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第30話 疾走スキル

本日3話目です。

 その後、最悪な思いをしつつやっとのことで3匹ほどのグリーンフロッグを討伐し終え、そろそろ時間も遅くなったところで街道まで戻る事に。


 その道中、エミリアさんが口を開く。

 どうやらここでしか話が出来ない内容のようだ。


「シバさんのステータスは幾つか50を超えていますので、近いうちにこっそりと戦闘職業を申請した方がいいですね」


「あ、そうですね」


 戦闘職業とは。


 ゲームによくある個別のスキルを覚えられるような戦闘職業ではなく、自分はこの戦闘職業をしていますという、単に冒険者ギルドへの申告的なものらしい。


 それによってギルドが職業限定で討伐依頼を出した物に応募する事もできれば、パーティーメンバーの募集にも役立てる事が出来るという。どんな職業が足らないから募集します!みたいに掲示板へ張り出せる。


 ただ、その申告をするには、どれかのステータスが50を超えて居なければ行えない。

 俺はSTRとDEXが余裕で超え、AGIとVITがなんとか超えているという状況なので、申告できる職業は剣士ソードマン闘士ファイターかシーフ、ああ、あと弓師アーチャーくらいだ。


 となると弓を手にしたことすらないので弓師は除外として、闘士はVITの少なさからまずあり得ないし、シーフか剣士という戦闘職業を申告する事になる。


 とはいってもシーフはアサシン系の加護がなければ話にならないと聞いたので、消去法でやっぱり剣士だろうか。


「剣士ですかね」

剣士ソードマンが現実的でしょうね」


「わかりました」


 因みに、こっそりととエミリアさんが言ったのは、ステータスからレベルが結構分かってしまうので、今の俺には都合が悪いから。つい数日前にLv5でALL10だったいつ死ぬか分からないような冒険者が、いきなり職業登録とか不自然極まりないと。


 俺の事を考えてくれているのだから、非常にありがたい。


「あと、そうですね、そう言えばAGIが50を超えているんですよね?」

「あ、はい、さっきのレベルアップで超えました」


「でしたらスキル欄に《スプリント》が表示されて居ませんか?」


「え?ちょっとまってください」


 そう口にしつつ慌ててステータス画面の2ページ目を開く。

 すると確かに《疾走スプリント》が表示されていた。


「あった……」


「やりましたね!おめでとうございます」

「おおおおおお!ありがとうございます!」


 エミリアさんが小さく手を叩きながら祝福をしてくれた。

 凄く嬉しい。


「魔力を消費して通常よりも早く走れるようになりますから、とても便利ですよ」

「おおお!やった!」


「ふふふ。あとはそうですね、そろそろDEXが75を超えるのではないですか?」

「えっと、あと1ですね」


「ほ、本当にもうすぐでしたね。でしたら次のレベルで《サーチ》という索敵スキルを覚えられますね」


「ああそう言えばそんな事も」


 エミリアさんに指摘されて、初心者講習で聞いた話を思い出す。


 この世界にはゲームで言う所のスキルというものが存在する。

 種類は、ステータスさえ上がれば誰でも覚えられる汎用スキルと、ステータス以外にも条件が必要になる特殊スキルに分けられるらしい。

 

 敵の注意を自身に惹きつけるヘイトスキルもあれば、人やモンスターに自身の存在を隠遁する為のスキルも有る。因みに”探査サーチ”も”疾走スプリント”も汎用スキルだ。


 なので臨時、継続問わずパーティーメンバーの募集とかでは、これらのスキル持ちも条件に入る事があるそうだ。

 そして勿論スキルも魔法と同じようなものなので魔力を消費する。


「他にも二つ以上のステータスが関係する汎用スキルもありますし」


「ふむふむ」


「ですが汎用スキルはステータス依存ですし、スキル毎に必要ステータス値は異なりますから、これからはレベルアップ毎にチェックをするようにしてください。あと、分からないスキルがありましたら聞いてみてくださいね」


 エミリアさんはその戦闘職柄、ほぼ満遍なくステータスが上がるのできっと殆どの汎用スキルを使用可能なのだろう。そういう意味でも非常に有能な人だ。


「わかりました。そうします」


 今までは、スキルの事なんて考える必要もないくらいしょっぱいステータスだったので気にしもしなかったけれど、だんだんと見られるステータスになって来たのは確かだ。


 足も少し早くなり、あと少しで索敵出来るようになると思うと、嬉しくて仕方がなくなって来る。


「ちょっと使って見よ――スプリント!……うお!早い!なんだこれ!」


 調子に乗って思わず”疾走スプリント”を使ってしまった。

 初級スキルなので2割しか上がらないようだけど、体感的にはもっとあるように感じる。


「すっげえええええ!めっちゃ嬉しいかも!」

「ふふふ」


 エミリアさんの周りをぐるぐると回りながら、風を切るような感覚に思わず叫びまくる。


「少ないとはいえ魔力を消費してしまうので、魔力管理はちゃんとしてくださいね?ふふふ」


 喜ぶ俺に苦言を呈するけれど、そんな彼女も何故か自分の事の様に嬉しそうな表情を見せてくれている。



「面白かった。凄いですね」

「ですね。ふふふ」


 あまりに子供っぽかったからか、エミリアさんはずっと笑っている。

 それを見て俺は少し恥ずかしくなるけれど、やはり嬉しいものは嬉しい。


 勿論他の転移者は既に持って居るだろうけれど、これで少しは追い付けたと思うと、なんだかそれだけでも嬉しい。

 人は人、自分は自分だけど、やはりステータスやスキル関係は気になるものだし。


 そんな俺のまだまだなステータスはと言えば。


【カズマ=シバ】

【ヒューム 17歳 Lv18】

ATK=93+60 MATK=24

STR=93 INT=24

AGI=59 DEX=74

VIT=56

DEF=56+99 MDEF=24


 うん、まあ、こんなもんだろ。

 VITとINTを何とかしなければ。それが今後の課題だ。





 その後、帰りに2羽のホーンラビットに遭遇したのだけれど、ここでついにエミリアさんの実力の片鱗を拝めた。


 ワイルドボアの牙を、ああもあっさりと切り取った時点で何となく分かったけど、なんというか……そりゃもう凄いとしか言いようもなかった。


 兎が逃げ出す暇もなく、というか気付く暇もなく、目にもとまらぬ速さで2羽を瞬殺しなさった。いや、本当に瞬間移動をしたようにしか見えず、気付いたら兎の首と胴体が切り離れていた。どうやら手刀でナイフのように切り裂いたらしい。


 切って血が噴き出すまでにタイムラグがあるなんて初めて知ったよ。

 例えるなら、切られた事に細胞がまるで気付いていないかのような。


「ふぅ……どうですか?」


 こころなしかドヤっていらっしゃる。

 まるでジョジ〇立ちをしそうな勢いだ。


「えと……今のってどれくらい本気でした?」


「そうですね……20%くらい?でしょうか。あまり本気を出すと、ホーンラビットくらいだと手刀でも衝撃波で爆ぜてしまうので」


「……」


 やっぱりエミリアさんは怒らせないようにしよう。

 そう再度誓った。




 そんな衝撃的な出来事があり、やがてルート馬車に乗るべく街道まで戻って来た。

 オルバスを昼の1時に出発した便が、目の前を通り過ぎるのは夕方の5時過ぎだ。


 今はもう5時少し前なので、朝別れた冒険者達も戻って来ている。いつもの3人組もちゃんといた。森への入り口はここだけではないのに、何故か俺も相馬さん達も初日と同じ場所に帰って来る不思議。


「お疲れさまでした」


「やあお疲れ」

「お疲れさん」

「お疲れー。なんだかこういうのも良いわよね。一緒に狩りをしている訳じゃないけど、何となく親近感が湧く?みたいな」


 俺が前に思った感想を、那智なちさんが口にした。

 少し微笑んだ笑顔はなかなかに美人だ。


「そうですね、俺もそう思います」

「今日はどうだったんだ?」


 3人のうちの一人、田所さんという元大学生の人が、エミリアさんをチラリと一瞥しつつ聞いて来た。


 彼女がギルドの受付嬢をしている事は、冒険者なら大体知っている。

 こちらに来て5日目だとしても、それは変わらないくらいにエミリアさんは人気がある。しかも凄腕の冒険者だという事も。

 だから聞いて来たのだろうけれど。


「やっぱり指導付きですから楽に狩れました」

「いいわね……あたしの担当官は冒険者じゃないもの……」

「俺のもだな」


 その言葉にエミリアさんは少し申し訳なさそうに、


「トレゼアの冒険者ギルドの受付は殆どが受付先任ですから」

「俺は運が良かったらしいです」


「そっか、うん、そうだな」

「うん、そうよね」


 この人達は当然俺の初期ステータスと初期レベルを知っている。

 だからか少し遠回しに、遠慮がちに小さく頷くだけだった。

 ステータスが恵まれなかったんだから、君にもそれくらいあっても良いよなと。


 何となくそんな風に思えて、少しだけ嬉しかった。



 そうこうしていると、ルート馬車が到着した。

 狩り初日に話をしたおじさんが元気よく声を張り上げる。

 毎日会うわけではないけど、何故かこのおじさんは印象に残る。


「やー待たせたなー!」


「あ、来ましたね。では乗りましょう」


 エミリアさんにそう促されて、待っていた人全員が乗り込む。

 俺と彼女は一番最後だ。


 けれど……ふと気付く。

 初日に出会った女の子で、それからの二日間は帰りしか会わなかった娘が、今日は行きも帰りも馬車に乗って居ない。


 お休みだったのか?

 昨日凄く疲れ切っていた風だったから、もしかしたら今日は休みにしたのかもしれない。


 きっとそうだろう。

 俺はそれくらいにしか考えなかった。



 そう思い意識を外し、帰りもエミリアさんから狩りのレクチャーを受けつつ戻って居ると、あと15分程で町の外郭に到着するというところで、馬車が速度をあからさまに緩めた。


 何だろう?と思ってみたけど、生憎と今日は馬車の一番後ろにエミリアさんと乗っている為か、前の方で何が起こっているのかは分からない。何気にこの馬車は30人くらいは余裕で乗れる程に大きいから。


「どうしたんですかね?」

「さあ……このような所で魔獣も盗賊もないと思いますけれど」


 そう二人で話していると、御者のおじさんが誰かに声をかけているようだ。


「あんた、よく乗ってくれてた娘だよな? 乗るか?」


 どうやら普段から利用している人が居たらしい。

 このルート馬車はフリー馬車なので、街道沿いならどこでも止まる。

 だから気を利かせて声を掛けたのだろう。

 っていうか相変わらず、おじさんは声がでかいな。

 

 前方で何か話し声が聞こえるけれど、話し相手の声は聞き取れない。


「そうか、まあ歩いてもあと30分程度だしな、この時間なら大丈夫だろう」


 そう声が聞こえた後、直ぐに馬車は出発した。

 結局乗らなかったのか。

 いつもどこから乗る人なのかは知らないけど、この距離ならばもう眼下には外郭も見えているし大丈夫だろう。歩いている人は後ろにも何人かいるし。


 そう思いながらどんな人なのだろうか?と馬車の後ろへ眼を向けた。

 そして、その人を通り過ぎた時、向こうも俺と目が合った。


――あっ!


 先ほど気になった女の子。

 今日も酷く疲れた表情を見せていた。


 彼女は俺と目が合い、認識した途端に俯いた。

 どうしたんだろうか?


 気になって、遠く離れて行く女の子の方を見やって居ると、エミリアさんも気付いたようで、少し怪訝な表情を見せながら口を開く。


「どうされました?」


「ああ、いえ、あの子、俺が森に行き始めてからずっと同じようにソロで森に入っている子なんですけど、ちょっと気になって」


 俺の言葉を聞き、エミリアさんも後ろを振り向く。


「……恰好を見るに魔術師さんですね」

「まだ4回しか見てないんですけどね。初日は行き帰り乗ってたんですけど、昨日一昨日は帰りしか乗ってなくて、それで今日は……」


「なるほど、気になりますね。4日程度だとどうとも言えないかもですけど、それ以前から南へ行かれて居て徐々に節約をしているような……そんな感じでしょうか」


 そういう機微には敏感なのだろう。

 流石冒険者ギルド員でゴールドランク冒険者。 


「そうかもですね」


 視線を女の子から離す事が出来ない。

 そんな俺を見てエミリアさんは、


「気になります?」


「そうですね。最初はソロだなってのから気になって、それから毎日疲れ切った表情で馬車乗り場まで戻って来ていたので、それで気になって、今日があれですからね」


「なるほど。では気になるのでしたら、声をおかけになれば良いじゃないですか」


 ハッとしてエミリアさんを見やる。

 なんだか嬉しそうだ。

 いや、ちょっと違うか。嬉しそうでもあり、それでいて悪い顔も若干見えるような……。


「……何か考えてます?」

「いいえ?何も」


 そう言いつつ、師匠はスッと視線を逸らした。

 絶対なんかあるでしょ。


「本当に?」


「はい、そもそもギルド員としましては、ソロは推奨致しかねます。特に初心者さんともなれば尚更です。ソロは危機察知も一人分しかありませんし」


「そりゃまあ……」


 当たり前の事を言われたけど、確かにその通りだ。

 言葉以上に重い気がする。


「シバさんにこうやってお付き合いさせてもらっているのも、シバさんがソロだからという理由もあるくらいですから」


「ええ、凄くよく分かります」


 パーティーを経験すると、ソロの厳しさが余計に身に沁みる。

 まあ、今日のエミリアさんとの狩りがパーティー狩りかと言われたら微妙過ぎるけれど、それでも一人で森を歩くのと二人で歩くのとでは、安心感という意味で全く違っていたのは確かだった。


「次あった時、声をかけてみようかな……」


「それが良いと思いますし、そうして頂けると嬉しいです」


 エミリアさんは本当に嬉しそうな表情を俺に見せてくれた。


 この人は、まるで世話好きの姉みたいだな。俺に姉は居ないけれど、もしも姉がいればこんな感じなのだろうかと思える。


 師匠であり、姉であり、それから頼りになるギルド員さんだ。


 ただ、そうは言っても、ヘタレな俺に本当に声が掛けられるのか。

 それが一番の問題だった。


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