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第59話 相方

本日5話目です。


「ま、まあ皆さん、今の話はあくまでも救命行為ですから」


 若干上ずった声に思えるけれど、場をとりなす為にかエミリアさんがそう口にした。


「そ、そう!あくまでもあたしは救命行為だったのよ!」

「お、俺だってそうですよ!」

「でも舌は入ってたぞ」

「しししし舌が入ったのも偶然なんだから!!」

「おおおおおれは舌入れてません!!」

「れんじいい!!」


 必死の形相でいい訳を続ける。

 そして段々と何のいい訳か分からなくなってくる。

 まずいと思いながらチラリとプリシラさんを見る……。


「……//////」


 まだ顔が真っ赤で俯いたままだ。


 場の空気は一種異様な雰囲気を醸し出している。


 真っ赤な顔をして弁明をする俺と絵梨奈さんに、真っ赤な顔で俯いたままのプリシラさん。更には放心状態の柊さんに、場をとりなそうと焦りを感じているエミリアさん。


 事の発端を口にした田所さんは悪い顔を見せ、相馬さんは苦笑いを浮かべっぱなしで、天地は我関せずと相変わらずちびちびと氷入りエールを飲んでいる。


 傍から見れば凄い絵面だ。カオスとはこういう事をいうのだろう。

 これをどうやって鎮めるというのだろうか?

 誰か良い案があったら教えて下さいお願いします。


 そう思いつつもごめんと謝っていたら、漸くプリシラさんは少しは落ち着いたのか、それでももじもじと体を揺すりつつ、土下座継続中の俺を上目で恥ずかしそうに見やって来た。


「あの、本当にごめんなさい」

「ぁ……いえ、大丈夫です……大丈夫ですから……ちょっとびっくりしてしまって。なのでもう大丈夫です」


 大丈夫を三度も繰り返す程には、未だ混乱をしているらしい。

 仕方が無かったとはいえ、彼女のファーストキス?であろう唇を奪ったのは事実だ。しかも俺もファーストキスかと思って居たのに、実は知らない内に俺も済ませていたという事実。


 当事者がそれぞれ目の前にいるのだから、場が混乱しない方がおかしい。

 しかも絵梨奈さんですらファーストキスだったと言うのだから、もうね。


 一応のお許しがでて、どっと疲れた俺はどっかりと長椅子に腰を落とし、背もたれにもたれ掛った。


「ようやく収まったか」


 そんな言葉を田所さんが口にした。

 なんかひでえ……田所さんひでえですよ……。


「引き金を引いて、燃料をくべたのは蓮司じゃないか……」


 俺の気持ちを代弁するかのように、終始苦笑いだった相馬さんが呆れたようにそう口にしたけど、田所さんは大して堪えていないらしい。


「いつかは分かるんだし、それなら一度に分った方がいいだろ? それも早いうちに」


 いや、まあ、そうだけどさ!

 その通りだと思うけどさ!


「田所さん、あなたは鬼だ……」

「ううん、悪魔ね……」


 俺と絵梨奈さんは田所さんを恨めしそうに見やる。

 そして柊さんは相変わらず放心状態だ。

 それをみてエミリアさんは、どうしたもんかなと困ったような表情を浮かべている。


「伊織。そろそろ戻って来いよ」


 ふと突然天地が口を開いた。

 

 柊さんを見もせずに、美味しいソーセージを口に放り込みつつ、相変わらず氷入りエールをちびちびと飲みながら。


 そしてそんな天地をジロリと睨みつける柊さん。


「もう済んだことだ。それに人命救助だったんだからな」

「分かってる。でも……」


 とはいえ何故に柊さんがそんなに怖い顔をしているのだろうか?


「えっと、柊さん?」

「なに!?」


 ギロリと睨まれた。

 こええ!


「な、なんでそんなに怒っていらっしゃるのかなーって……」


「んなっ! さあ! なんででしょうね!!」


 まじ怖いんだけど。

 すると天地が俺に向けて溜息を吐きながら、


「司馬、お前がそれを言うなよ……」

「なんで!?」


「朴念仁の司馬君には、きっと分からないかもね! 永遠に!」


 えっと。

 ごくごく一般的に考えればだけれど、この流れの場合、柊さんが俺に対して怒っているのは、彼女が俺に好意というか興味を持って居る? という事になる? のか?


 いやいやいやいや! 無いって! 有る訳がない!

 俺に限ってそんな事有る訳がない。だって俺へっぽこだよ? ぼっちだよ? 今は周りに不思議と人がいるけど基本ぼっちだよ? 狩りも相変わらずソロリストだし!


 見れば田所さんや相馬さん、エミリアさんと、ついさっきまで赤い顔を見せて居た絵梨奈さんまでもが、俺を見やりながら呆れた顔を見せている。


 なんだこれは……。

 非常に居心地が悪い。


 一先ず謝らなければ。

 そう思考が働いた。


「えっと、なんかごめん……」


 そして周りから盛大なため息が漏れたのだった。

 しかも他のテーブルのおっさん連中からも。

 要するに酒場全体からため息が漏れた。


 なんなんだよ一体。


「ヒイラギさん、ちょっと良いですか? こっちへ」

「あ、はい」


 さっぱり分からないでいると、徐にエミリアさんが席を立ちあがり、柊さんを引っ張って行き、カウンター席に二人で腰かけた。


「なんだろ? あたしも行ってみよ」


 それに釣られるかのように絵梨奈さんもその輪に加わる。

 そして何やら三人でごそごそと話を始めた。


 何を話しているんだ?

 そう思って見ていると、プリシラさんが俺に話しかけてくる。


「あの、今日は本当にありがとうございました」


 未だに顔は赤いけど、どうやら本当に落ち着いた様だ。

 それを見てほっと一安心だと胸を撫でおろしつつ、


「助かって良かったです。本音を言えば、半分は諦めてたんだ……」


 あの時の気持ちを思い出し、思わず目頭が熱くなる。


「でも蘇生方法なんてよく覚えて居たよね」


 感心したように相馬さんがそう言った。


「ちょうど学校で習ったあとだったんですよ」


「あー……そう言えばあったな。人形を使って」

「ああ、俺も昔あったわ」


「それでも司馬は凄いよ。俺だったら多分無理だ」

「俺も無理だな。だから咄嗟に動けたのは誇っていい」


 天地に褒められると何となく嬉しい。

 勿論相馬さんに褒められるのも嬉しいけど。

 田所さんは……今日の田所さんはひでえ人です。


「あの、それで、カズマさんにお礼を……」


「いや、それはいいですよ」


「そういう訳には……」


 まあ、そうだろな。

 俺も相馬さん達に引き下がるつもりなんて全く無かったし。

 だったらいっそ……。


「……その代わりって言い方は不味いかもだけど、出来れば、嫌じゃなきゃ俺とパーティーを組んで欲しいんだ」


 お礼にという言い方は卑怯かとも思ったけれど、こうでもしなければ俺は一生パーティーに誘えないんじゃないかと思った。


「えっと……」


 当然ながらそんな言葉を予想していなかったであろうプリシラさんは、最初は何を言っているのか理解が及ばないかのような表情を見せていたけれど、段々と言葉の意味を咀嚼できたのか、次第に驚愕の表情を浮かべ、可愛らしい大きな目を真ん丸に見開いたまま固まってしまった。


「だめ、かな?」


「えっと……」


 ふと見るとエミリアさんは、柊さん達と会話をしつつも俺を見ている。

 普段と変わらない優しい微笑みで。

 そんな彼女は俺と目があい小さく頷いた。

 恐らくは誘った言葉が聞こえたのだろう。


 地獄耳も甚だしいけど、何かスキルでもあるのかもしれない。

 現に柊さんと絵梨奈さんは聞こえていないかのようだし。


 けれど、エミリアさんにも勇気をもらった。

 田所さんや相馬さんも全く茶化すような素振りも見せず、俺の次の言葉を黙って待っている。


 頑張れ俺!

 そう気合を入れて、未だ驚いている彼女を真っすぐに見据えて言葉を綴る。


「ずっと気になっていたんだ。こっちの世界へ来た次の日から見かけてさ。プリシラさんって俺と同じソロだったから、それでずっと気になってた」


「はい……」


「それから数日経って、プリシラさんを見なくなって、どうしたんだろうかとか思い出して、ソロってやっぱり大変だから、何かあったんだろうかって。それでエミリアさんに言われたんだ。気になるならパーティーに誘えばいいって」


「……」


「俺自身、凄くへっぽこでさ。ステータスなんて知っているかもしれないけれど、最初はこっちのヒュームよりも低い数値で、俺なんかが誘っても良いんだろうかって最初は思っていた。だけど、日が経つにつれてそんなのどうでもいいじゃないかって、心配なら声だけでも掛けて、それでも駄目なら諦めればいいだけじゃないかって、そう思ってあの日にターミナルで声をかけた」


「そうだったんですか……」


「結局、パーティーに誘うどころか、自分の名前すら言えないようなヘタレで、不審がらせちゃったと思うけど、出来れば今後ずっと、俺とパーティーを組んでくれないかな……」


 俺の言葉を真剣な表情で聞いてくれていたプリシラさんは、少しの沈黙の後で口を開く。


「あの……実はわたしは、カズマさんを初日から見ていました」


「え?」


 驚きの告白である。


「魔法の才能があるって村を通りかかった魔術師さんに教えられて、加護もあったから冒険者になったんですけど、わたしって本当に駄目で、凄くネガティブな性格をしてて、おっちょこちょいでどんくさくて、パーティーに加入させてもらっても直ぐに失敗しちゃって追い出されて、それで挫折寸前だったんです」


 俺は彼女の言葉を黙って聞く。

 ふと気付けばエミリアさんや柊さんと絵梨奈さんの三人も、こちらに体を向けて話を聞いている。


「そんな時に最後に転移者の人を見てみたくて、それでその日に来る事を思い出して見に行って、一番最初に見た転移者さんがカズマさんでした」


「そっか……その時の俺って凄い顔してたんじゃないかな……」


「はい、絶望しきった表情でした。その時に周りの冒険者さんの噂話が耳に入って、その理由を知って、それからわたしもカズマさんの事が気になる様になりました」


「ハハハ……じゃあ罵られたのも見たんだ……」


 恥ずかしい場面を見られたと思い、乾いた笑いが漏れる。

 けれどプリシラさんはそうではなかった。


「はい。凄く悔しそうで、でも我慢してて、歯を食いしばって耐えているカズマさんの事が、気になって仕方がなくなりました」


「やり返そうにも、雲泥の力の差があったしね」


「そうだったのかもしれませんけど、それでもその後に、エミリアさんと会話をされてから少しだけ元気を取り戻されましたよね?」


 よく見ているな。

 確かにあの時、エミリアさんに凄く救われた。


「うん、これ以上ない程に救われた」


 そう口にしつつエミリアさんを見やれば、満面の笑みを向けてくれた。

 相変わらず俺にとっては女神過ぎる。たまに悪い顔を見せる堕天使になるけど。あと、スパルタだし。でも、俺は感謝を何時もしている。


「そうだと思いました。それからです。カズマさんの表情を見て、わたしももう少し頑張ってみようって」


「そっか」


「でも駄目でした。次の日もその次の日も、そのまた次の日も、お金はどんどんと減って行って、でもカズマさんは日を追うごとに自信を深めて行っているように見えて、わたしってやっぱり駄目だなって、そんな風に落ち込んで、でもやっぱりこのままなんて嫌だって思い直した時に、カズマさんと目が合ったんです。馬車の中で」


「あ、あぁ……」


 直ぐに目を逸らされた時のだ。

 っていうか基本的に直ぐに目を逸らされている気がする。


「その時、凄く恥ずかしくて、自分の心を見透かされたような気に勝手になって、その時思ったんです。ああ、わたしはこの人と友達になりたいんだなって。対等な仲間にしてもらいたいんだなって」


 殆ど同じタイミングでお互いがそう思ったのか……。

 なんか、回り道をしちゃったな。

 それは即ち俺に勇気がないヘタレだからだし、勇気があったらプリシラさんはカエルに飲み込まれる事もなかったかもしれない。


 そう思うとこの性格を本当に何とかしたいと思ってしまう。


「そう思って今日まで頑張りました。レベルが10になったら、わたしの方から声をかけようって。パーティーを組んでくださいと言おうって」


「そか……」


「でも駄目でした……あとちょっとで多分レベルがあがる筈だったんですけど、最後の最後でミスをしちゃって……だからまだレベル9のままなんです。だから……」


 そう口にしたプリシラさんは、悔しそうな、無念そうな表情で俯いた。

 てことは俺とのパーティーはお預けか……。

 彼女が自分で決めた目標で、それに向けて頑張って居たんだから。

 そんな事気にしなくていいよ、などとは俺には言えない。


「あ、ですがプリシラさん、戻って来てからステータスは見ていませんよね?」


 そう思っていたらエミリアさんが何かに気付いたようだ。


「え? あ、はい。まだ見ていません」


 それを聞いて確信したかのように、エミリアさんは頷きつつ、


「飲み込まれたグリーンフロッグはシバさんが倒されたと聞きましたけど、その前に1発はウインドブレードを当てたのですよね?」


「っ!」

「あ!そうだ」


 俺と同時にプリシラさんも気付く。

 急いで自身のステータス画面を開く仕草をとり、確認した瞬間に彼女の顔色が変わる。


「ぁ、ぁ、上がってます……レベル10です……」


 基本的にはモンスターが受けたダメージは、それが瀕死であろうともそれを放置しておけば時間と共に自然と回復をしていく。それは肉体の大部分がマナを多量に含んだ細胞で出来上がっているかららしく、その回復速度は人のそれよりも随分早いが、それでも直ぐに回復するわけではない。


 だから彼女が先に1発当てた分は、俺が倒した時にはまだ回復をしておらず、その分が経験値として彼女に入る。

 俺がいくらその後に一確殺のダメージを入れようとも、それはオーバーキルで殆どが無駄なダメージでしかないのだから。


 しかも彼女はその時生きていたのだし。

 それを知ったプリシラさんは、唖然としつつもゆっくりと俺の方を向く。

 そして俺は彼女へもう一度頭を下げながら告げる。


「じゃあ、俺とパーティーを組んでくれるよね? いや、組んで下さい」


 その言葉にプリシラさんは、涙を溜めつつ、


「はい! よろしくお願いします! カズマさん」


 薄ピンクの髪を揺らしながら大きく頭を下げ、承諾の意を口にしてくれた。

 今日ここに、俺にとって本当の意味で初めてのパーティーメンバーが誕生した瞬間だった。


 そしてそれと同時に、またしても俺の中で何かが切り替わるような、そんな感覚を覚えた。



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