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第56話 幕間 プリシラ

本日2話目です。

「あと少しでレベルが10になりそう。たぶん、次を倒したら」


 わたしは自分のステータスを見やりながら、漸くといった感じで小さく呟いた。

 これで、わたしの方からあの人に話しかけられる。


 とはいえ単なる願掛けのようなものでしかないのは、自分でも分かって居るのだけれど。

 話しかけたからと言って、どうにかなるようなものでも無いだろう事は、自分が一番よく分かって居るのだから。


 そしてそれと同時に数日前の出来事が脳裏を過り、その結果、大きなため息が零れる。


「はぁ~……でも、もう無理かも……」


 数日前に折角言葉をかけて貰えたのに、突然の事で驚きのあまり、みすぼらしいボロボロの服を見られた恥ずかしさもあって、わたしは拒否反応をあの人に示してしまった。


 まさかあんな場所で会うなんて思ってもみなかったし。


 激しく気が動転してしまったからなのだけれど、後で考えれば、あれは無い。自分で自分が情けなくなった程に無い対応だったと思う。

 彼が口にしてくれた言葉の全てが、わたしを気にかけてくれて、心配してくれているのは十分に伝わったのに。


 きっとあの人は気分を害してしまっただろう。

 折角声を掛けてくれて、しかも何かあったら小鳩亭という宿に泊っているからとも言ってくれたのに……。

 つくづく自分のふがいなさに情けなくて、涙が零れてきそうになる。


 せっかく……チャンスだったのに。


 でも、あの時はまだ自分で決めたレベルに足りていなかった。

 あの人が今レベル幾つなのかは分からないけれど、わたしよりも上なのは何となく分かる。

 だから少しでも頑張って、自分に自信が持てるようになってからと決めた。


「あー、もぉー……」


 後悔と決意を交互に繰り返し、頭の中はここ数日間その事ばかりを考えている。


 あの時ちゃんと対応していれば、もしかしたら今頃一緒に狩りをしてもらえていたかもしれないのに。

 楽しく狩りをして、それから楽しく夕飯を一緒に食べながら、翌日の狩りの話をしていたかもしれないのに。


 楽しい未来が待っていたかもしれないのに。


「だめっ、わたしの悪い癖」


 自分がネガティブ思考に陥りやすい性格なのは、ずっと前から気付いている。

 だからこそ目標を立てて、レベル10に成ったら声をわたしからかけるんだと誓った。


 そうすれば今の自分を変えられそうな気がしたから。

 変えなきゃいけないと思ったから。


 その思いが有るからこそ、今日も頑張れたのだから。


 少しずつ状況は変わっている。

 相変わらずお金は無いけれど、それでも赤字にはならなくなって来た。もちろん自慢できるような黒字じゃないけれど。


 狩る対象をグリーンフロッグに変更したのも良かったかもしれない。

 最初はレベルの低いエスカルゴを狩っていたけれど、毒を警戒して慎重になり過ぎて、思うように数を狩れないから一昨日変更をした。


 グリーンフロッグはウインドブレードで2確殺。

 もう少しスタンボルトの成功率が高ければ有効に使えるのだろうけれど、まだわたしのレベルとINTとでは成功率はおぼつかない。


 なので詠唱の失敗などしないようにと、細心の注意は必要だけれど、それでも攻撃を受ける前に2発目のウインドブレードをグリーンフロッグに当てる事が出来るのだから、こちらに変更して正解だったと思う。

 エスカルゴの方が高値で売れるけれど、それよりも今はレベルなのだから。


 1日数匹が限界だけれど、それでも随分変わってきている気がするのは確か。

 意識って大切だなと。

 目標って大切なんだなと。


 狩場への毎日の往復を歩きで節約するのは辛いけど、それでも今日から帰りだけは馬車をまた使える。

 少しずつ状況が好転してきていると実感できているのだから、これで正解なのだろう。


 だからこそ、あと少しでレベル10になる。


「もうじき、もうじき」


 呟きながらそう連呼する。

 それと同時に、心配そうにわたしを見てくれたあの人の顔が脳裏に浮かぶ。

 なんて、モンスターを1匹倒すごとに思い浮かべているけれど。


 声をかけたところで、わたしなんて知らないと言われるかもしれない。

 一度わたしの方から拒絶をしてしまったのだから、その可能性は十分ある。


 でも、最後の言葉は……。


 その言葉をそのまま信じるなんて出来ないけれど、まだチャンスはあるような。そして、もしもまだわたしの事を、まだ気にかけてくれているのなら……。


 こんどはちゃんとあの人の目を見て、ちゃんと言葉を紡ごう。

 あんな態度をとってしまってごめんなさいと最初に謝ろう。

 勝手な事を言ってごめんなさいと謝ろう。


 それで許して貰えるなら、わたしはきっと……。





 く、苦しい!


「ん……ごふっ……ごぼっ……げほっ、げほっ……」


 突然の余りの苦しさに咳き込む。

 喉の奥に挟まっているものを自然と吐き出す。

 何も思考が働かない。


 ただただ苦しい……苦し過ぎる。


「げほっ、げほっ……ごふッ、ごほっ、げほっ……」


 なんで!?何?


 何があったの!


 あれ? ここはどこ?


 ステータスを確認して、あと1匹で多分レベルがあがるだろうなあって。

 そう思って確かわたしは、グリーンフロッグと戦っていた筈。


 そうだ、わたしは2発目の詠唱をミスして、グリーンフロッグに飲み込まれてしまったんだった。

 苦しくても最初は呼吸が出来ていたけど、途中から出来なくなって、その後の記憶が無い。


 という事はわたしは死んでしまった?

 でもおかしい。

 目の前には空が見えている。

 もしかして死んじゃってても空は見えるものなのかな……?


 そう思いつつゆっくりと瞳を動かせば、ぼんやりと人の顔のようなものが視界に入り、その直後、わたしを呼んでいるであろう声が聞こえた。


「ぁ……ぁ……っ!」


 え!?

 うそ!?


 どういう事!?なんでこの人が!?


 苦しさが若干和らぎ、少しずつ状況が分かる様になった途端、目の前に彼の顔が突然現れたのだから、それはもう驚きを通り越して気を失ってしまうかと思った。


 でも何故か力が入らない。

 声もかすれて殆ど出てこない。


 わたしはどうしたの?

 意識を失っていたの?

 わたしって死んじゃったんじゃないの?


「落ち着いて、喋らなくていい。でもいいか?思い出してくれ」


 混乱しつつそう考えていると、彼がわたしを落ち着かせるように言葉を発した。

 そして、確認をするかのように短く、一つずつわたしに聞いてくる。


 彼はたまたまこの場所に通りかかり、わたしを助けてくれたそうだ。


 助けてくれた?わたしを……。


 いまだ思考が纏らず、尚且つおぼろげな意識の中で、それでもわたしは助けてくれたという言葉にお礼を告げる。


「ぁ……ありがとうござい……ます……」


 半ば無意識かもしれなかったけれど。

 声は少ししか出せなかったけれど、何とか言えた。

 その後も彼の声は聞こえたけれど、意識が朦朧としているのか、上手く聞き取れない。


 でも、何故だろうか?

 何故だかはわからないけれど、彼は二筋の涙を零した。


 なんで?


 なんでだろう?


 なんでわたしが助かって、彼が涙を流しているんだろう?


 わたしにはその意味が分からなかった。

 迷惑をかけたのに、あの日、拒絶をしてしまったのに。

 なんでこの人はわたしに涙を向けてくるのだろう。



 その答えは、後から知る事になるのだけれど。




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