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第52話 魔法講義

本日1話目です

 正午の馬車に揺られ、程なく南西の森へと到着した俺とエミリアさんは、目的のモンスターを探して森を歩いた。

 とはいえ、そのモンスターは最弱モンスターなので直ぐに見つけられたけれど。


 因みに今のエミリア師匠の恰好は、魔闘士スタイルではなく魔術師スタイル。

 三角帽子は被っていないけれど、体の線が何となく分かるローブを着てワンドを持って居る。


 魔術師スタイルのエミリアさんも、これがまた……良い。

 あまり見ては失礼になるけど、ついつい視線が向いてしまうのはある意味健全な証拠だろうか。


 とはいえ。

 今のステータスはというと。



【カズマ=シバ】

【ヒューム 17歳 Lv24】

ATK=139+120 MATK=30+8+7

STR=139 INT=30+8

AGI=93 DEX=110

VIT=93

DEF=93+67 MDEF=30


【原初の匍匐ほふく

【火属性魔法】【土属性魔法】【生活魔法ALL】【言語変換魔法】【魔力増幅+20%】

【疾走】【探査】

ブロードソードATK+120 黒瑪瑙くろめのうスティックINT+8

ブーツ10 レギンス13 ベスト18 インナー上12 インナー下8 グローブ6



 レベル24か。

 こうして数字が並んでいるのを見ると、10並びだったころとはまるで別人だ。

 ちょっと防御力が下がってしまったけれど、気をつければ大丈夫だろう。


 そして、武器は腰にぶら下げた状態でもステータスに反映される。


 いや、ほんと知らなかった。というか先ほどエミリアさんに教えて貰ったから知っただけだけれど。

 握ってなきゃ反映されないと思っていた。


 とは言っても、実際に握って使った方の武器しか効果は得られないけど。

 剣を握りしめたまま魔法を使っても増幅効果諸々は得られないって事。

 当たり前か。


「では始めましょう。慣れるまでは、メニューを開いて見ながら読み上げた方が失敗は少ないと思います。呪文も含めて」


「はい」


 言われた通り、摩訶不思議なメニューの魔法欄を開く。

 そして集中をし、体に流れる魔力をステッキの上端にあるブラックオニキスという石へと流し込み、呪文を詠唱する。お相手は、人畜無害なファブリたん!


「――火の精霊よ、炎の槍と成りて、かの者を貫け――」


 詠唱を始めると、ターゲットであるファブリを中心とした地面に、ぐるぐると左右不規則に回る赤い魔法陣が形成される。

 邪魔をするものなど何もなく、程なく詠唱を終えて後はスペル名を唱えるだけ。これで魔法は完成を見る。


 よし、いっけええええ!


「―――ファイアーボルト!!」


 スゥーッと魔力が抜けた感覚を味わい、掲げた杖の先が赤く光る。


 そしてその直後に敵の頭上で真っ赤な炎の矢が具現化され、一呼吸置いたその瞬間、ファブリを目掛けて1本の炎の矢が唸りを上げながら――


――突き刺さった! 


「おおお!すっご……」


 ファイアーボルトは綺麗に突き刺さり、そして直ぐに魔獣全体を燃やし尽くすかのように炎が広がり、そしてやがて炎は収まった。


 生まれて初めての魔法に思わず感動すら覚える。

 生活魔法も魔法といえば魔法だが、それとこれとは全く感動が違う。


 立ち竦んだままファブリが消え去った場所と、俺の手の平を交互に見つめ、この手を伝って魔力が流れて魔法が発動したと思えば、その事実が信じられない程の感動を生み、何となく目頭が熱くなる。


 とうとう俺は魔法を使ってしまったのか……。


「どうですか?魔法は」


 後方から、エミリアさんが優しい声でそう問いかけてきた。

 振り向けば、彼女はやはり笑みを携えていた。


「凄い感動です。そりゃもう自分でもびっくりするくらい」


「ふふふ。おめでとうございます。それに、一回目での成功は誇って良いと思いますよ」


 俺は褒められたら伸びる君だ。

 でも褒められてちょっとむず痒さを感じ、頭をポリポリと掻きつつ言葉を返す。


「あ、相手はファブリですからね」

「ふふふ」


 恥ずかしそうにそう言ったのがおかしかったのだろう。

 エミリアさんは俺を見やりながら笑っている。


「でも凄いですね、魔法って」

「そうですね。ある意味自然現象を意のままに操る術ですから」


 魔法とは、早い話が体内の魔力エーテルを触媒にし、詠唱で集めた空気中の魔素マナと融合、更には増幅させて発動する。簡単に言えばこんな感じらしい。


「あとは何度も魔法を使って呪文を覚えれば、メニューを開かずに魔法の発動が出来るようになりますし、逆に言えばそうならなければ魔術師として成り立ちません」


「あぁ、そうですね。確かに」


 エミリアさんの言わんとする意味は直ぐにわかった。

 魔術書を読みながら詠唱をするという事は、その間モンスターから目を切る事になる。

 そうなれば危機が迫ったとしても、反応は確実に遅れるから。


「最終的に頭の中で選択と過程と結果を全て構築できるようになれば、全て無言で発動できるようになります。そうなれば上級魔術師として認められます」


「なるほど……がんばります」


 そこまで魔術を極められるとは思わないけれど、目標は高い方が良い。

 

「更に熟練すれば走りながらでも発動できますから、そうなれば戦術の幅は広がりますよ」


「はあ……」


 一気に難易度が上がった気がする。無言発動も大概なのに。

 天地が、剣に慣れているから魔法は遠慮すると言った意味が何となくわかった。

 とはいっても天地は剣術が元々凄いってのもあるけど。


「もっと言えば、アークウィザードを名乗っていらっしゃる非常に高度な魔術師さんの中には、移動をしながら複数魔法を同時に発動なさる方もいらっしゃいますね」


 まだ上があるのか!


「ま、まじで!?」


 うわー……。

 想像をして思わず白目をむきそうになった。


「はい、ですからそういった魔術師さんはお一人で高火力戦力二人分の活躍をなさいます。非常にお強いですよ」


「そりゃ強いでしょうよ……」


 でもどうやって思考を纏めるのだろう?

 聖徳太子でも乗り移って居たりするのか?


「ふふふ。シバさんも出来るようになるといいですね」


 無理でしょ。

 高みが余りにも高すぎる気がする。


「いあ……因みに師匠は?」


「私ですか? そうですね……魔法の平行詠唱は無理ですけど、殴っている間に魔法を噛ませる事はできますね。そもそも属性を急に変えなければ成らない事もあるので、ある意味必須です。モンスターは待ってはくれませんし」


 すげぇ……。

 やはりこの人すげえです。

 ドヤ顔を見せることなく、ごく自然に淡々とそう教えてくれた師匠に脱帽だ。


「あ、魔法を使って見て、魔力の消費はどんな感じです?沢山減ってしまったとかほんの少しとか感覚的に分かる範囲で」


 意識が若干飛んでいたら、急にそんな事を聞いて来た。


「えっと、スーッと体から魔力が抜けていくような感じでした」


「ふむふむ……素のINT値は30ですよね?」


「ですです」


「でしたらファイアーボルトが後5回でほゞ魔力切れを起こすと思います」


 何故そういう数値がスラっと出て来るのだろうか?

 経験則からと言われればそれまでだろうけど。

 とはいえ気になったのだから聞いてみる。


「残回数が分かるんですか?魔力量なんてステータスに表示されないのに」


「完全に正確とはいきませんけど、凡そなら分かります。素のINT値をそのまま魔力値に置き換えて、後は、各魔法によって消費魔力が異なりますから、それを覚えて当てはめれば良いだけです。ファイヤーボルトは基本消費魔力が”5”なので簡単ですよ」


「なるほど……」


 それって何人も何人も卒倒するまで魔法を撃って、多くの統計をとった結果なんだろうか?

 だとすれば先人さんの根性半端ないです。


「それに、今のシバさんは何も考えずにファイアーボルトを詠唱されたので分かりやすかったという側面もあります」


「あー……なるほど」


 魔力の操作に慣れれば、魔法で消費する魔力の調節が出来るようになる。


 そもそも魔法の威力はINT値プラス消費する魔力で決まり、それは不変なのだから、仮に威力を調節したい時には装備を持たないか使用する魔力を調節するしかない。

 そして、何も考えずに魔法を放てば決まった魔力が常に消費される。


 俺は現時点で魔力の調節なんて出来ないからこそ、エミリアさんは残回数を計算できたという訳だった。


「なるほど……」


「使用する魔力の調節は簡単なようで難しく、魔法の総施行回数、結局は慣れだと思ってください。息を吸って吐くように自然に魔法の発動が出来るようになれば、おのずと調節出来るようになります」


「ははは……」


 顔が引き攣る思いだ。

 息を吸って吐くようにとか俺がそこまで熟練できるのだろうか?

 そんな俺の顔を見やりながら、師匠はクスリと笑う。

 

「ふふ。脅かすわけではありませんが、逆に変に意識してしまうと魔法そのものが発動しなかったり、魔力の暴走を招いたりしますから、魔力量を減らす練習ならともかく、増やす練習は止めた方が良いですよ?」


「こわっ!」


 どちらも怖い。

 俺は素直に師匠のいう事に従う事にした。

 だって魔法を撃たなきゃならない時に不発とか洒落にならないし。


「あと、魔力の回復速度は人によって若干異なるんですけど、INT値が高い人ほど時間回復は大きくなります。当たり前ですね」


 言われて見て、そりゃそうだと。

 INT値10000の人とINT値100の人が、1時間に回復する数値が同じだったら、10000の人はどれだけフル回復まで時間がかかるやら。

 それこそ青ポーションが手放せなくなっちゃうよ。


「納得です」


「なので%で回復すると覚えてください。それでも装備によっても変わりますが、それよりも体調によって随分違ってきます。酷い時は全く回復しない時もありますし」


 やはりあの名前も知らない女の子は、魔力回復力がそうとう落ちているような気がする。

 大丈夫だろうか……。

 改めて言われると途端に心配になってきた。


 とはいえ今は指導の最中だから、集中しなければ。


「分りました。それで、今の俺だとどれくらいでフル回復しそうです?」


「シバさんに限らず体調がベストで装備も回復スキルもなければ、約3分で1%回復するので、大体5時間でフル回復します。それを踏まえシバさんの素のINT値30を考えれば、ファイアーボルトをポーション無しで撃つには50分、余裕をもって1時間程の間隔を開ければ良いですね」


 非常に丁寧に教えて貰い、これがマンツーマンの利点だなと。

 あと面倒見の良いエミリアさんだからこそってのも大きい。


 有難いことだなと思いつつ、俺のINTってしょぼいなと再認識した。

 だって、1%回復して0.3ですよ?

 エミリア師匠なんて400超えだから4も回復するんですよ?


 そんなネガティブな思考をしていると、どうやら講義は終わったらしく。


「では次のファブリを倒しましょう。そうですね、4匹続けて倒してください。なるべく間隔を開けずに」

「はい」


 5匹で残り魔力が0なので、魔力欠乏症で卒倒してしまう。

 卒倒って言うくらいだから気を失うんだろか?

 ついついそんな誘惑めいた思考が浮かんでしまう。


「い、行きます」


 ステッキを掲げ、再度ファイアーボルトを唱える。

 破滅願望ではないけれど、卒倒してしまいたくなる気持ちを抑えながら、ファブリの群を見据えつつ、1匹ずつ、確実に4匹続けてファイアーボルトをお見舞いした。


 辺り一面、焦げて焼けた臭いが充満する。

 火魔法を使用した影響で、ファブリが居た場所は草も焼けて地面が剥き出しになっている。

 そしてファブリの亡骸は全く残って居ない。


 内骨格でもないし、外皮も柔らかいし、土属性モンスターだしで、俺の貧弱なINTでも全消失してしまったのだろう。


 そして残り魔力が5になり、若干の疲労感を覚えた。

 とはいえ、立って居られない程でもない。

 でも、これからあと1発撃ってしまえば……。


 いとも簡単に禁断の扉が目の前に設置されたようで、なんとも言えない誘惑に駆られる。


「やはりファブリは柔らかいので、跡形もなく燃えてしまいますね」


 誘惑を振り払う為に必死になっていると、俺と同じ感想をエミリアさんが漏らした。


「剣で切っても抵抗すら感じないので、あっけない魔物ですよね。何のために君らは生きて居るのか」


 哲学的な事を口にしてしまい、ちょっと笑われた。


「ふふ、そうですね。それでどうです?残りの魔力が20%を切ったと思いますけど。体調に変化はありますか?」


「あ、少し倦怠感があるかなーって感じです」


「10%は切らないように気を付けてくださいね? 決して誘惑になんて駆られないように」


「うぐっ……お見通しですよね……」


「それはもう、経験がありますから。ふふふ」


 おどける様に笑うエミリア師匠。

 ってことは一度くらいはワザと10%を切った事があるんだろう。

 まあ、狩りの最中にはそんな事はしないだろうけれど。



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