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第39話 笑わない瞳

本日6話目です。



「では、見たのは間違いなくユキオ=モロボシなんだな?」


「はい、諸星でしたね。とは言っても意識が朦朧としていたし、その直後意識を失ったんで……」


「いえ、私もモロボシだと思います」


 今はエミリアさんとサブギルドマスターのエレメスさんが医務室に来て、あの時の状況を俺から詳しく聞いている。

 部屋にはその人達以外誰もおらず、先ほど居た眼鏡美人も今は居ない。


 そんな中、エミリアさんは俺を嵌めたのは諸星幸男だと断定しきっている。

 先ほど部屋に入って来た時は安堵の表情を浮かべてくれていたのに、今では鬼のような表情になってしまっていて若干怖い。


「それで、ギガスボアというのも間違いは無いと?」


 エレメスさんが俺に確認をする。


「見たのは初めてなんで断定は出来ないんですけど、額に赤い模様が縦に伸びて居ましたし、体長も5mは余裕で越えていたと思います」


「むぅ……まさしくギガスボアだな……どう思うエミリア嬢」


 腕組みをしつつ難しい顔でそう返事を返したエレメスさんは、直ぐにエミリアさんに意見を求めた。

 サブギルドマスターから意見を求められるエミリアさんの立場って……。


「恐らくは……”クローク”スキルを使用してでしょう」

「そうなるか……」


 クローク?


「えっと、クロークって……あのクロークですよね?初心者講習会の時教えてもらった」


「そうだ」


 たしかクロークとは、本来ならばパーティーにおいてモンスターの情報収集の為に使用するスキルで、アサシン系の加護を持つ戦闘職業者のみが得られる。

 相手に認識阻害を起こさせて、自分の魔力と共に存在を消すスキル。


 最初から認識されている場合は効果は薄いけれど、それでもパーティー狩りにおいては絶大な効果を発揮する。それゆえにそのスキルを持ち得る可能性のある冒険者は、レギオン内での地位が高くなる程。


 ただ、このスキルの一番の問題点はそれの悪用化にあるという。


 モンスターを欺けるものは人をも欺ける。

 ゆえに痕跡も残さず暗殺や人攫い、更には敵対勢力への諜報など、人社会の暗部においても絶大な威力を発揮する。


 しかし欠点もあり、クロークを使用している間は常に魔力を消費するし、その消費量も多い為に長時間の使用は例え転移者といえども不可能だということ。

 更にはエミリアさんのように高レベルの索敵スキルを持つ人には見破られるらしい。


 けれど、殆どの人はそのような高レベル索敵スキルなど持ち合わせていないのだから、魔力消費の件も含め欠点が重大な欠点ではない、非常に危険なスキルだと聞いた。


 クロークを防ぐために、主要な施設には専用の魔道具を設置してあるとも言っていたし。


 それらを踏まえ、冒険者を含めた者による不正使用に厳格な罰則を設けている固有スキルの一つだったりする。


 なのでスキルを所持をした者は速やかに報告をし、無暗に使用しないよう気を付けろとも教えられた。


 というか、そもそも街中での攻撃魔法や、そういった個人や団体の不利益になるようなスキルは基本的に禁止らしい。


 見つかれば正当な理由が無い限り処罰対象となる。

 特に冒険者が多い町では、高レベルの索敵スキルを使用する者も少ないながら居るので、むやみやたらとクロークを使用する者は居ないというけれど……。



「シバさん」


「はい?」


「戦闘が始まる前に何か変わった事はありませんでしたか?」


 クロークについて思い出していると、エミリアさんが突然俺に質問をなげかけた。


 変わった事か……変わった事ねえ……。


「……あ!」


 思い出した。

 俺の表情を読み取ったかのように、エミリアさんは即座に口を開く。


「それは、戦闘直前に何かの気配を感じ、例えば、目の前の景色が一瞬歪み、その後で風が体をすり抜けて行ったような感覚では?」


 なんでわかるんだ……。


「そ、その通りですけど、なんで?」


「私も昔同じ目に合ったことがあるからです。まだ駆け出しの頃でしたから、シバさんと同じく高レベルの索敵スキルを持って居ない頃でした」


「そうだったんですか……」


「ですが、これで確定しましたね」


「ああ、何者かが”クローク”を使い、ギガスボアをトレインし、シバ君へキルトレインを仕掛けたとみて間違いないだろう」


「はい、ですが……」


「そう。だからといってそれが転移者のモロボシだという確証はないぞ? 限り無く黒に近いグレーだとしても証拠が無ければ黒には成らない」


「そうですね。この界隈だけでもクロークを使える冒険者は29名居ますし、ギガスボアをモンスタートレイン出来る者は、ある意味その全てですから」


「ああ、それに加えて、所持を知られていない、冒険者以外の者も含めればその倍はいるだろうな」


「はい……」



 後で聞いた話だけれど、隠遁スキルである”クローク”を覚える条件とは、AGIが150とDEXが150、更には加護に”月夜の幻”や”幻影の彼方”などのアサシン系に属するものを持ち合わせている必要があるらしい。


 ゆえに転移者であろうと、例えステータスが満たされようともクロークを使用できる人はそれ程多くはない。

 だからこそ土方さんは、諸星の加護を見てレギオンに入れる事を決めたのだろうと。転移者ならばステータスの問題は早々クリアできる筈だから。



「しかし証拠がない。恐らく誰かがモンスタートレインを行ったのは間違いはないし、シバ君が見たのがモロボシという転移者だというのも容疑的には十分だが、それを立証するだけのものがなければどうしようも無いぞ? 相手は転移者だから自白に頼る事も難しい」


 転移者特権ってやつか……。

 そんなもの無くて良いのに。


「はい、それは分かって居ます。ですが犯人は用意周到にギガスボアを選んだという事実は残ります」


「それはどういう事だ?」


「考えても見てください……あ、いえ、先に言っておきますけど、シバさんを貶める言葉ではありませんからね?」


 凄く言いにくそうにエミリアさんが俺を一瞥し、そんな風に言った。


「ん?」

「どういう事ですか?」


「何故シバさんを狙う為にギガスボアをトレインしたのか……ワイルドボアではなくギガスボアを」


 なんだろう?……なんだろうか?

 俺を狙うためにわざわざ強い方を連れて来た……俺は最弱だと思われているのに……。

 

「あ!ぁー……」


「シバさんならお分かりだと思います」

「ハハハ……ハハ……」


 悲しいかな分かってしまった。

 確かにそうかもしれないと思ったら乾いた笑いが込み上げた。


「ですから貶める言葉じゃないですよと言ったんです……」


 申し訳なさそうな表情を見せつつそう俺に弁明をしたけれど、それは普段容赦ないから弱っている時くらいはという事なのだろうか?

 ともあれエミリアさんの考察は事実だ。


「はい、分かって居ますよ。俺の実力なんてワイルドボアで十分だと思うのが普通ですよね」


「そうです。なのにギガスボアをトレインしてきた。それは即ちワイルドボアではシバさんなら処理できると知って居た・・・・・、という事になるんじゃないかと思うんです」


 エレメスさんも納得できたらしい。

 なるほどといった表情を見せている。


「確かにそうだな……俺もシバ君の初期レベルとステータスは聞いていたが、とてもではないがワイルドボアを処理できるようなステータスには、この10日では育たないだろう」


「その理由を犯人はある程度予測できたのではないかと」


「ガニエ殿とヘルミーナ殿の装備……か」


「ここ、この場では正直に言いますけど、ガニエおじ様とヘルミーナさんが提供してくださった装備は、レベル40のスチールランクが装備してもそん色のないものです。それらを事前情報として手に入れていたとしたら。しかもモロボシはシバさんの情報を集めていたようですし」


 ああ、那智さん達は諸星が嗅ぎまわっていたのを伝えてくれたんだな。


「なるほど。……確かにあの人達の装備ならば、シバ君のレベルとステータス次第では可能になるな。だが……それでもワイルドボアをソロで倒す事は叶わないのでは?シバ君のレベルはまだ一桁台だろう?……いや、それだとギガスボアを倒すのはそもそも……いや、ん?、うーん……」


 エレメスさんの頭が混乱を始めたらしい。

 腕組みをしたまま、しきりにぶつぶつと呟き始めた。


「混乱されるのも無理も無いでしょう。確かに私達の本来の常識ならば色々と辻褄が合いませんから。……ですが、シバさん」


 黙って二人の会話を聞いていたのだけれど、突然エミリアさんに呼ばれた。


「はい?」


「レベルとSTR値をエレメスさんに教えてもいいですか? この人は信用できます」


 俺はまだ、エレメスさんを信用していない。

 けれどエミリアさんの事は信用しているし信頼もしている。

 ならば考える必要などないだろう。

 そう思ったのだけれど、返事が遅かったからかとんでもない発言が飛び出す。


「もしも、私の信用を裏切るような行為をこの人がしてしまった時には、私が責任をもってこの人を処理します。物理的に」


「ぶはっ!」


 思わず先ほど飲んだ万能薬を噴き出してしまう所だった。

 けれど、エミリアさんの爆弾発言を受けたエレメスさんは、殊の外真面目な表情を見せている。


「……確かに私の方がエミリア嬢よりも、実力的にも相性的にも劣っているから可能ではあるが……それ程の情報なのか?」


 あっさり認めちゃうのか……。


「はい、それ程の情報なので、そのつもりでお聞きください」


「わかった。その覚悟をもって聞こう」


 険しい表情のまま、エレメスさんがそう返事を返した。

 そしてエミリアさんは促す様に、俺を見て小さく頷く。


「いいですよ。ギガスボアと対峙する直前は19でした。ステータスはSTRが素で100ですね」


 STRは、キリが良い!なんて喜んでいたから覚えている。

 しかし俺の言葉にエレメスさんは驚愕の表情を浮かべ、唇を若干震わせながら俺に問いかける。


「それは……本当か?」


「そうです。やはり少しレベルが上がるのが早いんですか?」


「いや、それは私には分からない。聞く限り君はかなり特殊な方法で狩りをしていると聞いたし、ソロでもある。だが、そうだな……君の様にレベルが上がるのが早い人は今まで居なかったのかと問われれば、そうでもない。いや、それなりに居る」


 特殊な方法とはあれですね?石投げダッシュですね?

 っていうかこんなレベルの上がり方をする人ってそれなりに居るのか。


「そうなんですか?」


「ああ、まあ、ガニエ殿とは言わないまでも、それに近い武器や防具を揃えられる初心者冒険者は全くゼロではないという事だ。例えば貴族の三男坊であるとかが良い例だろうな。家を継げないそういう者達は冒険者になる事も少なくはない。冒険者で名を上げれば貴族位を叙爵してもらえるからな」


「そのような方は金貨10枚や20枚程度は家からの支度金で用意できますしね」


「ああ、そうなんでしょうね」


「ただ、そういう人は専属のサポート役……と言えば聞こえはいいが、要するに壁役の者を雇うんだ。雇って壁をしてもらい、その貴族の三男坊は横から高威力の武器を用いて一刀両断にする。左程リスクなしでレベルは上がるから、当然レベルがあがるのは早い」


 まあ、碌な冒険者には成らないがねと、顔を顰めつつエレメスさんはそう説明をしてくれた。


 でも、まんまゲームの中と同じ方法だな。

 確かにお金さえあれば、初期のレベルアップは楽そうだ。

 歪に偏ったステータスを修正するのは大変そうだけど。


「だが、君の場合は違う。君はソロで一人でそこまで育った」

「いえ、エミリアさん達のおかげですよ」

「それもある。だが、一人で倒したのは事実だろう?」


「そうですね……アドバイスは頂きましたけど」


「うむ。そしてそういうケースは今までないんだよ。だから俺は先ほど非常に驚いたんだ。だがそうだな……確かにそのレベルとSTR値ならワイルドボアは倒せる。だが、それでもレベルをある程度把握するか、装備を完全に把握しなければワイルドボアをソロで倒せるとは分からないだろう?」


「はい。レベルはシバさんと私が言わなければ伝わりようもありませんが、装備の方は……あと、シバさんに質問ですが、ここ数日の間でシバさんの戦闘力に繋がるような会話を誰かとしませんでしたか?勿論私以外です」


 そう聞かれると、どうだろうか?

 那智さん達には、エミリアさんに手伝ってもらってワイルドボアを倒したとは言ったが、そもそもあの人達に助けられた身だから、それは無いだろう。


 それ以外だと……。


 ……い、いや……まさかな……。


 思わず柊さんや天地と会話を交わした時の事を思い出した。

 思い出した途端、サーっと血の気が引く。


「……何かあったんですね?」


 分かりやすい程に俺の顔色は変わったかもしれない。

 それを見たエミリアさんは視線を少し鋭くした。


 どうするよ……。

 あの時の事を言うか?

 いや、言わないと駄目なのは分かって居るけど、まさかあいつ等が言ったとは思いたくない。

 天地はまだしも柊さんは諸星の事を嫌っている筈だ。


 けれど天地ならどうだ?……可能性はゼロには成らない?

 柊さんにしても、諸星と話はするだろうし、その中でもしも諸星が俺の事を心配しているような口ぶりで来たら、あるいはポロっと言ってしまうか?


 ぐるぐると頭を巡るあの時の会話や、二人の表情。

 そのどれ一つとっても俺を心配してくれていると思えるものだった。それを嘘だとは思いたくない。


 だからどうしても、俺には二人が意図的に漏らしたなどとは到底思えなかった。


 なので――


「はい、実は――」


 結局、俺はエミリアさん達に、転移してから6日目、雨が降った時に天地達と話をした内容を伝える事にした。

 きっとエミリアさんならば、ちゃんと理解をしてくれると願って。



「なるほど、あの時そんな話をしていたのですね」


 どうやらエミリアさんは、俺らがカフェで話をしていたのを見ていたようだ。


「その時にクルンミーを初日で偶然討伐したという話や、エミリア嬢が見ていたとはいえ一人でワイルドボアを倒したと話したのなら、確かに無視出来ない情報ではあるな」


 俺は、少し調子に乗って居たのかもしれない。

 二人に話しかけられて、それで嬉しくて、言わなくてもいい話までしてしまった。

 考えれば考える程に落ち込んでしまう。


「シバさん?」


「……はい」


「恐らくはそこから漏れたと思います」


「……でしょうね」


 それ以外では口にしていないのだから。


「ですが、私はアマチさんやヒイラギさんがモロボシに伝えたとは思えません」


「そう……ですか?」


「シバさんもそうは思って居ませんよね?」


「はい、でも……」


「あの時、周囲には他の冒険者もそれなりに居ましたし、獣人ならば人の会話を盗聴するスキルを持つ者も多くいます。ですから公衆の面前では重要な話をあまりしないか、何らかの魔法的対策をしているのですけれど、恐らくは、その時の会話を第三者に聞かれたのではないかと思います」


「確かにあの二人とは何度か会話をしたが、負の要素を全く持ち合わせてはいない珍しい転移者ではあるな」


「あの二人には、私もよく声をかけられます。特にヒイラギさんからですが」


「柊さんが?」


「はい。私がシバさんの担当員だという事は多くの方が知って居ます。その上で彼女は何時もシバさんの事を気にかけている口ぶりで、私に話しかけて下さいましたし。シバ君はどうでしょうか?怪我とかしていませんか?ちゃんと狩りは出来ていますか?と」


「そうなんですか……」


 やはり彼女は女神だな。

 俺のステータスが低すぎるばかりに、そこまで心配をしてくれているなんて。

 途端に目頭が熱くなる。


「アマチさんも同じです。力を貸してあげて欲しいと何度か言われて居ますし」


「天地も……」


「ですから、可能性はゼロではありませんが、私は彼らが悪意をもって犯人に情報を流したとは思えないんです」


「そうですよね……俺もそう思います」


 だからこそ俺はエミリアさんに謝らなきゃならない。

 折角心配をしてくれて助言をくれたのに、浮かれて喋った俺は馬鹿だ。何もあそこまで喋らなくても良かったじゃないかと、今なら思える。


「でも、すみません……エミリアさんに注意されていたのに……」


「そうですよ?そこはちょっとだけ反省してください」


 少し拗ねたような、でもちょっと微笑みながらエミリアさんはそう言った。


「そうだな。だが、情報を流したのが誰であったとしても、それらの情報を手に入れたとしたなら、確かにギガスボアをトレインするか……」


「はい。その者が、シバさんを陥れた者で間違いありません。そして情報を入手しようと動いていたモロボシが、一番疑わしいのも間違いはないですね」


「うむ。彼がシバ君に対しての転移時の絡みようは聞いているし、シバ君の情報を嗅ぎまわっていた事実。賭けを行って居るという噂も耳にしたからな。賭けが本当ならば許しがたい事だが」


 エレメスさんの表情が一層険しくなる。


「はい、とても許される事ではありません。しかも賭けを主導した者による犯行だとすれば尚更です」


「そういう事だ」


「ですが、今のままでは尻尾は掴めないでしょう。なので非常に腹立たしいのですが、少し泳がせた方が良いと思います」


 どうやらエミリアさんには考えがあるようだ。

 ただ、一連の流れは少し違和感を感じる。

 まるで、サブマスターとエミリアさんの立場が同じような。

 いや、先ほどの話しぶりはエミリアさんの方が立場が上ともとれてしまう。


 エミリアさんって単なる受付嬢ではないのか?


「ふむ……そうだな。調査はするが、形だけに留めておくという事だな?」


「はい。シバさんが死ななかった事で、モロボシは賭けに負け、配当を行わなければなりません。手持ちで何とか出来るかどうかは掛け金の内容を把握出来ていない今はどうとも言えませんが、予想では現時点でのモロボシにとって少なくない金額が動いていると思います」


「だろうな……じゃなければ装備を剥ぎ取る危険を冒す必要はない。いや、まてよ?」


 二人で仮設を立てていくけど、エレメスさんが疑問を覚えたようだ。

 ただしその疑問もエミリアさんにはお見通しのようで。


「はい。エレメスさんの疑問は分かります。確かに装備を剥ぎ取った理由が、ゴルドの為だけだと決めつけない方が良いかもしれませんし、むしろ理由を予測しても意味はないかもしれません。大事なのは現時点でのモロボシの所持金額ですから。ですが、それでもどのみち時間をかければ必ず尻尾は掴めるでしょう」


 エミリアさんの表情を見ると、確実に炙り出せる方法を描いているようだった。

 それを見たエレメスさんは、納得をしたように大きく頷く。


「ふむ。わかった。……シバ君」


「はい」


「エミリア嬢の言う通りだが、それでいいか?」


「それでいいです。でも、装備を盗られてしまいました……」


 溜めているモンスターを売れば、所持金と合わせて500万ゴルドくらいにはなるだろう。

 だから新しくそれなりの装備を揃える事は可能だ。それが例え今日まで使っていた程の武器や防具ではないにしても。


 でも……違う。そうじゃないんだ。


 落ち込む俺の表情を見やり、そっと俺の肩に手をそえたエミリアさんは、自然な笑みを携えながら口を開く。


「大丈夫ですよ。もうすぐだと思いますから」


「……?」


 もうすぐ?と聞き返そうとしたその時だった――


――バンッ!


「いよう! どうした小僧!! 早くもくたばっちまったか!?」


 扉が勢いよく開け放たれたと思いきや、外から突然ずんぐりむっくりの着ぐるみのような体型のガニエさんが、ドカドカと足音を鳴らしながら勢いよく入って来た。


 そしてその後ろにはヘルミーナさんとリュミさん姉妹も。


「煩いわよ? ガニエ」

「ほんとにガニエってガサツなんだから」

「大丈夫? カズマくん」

「あ、カズマ平気?心配したわよ」


 少しガニエさんに毒を吐きつつ、ゆっくりと美人姉妹が入って来た。

 三人とも笑顔を見せながら。


 けれど、俺は直ぐに気付いた。

 気付きたくなかったけど気付いてしまった。

 この三人は笑顔なのに、決して目が笑っていない事を。


 おおおお、こえええええ……。


「す、すみません!!」


 思わず土下座をするような勢いで謝った。いや、ベッドの上で土下座した。

 そして入って来た三人を見やり、エレメスさんは顎を落とすんじゃないかと思える程に、驚愕の表情を浮かべた。


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