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第58話 田所兄貴の暴露

本日4話目です。

「ん……ぁ……あれ?」


「あ、気付きましたね」

「うん、顔色も随分よくなってるわ」


 冒険者ギルドに戻って1時間程で、ようやく女の子は目を覚ました。

 絵梨奈さんとエミリアさんは覗き込むように女の子を見やる。


「えっと……ここは……?」


「冒険者ギルドの医務室です。シバさんが貴方を助けてここまで運んで来てくださったんですよ」


 きょろきょろと顔と目だけ動かして周囲を見渡していた女の子に、エミリアさんは簡単ではあるが状況を説明した。


 それを聞いた意識の回復した女の子は、視線を彷徨わせ、俺を見つけるやゆっくりと簡易ベッドから上半身を起こし、俺に向かって頭を下げながら口を開く。


「ぁ……あの、ごめんなさい」


 唐突に謝罪をされた。


「え?」


 いきなり何を謝っているのだろうか?

 助けた労力に対してか?

 俺はそう思いながら首を横に振りつつ、


「助けた事なんて気にしなくて良いですよ? 困った時はお互い様だし」


 そう思って伝えたのだけれど、どうやらそうではない様で。

 いや、それだけではない様で。


「ぁ、いえ……そうではなく……あ、いえ、それもなんですけど」


「ん?」


「あの、ごめんなさい……あの時、失礼な態度をとってしまって……」


「あの時?」


 どの時だ?

 さっぱり分からない俺の表情を見やりながら、それでもおずおずと口を開く。


「タ、ターミナルで……」


「あ、あぁ……」


 何に対して謝罪をしているのか漸くわかった。

 俺は、申し訳なさそうな表情を見せる女の子に向け、手を軽く振りつつ、


「いいよいいよ、全く気にしていないです。俺が勝手に心配をして声をかけただけなんで」


「そうですか……よかった……」


 そんな事で謝らなくてもいいのに俺の言葉に安心をしたのか、女の子は呟きながら安堵の表情を浮かべた。


 そんなに不安だったのか?


 そう思って居るとエミリアさんが口を開く。


「それよりも体調はどうですか? 気分が悪いとか頭が痛いとかありますか?」


 エミリアさんの言葉を聞いて、体のあちこちを動かす。

 ゆさゆさ揺れるお胸様に思わず意識が行きそうになるけど、み、み、みては駄目だ。


 が、絵梨奈さんが目ざとく俺の視線に気づき、俺にニシシと妙な笑い顔を向けてくる。当然それを俺は視線でけん制したけれど。


 そして、一通り確認し終わったのか、エミリアさんを見やりながら、


「……一応、大丈夫のようです」


「でも、君ってグリーンフロッグに飲み込まれていたんだよな?」


 何気に今まで殆ど口を開かなかった田所さんが突然話しかけた。

 獣人の娘じゃないですよ?この子。

 

 話しかけられて、女の子は口を開きかけたのだけれど――


「その前に自己紹介をしようか。あたしは絵梨奈。この人の良さそうなのが尚樹で、そっちの不愛想ぽいのが蓮司」


 そんな事は今話す内容じゃないでしょと言わんばかりに、田所さんの言葉に絵梨奈さんが被せた。

 田所さんは何故邪魔をすると言わんばかりの表情を見せたけれど、絵梨奈さんは気にもしない。


「エリナさんと、ナオキさんと、レンジさんですね」


「私の事はご存知ですよね?」


「あ、はい。エミリアさんですね。わたしはプリシラといいます」


「ひでえな……絵梨奈は」


 不愛想だと紹介され若干憤慨しつつ田所さんが抗議の声をあげた。

 二重の意味でひでえと言ったのかもだけど、確かに絵梨奈さんの紹介は的を射ていると思う。


 とはいえ名前はプリシラさんか。顔と同じで可愛いい名前だ。

 思わずプリシラたんと言いたくなる。


「あの、あなたは?」

「俺は一眞。一眞=司馬です」


 可愛いなどと思って居たら、プリシラさんの方から催促された。

 そして俺は何故か光の速さで名乗る。何故かはわからない。


 いや、きっと俺はこの子の名前を知りたかったし、俺もこの子に名前を知ってもらいたかったのだろう。

 それで、パーティーに誘……えると良いなあ……。


 頭の中でぐるぐるとパーティーに誘う計画を練りながらも、弱気の虫が木霊する。


「カズマさんですか……助けて頂いて有難うございます」


 丁寧な言葉と共にぺこりと頭をさげた。


「うん、どういたしまして」


 ここでまた気にするなとか言えば、堂々巡りのような気がした。

 俺が相馬さん達に助けてもらった時の事を思えば、必然的にそうなるような。


「では、これからどうされます?」


 エミリアさんが俺も含めてプリシラさんに聞いた。

 プリシラさんはしばし考え込む素振りを見せ、


「宿に戻ります」

「じゃあ俺送ります」


 俺がそう口にした瞬間だった。


――ぐぅ~~~……


「あ、ぁ……」


 誰のお腹がなったのかなど全員に丸わかりだけれど、元々注目を集めていたプリシラさんは、自身のお腹が鳴ってしまった事に、激しい羞恥を覚えたようだ。


 これ以上ない程に真っ赤に顔を染め上げ、お腹を押さえながらベッドの中に潜り込んでしまった。


 俺らはその光景を見やりながら、苦笑いを浮かべる。

 そして徐に絵梨奈さんが声を掛ける。


「今からあたし達は夕食を摂るんだけど、良ければ一緒にどう?」


「っ!」


 布団の中でうつ伏せのまま丸くなったプリシラさんが、ぴくっと反応した。

 思った通りかなりお腹が空いているらしい。

 羞恥と空腹の狭間で揺れ動いていると見た。

 皆それを理解して顔を見合わせた後、少し微笑みながら畳みかける。


「いこう、プリシラちゃん」

「そうだね、これも何かの縁かな、一緒にご飯をたべよう」

「それがいい」


 皆彼女が食事をまともに摂っていない事に気付いているからか、どうにかして一緒にご飯を食べようと声を掛ける。


「い、いえ……あの……」


 それでも躊躇をするかのように、シーツにくるまったまま出てこないけれど。

 どうするかなと思いつつエミリアさんを見やれば、彼女は俺を見て小さく頷いた。

 何かいい方法があるのかもしれない。


「プリシラさん?」

「……はい」


「この方たちは大丈夫ですよ? 私が保証します」

「……」


「それに、私も居ますし、安心して食事をいっしょにしましょう」


「あの……カズマさんもいますか?」


「あ、うん、俺もいきますよ」


 行くと言うか帰るというか。


「……じ、じゃあ行きます」


 そう口にしつつ、未だ真っ赤な顔のままのプリシラさんが、シーツの中からおずおずと顔を出した。


 とはいえエミリアさんは今日も小鳩亭に泊まるのか。家の人は心配しないのだろうか?





「先に食べてるぞ」

「遅かったね、司馬君たち。って、あれ?」


 小鳩亭へと皆で戻れば、そこには柊さんと天地が。

 というのも二人が焦ってこの宿に来てからというもの、それから毎日当たり前のように訪れているからなのだけれども。


 大手レギオンに所属している二人には二人の付き合いがあるだろうに、どうして一緒に食事を摂ろうとするのか、俺にはさっぱり分からない。


 そればかりか今日からこの宿に泊まるらしい。

 そう決めたのは柊さんだったとも。

 正直に言えば、毎日顔を見られて俺は嬉しいけど。

 もしかしたら余程小鳩亭の料理が気に入ったのかもしれない。


 そんな彼女は最初にプリシラさんを見た時、少し顔を引き攣らせていたけれど、事情を説明すれば途端にフレンドリーに接しだした。


 何故か俺が助けたという部分に異常な程食いついていたけど、今も柊さんは、緊張をしているプリシラさんに向けて、しきりに色々と話しかけている。


「じゃあ、今15歳なの?」

「あ、はい。今年15歳になりました」


 こちらの世界は1月1日に全員が年を1歳重ねる。

 なので12月31日に生まれた子供は、次の日には1歳にいきなりなってしまう。……どうでも良いネタだけど。


「それだと私達の二つ下になるのかな?」


「そうだな」


 天地も相槌を打ちつつエールをちびちび飲んでいる。


 めっちゃくちゃ酒に弱いのに、何故かこいつはエールを飲みたがる面白い奴だ。

 ただ、あの日に懲りたのか、ジョッキには満タンの氷が入っており、それに別で入れてもらったエールを自分で注いで、それから飲んでいる。そうすれば酔いにくいとか。


 色々考えるもんだなと。単に薄めているだけのような気もするけど。

 俺は幸いにもどうやら酒に強い体質らしく、そして案外美味しいと思い始めたから、相馬さん達に付き合って毎日飲んで居る。


 田所さんと相馬さんは普通に飲めるし、どうやら相馬さんは営業マンだったらしいので、付き合い酒は得意中の得意らしい。

 柊さんと絵梨奈さんは酒豪か!と思える程に相変わらずの飲みっぷりだけど。


 だから俺は決して絵梨奈さんと柊さんに付き合っているわけではない。付き合ったらえらい目に逢う。


 因みに今俺らはこの店で一番奥にある、大きな円卓を囲んで全員で腰かけている。

 なのでエミリアさんも一緒だ。


 ニーナさん曰くエミリアさんもそこそこ強いらしい。まだちびちび飲んでいるところしか俺は見た事が無いけれど。


 合計8人にもなり、かなり賑やかなので、俺も結構テンションが上がって来るというもの。

 初日から思えばとんでもない進歩だ。ぼっち継続だなーなんて思ったのが既に懐かしい。


 こういうのって良いなと思いながら楽しく会話を弾ませて、運ばれてきた料理を一斉につつく。


 するとあっという間に皿が空になり、走る様にしてニーナさんや獣人のウエイトレス、ミルムさんとケイティさんが駆けずり回ってを繰り返していたのだけれど……。


 獣人の娘二人をみやりながらデレデレしていた筈の田所さんが徐に口を開く。


「それで? グリーンフロッグに飲み込まれたんだよな?」


 医務室でも聞いていたけれど、どうしても本人の口から聞きたいらしい。

 最初に俺がそう言ったのに、田所さんには何か考えでもあるのだろうか?

 確かにあの時、誰かに嵌められたのかと俺も一瞬考えたけれど。


「はい、詠唱をミスしてしまって、それで」


 律儀にもちゃんと答えるプリシラさん。

 おいしいおいしいとモアモア鳥のから揚げを食べながら。


 因みにプリシラさんは見た目に反してめちゃくちゃ食べる。

 俺のおごりだと聞いて最初は非常に遠慮していたけれど、やはり空腹には勝てなかったのか、もしくは柊さん達がコソコソ何か伝えたからか、それからは凄い勢いで食べている。それはもう見ていてこっちがお腹いっぱいになるくらいに。


「どれくらいの時間咥えられていた?」


「えっと……5分とか10分そこらは普通に」

「窒息しなかったのか?」


 田所さんは一体何を聞き出したいのだろうか?

 見れば少しだけ悪い顔をしているような気もしなくも……。


「したと思います。息が苦しくなってそれで意識が遠のいたので」


「そうか……じゃあ、蘇生作業を行った訳だ。誰かが」


 そう口にした田所さんは本当に悪い顔になっていた。

 誰かがと言いながら俺を凝視してニヤリと笑った。

 その瞬間に俺は悟る。


「ちょっ!え?、うええええ!?田所さん!なんでそんな確認を!」

「え? それどういう事?司馬君!」


 貴方それが狙いだったのか!


 柊さんも即座に気付いたらしく、身を乗り出して俺に掴みかからんばかりだ。

 な、なんで?


「え? ……あ」


 そしてプリシラさんもどうやら気付いた様だ。

 そりゃ気付くさ。


 想像したのか、彼女は一瞬の内にゆでだこのように真っ赤な顔になった。

 もうじき湯気でもでるんじゃないかと思える程に。


「れ、蓮司、貴方何を……」


 そして何故か絵梨奈さんが焦っている。


「ん? 絵梨奈と同じだなーと」


「うわぅっふぉおおぅおおおおい!れんじいいいいい!!」


「「え?」」


 食堂で絵梨奈さんは大声を張り上げた。

 同じって何がだろうか?


 田所さんは更に悪い顔を見せている。悪魔かと思える程だ。

 とはいえ一先ずはプリシラさんだ。

 柊さんの、魂が抜けたような唖然とした表情も気になるけど、それよりも何とかして許してもらわねば。


「あの!すみません!……本当に! でも仕方が無かったんです! 蘇生どころか万能薬を飲んでもらうためにも口移しで飲ませてしまいましたあああ!! ごめんなさい!!」


 そう、俺は蘇生作業と合わせて、都合5回もプリシラさんに口づけをしてしまったのは紛れもない事実だ。だから謝るしかない。

 そして俺は恐る恐る彼女の顔を伺う。


「ぁ……い……い……」


 いやあああああ!って叫ばれたら困るうううう!

 なので俺は先手を打たんがために、光の速さで土下座った。


「俺、初めてでした! だから許してください!」


 どんな理屈かと呆れてしまうけど、もう気が動転してしまってなんともならない。

 けれど、ここで更なる追い打ちが。


「司馬君初めてじゃないぞ?」


「え?」

「はい?」


「「……」」


 初めてじゃない発言を聞き、田所さんを見やる。

 悪い顔は継続中だ。いや、むしろもっと悪くなっている。

 そして柊さんの表情を見るのが何故か怖い。


「だから初めてじゃないぞ? つい最近経験してる」

「え??」


「「……」」


 ふと気付けば絵梨奈さんまでもが真っ赤な顔で俯いたまま動かない。 


 ま、まさか……。


 ここである仮説を立てた。

 大した仮説じゃないけれど。


 つい最近。

 絵梨奈さん達に助けられた。

 俺はその時意識がなかった。

 しかも血まみれの傷だらけ。

 だから俺にポーションを飲ませてくれた。

 そして今、絵梨奈さんは真っ赤っか。


「もしかして、俺、に、ポーションを飲ませたのって、絵梨奈さんで、口移し、とか?」


「そう。しかもディープなやつな?」


「……」

「え?」


 ディープって……え?


「ちなみに絵梨奈も初めてだって言ってた。あ、ディープなのも含めてな」


 完全に絵梨奈さんは銅像の様に動かなくなった。

 見れば耳まで赤い。


 ってーと……俺は既にキスを、した? しかも美人の絵梨奈さんと? しかもしかも大人のキスを?


「う、うえええええええええ!?」


 俺は土下座のまま、思わず絶叫をした。

 プリシラさんは相変わらず俯き、そして柊さんはガタンと力なく椅子に崩れ落ちた。


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