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第4話 魔法発動

本日4話目です。


「とまあ、この世界はお前らが思って居るような異世界だと思ってもらって間違いないんじゃないか? 街の見た目は中世ファンタジーで、それまでの常識なんざ吹っ飛ぶ事間違いなしだ。きっと激しく驚くぞ? というわけで一先ず俺からの説明は以上だが、君たちから何か質問はあるか?」


 土方さんがぐるりと全体を見渡しつつそう口にすれば、その言葉を聞き、OL風の女性がおずおずと口を開く。


「あの……先ほど魔力と何度か言われましたが、もしかしてこの世界にも……」


 土方さんはその言葉にニヤリと笑みを浮かべる。

 そして、待ってましたとばかりに質問者へ期待通りの返事を返す。


「ある!あるぞお!魔法だろ?」

「は、はい!」


 期待通りの返事が返り、質問をした女性の表情は喜色満面に綻んだ。

 それを見て、更に追い打ちをかけるかのように。


「美香、見せてやってくれ」

「ふふ。ええ、分かったわ」


 美香と呼ばれたえっちな神官服姿のお姉さんは、土方さんに言われて少し前に出て来た。

 皆はこれから起こるだろう事を予測してか、瞬きも忘れて唾を飲み込む。

 お姉さんはそれを見て優しく微笑みつつ、


「今から使う魔法は攻撃をする魔法じゃないから、心配しないでね?」


 そう伝え、俺らの返事を待つでもなく、宝石らしい綺麗な石がはめ込まれた杖を掲げた。


「主よ、全ての者に聖なる加護を――ホーリープロテクション!!」


 その直後、石床全体を覆う程の魔法陣が現れ、しばらくの後、室内全体を暖かい光が包み込んだかと思えば、俺らの頭上に白く半透明な子供の天使が無数に現れて、そしてゆっくりと木の葉が舞うように降りて来た。 


「え?」

「うそ……」


 それを見た全員が目を見開き口をだらしなく開けたまま、ただただ見つめる。

 勿論それは俺も同じだった。

 な、なんだこれ……。


 そして、唖然としたままの俺らを優しく包み込むように、そのまま俺らの体に吸い込まれるように消えていった。


 訪れた静寂。


 その次の瞬間に、状況を把握したオーディエンスは驚きを爆発させる。

 最初に発言したのはニートっぽい長髪の男の人だった。


「ま、ま、魔法おおおおキタコレええ!」

「何これナニコレ!!ちょっと!!凄いんですけど!!」

「ぅえぇえええええ!?」

「おおおおお!?」

「某の夢が叶ったでござるよおおおおおお!!」

「まじかよ……」

「すっご……」

「本当に魔法なんだ……」


 当然の様に周囲は激しくざわつく。

 柊さんの瞳もキラキラと輝いているような。

 中には変な言葉遣いの人もいるけど、きっとニートっぽい長髪の人だろう。興奮しすぎて過呼吸にならないか心配になる。


 そんな俺らの反応に土方さんは満足したのか、かなり得意げに説明を続ける。


「やっぱそうだよな!そうなるよな!凄いだろ!」


 みんな目を丸くし、コクコクと頭を前後に倒して肯定した。

 魔法を使ったのは土方さんじゃないのに、彼は非常にドヤ顔だ。


「因みに今のは聖属性の防御障壁をお前らに付与した。こいつらの服装を見て気付いた奴もいるかもだが、二人とも魔法を自在に使える。もう一人の役割は、お前らが想像する通りだ」


 そして土方さんは親指で指し示しつつ、そう口にしてニヤリと口角を上げた。

 それはまるで、分るだろう?お前らならと言いたげだ。

 魔法使いだろうその女性は、少し苦笑いを浮かべたけれど。


「ただまあ、全員が魔法を使えるわけじゃあない。いや、使えなくはないんだが、この二人のように使いこなせるわけじゃあない。残念ながらな」


「そう……ですか」


 土方さんの言葉で少し残念そうな表情を見せた人もちらほら。

 そうそう美味い話は無いよな。


「なんでもそうだが、人には得手不得手、適性ってのがあるからな。魔法に関して言えば、魔力が高くなる素養、後で分かるが必要な数値が高くなきゃ、いくら頑張ってもしょっぱい魔法しか結局は撃てない。まあ、召喚された地球人でも全体の2割か……3割かってとこか。因みに俺は魔法は得意ではないな」


 数値というものが何なのか気になるが、この中で7人くらいしか魔術師としての適性は無いのか。


「ただ、説明をすると長くなるから後にするが、魔法が使えないからと言って悲観する必要はないけどな」


 ふむ……とはいえ魔法が使える方が有利なのは、きっと確かだろう。

 俺にも魔法の適性はあるんだろうか?……あれば良いな。

 それに、例え使えなくても土方さんは悲観する必要はないって言うし、現に魔法が得意じゃない土方さんは滅茶苦茶強そうだ。


 それはつまり俺ら転移者に有利な何かがあるって事だろうし、そうじゃなきゃそういう言い方はしないと思うし。


 うん、これは楽しくなりそうだ。


 俺はこれからの生活に思いを馳せる。

 今日までの辛い日々から解放されて、自由に生きられる世界に。


 しかも、チートが約束されているだろう、こちらの世界での生活だ。

 盗賊に襲われている村人を助け、その娘さんとかと仲良くなったり、チートで町を丸ごと救ってモテモテになったりしちゃったりしたらどうしよう。


 俺はこの後に訪れる悲劇など微塵も考える事なく、そんな淡い期待を胸に妄想を膨らませていた。



 かなりの驚愕と共に世界の簡単な説明と転移までの経緯の説明が終わり、それと同時にオーブのような、ガラス玉のようなものが室内に運び込まれた。

 当然俺らはその玉を目で追い、穴が開く程見つめている。


 なんだろ?ガラスか?もしかして水晶か?


 土方さんはそのオーブのような物を少しの間見やり、そして視線を再度俺らの方へ向けて口を開く。


「でだ、ここからが本当の本題なんだが、今からこのオーブ。まあ、これもアーティファクトなんだが、全員、こいつに手を翳してもらう。理由は――」


 説明によれば、最初にそのオーブに俺らの魔力を繋げるらしい。


 何言ってんの?と思ったけれど、どうやらこの世界の人々は全員が大なり小なり魔力を保持しているらしく、それは召喚された俺達も同じ。


 その魔力のパターン――要するに指紋みたいなもの――をオーブに登録する事によって、世界から様々な恩恵を受けられるようになる。


 そして同時に自身の能力を数値化したものが見えるようになり、その時の数値によって物理戦闘に向くのか、魔法戦闘に向くのかの適性も分かるらしい。


 そんな馬鹿なと思ったが、土方さんが「ゲームのような世界だ」と口にして、続けて説明をしてくれたからか、納得せざるを得ない気分になってしまった。


 だって、レベルという概念が存在するんだと言われたらねえ……。


 その時の言葉が、


「個人差はあるが、地球からエル=グランドに来る時、肉体が分解されて再成型され、同時に転移者ボーナスみたいな能力値の恩恵を受けられる」


「能力値ボーナスに連動して加護と呼ばれるギフトが与えられる。加護が無ければ能力値にボーナスもないが、心配するな、今まで加護が貰えていない転移者はいない」


「この世界にはレベルの概念があり、モンスターを殺せば経験値が入り、ゲームのようにレベルも上がっていく」


「レベルに関しても転移者ボーナスがあり、初期レベルが高く、レベル上昇もこちらの人よりは早い傾向にある。勿論個人差はあるが」


「ある程度の怪我なら回復魔法や回復薬で回復できるし、そもそも能力ボーナスで怪我や病気にかかりにくい」


 そんな事を真顔でつらつらと述べられたら、納得せざるを得ない。

 疑えばキリが無いし、疑っていては先に進めない。


 俺は手の平を見つめながら、今はまだ見えない自分の能力を思いつつ頬が緩んだ。


 ただ、気を付けなければならない事も同時に言われた。

 これらの概念のせいで、どうしてもゲームのような感覚が抜けにくいのだと。


 その通りだと思った。

 こちらの人はNPCでも何でもなく、殺してリポップする訳ないし、自身が死亡したらセーブ地点に戻れるなんて都合のいい話も無い。


 死んでしまったらそれで終わり。

 蘇生魔法なんて便利なものも過去には存在したらしいけど、今のこの世界では使える人は存在しない。


 だから死んだら終わり。


 それだけは忘れないようにしてくれと土方さんは言った。


「脅かすような事も言ったが、どうしてもゲーム脳が抜けずに無茶をして死んだ同胞も沢山いるという事だけは忘れないでくれ。やはり同胞が死ぬのは心が痛むし、特に今回は俺らが説明をする役目だった分、余計にそう思う」


「はい……」


 代表して天地が神妙な面持ちで返事を返した。

 そして魔法の存在を知った時とは真逆で、多くの人の表情が強張っている。俺も気を付けなければ。


 というか、こんな悪夢……いや、善夢?吉夢?のような世界を一体全体誰が創造したんだろうか?……うん、まあ、神様だろうな。

 今なら、神様いますよーと言われても半分くらいは信じられる気がするし。



「とまあこんな感じだ。ただ、能力的に優れているとはいっても平和な日本で育ったお前らの事だ、戦いどころか争い自体を好まない奴も当然いるだろう。故にその辺りは帝国も柔軟に対応しているから、嫌いな奴は無理に冒険者になる必要は無い。強制では無いって事だ」


 その言葉を聞いて、何人かはホッとした表情を見せた。

 確かに、異世界に憧れているからといって、冒険者に憧れているとは限らないんだし。


 戦闘が嫌いだから商人になって、この異世界という異界の地で人生を満喫したいという人も居るだろうし。


「花屋がやりたければやればいいし、料理人をしたければすればいいし、商人がしたければ商人をすればいい。ただ、自身の安全を考えるならば、少なからず魔物を倒してレベルを上げておくに越したことはないがな」


 それも道理だ。


「質問が無いならオーブに順次登録してもらうが、いいか?」


「では別の質問ですけど、私達が生きていく上で国が支援とかはしてくれないんですか?」


 ちょっとインテリ風のサラリーマンが、眼鏡をくいッと上げつつ聞いた。

 こんな人も異世界に憧れるのか……。

 驚きだったけれど、いい質問だと思う。無一文で放り出されるとか、とんだハードゲームだし。


 っていうか、ちゃんと皆冷静なんだなと。

 そしてそれについても土方さんはきちんと答えを用意していた。

 というか、伝えなければ成らなかった説明らしい。


「おっと、そう言えばその説明がまだだったな、すまん……っいてっ!」


 忘れて居たせいか、美香さんから肘打ちを食らった。

 脇腹をさすりながら申し訳ないと言った土方さんは、美香さんに頭が上がっていないかのような。


「あー、まず、オーブに登録後、100個までのアイテムを入れられるマジックポーチという魔道具が一つと、一人当たり金貨1枚と銀貨10枚、110万ゴルドを支給している。貨幣価値的には……そうだな、贅沢品を求めず普通に生活する分には日本の円とそう変わりは無いが、言えばそれしかない」


 魔道具!来た!


 異世界定番の、アイテムを入れる道具を支給して貰えるのは有難い。

 110万は多いような気がするけれど、ここがどんな世界なのかもはっきりとは分かっては居ない以上、まともな職を探すのも一苦労だろう。


「110万……ゴルド? が無くなったら?」


「残念だが追加の援助は帝国からは得られないし、同胞だからと言って俺らがお前らの援助をする事もない」


 その返事に不安そうな表情をみせるOL風のお姉さんだけど、土方さんは全くどこ吹く風の様相だ。


 まあ、当然だよなぁ。

 あえて何もしない奴に援助をするとか、常識的に考えてあり得ないし。


 そう思っていたら、土方さんは周囲の雰囲気を感じ何か思う所があったのか、もう一度全員を見渡しながら口を開く。


「冒険者に成らず、他の職業を模索するのも良いが、この世界はそんなに甘い世界ではないという事だけは肝に銘じておいて欲しい。だが、逆に言えば身体的な能力が優れた俺らが冒険者になれば、元からいるこの世界の人より絶大なアドバンテージを持って冒険者として生きていけるという事も忘れないで欲しい」


 という事は他の職業をするにしても、まずは冒険者をしてレベルを上げてからだろうな。


 俺なんて端から冒険者になる事しか考えてはいないし。

 だってそうだろう?能力的にチートが貰えるなら、冒険者にならなくてどうするんだと。


 確かに戦うのも死ぬのも怖いけど、ゲームのようなという言葉を信じれば、貰うお金で防具をガチガチに固めれば何とかなるような気がするし。


「そして仮に冒険者として生きていくならば、冒険者が作ったレギオンという組織に所属した方が良い。まあ、レギオンというのは簡単に言えばグループみたいなもんだ。リーダーが居て、メンバーが居るといういたって普通の集まりだな」


 一緒に入って来た他の4人は、彼がマスターを務めるレギオン《青鋼の騎士団》のメンバーらしく、常に一緒に活動をするパーティーメンバーでもあるらしい。


 女性二人の内一人が日本人で、もう一人はこちらの人。ちなみに二人とも土方さんの奥さんだとか。


 この世界では5年よりもずっと以前から長く続くモンスターとの攻防により、働き盛りの男が極端に少ないらしい。


 したがって生活に余裕がある男は、妻を何人も娶る事を帝国や周辺国自体が推奨しているんだとか。ゆえに土方さんも、この二人以外にもあと三人の妻がいるらしい。妾も合わせれば合計10人だとか。


 なんてすばらしい世界だ。

 ビバハーレム!

 その話によって結構な人数の嚥下音が聞こえた。

 勿論俺もその中の一人だけれども。


 そしてなんとなしに、痛い程の視線を感じた気がするのは気のせいだろう。

 まさか柊さんが、俺をジト目で睨みつけるなんてある訳がない。ないない。

 俺の方を向いているのは多分、首が凝っていて解しているだけだ。


 とはいえなんとなく居心地が悪い気分になってしまったのは確かだった。

次は18時に投稿します。

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