第5話 英雄ステータスと聖女ステータス
本日5話目。
もう少し説明会というかプロローグ的なものが続きます。
居心地の悪さを感じつつも、土方さんの話は続く。
「ああ、もう一つ説明があったな」
そう言いつつ5人の中で一番ガタイの大きな人物を視線で促せば、その人はフルフェイスの兜をゆっくりと脱ぎ取った。
「うお……」
「まじで?」
脱ぎ取った男性の風貌を目の当たりにして、慄く人が多数。
「やっぱり気になるか? まあ、そうだろうな」
そう土方さんは言うけれど、これが気にならずに居られる訳がない。
フルフェイスのヘルム形状に角のようなコブが二つ突き出ていたので、何となく違和感を感じては居たのだけれど――
「察しの通りこいつは獣人で獅子族だ。タンクをやって貰っている。タンクって分るか?所謂壁役の事だ。そして獣人全般に言える事だが、特に獅子族と虎人族はめちゃくちゃ硬くて頼りになるぞ」
「けもみみ……」
「もしかして尻尾もある?」
「み、耳ってもふもふ?」
硬いというよりも頼りになるというよりも、多くはモフモフかどうかが気になるらしい。かくいう俺もその一人だ。
そのせいで獣人の男性は顔を引き攣らせ、土方さんと奥さん達は苦笑いを浮かべた。アサシンぽい恰好の人は無表情だけど。
「ハハハ、やはりそっちだよな。まあ、いきなりだと驚かせるから尻尾は隠してもらったが、本来なら尻尾を出している。こいつの毛がモフモフ……かどうかは触ったことがないから分からんが、獣人の女の子の耳は皆モフモフだ。いいぞぉモフモフは」
「すごい……本当に異世界なんだ……」
「なんか説得力がありすぎ……」
ピコピコと動く耳を見やり、皆そう呟いた。
魔法を見て既に理解はしていたけれど、こうやって実際に動く人間じゃない知的生命体を見れば、どうやっても納得せざるを得ないのだろう。
「そういう事だ。ご覧の通りこっちの世界には人間……こっちじゃヒュームって言われているが、そのヒューム以外にも人類が居る。その一つが目の前にいる、この獣人だ。あと――」
この世界には俺らが理解をする人間以外にも、獣人だのエルフだのドワーフだのが存在するらしいけど、それらを総じて人族、人類と一括りにしているそうだ。
因みに、エルフの名を出された時、皆がざわついたのはお約束だろう。エルフは皆が大好きだ。俺だって大好きだ。ドワーフは不人気だったけど。
「ではまあ、まだまだ知りたい事は山程あるだろうが、キリが無いからな。そういう事で順番にオーブに手を翳してくれ。同時に支給金と、一人一人専用のマジックポーチも渡す。渡されたマジックポーチは専用装備だから、魔力を繋げた時点で他の奴には使えなくなるから心配するな」
そう言いつつ手のひらをオーブに向け、土方さんが促す。
ここで拒否をしても何にも意味はない事など、ここに居る全員が理解をしたようで、アホの諸星ですら素直に列に並んだ。
勿論大河と柊さんも。それから俺も。
柊さんは、自身よりも何人か後ろに並んだ俺の方をチラチラと見やりながら、何か言いたげにしている。
俺の方は別に用事は無い……事もないか。
柊伊織。
何気に俺は柊さんが好きだった。いや、今も好きだ。
北欧の血が混じっているクオーターらしい彼女は全校生徒憧れの存在で、ミスコンが仮にあったらぶっちぎりで一位になるだろう程に可愛い。体操着でしか見た事は無いけれど、スタイルは抜群で、噂ではGカップ(成長中)とか誰かが言っていた。
そんな超絶美少女の柊さんだけれど、残念な事に、隣にいる天地大河とは親同士が仲が良く、それぞれの家も近い幼馴染というケチがつく。
いやまあ、ケチだと言っているのは俺だけかもしれないけれど、要するに、完璧超人の天地と超絶美少女の柊さんというカップルは、生まれた時から成立していて余人の入り込む隙間もない。
二人が付き合っているかなんて噂にすら成らない程。
悔しいけどお似合い過ぎる組み合わせなのは間違いないわけで。
まあ、仮に二人が幼馴染じゃなく付き合っていなくても、こんな何の取り柄もなく、しかもぼっちの俺が彼女と釣り合う訳もない。だから好きでも遠くから眺めて愛でるだけで満足なんだよ。当然これからも。
そう思いながら凹んでいると、前の方でどよめきが起こった。
「おお……これは凄いぞ……既にレベル30オーバーのレベルとステータスを持って居るのか」
見れば天地がオーブに手を翳しているらしい。
「天地大河君……君のレベルとステータスは凄いな。特に腕力が高いが他も異様に高い。加護も珍しい”栄光”だ」
「そうなんですか?」
さして興味もなさそうに天地は聞いた。
「ああ、栄光は俺も最初に持って居た加護で、ステータスの上がり幅が他より多いし、今の時点で見ても今まで来た同胞の中で断トツに高いステータス持ちだ。しかも全体的に満遍なくだ。仮に光魔法の適性が現時点であったら、勇者認定されたかもしれない程だ」
オーブに浮かんだ数値を美香さんも見やって、頷きながら口を開く。
「確かにこのステータスの高さなら魔法も物理も両方いけるから、英雄候補と即認定されるわね。それに成長指数も凄いわよ。ざっと計算しても、STRとAGIがSで残りは全部Aだもの」
その言葉で更にどよめきが。
どうやら大河のレベルとステータスの特徴は、英雄候補とすら言える程にすさまじく高いらしい。
完璧超人は世界を越えても完璧だな。
英雄ステータスとか羨ましい奴だ。
人を妬んでも仕方がないのは分かって居るけど、思わず心の中で毒つく。
そしてそうこうしている内に再度どよめきが。
「これも凄いな……レベルは30で加護は”聖者への導”か。ステータス的にも加護的にも支援特化か?INTとDEXが天地君よりも高いな。INTとDEXの成長指数はSだ」
「素晴らしいじゃない~」
「確かに凄いな……ミカさんクラスになるんじゃないか?」
「いえ、私を抜く可能性だって十分あるわ」
柊さんのステータスを見て土方さん達がまたもや唸った。ステータスがどういう風に視えるのかは分からないけれど。因みに獣人の声はめちゃ渋く、魔法使いのお姉さんは声も色っぽかった。そして絶賛されている柊さんは、挙動不審者のようにあたふたとしている。
ただ、土方さんが口にする言葉で、どうも意味が分からない部分が有る。そう思っていたら天地も気になっていたらしい。
「あの、成長指数とはどういう意味ですか?」
「あ、そう言えば説明するって言っといて説明して無いな」
どうやら先ほど、後で説明すると言った言葉がそれらしい。
土方さんは頭をボリボリとかきながら、バツの悪そうな表情を見せた。
「どう説明するかな。……俺が説明すると長くなりそうだが」
その言葉に「じゃあ私が代わりに説明するわ」と美香さんが前に出て、良く通る綺麗な声で説明を始めた。
「じゃあ簡単に説明するわね。 まず、各ステータスは人によって伸び率が違うの。これを成長指数と言っているのだけれど、レベルアップ時に上がるステータスの数値は全員異なるという意味ね。残念だけど、才能は平等ではないという事」
ほうほう。
「分かりやすくいえば、剣だけを使って魔物を倒してレベルアップしても、天地君と柊さんではステータスの伸び方が違うの」
つまりは成長指数なるものでそれが分かると。
「苦手な事でも続けていればある程度は上手になるけれど、極める事は出来ないわ。だから自分にどの適性があるのかを早めに見極めた方が良いという事でもあるの。レベルアップ時のステータス増加数を無駄にしちゃうのも勿体ないしね。高レベルになれば1個レベルを上げるにも苦労するようになるし」
「なるほど……そういう事ですか」
「だからこそ成長指数を見極める必要が出てくる訳。とは言っても今まで転移して来た人達は、元の世界の技能をある程度引き継いでいるから、案外とすんなり受け入れられるものよ。例えば、裁縫が得意だったりとか木登りが上手だったりとかの経験則、そういった技術的な物は消えていないみたいね」
「じゃあ弓道が得意だったら、とりあえずは弓を使ってみても違和感はないって事です?」
大学生らしき女の子がそう言った。
って、どっかで見た事あるな。
どこだったか……。
「そういう事。それプラス加護が望み通りだったなら、ステータス補正も連動するから迷わず弓師に成った方が良いかもしれないわね」
貴方が希望通りなら良いわねと美香さんが微笑みながら言えば、やはりその人は弓職に憧れていたようで、嬉しそうに頷いていた。
俺は……どんな戦闘職になりたいんだろうか。
自分がどう思っていたかを思いだそうとするけど、これと言って何も無い事に気付く。
勇者に憧れている訳でもなく、英雄になりたいわけでもない。
ただ異世界へ逃げ出したいという願望だけが強かったような気がする。
ただ強くなれればいい。
誰にも虐げられないような力が欲しい。
その上で、自分にも何かが出来るならそれに越したことは無いなと。
そんな漠然とした思いだった様な気がする。
「それで、その成長指数をランク分けする為にSからDまでの5段階に分けて居るわ。Sが伸び率が良くて、Dが殆ど見込みがない」
「それがステータスを見ればわかると?」
「ええ。何故SとかAとかランクがわかるのかと言えば、単純よ」
「単純?」
「そう。加護で漠然と見分ける事も出来るけれど、一番は各ステータスを今のレベルで割れば分かるわ。そうして天地君は英雄候補、柊さんが聖女候補だって分かったの」
「なるほど」
そうして美香さんの説明は終わり、次々とオーブへの登録を行っていった。
その間、人によって初期のステータスが違うからか、少し微妙そうな表情や、歓喜に溢れた表情を見せる人と様々だった。
そんな人達を眺めながら、俺はどんなステータスだろうかと。
贅沢は言わない。
平均的な数値でいい。
でも出来れば魔法が使える高INTならいいなあ。
そんな風に思いながら順番を待っていると、とうとう俺の番になった。
さて、どんな加護と数値を貰えているのか。
天地よりは確実に低いステータスだろうけど。
わくわくドキドキしつつ、綻ぶ頬を無理やり引き締めながら俺はオーブへと手を翳した。
……
………
…………
あ?れ?
なんで?
目の前に映し出された俺のステータス画面には、そこにあるはずの加護が無かった。
次は21時に。