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第45話 松ぼっくり

本日3話目です

 思わぬ出来事があり、あれから結構な時間を歩いて漸くガニエさんの工房へ到着した。


「いよう、遅かったな。エミリアちゃんと朝から乳繰り合っていたのか?」


 到着早々にアホな事を言われ、何でエミリアさんが宿に泊まった事を知ってんだよと思いながらも、早速中に入って武器を見繕う。

 というか、結局昨日大銀貨1枚で売ってくれようとしてくれた、ブロードソードを半額で買う事に。金属鎧は今回は見合わせた。


 ガニエさんは俺の目の前で新しい武器を作る気満々だったらしいけど、聞けばどうやら定価で売ると300万ゴルドという事だったので、金貨1枚と大銀貨5枚、150万ゴルドをサクッと支払い、お礼もしっかり伝えてさっさと美人エルフ姉妹の待つ家へと向かった。


 むさっくるしい下品な髭おやじを何時までも眺めていても仕方がない。

 折角なら美人エルフ姉妹を鑑賞しつつ会話を楽しんだ方が、余程にヤサグレを癒してくれるだろう。今日はそういう日なんです。


「おい! 俺の台詞今回これだけかよ! ちょっとまて!」


 お店の前でメタ的な何かをおっしゃっていたけれど、大したことじゃないようだったので足早に貴族街へと向かう。

 

 ああ、そう言えば同じドワーフだから、もしかしたらガニエさんはラウラさんの事を知っていたかもしれないな。


 なんて事を思いながら歩き、無事に家に着いて居ればいいなと思った頃には、もうガニエさんの怒鳴り声は聞こえなくなっていた。昨日沢山しゃべったじゃないですか。



 エルフ姉妹の家は遠い。


 ガニエさんの工房はそれなりに町の中心付近にあるのだけれど、姉妹の家は貴族街――というか高級住宅街に近いからか、中心地からはそこそこ離れている。広い庭が必要だったからなのだけれど、歩いていくには相当遠い。


「町が大きすぎるんだよ……」


 一辺が4kmもあるほゞ六角形のこのトレゼアの町なので、中心地から高級住宅街までそれこそ数キロ離れて居たりする。


 それでも歩く程に景色は段々とそれらしい建物、所謂大邸宅がちらほらと目立ち始めた頃、庭だけやたらと大きなヘルミーナ、リュミール姉妹の邸宅に到着した。


「しっかし広い庭だな。相変わらず森だし」


 野球のグラウンドが4面くらい作れるんじゃないのか?と思える程の敷地面積に、こじんまりとしたウッド調の住居兼店舗。とはいえ庭が大きすぎて建物が小さく見えるだけで、実際は家もそれなりに大きい。


 そんな広い庭を通り抜け、ところどころにあるハーブ畑を通り過ぎてお店の扉の前に立つと、優しい音色と綺麗な歌声が店舗内から聞こえて来た。


 綺麗な歌声だな……ヘルミーナさんかな?


 そう思いつつ邪魔をしないように静かに扉をあけて中へ入れば、店内に置いてある椅子に座ったリュミさんが、小さなハープのような楽器を奏でながら歌っていた。


 へえ~……リュミさんだったのか。


 普段の快活な物言いをする彼女とは全く異なり、そこにいるリュミさんは、ああ、エルフなんだなと何となく再確認させられる程に優雅で美しい。


 瞳を閉じ、優しくハープを奏でながら歌うその姿に、俺は声を掛けるのを忘れ、扉の近くの椅子に座り少しの間彼女の演奏と歌声を聞いた。



「どう?リュミの歌声」


 目を瞑ってしばらく心地よく聞いていたのだけれど、ふと気づくと近くにヘルミーナさんが立っていた。


 優しい微笑みの彼女は、やっぱり胸元が少し開いた薄手のローブを着ている。だがそれは下品な雰囲気など全く纏わず、神秘的にすら感じるのだから、これもエルフの持つ特異的な何かなのかなと。


「少しは癒されたかしら?」


 そんな彼女が小さな声でそう聞いてきた。

 俺は演奏の邪魔をしないように、薄く微笑み返しながら小さく頷くだけに留める。


 返事をどう受け取ったのかはしらないけれど、ヘルミーナさんも微笑みながらリュミさんへと視線を移し、そしてゆっくりと歩を進める。


 そろそろ演奏が終わる頃合いなのかもしれない。

 いや、俺が来たからなのかもしれないけれど。


 ただ、もっと聴いて居たいなと思ったのは嘘では無かった。

 音楽なんて好きで聴いていた様な生活など、送ってなどいなかったのに。



「リュミ、カズマくんが来たわよ」


 そう肩越しから優しく声を掛ければ、閉じていた目を開けたリュミさんの歌声はそこで終わった。

 そして未だ演奏だけは続けて、ゆっくりと俺の方を向いた彼女は、今までとは全く違った優しい表情で俺を見やりながら、小さな口を開く。


「遅いわよ、カズマ」


 口調だけは変えずに俺にそう言った。

 なんだろうか? その時何となく心が嬉しいと感じた。


「遅れてすみません」


「カズマ、わたしには敬語はなしでしょ?」


「ああ、そうでした。じゃない、そうだった」


「ふふ、まあ良いわ。徐々にね」


 笑いながらそう口にし、演奏を最後まで弾き終えたのだろう。

 リュミさんはハープを仕舞った。


「私も敬語は嫌だわ……」


 突然ヘルミーナさんがそんな事を口走る。


「いあ……それは流石に……」


「どうして?」


 どうしてだろうか?

 聞かれて考える。


 どちらも年齢は俺よりも遥かに高い。

 なのにリュミさんはよくてヘルミーナさんは駄目って理由は、あるのか?

 指摘をされて若干悩む。


「あれ?……どうしてだろ?」

「お姉ちゃんはそういう雰囲気じゃないからじゃない?」

「あら? 今のリュミだってそういう雰囲気ではないわよ?」

「そうかな?」


 どうやら自分では分かって居ないらしいけど、確かに演奏して歌う姿はとても崇高で近寄りがたく、だけれど心が落ち着くような。何といえば良いか、俺ら人間ヒュームが持つものとは根本的に異なる雰囲気だった。妖精族とはよく言った物だなと。


「そうですね。やっぱりエルフなんだなって思いました。もちろん良い意味で、神秘的だなって」


 リュミさんは俺の言葉にパチパチと瞼を瞬かせ、ヘルミーナさんは少し意味深な表情を見せた。


「ふぅん……カズマくんはエルフをそういう目で見ているのね?」


「あー……まあそうですね」


「そっか、そう言われるのってなんだか嬉しいわね」

「でも……私としてはちょっとだけ寂しい気もするけれど」

「あー、確かにお姉ちゃんはそうね。でも仕方がないんじゃない?」 


 妹からの言葉にしょぼくれてしまったヘルミーナさん。

 なんとなく可哀そうになってくるから不思議だけれど、だからって直ぐに敬語無しなんて到底無理なのは変わらない。

 でも、いつかは敬語無しで接する事ができたらいいなあとは思うので、


「ヘルミーナさんへの敬語も、がんばってみます」


 直ぐには無理でも親睦が深まれば、きっと違和感なく敬語じゃなくなるだろう。

 そう思いながらヘルミーナさんに伝えた。


「ふふふ、ありがとう。期待しておくわね?」


 ヘルミーナさんは優しく微笑みながらそう言葉を返し、仕事とばかりに「じゃあ装備を選びましょうか」とカウンターへと歩いて行った。




「一先ずは以前の装備からね」


 そう口にしつつ、予め用意をしてあったのか、後ろの棚から一式を取り出した。


「全く同じものを用意したけれど、それでいいのね?」

「はい。有難うございます」


「金額は、インナーの上下がセットで80万ゴルド、ブーツが40万ゴルド、それからグローブが30万ゴルドにゴルゴン牛皮のレギンスが70万ゴルドだから、合計で220万ゴルド。それを仲間価格で半額だから、110万ゴルドね」


「有難うございます」


 そうお礼を言いつつマジックポーチから巾着袋を取り出し、ゴルドをカウンターへ並べた。


「それで、残りのゴルドはどれくらいあるの?」

「えっと、あと274万ゴルドですね。でも20万くらいは残しておきたいんで……」


 その言葉に店内を見渡しながら、顎に手を当てて少し考えるような仕草を見せた。


「ふんふん……ではこうしましょうか、ローブを考えていたのだけれど、よくよく考えたら剣でも倒す予定なのよね?」


「おそらくは、はい」


「そうするとレギンスと同じ材質の皮のベストを着ると良いわ。リュミ、そこに掛かってるゴルゴン牛のベストを持って来て?」

「わかったわ……えっと、これね?」

「そう」


 そう言いつつリュミさんは壁に飾ってある装備の中から一つを持って来た。

 色合い的にはレギンスと同じく少しくすんだ茶色に近い。同じ材料なのだから当然だ。


「ローブの様に魔法特性はないけれど、その分丈夫だから、今はこれの方が良いかもしれないわ」


 渡されて見たそのベストは、腕の部分が無く、肩をガードするパットが付いているだけの腕を動かしやすい形状だった。

 そして開口部を留めるのはボタンではなく、丈夫な金属製のバックルで留める仕様。


「金属の鎧よりも格段に動きやすいと思うし、わたしもそれで良いと思うわ。わたしも狩りの時は皮の鎧を着ているしね。というか普段からそうだけど」


 リュミさんがそうお勧めしてくれたけれど、そう言えば彼女は姉のヘルミーナさんとは違っていつも皮の服を着ている気がする。

 今の恰好も、膝上まであるお洒落な皮ブーツと皮の短パンを履き、半袖のインナーの上に丈が短い皮ジャケットを羽織っている。


 イメージ的には狩人のような恰好。

 非常に似合う。

 太腿の絶対領域が眩しくて仕方がない。


「そう言えば、リュミさんって戦闘職業はなに?」


 俺の質問にニヤリと笑いながら、


「ふふん……何だと思う?」

「いあ……えっと、見たまんまで言えば、弓師?」


「惜しいけど少し違うわ。わたしは魔法弓師、魔弓師マジックハンターよ」


 これまた分からない職業が飛び出して来た。

 それでも、エミリアさんの流れでいうと……。


「もしかして魔闘士みたいな感じの弓師?」


「そう、正解! 物理的な矢の代わりに魔法で形作った矢を飛ばすの」


 弓矢を放つポーズを執りつつ、リュミールさんは得意げにそう告げた。

 そっか、エルフだから魔力は高いだろうし、そういう戦闘職業も成り立つのか。


「面白いですね。ああ、だったら属性矢での攻撃とかも普通にできたり?」


「そういう事。しかも魔闘士の様に魔力を乗っけられるから、威力は通常の属性矢よりも強力よ。それに、魔力だけの矢だとしても魔力が尽きない限り矢切れの心配もないしね?」


 本来の弓師は、装甲が硬い相手に対しての攻撃手段を持たない。いや、持たない訳ではないけれど、極めて不利な戦いを強いられる。

 だからアルマデロやエスカルゴのような装甲が異様に硬いモンスターは、まず相手にしないのだとか。


 だけど魔弓師マジックハンターは実質的に魔法での攻撃なのだから、それらへの攻撃も普通にダメージが通るらしい。

 しかも魔法が効かない相手には通常の属性矢を使えば良いだけだから、ある意味弱点が非常に少ないのが魔弓師。


 ただ、残念……かどうかは分からないけれど、この魔弓師になる事が可能な加護持ちはエルフにしか存在しない。所謂種族特性らしいけど、そのせいか非常に貴重な戦闘職業とも言える。


「レベルだけじゃなくって、戦闘職業も凄いんだな……」


 感心しつつ話を聞いていると、


「でもお姉ちゃんも凄いわよ?」


 話を突然ふられた姉のヘルミーナさんはわたし?と言った表情できょとんとする。

 そりゃレベルからして凄いのは分かり切っている。


「お姉ちゃんは魔法使い。というのは聞いた?」


「何となくエミリアさんから聞いたけど、ちょっと違うとかどうとかとも」


 たしかエミリアさんは、魔法を教えるのはヘルミーナさんではどうとか言っていた気がする。


「そうね、確かに違うわ。私は精霊魔術師エレメンタルソーサラーなの」


「精霊?」


「そう。カズマくんは四大精霊って知っているかしら?」


「えっと、魔法の属性と同じで、火と土と風と水ですよね? 火がサラマンダーで、土がノームで、風がシルフで、水がウンディーネ」


「そう、正解よ。本当はもっと種類は居るのだけれど、私はその精霊達の力を使ってモンスターを倒すの」


「それって召喚魔法みたいな?」


「それも正解。これもエルフにしか使える人は居ないわ」

「魔弓師よりも更に貴重なのよ、エレメンタルソーサラーは」


「すご……」


 やはりこの人たちは只者では無かった。

 この人たちの仲間になった俺って……。


「今カズマってば自分を卑下したでしょ? 仲間にしてくれって言われたけど、こんな俺で良いのか?って」


 表情に現れていたか。

 それでもネガティブになっても仕方がないと思う。

 エミリアさんも魔闘士なんて凄い職業だし。

 きっとガニエさんもとんでもない戦闘職業なんだろう。


「まあ、最初から分かって居たし、今さらって感じだけれど、それでもやっぱりどうして?ってのはあるよ」


「ふふふ、大丈夫よ? きっとその意味が分かる時がカズマにも来るわ」


「そうかな」

「ええ、きっとね」


 疑いの無い表情でリュミさんは俺にそう告げた。


「っと、話が大幅に脱線しちゃったわね。お姉ちゃん次は何?」


「そうね……ゴルゴン牛皮のベストが半額で50万ゴルドだから、後は204万ゴルド。……リュミの回復剤はどうする?」


「治癒ポーションが全部なくなったんで、予備含めて中級を100、下級を200本欲しいかなと。今後は半分くらい無くなったら補充をする感じでいきたいので」


「うん、その考え良いと思うわ。青ポーションは全く使ってない?」


「いや、4本使っちゃった。でもまだ沢山あるから大丈夫」


「じゃあわたしの方は治癒ポーションを用意しておくわ。中級が100本で100万、下級が200本で40万ゴルドだから70万ゴルドよ」


 リュミさんはそう口にしつつ、ポーション類を売るカウンターへと歩いて行った。


「じゃあ後はそうね、杖かしら?」

「そうですね」


 返事を聞いたヘルミーナさんは、背後の壁に飾ってある木製の杖を何本か選び、そしてカウンターの下からも何本か引き出して、それをカウンターの上に並べた。

 残りの予算は134万ゴルド。


「予算内のお勧めの杖を選んでみたけれど、杖ってそれこそ金属武器よりも種類が多いの」


「それってどういう?」


「杖を持つことによって魔法全般の威力の増幅がなされる。これは良いわね?」

「はい」


「その増幅は5万ゴルドの杖からでも見込めるのだけれど、増幅具合は10万であろうと100万ゴルドの杖であろうと基本的には全く同じなのよ。流石に幻想級の杖とか神話級の杖とかになれば違うけれど、そんなものは10億ゴルドを余裕で超えるわ」


 金額を聞いて目が飛び出るかと思った。


「たっけぇ……って、じゃあ値段の違いは、もしかして付加価値です?」


「その通りよ。所謂魔道具的な役割を付加価値として備え付けて価値を高めるの。あとはそうね、INTやDEXを疑似的に上げる効果の物もあって、数値の違いで価値が上がっていくわ。INTがプラス100ともなれば、その価値だけで数億ゴルドの値は付くわね」


「うへぇ……」


 特定のステータスを疑似的に底上げする武器は剣にもあるという。因みに防具やアクセサリーも。


 ただ、杖でもそうだけれど、ステータスを底上げできる武器は非常に高価だとも聞いた。

 それこそINTやSTRが疑似的にでも上がれば、倒せるモンスターも変わるのだから当然だろう。



 因みにこのステータス。

 今更だと思うけれど、面白い事を聞いた。


 それは何かといえば、STRが上がれば攻撃力が上がるだけではなく、普段発揮できる力も増える。


 要するに重いものも楽に持ち上げられたりするのだが、同じようにDEXは手先が異様に器用になるし、AGIが上がれば走る速度も速くなるし、VITが上がれば普通に体が頑丈になり、寝ぼけて箪笥の角に小指をぶつけても痛みすら感じないばかりか、箪笥の角が破壊されるという。


 だが、INTだけは違って、実生活において何ら役に立たないのだとか。

 頭が賢くなるわけでもなく、回転が速くなるわけでもなく、記憶力が冴えわたるようになるわけでもない。単に魔法の威力が上がるのと体内の魔力量が増えるだけ。


 INTだけは、体内の魔力回路が活性化した結果の数値だというのだから、そういう事らしい。

 じゃあINT=インテリジェンスなどと呼ばなくても良いのにと思ったのは、きっと俺だけでは無い筈だ。



「お勧めはどれです?」


 見ても分からないのだから聞くに限る。


「一番のお勧めはこれね」


 5本並べてくれた杖の中でも、かなり小ぶりなものだった。


「ウィザードステッキという杖だけれど、これなら剣で止めを刺す場合でもあまり邪魔には成らないと思うわ」


 なるほど。確かに邪魔にはなりにくいかもしれない。


 そのステッキは自然の木のうねりをそのまま利用したような杖ではなく、ちゃんと真っすぐに削りだされたもので、長さは50センチ程度しか無かった。

 剣とは反対側の腰部分に皮の筒を括り付け、使わない時はそこに差し込んでおく。


「付加価値としては、簡単な防御障壁と、INT+8よ。カズマくんにとっては両方とも必要な付加価値だと思うのだけれど、どう?」


「INT+8って凄くないですか?」


「ええ、単純にレベル一つちょっと先の火力を手に入れる事が出来るわけだもの。この辺りの価格帯だと普通はINT+2か3が良いところだから、とても優秀な杖よ」


「それ本当に予算内で買えます?」


 若干疑いの眼差しを向けてしまった。

 それを見てヘルミーナさんはクスリと笑いつつ、


「ええ、勿論。だってそれ不良在庫だもの」


 にこやかにそんな事をサクッと告げて来た。


「ふ、不良在庫? どっか欠点でもあるんです?」


「いいえ?何も無いわ。単にステッキ形状が流行りではないからというだけ」


「まじで? そんな事でです?」


 理由を聞いてもいまいち納得できない。

 そんな事ってあるのか?


「ええ。魔法使いはナルシストが多いからか、自身の見た目を気にする人がとても多いの。だから流行には敏感なの」


 なんてことだ……。

 そんな事が本当にあるらしい。

 命と見た目を天秤にかけるとか……。


 唖然としつつそう聞いていると、理由はどうやらそれだけではないらしく。


「とは言っても、そもそも魔法職は魔法専門で動くし、それならばもう少し付加価値を沢山付与できる大きな杖をと望むのも仕方がないところね。小さなステッキ形状だと沢山の付加価値を付けられないのだから」


 なるほど。

 そういう理由も有るのか。

 それならちょっとは納得できるかも。


「でもカズマくんは魔法と剣を交互に使用したり、魔法で倒しそこなったモンスターを剣で止めを刺す方法を執るのだから、このステッキ形状はうってつけでもあるの。今のところはね?」


 今のところという部分に少し引っ掛かりを覚えたけれど、確かにヘルミーナさんが言う通りだ。


「分かりました、それいくらです?」

「在庫処分で出していたから125万ゴルドで良いわ」


 よかった、何とか予算内だ。

 って本当はいくらだったんだろうか?


「因みにですけど、それを売り出した時はいくらだったんです?」


「最初は400万ゴルドだったかしら、確か。でも、売りに出したのは3年前だから、1年ごとに50万ゴルドずつ下げていって、今ではもうケースにも入れてなかったわ。だって売れないんだもの」


 ブロードソードよりも高額な、割といいお値段だ。

 とはいえ3年前に作ってから今日まで、全く誰にも見向きもされずに残っていたらしいので、値引きとしては有りなんだろうな。


 機能的に掘り出し物と言えるだろうから、形を気にする余裕もない俺にはピッタリだろう。


 そう自分を納得させて買う事に決めた。

 所持金が残り29万ゴルドになってしまったけど、うん、良い買い物が出来た。


「良かったわ。不良在庫が一つ消化出来て」


 嬉しそうに溜息を吐きながら、そんな事を口にされるともしかしてと思ってしまう。


「ははは……因みに他にもあったりします?」


「ええ、結構あるわね……例えば聖職者さん用に作ったホーリーステッキとか、骸骨を形どったカースステッキだとか、障壁だけに特化したガードステッキだとか……」


「全部ステッキですか……」


「ステッキは人気がないの」


 少ししょんぼりとしつつそう口にするヘルミーナさんは、ステッキ形状が好きなんだろうか?

 もしかしてと思いつつ聞いてみる。


「因みにヘルミーナさんは?」


「私? 私はこれよ」


 そう言いつつマジックポーチから取り出したものは、どうみても松ぼっくりワンドだった。


 なんだそれと思うかもしれないけれど、2メートル弱くらいの杖の先にバレーボール大の松ぼっくりが上を向いてちょこんと刺さっているだけ。杖には赤いバンダナのような布が巻かれているけれど、言えばそれだけ。どう見ても松ぼっくりワンド。


 俺はそれを見て思わず目が点になる。


「それ……」


「これは10年近く前に、古代遺跡迷宮の最深部で手に入れたものよ。テュルソスワンドという神話級のワンドね。こんな見た目だけれど、実は凄いのよ?うふふ」


 どうやら凄すぎる杖だったらしい。


 そしてその武器を仮に売ったとすれば、1000億ゴルドは軽く超えるだろうと聞かされて、たっかい松ぼっくりだなと一瞬思ったのは秘密だ。


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