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第23話 ヘタレ男子

本日2話目です


 転移をしてから4日目、冒険者デビューをして3日目の夕方。

 デビューをした日からの三日間は同じ日々の繰り返しだった。

 とはいえ狩るモンスターはファブリからモアモア鳥に変わっただけだけど。


 もっと奥まで歩を進めれば違うモンスターも居るらしいけど、生憎とエミリアさんから絶対禁止令がデビュー初日に発令されてしまった。


 理由は簡単で、初日のイレギュラーと言うべきか、モアモア鳥はまだしもクルンミーを狩った事を、採集依頼完了の報告時に思わずポロっと口にしてしまったからに他ならない。


 その時のエミリアさんの表情はまるで信号機かと思える程に、青くなり、それから顔を真っ赤にして激怒してしまった。思わず背後に般若が見えた気がした。


 そんなに怒らなくてもいいのにとも思うけれど、それだけ心配をしてくれているのだから嬉しくもあるし、逆に申し訳なく思えてくる。


『いいですか?絶対に奥まで進んでは駄目です!それから狩る魔獣はモアモア鳥だけにしてください!絶対にクルンミーなんてものに色気を出さないで!良いですね!?あとグリーンフロッグもまだ駄目です』


 美人な顔を歪め、鬼のような顔で迫りながらそう言われては、こくこくと頷かない訳にはいかなかった。


 なのでモアモア鳥しか狩ってはダメ宣言を、この二日間素直に聞いていた。


 というのも明日はエミリアさんが休日という事もあり、直接指導をしてくれるなどというボーナスステージが待っていたから。だから素直に引き下がった。決してエミリアさんが恐ろしかったからだけではない。


 因みにその時から今日まで、俺に加護が生まれた事は言い出せなかった。

 周りに人が多くて伝えるタイミングを逃したというだけなんだけれど。



「ふぅー……だいぶ上手くいくようになったかも」


 たった今しがた狩ったモアモア鳥をマジックポーチに仕舞いながら呟く。


 モアモア鳥狩りは大分様になって来た。


 エミリアさん曰く、モアモア鳥の単体狩りにはどうやらコツがあるようで、例えば一番自分に近い場所に居るモアモア鳥に向けて石を投げる。すると石がぶち当たったモアモア鳥だけがまず反応をする。そして『ホゲエエエエ!!』と叫びながら追いかけてくるけれど、この叫びで回りのモアモア鳥がリンクする。


 当然石を投げたら即逃げる。これ鉄則。


 ただこの鳥は、一定距離を追い掛けて攻撃者を捕まえる事が出来なかったら、あっさりと諦めて元の場所付近にゆっくりと戻ろうとする習性がある。


 そこで、戻って行くモアモア鳥の集団と、最初に石を当てたモアモア鳥との距離が10m以上開いて居れば剣で攻撃する。開いて居なければ石を再度投げる。


 それを繰り返せばいいだけらしい。

 非常に邪道で外道でセコイ気がするけれど、これが結構おもしろいように嵌る。


 叫んでリンクするまで数秒のタイムラグがあるようで、その間、石をブチ当てたモアモア鳥はひたすら俺を追い掛けているのだから、10mくらいは必ず間隔が開く。


 時間は少々かかるが、まさしく入れ食い状態である。

 これなら初日に教えて欲しかった。

 まあ、初日にいきなりモアモア鳥を狩るなんて夢にも思わなかったらしいし、俺も思わなかった。


 とはいえ天地とかになれば、モアモア鳥は自身が切られた事すら分からない内に絶命させられるらしいから、こんな狩り方をするのは俺くらいのもんだろう。というかかっこ悪い事この上ない。

 決して柊さんには見られたくない狩り方だ。


 後、ついでに言えば弓使いも楽勝だな。

 殺して逃げてを繰り返せばいいだけだ。

 いや、モアモア鳥を一射で倒せる人は、こんな非効率でかっこ悪い狩りなんてそもそもしないだろうけれど。



「おかげで石投げが得意になってしまった気がする。もしかして石投げってスキルを貰えてないかな?……ないわな」


 そう一人でぶつぶつ呟きつつもモアモア鳥狩りを続ける。

 一昨日の1羽から計算すると、延べ18羽も狩った事になる。



 しかも、今日だけで10羽だからマジックポーチもパンパンだ。

 そして稼ぎも凄い事に。


 昨日迄のモアモア鳥は、既に依頼分と、あと、宿屋の女将さんに残りを全て売ったから、今日のを冒険者ギルドに依頼2回分として新たに売れば、単純に合計で大銀貨9枚、90万ゴルドにもなる。ほゞたったの二日でだ。


 これぞ正にハイリスクハイリターン。


 そしてベースレベルは13。もうモアモア鳥ではレベルが上がりにくくなって来た。


 いや、モアモア鳥のレベルは、産まれたばかりのヒナは別にして8から11くらいらしいから、まだ十分上がるのだろうけど、何となく物足りない気がする。


 とはいえ。


 それにしても、やっぱりレベルアップ早くないか?

 まだ3日だぞ?

 レベル5から8こもレベルが上がるって、ありか?


 休憩がてら、大木の根っこに腰かけついでに、ステータス画面を眺めながら首を捻る。


【カズマ=シバ】

【ヒューム 17歳 Lv13】

ATK=58+60 MATK=19

STR=58 INT=19

AGI=34 DEX=45

VIT=26

DEF=26+99 MDEF=19


 他の転移者がどれくらいのペースでレベルが上がっているのか分からないばかりか、そもそもレベルが最初から違うのだから比べようがないのだけれど、それでも早い気がする。何となくだけど。


「やっぱり最初のレベルが低いからってのは有るだろうな。その上ソロリストだし、あとグラディウスのおかげも随分あるとは思うけど」


 ソロだと当然経験値は一人占めに出来る。

 勿論パーティーだとより強い魔獣を狙えるし、数も沢山狩れる。

 けれど、強い魔獣ともなればそれだけ危険は増えるだろうし。


 まあ、一番はガニエさんの剣の威力だろうな。

 これが有る影響は相当高いと思う。


 なにせ俺のへっぽこな攻撃力が、ガニエさんの武器を装備する事によって転移者が転移した時の平均値程度にまで底上げできているのだから。


「あとは、このへんてこな加護か?」


 ”原初の胎動”なんていう意味の全く分からない加護。

 これがいつ発生したのか。

 初日の寝る前に気付いたのだけれど、もしかしたら最初のファブリを狩った時に発生したんじゃないかと。


 加護を発見した時は頭が混乱して、幾ら考えても考えは纏らなかったけど、こうやって数日たって考えてみると、それくらいしか考えられないし、何よりおかしな話だなと。


 聞いた所によると、加護は先天的なものであるという。

 発生しなかった人は死ぬまで発生しない。後天的に発生するなんてこの世界の摂理に反している。


 でも、現時点で見ても俺に加護が付与されているのは間違いない。


「どういうことだろか?」


 もしかして俺ってことわりから外れた存在?

 なんてちょっと期待をしてしまいそうになるけれど、それが良い方なら良いけど、そうじゃない単なるイレギュラーの可能性もあるわけで。


 ただ、この加護のおかげでレベルの上りが早いなら、その説明はつく。


「どっちにしても、早くエミリアさんに相談だな」


 ステータスを開いたままそう呟き、それと同時に、何となくやって行けそうな、そんな気持ちを抱きながら3日目の狩りを終え、町へ戻る為に街道まで戻って行った。




 街道まで戻って見ると、少し早かったからかまだ誰も戻って来ては居ないようだ。


「なんとなーくここ3日同じ人ばかりに会うから、親近感というか、少しずつ仲良くなれているような?」


 朝、同じ馬車に乗った人達は無事だろうかと思いながら、胡坐をかいて草むらに腰かける。


 実際に、一緒に転移した人も8人くらいはこの森で狩りをしているのは分かって居る。

 その中で会話をする人は3人しかいないけど、それでも転移初日を思えば格段に過ごしやすい。


「エミリアさんには足を向けて寝られないな」


 エミリアさんと言えば、明日一緒に狩りをしてくれる。

 一緒にというか、現地指導をしてくれる。

 と同時にふと思いつく。


 ゴールドランクとは一体どれほど強いのか。

 何気にそちらの方も凄く楽しみだ。

 そんな風に思って居たら、ふと気づいた。


「もしかして、一応明日ってデートになるのか?」


 そう思えば途端に緊張する。

 1日早ええよと何処かからか突っ込みが飛んで来そうだけど、女子とデートなんて義妹くらいしかしたことないのだから、考えただけでもテンパる。

 とは言っても明日に起こるだろう出来事に、色気もなんにもないけど。


「エミリアさんにそういう感情はそもそも無いだろうし、無いって言っていたし、明日はみっちりと指導をしてもらえればそれで良いや」


 俺の方にそういう感情がないかと問われたら、無いわけがない。

 多感な17歳に修行僧のような生活など不可能でしかないし。


 まあ、それでも初デートだと思うのだけは自由だ。

 俺なんてそれくらいで十分さ。

 またそんな自虐的な事を思って居ると、狩りを終えた人がどんどんと戻って来る。


 疲れ切って戻ってくる人、少し笑顔を見せる人、上手くいかなくて落ち込んでいる人と様々だ。

 俺は鳥ばっかり狩りすぎて、ちょっとだけ飽きている人か?

 しかも邪道だと言われかねないような狩り方をしているし。


 まあいいや。

 どんな狩り方でもレベルを上げられればそれでOKって事で。


「お疲れ様、司馬君」


 そうこうしていると相馬さんという、仲良くなった三人組のリーダーらしき人が話しかけて来た。


「お疲れ様です」


 すると今度は疲れ切った表情のお姉さんが口を開く。


「今日は結構大変だったわ……モアモア鳥をリンクさせちゃって」

「あら……」


 俺は毎回リンクさせていますとは言えない。


「7匹だったから何とか助かったけど、回復剤の消費が凄い事になったよ」


 凄いな、7匹をガチで相手出来るのか。

 苦笑いを見せながらそう教えてくれた相馬さんを見ると、確かに皮製の鎧には無数の傷が見て取れた。


 俺はまだダメージを食らった事が無いので分からないけれど、魔法防具が発動する障壁があっても、限度を超えると防具は痛むし、肉体も一定のダメージを受けてしまうのは、どうやら本当のようだ。


 まあ、だからこそタンクは盾とかを持っているんだし、ビキニアーマーを着た露出狂タンクなんていないんだろうけど。いや、見た事が無いだけだけど。


「でも大分慣れたよな」

「ええ、随分慣れたわ」

「それは良かったですね」


 そう思いながら、戻って来つつ声をかけてくれる人に対して応えていると、ふとそう言えばと思う人を見つけた。


 行きでは一緒じゃなかったけど、もしかして早く出かけたのか?


 その人は、初日に一人で森に入って行った女の子。


 見たところ今日もソロだったようだけれど、いつにも増して酷く疲れているように見えた。


 ……ほんと大丈夫か?

 ポーションが足りないなら少しくらいなら分けられるんだけど。

 

 自分もそこまで余裕があるわけでは無いけれど、転移初日にああいった悲劇にあって、そこから大勢の人に救われた経験からか、困っている人は極力助けようと決めている。


 前の俺はそんな事を思うような人間では無く、むしろ冷たい部類の人間だと自負していたのだけれど、やはり人は人との出会いによって変わるもんだなと、ここ数日で実感した。


 なので、目の前の今にもぶったおれそうな女の子が非常に気になる。


 が。


 んが。


 む……無理。


 知らない女の子に話しかけるなんて出来ようはずもない。

 知ってる女の子でもハードルが高すぎるのに。


 助けたいと思ったところで結局はヘタレでしかない俺なのだから、何とか目の前でぶっ倒れてくれるとか……。

 それなら動けそうな気もしなくも……。


 そんな不謹慎な事を思って居たら馬車が来た。





 帰りの馬車の中でも、何となくソロの魔法使いだろう女の子が気になる。

 いや、けっして馬車の揺れだけでゆさゆさと揺れまくる胸が気になったわけでは無く、やつれた表情が非常に気になる。

 今も俺の斜め向かい側に腰かけて、少し俯いたまま眉間に皺を寄せている。


 うーん……。


 やっぱり気になるな。


 女の子だからか清浄クリーンの魔法はちゃんとこまめにかけているらしく汚れなどはないけれど、見ればローブはところどころほつれを起こしているし、ロッドも傷だらけだ。


 杖で殴って魔物を倒すわけではないのだから、杖の修理は左程必要は無いってヘルミーナさんは言って居たけれど、それにしても……。


 タイミングが合えば話しかけてみるか。

 あくまでもタイミングが合えばの話だけれど。


 そう思って居たら、やはりそれはフラグだったらしく、彼女とバッチリと目が合った。

 とはいえチラチラと見ていたのだから、目が合う確率は非常に高いわけで。


 よし、話しかけるぞ!


 よし、行け!俺!


 あ、目を逸らされた。


 ダメだ俺。



 まあ、そりゃそうだ。

 話をしたことも無いのに、いきなりお互いじっと見つめ合うとかどんな恋愛小説かと。


 つまりはタイミングは合ったのだけど、俺がヘタレてフラグを折ってしまったというオチ。


 俺はやっぱり俺だった。





 へこたれたまま町へ戻り、何時もの様に冒険者ギルドに寄ってみると、今日は冒険者が少なかった。

 こういう日も有るんだなと思いつつカウンターへ向かうと、奥に引っ込んでいたらしいエミリアさんが、ひょこっとタイミングよく依頼書か何かの束を持って出て来た。


……お、周りに誰も居ないし、今だったらいいんじゃないか?

 

 色々相談に乗って貰っている都合上、こういう事は早めに伝えた方が良い。

 そう思いつつ今日も上手く狩れましたと報告し、最後に極力小声で加護が湧いたんですけどと言ってみた。

 

「え?」


 上手く聞き取れなかったのか、エミリアさんの表情が固まる。


「も、もう一度お願いします」


「加護が生まれたみたいです」


「……」


「えと、加護――」

「えええええええええええええええええええええええ!?」


 聞き取れなかったのかな?と思い、もう一度伝えようとした瞬間に、エミリアさんは驚愕の表情を浮かべて、大きな絶叫を上げて、持って居た紙をぶちまけた。


 当然そうなれば冒険者ギルドのホール全体の人が何だ何だと此方を向き、皆の注目を一身に浴びるわけで。


「ちょ、エミリアどうしたの!?」


 同僚がびっくりして聞くが、そんな問いなど全く耳に入っていないかのように、目を皿のように見開いて俺を凝視したままだ。


 俺も焦って周囲を見渡せば、やはりというか視線が痛い。

 冒険者は少ないけど、またおまえかといった視線ばかりを浴びて、どうにも居た堪れなくなる。


「あの、エミリアさん?」

「エ、エミリア?」


「……ぁ、ご、ごめんなさい、何でもありません」


 しっかり数分間固まったエミリアさんだけど、どことなく唇が震えているような気もしなくもない。

 何でもないとか無理があり過ぎる。


 やはりそれだけの事なんだろうか?

 明日二人の時に伝えれば良かったかも――などと後悔してみても遅い。


「く、詳しくはあああ明日聞きますから!」


 そして表情筋が固まったままのエミリアさんも、そう口にするだけで精一杯のようだった。 


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