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第27話 レベル96

本日3話目です。

 その後、森を彷徨い歩き、2匹のホーンラビットと3匹のアルマデロを倒したところで昼飯にする事に。


 俺は当然《小鳩亭》の女将さんが作ってくれたおにぎり3個を今日も持って来ている。


 エミリアさんは自身で作ったらしい、やたらと凝ったサンドイッチをバスケットに入れて持って来ていた。


 ちなみに3匹狩ったアルマデロは、やっぱりまんまアルマジロだった。

 何で名前が似ているのか不思議だったけれど、そのアルマデロ、やたらと硬くて思わず初日に倒したクルンミーを思い出して嫌な汗が噴き出た。


 しかも近寄るだけでボールのように丸まってしまい、硬い部分しか無くなるのだから始末に負えなかった。


 奴の攻撃方法は丸まって転がって体当たりの繰り返しで、移動速度も攻撃力もホーンラビット程では無かったけれど、なんせ硬いものだから1戦あたりの時間がやたらと長くなってしまい、非常に効率の悪い魔獣だったという印象。


 属性の合う魔法職用の魔獣という話に妙に納得をした。

 けれど一撃確殺出来ない魔術師は、決して手を出してはいけないという話もそれ以上に納得をした。


 肉は美味しく背中の外皮は盾や防具の材料になるので実入りは良いらしいけど、今の俺ではちょっと辛いなと。つくづく低STRが恨めしい。



「美味しそうですね」


「手作りですよ?ふふふ」


 そう言いながら美味しそうに口に運んでいる。


「午後は少し予定を変更してエスカルゴに行かず、ここから少し南へ向かって行き、グリーンフロッグの生域地帯へ行ってみましょう」


 モグモグと食べながら午後の予定を決める。

 美味しそうにサンドイッチを行儀よく食べる姿は、とてもドッカンバッカンと殴りつけるような格闘士になど全く見えない。


 まあ、まだエミリアさんが戦う姿を見ていないからだけど。


 それもそのはずで、こんな場所に居るような魔獣など、彼女からすれば欠伸が出る程に実力差がある。

 そんな彼女のレベルは、聞いて驚くなかれ96。


 きゅーじゅーろくぅ!!


 ステータスなんて、STRだけを聞いたのだけれど、なんと481らしい。

 実に俺の8倍だった。

 しかも彼女はレア戦闘職である魔闘士。

 その実力は俺に理解が出来るはずもなかったし、想像すらできなかった。


ゴールドランクの人は殆どが80台から90台ですね。シルバーランクの人が60~70台でスチールですと40~50台でしょうか。青銅ブロンズで20~30台、ですからカッパーを卒業する人は凡そ10台の最後の辺りだと思います」


 それを聞いて思った。いろいろ思った。

 そしてそれを見越したようにまたもや教えてくれる。


「今まで2回、モアモア鳥の依頼を完了して頂いていますし、これからもギルドに売って頂けるとそのまま討伐数として実績になります。まずはそうやってギルドへの実績作りをした方が良いと思いますし、そうすればレベル20になる頃には青銅ブロンズランクになれると思いますよ」


 どうするか。

 今の手持ちは今日狩った魔獣を除いてモアモア鳥5羽。

 今日モアモア鳥を狩るならいいけど、どうもモアモア鳥が生息している場所とは全く方向が違う。


 となれば……うん、ここは俺も協力すべきだろう。


「3羽くらいで良いですかね?もっといるかな……」


 そもそも何人いるのか分からないしな。

 そう思いながら考え込んでいたのだけれど、エミリアさんにはさっぱり意味がわからなかったようで。


「何がですか?」

「いえ、今朝あった獣人の子に今持ってるモアモア鳥をあげたいなって」


 今朝の子供がスラムに住んで居るのだと教えて貰った時からずっと考えていた。

 俺にも何か出来る事はあるんじゃないだろうかと。

 だからそうエミリアさんに提案してみた。


「……」


 返事が返ってこないのでエミリアさんを見ると、少し唖然とした表情をみせていた。

 不味い事でも口走ってしまったのだろうか?


「どうしました?」


「い、いえ、そうですね……モアモア鳥は大きいですし、3羽でも十分だと思います。それに、そもそも気持ちですし、あの子達は量で何か思うような子達ではないですから、きっと喜んでもらえると思います」


「そうですか……」


「……お優しいですね、シバさんって」


 その言葉にもう一度顔を向けてみると、エミリアさんはこの上なく優しい表情を俺に向けてくれていた。


 俺が?やさしい?


「そう、です?」

「はい」


 いやいや、優しいのはエミリアさんの方でしょ。

 それでも俺が優しいと言うのならば……。


「仮にもしもそうだとしたら、それはエミリアさんやガニエさん達の影響です」


 視線を外し、ウォーターを使ってコップに入れた水を見つめながらそう呟く。


「私達の?」


「はい。どん底だった俺に手を差し伸べてくれたんですから。それまでの俺は、無気力で、冷たくて、誰かが目の前で倒れてても、誰か助けてやれよってくらいにしか思わないような人間でしたから」


 実際にそういう場面が無かったわけじゃない。

 いや、過去に一度そういう場面で助けた事はあったけれど、裏切られて以来どうやっても心が動かなくなった。自分が助けたいから助けたんだと納得をしたはずなのに。


「そうですか……」


「どん底の自分が救われて漸く気付くような人間です。だからそこまで優しくはないし、もしも優しいって言ってくれるのなら、やっぱりそれは俺を助けてくれたエミリアさん達のおかげです。まあ、あの獣人の子達に何かってのは、それだけではないんですけどね」


 そういう意味で言えば、義両親は孤児だった俺を助けてくれた人になるのだろうけれど、小さなころだったし、園長先生が優しかったしで、自分がどん底だとは認識していなかった部分は往々にして有る。


 そしてそれ以外、今まで俺を助けてくれた人なんて居なかった。

 だけどこちらに来てからは違った。


「そう言って頂ければ、嬉しいです……」


 少し恥ずかしそうに俯き加減でそう口にしたエミリアさんは、何となく居心地が悪そうだ。

 そしてその雰囲気を吹き飛ばそうとしたのか、別の話題を振る。


「あ、先ほど倒した3羽のホーンラビットと3匹のアルマデロですけど、それも売ってしまえば。報酬はアルマデロが銀貨3枚で、ホーンラビット1羽辺り銀貨7枚です。ホーンラビットは、お肉以外も毛皮と角に需要がありますからちょっと高く引き取って居ますし」


 全部で30万か。って!


「いや!今日の成果は全部エミリアさんが持って行ってもらわないと!」


 じゃないと絶対にダメだ。

 そしてその魔獣の一部でもあの子達に渡してくれれば。

 そんな思いで伝えたのだけど、エミリアさんは頓珍漢な事を言う。


「どうしてです?倒したのはシバさんですよ?」


 コノヒトナニヲイッテイルノダロウ?

 どう考えても正論は俺にある。だから、こうだ。


「俺、逆に指導料を払った方が良いと思ってるのに……いくらです?」


「何をおっしゃってるんですか?」


 ソレハオレノセリフデスヨ。


 思わず魂が抜けそうになった。

 そして失礼ながら思ってしまった。この人って天然なのか?と。

 でも俺は負けない。


「いや、そのままです。だってそうでしょ?ゴールドランクの指導ですよ?どれだけ助かってるか」


 間違いなく俺一人ではホーンラビットは倒せない。


 治癒ポーションとかを使用すれば何とか倒せるだろうが、そもそもそんな勇気すら現時点で持てなかったのは間違いない。

 倒そうと思えたのはエミリアさんが居て、指導してくれたからに他ならないのだから。


「むぅ……いりませんよ……」


「いやいやいや……それこそおかしいでしょ」


「いりません」


 何この不毛な言い合い。


「じゃあこうしましょう、今日の成果は全部エミリアさんが持って行ってください。少ないかもですけど、それを報酬ということで」


 よし、なんとか最初の狙い通りには話を進められそうだ。

 とはいえ、実際こんな報酬ではきっとゴールドランクの指導など受けられやしないだろう。


 先ほどのステータスを思い出し、何となく想像したが、東の森で軽く狩りをした方が遥かに実入りは良い筈だし、そもそも俺を指導する必要なんてミジンコ程も無いんだから。


「むぅー……」


 まだ唸ってるし。

 口を尖らせて拗ねる姿は、この上なく可愛らしくもあるけれど。


「では、今日の成果はガニエおじ様とヘルミーナさんリュミさん姉妹、それからラピスちゃん達に1羽ずつ渡しましょう。それからアルマデロはラピスちゃんたちに全て。それなら良いです」


 ふむ。

 当初の予定通りと言えば予定通りだけど、はぐらかしたつもりが何だかはぐらかされた気もする。

 でもまあ、いいか……ってえ!!!?


「えっと……ラピスちゃんって?」


 まさかとは思いつつ聞いてみる。


「ラピスちゃんはラピスちゃんですけど?」


 そりゃそうだろうなあ。

 じゃなくって。


「もしかして……あの獣人の?」


「はい?……はい、そうですけど?」


 嘘だろ……。


「ラピスって男につける名前だったり?」

「いいえ?……あ!」


 エミリアさんは俺の質問の意味を理解してしまったようだ。

 少しジト目で俺を見やっている。


「俺、あの獣人の子供って男の子だと思ってた……」

「それ、本人の前では決して言わないで下さいね?」

「はい、言いません……」


 言えるわけが無いですよ。

 でも良かった。偶然とはいえ先に知ることが出来て。

 というか、それなら”おいら”という一人称はやめて頂きたい。

 そんな風に思っていると、エミリアさんは再度聞いてくる。


「それで、その案でいいですか?」

「あ、はい、エミリアさんがいいならそれで」


「ありがとうございます」


 いや、だからね?

 有難うは俺の台詞だって。


 そう呟きながら残りのおにぎりを頬張った。



 食事を終え、俺が持っていた魔獣を渡し、話もまとまった所で移動を開始する。

 次なる目的地は、グリーンフロッグの生息域だ。


 時刻は既に昼の1時を回っている。

 だから大量に狩る事は出来ないだろうとの事。

 エミリアさんが言う大量が、一体どのあたりにあるのかは知らないけれど。


「そう言えばレベル100以上の冒険者のランクはどうなってるんです?」


 歩きながら聞いてみた。


「そうですね、それこそ範囲は広いと思います。一概にレベルでは青白銀ミスリル白金プラチナを分けられませんし。ただ、どちらにしても全員がレベル100は超えていらっしゃいます」

 

「エミリアさんももうすぐですね」


「いえ……そう容易くはないんです」


 聞いて良いものかどうか迷うくらいに、エミリアさんの表情が曇った。


「シバさんは”ヘル”というものをご存知ですか?――」


 そしてその理由を聞いて納得をする。

 レベルアップの中にはヘルというレベル帯が存在する事を知る。


――ヘル。


 聞き覚えの無いものだけど、要するに、節目のレベルになる直前のレベルで起こる現象らしく、そのレベル中はいくらモンスターを倒しても、一向にレベルが上がらないと思える程に経験値が必要らしい。


 その必要経験値は頭がおかしいレベル。


 高レベルになれば、ただでさえレベルが上がりづらくなる。

 なのにその直前のレベルの凡そ10倍もの経験値が必要になり、殆どの冒険者はそのレベルを突破できずに引退をするほどにキツい。


 レベルが上がらなければ、より経験値が美味しい狩場に行く事もできず、直前のレベルで狩っていた狩場で延々と狩りを続けることになる。それこそ何年もかけて。


 だからヘル。地獄とはよく言ったものだ。


 そのレベル帯はと言えば、レベル49時とレベル99時とレベル149時とレベル199時。

 それ以上のヘルは統計を取り出したここ300年の間で、未だ到達した人が居ないので分からないらしい。


 それを聞き、やっぱり他人のレベルを簡単に知る方法があるの?と思ったけれど、そうではなく基本的にレベルは非公開なのだが、例外もあるらしく、年に1度、有力な軍人や白金プラチナ青白銀ミスリルランク冒険者などを各主要都市に集めて、かたっぱしからレベルを強制的に調べるらしい。


 そして帝国が年に一度発表するランキングにおいて、トップ100までの人は氏名とレベルを公表しているそうだ。

 因みにその100位以内に、転移者は半数近く入っているんだとか。


 こちらのエリート冒険者が数十年間かけて稼ぐ経験値を、たったの数年で稼ぎだす転移者とは一体。

 とはいえ聞いた時、公表するって有名税か?とも思ったけれど、そうとも言えないらしく。


 まあ、高ランク者の余計なトラブルを、未然に防ぐ為なのだとか。

 実際に強いかどうか分からないからちょっかいを掛けられる。

 けれど、明らかに強いと分かるレベル提示をなされていれば、ちょっかいをかける輩も減るという理屈。


 とはいえ一番の理由は、転移者に限らず白金プラチナランクや青白銀ミスリルランクの冒険者なんて、一騎当千どころの強さではないのだから、それこそ帝国で把握しておかなければ国の高官たちが枕を高くして寝られないのだろうと、集計をする理由はそこだろうとエミリアさんは考察していた。



「雲の上のような場所ですね」


 話を聞いてみてその言葉しか思い浮かばなかった。


「レベル49の時は確かにヘルだなーって思いましたけれど、レベル99の時はそれはもう地獄だと聞きますね」


「ハハハ……」

「今から憂鬱です……」


 なで肩っぽいエミリアさんの肩が更に目に見えて下がった。


 レベル49か……出来れば楽に通り過ぎたい物だ。

 無理だろうけど。



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