた。
それを見て土方さんは即座に動く。
「そうか、では我々のレギオンに二人を歓迎しよう!」
「よろしくね、二人とも」
「ようこそ、青鋼の騎士団へ」
「何も心配しなくていいからね~」
「そうともよ!俺はビスケスだ、よろしくな!」
気が変わらない内にといった感じだろうか?
5人のメンバーが次々と二人に握手を求めた。
すると、離れた場所から少し焦るような声が。
「お!俺も!!俺もお願いします!!」
そう口走ったのはアホの諸星だった。
片手を挙げて小走りで土方さんの所へ。
とはいえ諸星は土方さんに対し、散々食って掛かっていたから無理だろ。
そう思って見ていたのだけれども……。
「ふむ……君は確か斥候系に役立つ加護だったな。加護とステータスは連動するし、そのステータスもそれなりだった記憶がある。……うむ、良いだろう」
「本当ですか!ありがとうございます!」
うえええ!?まじで!?
思わぬ展開に思わず目を見開いた。
「但し、仮に問題を起こして俺のレギオンを追放された場合、この国で他のレギオンには所属できないと思った方がいい。それでもよければ歓迎しよう」
諸星への対応が、天地や柊さん達へのソレとは若干異なるように思える。
もしかしたら土方さんは諸星の性格をある程度把握したのか?
それでも入れるって事は、何か理由があるんだろうか?
ま、考えるだけ無意味だな。
そう思いながら俺は喜ぶ諸星の顔を眺めていた。
「素行は大丈夫です!大河!柊!よろしくな!」
「ああ、よろしく」
「……う、うん」
天地は諸星の事を歓迎したようだ。
だけど俺は知っている。
柊さんは諸星の事が苦手だと。
お調子者で下品で空気が読めないから。
思った通り少し微妙な表情を見せていた。とうの本人は天にも上りそうな程に有頂天だけど。
そしてここで余計な事を口走るのが諸星クオリティ。
卑下た笑みを浮かべたと思いきや、俺の方を向き、
「司馬ぁ!まあ、お前はせいぜい冒険者以外の職をさがせよな」
皆が居るからか控えめにそう口にしたのだろうけれど、本当に言いたい言葉は何となく分かった。
でも何で諸星は俺を昔から目の敵にするんだろうか?
全く身に覚えがない分本当に嫌だ。
とはいえここでまた無視をすれば何時までも絡んできそうなので、仕方が無しに返事を返す。
「ああ、何とか生きてみるさ」
「司馬君……」
柊さんが心配そうな目を向けてくる。
ただの同級生にすらそんな慈悲深い視線を投げかけてくれるなんて、本当に君は素敵な女性だ。
なのでそのお礼でもないけれど、無理やり笑顔を作りつつ、柊さんに向けて伝える。
「心配するなよ。低いって言ってもこっちのヒュームと殆ど同じなんだし、加護が無いっていってもこっちの人も殆どが加護無しっていうしさ」
「そうか、そうだな」
「うん……気を付けてね……」
「ああ、大丈夫だ。何とか生きるさ」
「じゃあ司馬も頑張れ。俺らも頑張るから」
「お互いな」
一応心配をするような素振りを見せていた天地も、俺の言葉で切り替えたらしく、足取りの重い柊さんの手を引きながら、土方さん達が居るところへ向かって行った。当然アホの諸星もスキップしつつ。
……わざわざ何度も振り返って俺をプスクス笑うんじゃない。ねぇ、どんな気持ちAAを思い出してしまうだろうが。本当に嫌味な奴だ。
それにそういう仕草は人に見られているもんだぞ?
現に土方さんは無表情のまま、今も目を細めて諸星を見やっているし。
そして俺。
一旦は冒険者を諦めようかなと思ったけれど、なんか諸星の顔を見ているとそんな気持ちなんてあっさりと何処かへ行ってしまった。
そして、どうも諸星がレギオンに入れて貰ったがために、他の人達も自分を入れて貰おうと動きだしたらしく、遠慮がちではあるが何人かは土方さんへとアピールに向かった。
俺は殆ど聞いていなかったけど、レギオンに入るという恩恵はちゃんと聞こえただろうし、それがトップランクに近いレギオンなら恩恵も他より断然多いだろうし。
ただ、やたら目ったらスカウトをすることは出来ないようで、他の人達には丁寧に断っていた。
どうやら今回説明を担当した《青鋼の騎士団》では、転移者の中でトップレベルの人を二人と平均レベルを一人しか入れられないとの事らしい。
そうしないとその他のレギオンがどんどん割を食うから。
まるで野球のドラフトだな。しかもフリーエージェントの資格がたったの1年の。
しかし上手く諸星は世を渡ったものだ。腹が立つがこれも処世術のなせる業だろう。
とはいえ俺には関係ない。もしも俺が諸星の前に同じ事を口走ったとしても、絶対に入れては貰えなかっただろうし。
なんせ俺は転移者の中では味噌っかすでゴミ同然だから。
そう自虐を込めて俺は自分自身を笑った。