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第33話 戸惑い

本日6話目です。


「で、何を話してたんだ?」


 話の内容の凄まじさに若干置き去りにされた感満載の内に、ちゃっかり天地も座り会話に加わった。

 柊さんは先ほどから何だか非常に楽しそうだ。


「あ、ああ、狩りはどう?って柊さんに聞かれた時にちょうど天地が来たんだよ」


「なんだ、で?どうだ?昨日ってあそこにいるエミリアさんに指導してもらったって聞いたけど」

「……」


 そう口にしつつ天地はエミリアさんを親指で指し示した。

 情報早いですね。アンテナ張り過ぎじゃないですか?っていうか、やっぱり噂になるんですね。


 今度は森の中で待ち合わせして森の中で解散しよう……。

 ってなんで柊さんは俺を睨んでるんだ?つい数舜前まで楽しそうだったのに。


「ホーンラビットって知ってる?」

「ああ、名前は聞いた事がある」

「じゃあまあ、最初からかいつまんで説明をするわ――」


 そして昨日あったスパルタをかいつまんで……というか割と詳細に説明してしまった。

 そしてやはりというか当然の如く、最後のグリーンフロッグの部分で二人とも肩を震わせる。


「し、司馬君……ぷくくく……」

「司馬……お前……」

「まあ、そんな感じである意味超スパルタだったさ。ハハハ……」


「見てみたかったかも」

「そうだな、あははは」


 何だこいつら。

 俺の不幸がそんなに楽しいか?いや、楽しいわ。何気に俺も結局は楽しかったし。

 とはいえ目尻に涙を溜めつつ笑い続ける二人に、俺はジト目を向ける。


「君達ちょっと笑い過ぎ」


「だって……あはは」


「だがやはりその剣のおかげか?」


 視線を俺のグラディウスに移しながら天地は聞いて来た。


「ああ、この剣が無けりゃ、もしかしたら引きこもりになってたかも」


「ちょっと見せてもらっても?」


 何気に天地の家は剣術道場を開いている。

 そのせいか刃物の良しあしが割と分かるらしい。


「ああ、いいよ」


 そう言いながら腰紐を解きグラディウスを天地に渡す。

 受け取った天地は鞘から引き抜かず、まずはじっと見つめた。


「そ、相当凄い剣だぞこれ」


 そう口にしつつスラっと鞘から引き抜いて刀身を更にじっと見つめた。

 俺にはそれで何がわかるんだ?と思うけれど。


「クルンミーって蝶のようなモンスターが居るのは知ってるか?」


「あ、ああ……北西の森にも居る。確かファブリとかいうモンスターの成体だよな?ファブリ自体はいないけど」


 なるほど、成体になったら北西の森へ移動するのか。

 どうりで南西の森では飛んでいるクルンミーを見かけない訳だ。

 ”テレポート”なんていう珍しい瞬間移動魔法を使用するって聞いたから、それで移動してるんだろう。っていうことは俺って凄いタイミングだったんだな。


「最初に倒させられたね」


「え?柊さんも?」


 ふと思った。

 支援特化の柊さんがどうやって?

 見た感じ持ってる武器はアークワンドだし。まさかその杖で殴るわけではないだろう。STRもそこまで高くはなかったし。


「うん、あ、わたしは支援特化だけど、聖魔法にも攻撃魔法はあるよ? もちろん属性が合わないから四元素魔法程の威力じゃ全然ないけどね」


 聞けば、どうやら彼女は転移初日の午後だけで魔法の基礎を学べたらしい。午後だけというかぶっちゃけほんの数舜。


 魔法を使うには魔術回路を繋がなければならない。……なんて魔法が使えない俺にとってはさっぱり意味がわからない話なのだけれど、兎に角そういうもので、これが結構難しいと聞いた。


 その魔術回路を繋ぐには、指導を受けても平均10日はかかるそうだけれど、ある方法を執れば一瞬で回路を繋げられる。……らしい。それを柊さんは行ってもらったと言う。


「教えちゃ駄目だって言われたから言えないけど、その魔法で普通に攻撃して倒してたの」


「とは言っても伊織くらいにINTが高かったら、普通にやっても直ぐに覚えられたらしいけどな。因みに俺も魔法は使える。水と土と火と風だが」


「ふぇ!?四元素全部かよ!」


 凄いなおい!

 サラっと言われた言葉に思いっきり目を見開いた。

 確か天地はINTも高かった筈だから、魔法を使えばこのトレゼア周辺ならどこに行っても優位に戦闘を進められるという事。


「とは言っても大河は今のところ魔法を殆ど使ってないけどね」


「やっぱり物理の方が体に染みついている分楽なんだよ」


 まあ、そうなんだろうな。

 勿体ない話だけど、天地はそうなんだろうな。


「あー、何となくわかるよ。今までの環境もそんな感じだろ」


「そうか?……そうだな」


 元世界での自分の行動を思い出しているんだろうか。

 剣道で全国優勝してしまうくらいだし、剣術の心得も当然ある筈だし。


「俺はステータスがあんなのだったから、使えるものは何だって使うつもりだけどね。INTも漸く少し増えたし、今度エミリアさんに魔法の基礎を教わるけど――」


「え?」


 俺の何気ない言葉で、何故か柊さんの顔が引き攣った。


「ん?どうした?」


「ううん、何でもないよ、それで?」


 何でもないとは言いつつも、顔は引き攣ったままだ。

 気にはなるけど俺は話を続ける。


「ああ、まあ、増えたって言っても俺のINTはほんと低いから、苦労するだろうなってさ。10日で覚えられりゃいいなって感じ」


 その言葉で柊さんは少し安堵の表情を浮かべた。

 一体なんだろうか?


「そっか……あれから殆どINTは上がってない?」

「あ、うん、そうだなぁ。まだ魔法を使えないし、上がる訳ないよ。レベルアップの時にオマケで上がるくらい」


 柊さんの表情が今度は目に見えて曇った。

 天地は左程でもないようで、俺が渡した武器に興味津々のようだけれど。

 未だに嘗め回すように見ている。


 まあ、正確にはINTが全く上がっていないわけではないんだけど、二人からしてみれば同じようなもんだろ。


「それで、この武器でって事か」

「あ、そうそう、初日に間違えてそのクルンミーをぶっ叩いてしまってさ」

「本当か?それで?」

「ああ、まあ、その武器のおかげで何とかなったって話だよ」


 俺の話を聞き、天地が若干驚いている。


「クルンミーは俺も叩いたが、それなりに硬かったな。綺麗に切ったつもりなんだが貰った汎用の武器が少し刃こぼれしたし。……なのにこの武器は刃こぼれどころか傷一つないって……もしかして昨日か今日に研いだとかか?」


「いや?買ってから一度も研いでもらってないよ」

「それでこれか……」


 どうやら天地の目にもグラディウスの具体的な凄さが分かったらしい。

 俺の腕と天地の腕は比べるべくもない程に技術的な差がある。


 けれどその差を埋めるどころか優位にすらなるグラディウス。その凄さは天地くらいだと容易に想像がつくのだろう。


 っていうかあの岩みたいな硬さのクルンミーを汎用武器で切って、それなりとか涼しい顔を見せつつ言う君はやっぱり大概だな。俺なんて二度と切りたくないのに。


「そのおかげで未だに死なずに生きて居られるんだから、本当に感謝だよ」

「どこで買ったんだ?」


 まあ、言っても良いかな。元々有名な人らしいし。

 エミリアさんにはあまり言わない方が良いって言われたけれど、少なくとも目の前の二人は俺に害をなすようには見えないし。だけど一応声を少し小さくして言うか。


 体を天地に寄せれば、天地も釣られるように俺に身を寄せて来た。

 なんだか柊さんが目を細めて睨んでいるような気がするのは気のせいだろう。


「んと、ガニエさんってドワーフの鍛冶師は知ってるか?、武器や道具とかを売っている区画の結構端っこの方に店があるんだけど」


 天地が目を見開く。


「知っているさ。俺ももう少しこの世界に慣れたらその人の店に武器を買いに行けって、俺らを指導してくれてる先輩に言われてる。でも凄く高いし、オーダーメイドなんて絶対に造ってくれないと聞いているな」


 もう充分慣れているんじゃないか?

 というか、俺今度作って貰うんだけどなんて絶対に言えないな。


「それ別にオーダーメイドじゃなくって、倉庫から引っ張り出して来た武器だったぞ」


「それでこれか……」


 本当の事のようで、実は少し意味合いは違うんだけど。

 確かガニエさんは、レベル1から持てる武器の中では最高のものだと言っていたし。


「因みにこれで幾らだった?」


 本当の事は言わない方がいいのだろうか?少しは濁すか。

 何となくそんな気がした。


「俺の貧弱なステータスに合ったのがたまたま在庫にあったから、エミリアさんの紹介プラス処分価格で大銀貨5枚だった」


「じゃあ本当はいくらくらいなんだろうか?」


「んー……金貨1枚は欲しいって言ってたなあ」


 その言葉に天地は納得をした表情を見せた。


「ふむ……まだ少し安いような気もするけど、何となくそうだろうなとも思った。俺も漸くこっちの武器に関して価値と価格の擦り合わせが出来てきたし」


 すげえなおい……流石天地だ。

 俺なんて未だにグラディウスの価値すら測りかねているのに。


 勿論凄いものだとは思うし実際に使って居て思うけど、それが他と比べてどうなん?と聞かれたところで答えられる知識も眼も口も無い。



 それからも天地は俺のグラディウスを色んな角度から眺め、もう少し俺には長い方がいいなとか、日本刀みたいなのは作ってくれないかな?とかお金はいくらあるからどれくらいまでなら買えるなとか、真剣な表情をみせながらぶつぶつと呟いていた。


 俺は天地の所持金を聞いてびっくりしたけど。もうそんなに稼いだのか!と。



「じゃあ、話を聞く限り司馬君も何とか狩りを出来てるんだね?」


 柊さんはどうやら本気で俺の事を心配してくれているようだ。


「たぶんお前ら程じゃ全然ないけど、何とか出来てるさ」


「俺らは毎日エミリアさんクラスの人がつきっきりで面倒を見てくれてるし、そこまでの危険はないな」


「羨ましい話だ。でもまあ、あの初期ステータスなら当然の権利だと俺も思うよ」


「そうか……実はさ……」


 スパスパ淀みなく言葉を綴るタイプの天地が急に言い淀む。


「ん?どうした?」


「いや、司馬が俺らの事をどう思って居るのか、凄く気になってた」


「ん?なんで?」


「こっちに殆ど無理やり連れてこられたのは俺も司馬も全く同じなのに、何で俺らだけなんだって、何でこの世界は司馬だけに厳しいんだってな」

「うん……凄く思ってた……」


 そう口にした天地と柊さんは眉根を寄せ、ある種怒りにも似た表情を見せた。


「ああ、まあ、そうだよな。俺も思ったよ、何で俺だけ?って」


 他にも俺と同じようなステータスの人がいるならまだ諦めもついたのに、実際は違っていて俺だけだったし。しかも加護すら無かったし。


 その時の事を思い出し、今の現状を思い浮かべて少し笑いながら、


「でもまあ、今では何とかやれているし、気にしてくれてありがとうな」


 二人の表情を見て、それが本心からの言葉だと思えたゆえに出たお礼だった。

 素直に嬉しかった。ありがとうな。本当に。


「ううん……」

「同級生だしな、それくらいの気は遣うさ」


 すると、少し遠慮がちにだけど、ちゃんと俺の目を見ながら、


「あの、もしよかったらだけど、今度一緒に狩りに行かない?」


 そう言ってきた彼女を見やりながら、どう返事を返すか考える。

 確かに柊さんと狩りに行きたい。行けばきっと凄く楽しいし幸せなんだろうし、行く!と喉の先まで出かかっているのは確かだけれど……


 でも、今はまだ早い。


「んまあ、そうだなあ、二人に恥ずかしくないくらいになったらな」


 一生かかっても無理なような気がするけど、それでも可能性はゼロじゃな……ければいいなあ。

 頑張るとそう宣言したのに途端に弱気になって来た。


「そんなの気にしなくてもいいのに……」

「司馬にも矜持があるんだよ。それくらいわかってやれ」


 柊さんは本当に優しい人だな。

 俺とか放置でも構わないのに、同級生だからってこうやって心配してくれるとか。


 天地もそうだ。ちゃんと話をしてみると、こいつがモテるのが分かるような気がする。


 そして俺は、こうやって同級生と会話をするだけで、心が躍る自分自身に戸惑ってしまっていた。

 だって元の世界ではこんな経験なんて一度も無かったから。


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