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第37話 ポーションの欠陥

本日4話目です。

「あっぶねえ、ちょーっと早く来過ぎたか?」


 ギガスボアの横で意識を失っている一眞を見やりながら、諸星は一瞬びびる。

 一瞬視線が交錯したような気がしたが、直ぐに一眞が意識を失ったと知り、そのまま傍まで近寄る。


「まあ、例え見られても証拠なんざ何もねーけどな」


 ギガスボアをけしかけたのは、紛れもなく諸星幸男。

 だが、今彼はこの場所になどいないことになっている。

 同時に転移して来た堀尾ほりお山内やまうちと共謀し、この世界でしか通用しないアリバイを作っている為に。


 今日で賭けは終わる。

 10日持てば諸星が賭けの対象者に多額のゴルドを支払い、10日以内ならば諸星の総取り。

 そういう賭けだった。


 いや、賭けで失うゴルドなど諸星にとってはどうでもいい。

 諸星はとにかく一眞が気に入らなかった。

 いつか一眞を殺してやりたい。元の世界から諸星は常にそう思って居た。

 ゆえに賭けはその切っ掛けになったに過ぎないのだった。


「ま、今回アリバイを作ってくれたあいつらには、口止めも兼ねて幾分か渡さなきゃならねーけどな」


 ゆえに諸星は一眞がモンスターに食われたと装うために、わざわざ森の奥に居るギガスボアをトレインして来た。

 ただ、諸星とて簡単な作業ではなかったのも事実。


 本来はワイルドボアをけしかけようとしたが、堀尾の所属するレギオンにいる獣人からの情報と、一昨日から北西の森に向かった転移者の情報で、どうやらワイルドボア程度なら倒せそうだと知り、急遽無理をしてギガスボアに変更をした。


 本来ならば諸星のステータスだとしてもギガスボアを倒す事は叶わない。

 現在の一眞と殆ど差の無い腕力と、一眞よりも数段劣る武器ではワイルドボアの硬い外皮を傷つける事も容易ではない故に。


 だが、諸星の足はギガスボアよりも早い。それは先輩冒険者に聞き分かって居たのだから、釣る事だけは出来るだろう。そう計画を練り決行した。


 ギガスボアがターゲットを見失うかどうかのギリギリを狙い引っ張り続け、一眞の横をアサシンの”クローク”スキルを使用したまま通り過ぎ、そして一気に加速をしてターゲットを外す。


 後はギガスボアが諸星を見失い、一番近くに居る一眞に擦り付ければ終わる。

 そう思ってスキップをするかのような気分で、奴が居る場所まで戻って来たのだが。


「100パー運だろうが、まっさかゴミが倒すとはねえ……予想外もいいとこだ」


 そう言いつつギガスボアの喉元を見やる。

 そこには致命傷を与えたグラディウスが、見事に埋まっているのが見て取れた。


「この武器のおかげって事か?……やっぱりガニエってドワーフの武器は性能が良いってのは本当だったんだな」


 諸星は一眞が持つ武器はガニエ作だと気付いていた。

 気付いたというべきか、作戦を変更した理由にも繋がるのだが。


 冒険者ギルド内のカフェで一眞と伊織と大河が会話をしていた時、偶然にもその内容を聞いた獣人が堀尾の所属するレギオンのメンバーだった。それを諸星は情報として買った。


 オール10だった初日の段階で、クルンミーを一刀両断にしてしまえる程の武器を持って居るという情報を。


 あとはそれとなくレギオンの先輩にガニエの評判を聞き、武器と防具の性能を聞き出し、他の冒険者から一眞の情報を仕入れたその結果、一眞が死なない理由はそこにあると当たりを付けた。並々ならぬ執念でほゞ正解に辿り着いた。


「確かこの鎧もそうだな。それからインナーやポーションは、あの乳エルフ姉妹の店で買ったっつってたな。んとつくづくムカつく奴だぜ。くそが!」


 町で偶然見かけた胸の大きなエルフ。

 本来、エルフとは胸が控えめなのだが、その女性に限って言えばそれは当てはまらなかった。


 珍しい巨乳エルフ。

 胸が大きな女性だけを好む諸星にとって、そのエルフは恰好のターゲットだったのだが、情報を集める内にそのエルフすらも一眞の知り合いだと知り、余計に殺意が募った。


「なんで!お前は!いつも!いつも!俺の物を!」


 未だ意識を戻さない一眞を何度も蹴り上げ唾を吐きかける。

 このまま切り刻んで息の根を止めてやりたい心境だが、それは無理だ。


 貴重な転移者が死亡すれば、瞬時に冒険者ギルドに分る事になっている。

 しかも場所までも。それは冒険者カードに仕組まれた魔法式によるものらしいが、最悪なのは人に殺されたか魔獣に殺されたかすらオーブに記録されるという事。


 ゆえに直接殺せば確実に諸星が疑われる。

 アリバイは作ったが、魔獣に食われたか人に殺されたかで調査の度合いが各段に違うなど、想像に難くないし、カードと同じような理由で、このままだと腰に結ばれたマジックポーチも持っていけない。


「くそ……もう一度、今度はワイルドボアでも連れて来るか……だがその前に……くひひひ」


 再度モンスタートレインを画策したが、その前に諸星にはやることが有る。

 最初から決めていた事。それは一眞の装備一式を全て剥ぎ取るという事を。


 マジックポーチは持ち去れないが、意識を失っている今ならその他は容易とばかりに、諸星は一眞の装備を一切合切剥がして行く。


 ここで致命的なミスをしているという自覚は一切ない。


 鎧も、引き裂かれたレギンスも、先が壊れたブーツも修理すれば再度使えるだろう。思ったよりも痛んで居なかったインナーは、自身が身に着けているインナーよりも遥かに良いと分かり、諸星は激しく舌打ちをするが、直ぐに自身の物になるのだと思えば自然と顔も綻ぶ。


 それらを確認しながら剥がし終えた諸星は、再度にやけ顔で一眞を見下ろす。


「パンツくらいは置いてってやる。どうせワイルドボアにお前は食われるんだがな?クククククククアッハハハハハハ!」


 諸星は腹の底から笑い、一眞の顔を足で踏みつけつつ、一眞が必死の思いで倒したギガスボアすらも、グラディウスと一緒にマジックポーチへと放り込んだ。 


「はー笑った笑った。さてっと、用は済んだ。まあこれで死のうが死ぬまいが、この装備とギガスボアを売ったゴルドで俺の負けは半分くらい消えるだろ。つーか、ゴルドなんざ幾らでも稼げるからどーでもいいけどよ」


 口にした通り、諸星が稼ぎ出すゴルドは今の時点でも1日で金貨1枚を越える。

 故に今回の負けなど些細な金額でしかないのだが、とにかく諸星にとって、一眞が良い装備を持って居るのが気に入らなかった。


「お前にゃあもったいねえ装備らしいからよ、俺が有効に活用してやんよ。だからお前は感謝しながら魔獣の餌に――!」


 餌になれと口に仕掛けた時、こちらにゆっくりと近づく人の気配を諸星は感じた。

 慌てて【探査+サーチプラス】のスキルを発動する。このスキルは一眞が先ほど使用したスキルよりも1ランク性能がいい。


(誰だ!?この世界のゴミ共か?違うな。転移者の物だ。となると確か4人は北西の森へ行ってるから……ってことはへっぽこ2号3号4号って事か?」


 諸星にとっては相馬達も見下す対象でしか無かった。

 ワイルドボア程度では奴らは殺せないだろうが、所詮その程度でしかない。転移者として選ばれておきながら、その程度でしかないのだから、必然的に卑下する対象に諸星はした。


(まあ那智って言ったっけ? あの女なら乳もでけえし肉便器にくらいはしてやっても良いけどよ)


 とことんクズ発言であるが、本人にその自覚は無い。

 だが、今見られるのは不味い。

 そう判断した諸星は一眞をもう一度殺そうと画策する事を止む無く諦めた。


 そして再度”クローク”を発動し、その場からスッと逃亡したのだった。

 小便でもぶっかけておけば良かったと、毒を撒き散らしながら。





「確かこっちだ」

「ええ、でも慎重に行きましょ」


「ん?おい、《探査サーチ》に小さいが成体反応が引っかかったぞ」

「あ、本当だわ」

「人だな……」

「止まってるわね」


 相馬達はここ三日程ワイルドボアを中心に狩っている。

 早く慣れる為でもあるが、それよりも絵梨奈が口にした嫌な予感がするという言葉に沿って。


 相馬も田所も同じようにそう感じては居たが、当初はやはり支援職が居ない事でワイルドボア狩りを躊躇した。


 ただ、結局は絵梨奈の希望を受け入れた事になるのだが、それよりも相馬達にとっては初日に起こった出来事がどうしても忘れられなかった。


 一眞は気にしないでくれと言ってくれたが、やはり大人としてどうしても自分の行動に看過できなかったのが、絵梨奈の言葉に沿った一番の理由。


 田所も元大学生ではあるが、気持ちは同じだったようで、無理はしないという事を条件に昨日と今日、ワイルドボアの森を三人で歩いた。


 とはいえ、ワイルドボアの領域は彼らにとっても油断ならない領域なのは間違いは無く、先ほど大きな轟音を遠くで耳にはしたが、それでも慎重にその場へと向かうしか無かった。


「ちょっと!あれ!」

「なんだよここは……」


 果たしてその場には、一人の少年が横たわっていた。

 そしてその頭側の大木は斜めに倒れ、片側の根が大きく浮き上がって居た。


 更には周囲にも激しい戦闘があった形跡も散見された。

 あちこちに転がる無数の空のポーション瓶。

 一体どれだけのものと戦ったらこうなるのか。


 絵梨奈達には到底想像もできないような惨状が、目の前に広がっていた。


「壮絶ってこういう事を言うんだな……」

「司馬君じゃない?!ねえ、司馬君だよあれ!」

「あ!確かに!」


 そう口にするが早いか動くが早いかで、三人は一眞の下へと駆け出した。


 見れば全身傷だらけで血塗れの様相だが、この場では間違いなく不釣り合いな程の光景に三人は息を呑む。


「これって……」

「ああ……」

「し、司馬君!」


 三人が見たものは衣服を剥がされた一眞で、それの意味する所は誰にでもわかるゆえに。


「司馬君!ねえ!しっかり!起きて!起きなさい!」

「本当に何が有ったんだ……」

「絵梨奈、今はまだ意識を戻さないと思う」

「だがこの傷は何とかしないとヤバいぞ」


 間違いなく出血が多すぎなのは誰が見ても分かる。

 ただ、まだ息はあるようだから助かるだろうし、だからこそこのままにしておく気もない。


 とはいえこの場である程度の処置をしないと、間違いなく出血多量になるだろう。そう三人は判断した。


 何をすれば良いのかはわかる。

 ポーションを飲ませればいいだけなのだから。

 だが、じゃあどうやって?

 それを考え、結論に達した三人は躊躇した。


 それぞれがそれぞれの目を見るが、田所と相馬の二人は自分がとは言いだしそうにない。

 絵梨奈は絵梨奈で流石に男子の、しかもそこそこに気に入っている男子に緊急事態とはいえ、事に及ぶなど到底憚られるというもの。


 だが一刻の猶予もなさそうだというのは、絵梨奈にも十分理解出来た。

 ゆえに――


(……ええええい!お姉さんが一肌脱ぐか!)


「あたしがポーションを飲ませるわ。それとも二人の内どっちかが飲ませる?」


 そう絵梨奈は二人に問いかけた。


「う、うん、いや、まあ非常事態だし、がんばって」

「人命救助だからな。絵梨奈に任せる」


 二人は軽く視線を逸らしつつ、その役目を絵梨奈に譲った。

 女性としてさして興味がない絵梨奈とはいえ、内心ではキス自体を羨ましいと思いつつも、どうしても、じゃあ俺がとは二人ともならなかった。

 そもそも絵梨奈に代わってするなど、美味しいところなど一つもない。


 とはいえ絵梨奈も恥ずかしく無いわけでは無いが。

 元々男に興味もないどころか三次元にすら興味がない絵梨奈ゆえに、今まで全く経験が無いのだから。


(まさかこんな風にファーストキスを迎えるなんてね……いえ、これは人命救助。だからノーカンよ!ノーカン!)


 そう絵梨奈は自身に言い聞かせて、ポーションをマジックポーチから取り出した。


「分かった、じゃあ飲ませるわ。……よしっ」


(人命救助人命救助……ノーカンノーカン)


「……ん……んくっ、んくっ」


 そう自分に言い聞かせつつポーションを自らの口に含み、舌を使って無理やり口をこじ開けて、下級治癒ポーションを2本飲ませた。


 だが、一眞の傷は塞がらない。


「え?……傷が塞がらない……どうして?」


 それも当然だ。

 瀕死の重傷の一眞なのだから、下級治癒ポーションを2本飲ませたところで殆ど回復はしない。


 しかもこの場合、一眞は直前まで大量のポーションを飲んでいる為、回復効果が著しく下がっていたのも原因だった。


「もしかして全然足らないとかか?」

「そういえば、飲み過ぎるとポーションの効きが一時的に悪くなるって聞いたぞ」


 周囲に散らばる空のポーション瓶を見た田所が、即座に正解を言い当てた。


「それだね、きっと」

「どうしよう……治癒ポーションってまだある?」


「あ、ああ有るよ、3本しかないけど」

「俺もある、2本」

「私も1本あるから、それを全部飲ませてみるわ」


「そうだね」

「いいから早く飲ませろ」

「わ、分かってるわよ!」


 慣れたもので、二度目ともなれば相馬も田所も、絵梨奈が口移しでポーションを飲ませても、殆ど気にする事は無かった。

 あくまでも人命救助の様相が濃かったからであるが。


 二人にせかされた絵梨奈は、二人にキレつつ再度一眞の唇を凝視する。

 人命救助と言えどもキスをしたことには変わりは無いのだから、意識をすればどうしても顔が火照る。


(の、ノーカンに決まってるじゃない!!)


 誰に対してなのか若干キレ気味ではあるが、絵梨奈はポーションを口に含み、そして勢いよく一眞の口を目掛けて唇を合わせた。


(なんでまた口を閉じてんのよ!入らないじゃない!)


 そう頭で毒つきつつ、再度口を開かそうと先ほども行ったように舌でむりやりこじ開けた。


「んうっ!……んっ……んくっ」


 だが、ここで絵梨奈にとってのトラブルが発生するが、それでも構わず全てを流し込む。


(ノノノノノノノーカン!これもノーカン!!!)


「……ちゅぽんっ……ふぅ……あ!み、みて!傷が塞がって行くわ!」

「おぉお!やった!」

「だが完全には塞がらないっぽいな」


(ふぅ、バレてないバレてない。こんなの見られたらどんだけ酒の肴にされるか)


 そう二重の意味で一安心を絵梨奈はしたのだが——


「……っていうか絵梨奈、なに舌入れてんだよ……こんなときに」


 絵梨奈の行動を見やった田所にジト目で突っ込みを入れられた。

 そして突っ込まれた絵梨奈は途端にあたふたと否定に走る。


「い、入れてない!入れてないったら!何言ってるのよ蓮司れんじは!」

「いや、そう見えたんだが……」


 訝し気に田所はそう返した。


 田所が指摘をしたように、確かに傍から見ればディープなキスをしているとしか見えなかったし、実際にそれに類する状態ではあった。だが実はこれには理由がある。


 人体の構造上、両頬を指で抑えれば口は自然に開くのだが、そんな事を絵梨奈は知らない。なので彼女は閉じた口を強引に自身の舌でこじ開けただけ。その時、単に勢い余って絵梨奈の長めの舌が、一眞の口の中に入っただけだった。


 だが舌を入れたのは事実なので、絵梨奈は怒ったように否定をするしかなかったのだった。


(仕方がないじゃない……勢い余っちゃったんだから。だからこれもノーカン!)


 何度ノーカンを脳内で繰り返したか分からないが、絵梨奈は目を覚まさない一眞を見やりながら、どうにかして全てが無かった事にならないか本気で考えた。

 どうにも無理があるような気がして、ドキドキと鳴り響く心臓の鼓動を感じながら。


「まあ、どっちにしても良かったよ。ほんとうに……」

「そうだな……」

「うん……よかったわ……」


 とはいえかくして、三人の強い責任感によって、一眞は九死に一生を得たのだった。

 


 一旦は収束したかに思えたが、その後も割と大騒ぎだった。


 パンツ一丁という体も問題だったが、それよりも体力はある程度回復したし、傷口は完全には塞がってはいないものの出血は止まった。たが一眞の意識は結局戻らない。相変わらず続く恥ずかしさを誤魔化す為か、絵梨奈がぺちぺちと優しく一眞の頬を叩くが戻らない。


 挙句しびれを切らした彼女が、とうとう開き直ったのか『あたしのファーストキスを受け取っといて何で目が覚めないのよおおおおおお!』と素で喚き散らしながらバシバシ頬を叩き出す始末。すると当然ながら塞がっていた傷のいくつかがまた開きかけ、絵梨奈が盛大に狼狽えた。


 ゆえに相馬が『ちょっと落ち着きなよ』と絵梨奈を羽交い絞めにし、田所が『何やってんだよお前は……』と呆れ顔を見せつつ、自身が転移時に着ていたTシャツとジーンズを着させ、三人の中で一番体格の良い田所が一眞を背負い、絵梨奈は顔を赤くしつつ一眞を睨みつけながら森を抜けた。



「あ、馬車が止まってるわよ!?」

「ほんとだ」


 抜けてみると馬車は何故か待っていた。

 それは何時もこの場所で乗る転移者4人が乗らなかったゆえに、10分だけ待とうと待っていてくれたのだった。


 待ってくれていたのは、一眞と仲が良くなっていた走竜好きなおやじ。

 そして田所に背負われた一眞を見やり、御者のおやじは驚いた顔を見せつつ口を開く。


「ど、どうしたんだ!?魔獣にやられたか!」

「説明は後で、でも待っててくれて助かりました」


 そう相馬はお礼を言い、田所は馬車の長椅子に一眞を寝かせる。

 そうして出発した馬車は、御者のおやじが気に掛けつつ、だがいつもよりも速いスピードで町へと戻って行った。


 移動する最中、今までは転移者だという事であまり接点を持とうとしていなかったこちらの世界の冒険者達も、やはり同業者の不幸だからか一様に心配そうな顔を見せ、暇があれば相馬達に『大丈夫なのか?』と話しかけてくるものも居た。


 そしてこのルート馬車を利用するのは冒険者のみではない。

 こちらの人にとっても料金はそこそこ安いようで、この時も10人程度は冒険者以外も乗っていたのだが、皆一様に一眞を心配そうに見やって居る。転移者のこんな姿を見たのは初めてだと口々に呟きながら。



 そして一眞が目を覚まさないままゆえに、御者のおやじは冒険者ギルドへと直接馬車を乗り付け、直ぐにギルドへ報告が通った。


 当然ながら飛び出してくるエミリア。

 一眞の顔や腕に無数にある裂傷痕を見やり、途端に顔を蒼ざめさせる。


「シバさん!シバさん!!どうして!! 何があったんですか!! ああ……こんなにボロボロで! 何故……どうして……どうしてですか……」


 眠る一眞に縋りつきながら見せた悲壮感溢れるその表情は、誰が見ても二人は只ならぬ関係だと感じたが、それでもそれを口にする者は一人として居なかった。

 初日に一眞に対して苦言を呈した冒険者ですら、その様子を無言のまま眺めていた。


 それ程までのエミリアの取り乱し様だったのだが、後になって彼女は『それはきっと気のせいですよ?』と、不自然な程に何食わぬ顔で口にしたらしい。


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