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第22話 生まれた。

本日1話目です

「結構あるもんだな」


 治癒ポーションの材料となる薬草を引っこ抜きながら呟く。

 エミリアさんが言ったように、雨が多かったから入り口付近にも結構薬草は生えている。


 あれから俺は、生活魔法の【地図マップ】を開きつつ、森の奥になるべく行かないように気を付けながら先へ進み、薬草を見つけたら飛びつくようにして近寄り、引っこ抜き、既に20株を超えた薬草を手に入れていた。


 その間に遭遇できたファブリたんは20匹を超え、あと少しで30匹。

 後どれだけ倒せばレベルがあがるんだろうか?


 そう思えば、どれくらい経験値が溜まっているのかが分からないのは結構疲れる。分かれば後少しだとか後何匹だとか考えられてテンションが上がるのに。


 などと思いつつ森を更に歩けば、何となく魔物の気配を感じ取る。


「なんかいる……」


 ずっと一人のところへ大きな生命体が近寄れば、野性的な勘という物が働くのだろうか?

 何となく近くに何かが居ると感じ、歩速を緩め、周囲を警戒する。


「あっちか?」


 感覚通りなら恐らく右手に何かいる。

 そう思いつつ身を屈めながらゆっくりと進むと――


「モアモア鳥……か?」


 急いでマジックポーチから依頼書を出して絵と見比べてみると、思った通りダチョウよりも一回り大きな体躯と、フラミンゴのように綺麗なピンク色の羽毛を纏ったモアモア鳥で間違いなかった。


「どうするよ……」


 いまだベースレベルは5のまま。

 エミリアさんにはレベル7になってからと言われている。

 ガニエさんの言葉も思い出す。グラディウスを使ってギリギリだと。


 目の前には結構な数のモアモア鳥が、のんびりと小さな虫を探して土を掘り返していたりする。


「レベル差2か……」


 しばしどうするか考える。

 リンクすれば間違いなく俺は死ねる。

 足も結構速いらしいし、逃げてくださいと言われたけれど逃げられるもんなんだろうか?


 自慢にならないが俺は元々足が速くない。

 特別遅くもないけど、こちらの世界にきてなんだか更に遅くなったような気もしなくもないし。


「うーん……どうするか。確かリンク範囲って10mって言ってたな」


 思い出してモアモア鳥の集団で、はぐれた個体を探す。

 やるかやらないかはそれから決めよう。

 はぐれた個体がいなきゃどのみち無理なんだし。


 そう決めて待つ事20分くらい。


 1羽が徐に何かを見つけたようで、テテテテッと歩き出して群れから離れた。

 どうやら地面を這う虫を見つけたらしい。


 チャンスか!?


 そう思った時には既にグラディウスを引き抜いていた。


 仲間までの距離は20m以上ある。

 リンク情報が正しければ絶対に大丈夫だ。


 そう思いながらゆっくりと近づく。

 見つかったとしても襲われる心配はない。それでもゆっくりと近づく。


 ファブリを初めて狩った時よりも息が荒くなる。

 呼吸がだんだんと深くなり、フーッフーッと息を吐く。


 これ以上ない程に緊張をしているのが自分でもよく分かる。

 言いつけを守らなくてごめんなさい。

 エミリアさんへの謝罪と共に、グラディウスを上段に構え、タイミングを見計らい――


「りゃッ!」


 小さく掛け声を上げながら一足飛びにモアモア鳥へと飛び込み、一撃で終わらせる為に首を両断するつもりでグラディウスを思いっきり横に薙いだ!


「ホゲエエエエ!!」


 モアモア鳥の叫びと同時に手ごたえは有った。

 ファブリを狩った時とは違い、肉に食い込み骨を切る感覚とはこういうものなのかと分かる程の。


 気付けばダチョウよりも一回り大きなモアモア鳥は横たわり、首と胴体が辛うじて繋がっている状態で息絶えていた。


「ふーっ!ふーっ!……り、リンクは!?」


 そして直ぐにリンクをしてはいないだろうかと周囲を確認する。

 

 大丈夫だ。

 でも変な鳴き声だったな。


「良かった……っていうかまじ寿命が縮まるなこれ……」


 どくどくと早鐘を打つ心臓を胸当ての上から抑えつつ、力が抜けるようにストンと腰を降ろして一息ついた。

 座ったまま、今しがた倒したばかりのモアモア鳥を見やる。


 翼を見て、この鳥はやっぱり飛べない鳥だと分る。

 色は別にして形はダチョウにそっくりではあるけれど、くちばしは異様に尖り、それを利用して地中にいる虫とかも餌にしているのだろう。


「下手をしたら串刺しか……」


 思わずリンクした時の事を想像しゾッとする。

 そして切り口を確認し、グラディウスの刃も確認をする。


「流石ガニエさん謹製だな。刃こぼれなんて全くないや」


 少しモアモア鳥の油がついてしまって居るけれど、それは清浄クリーンで直ぐに取り除ける。


 モアモア鳥の切り口も綺麗で、首の皮一枚残ったのは、単にグラディウスが短すぎて刃が届かなかっただけか、俺の踏み込みが足りなかっただけのようだ。


「叫ばないようにしたいなら、どうすりゃいいんだろ……声帯より上を切る?」


 切りつけた場所は地上から大体2mの高さ。

 とはいえ声帯はそこよりも更に上の方にあるのだから、結構無理があるような気もする。


「うーん、無理だな」


 そうして一通り観察し終わり、ようやく落ち着いたところで、座ったまま左手でマジックポーチを押さえ、右手でモアモア鳥に手を当てて、【挿入インサート】と口にしてモアモア鳥をマジックポーチへと放り込む。

 すると、目の前にあった巨体が忽然と消えてなくなる……はず。


「き、消えてくれた……ふぅ」


 どうやらマジックポーチの重量制限以内だったようだ。

 どうみても500kgは無いだろう事は分かってはいてもドキドキする。

 マジックポーチに物を入れるだけでこんなにドキドキするなんて。


「しっかし、何度見ても面白いな」


 どういう原理なのか非常に興味が湧くけど、きっと俺には理解できないだろう。

 とはいえこれでモアモア鳥は何時までも新鮮なまま。

 あとは持って帰って売れば、買った人が勝手に解体してくれる。


「これをえっと、5羽だっけかな」


 そう口にしつつ依頼書を出してみる。

 そして依頼書をマジックポーチに再度入れ、今度はステータス画面を開いてみる。

 流石にもうレベルアップしただろうと思いつつ。


 すると――


【カズマ=シバ】

【ヒューム 17歳 Lv7】

ATK=22+60 MATK=12

STR=22 INT=12

AGI=16 DEX=18

VIT=14

DEF=14+99 MDEF=12


「うは……レベル7になってるし」


 2つも上がったなんて、どれだけ経験値が入ったやら。

 もしかしたらもう少しでレベル6になる寸前だったのかもしれないけれど、少なくともモアモア鳥1匹でファブリ50匹分くらいの経験値は余裕で入った事になる。


「凄いな……っていうかステータスは……お?」


 レベルに気をとられてステータスの数値をみていなかったれど、確認をしてみれば、思ったよりも増えているような気がした。


「オール10だったのに、STRが22?ってことは1レベルで6か」


 その他はINTが2、AGIが6、VITが4、DEXが4あがっていた。

 INTの上りが少ないのは、このレベルアップの間で魔法を一切使っていないからだろう。

 同じようにVITの上りが少ないのは……。


「ダメージを受けて居ないからか?」


 ダメージを受ける姿を想像して顔が歪む。


「まあ、タンク役のVITが多いのは当然だろうから、そういう事なんだろうけど、嫌だなあ」


 ゲームでおなじみのHPバーは存在しないので、ワザとダメージを食らう気持ちにはならない。

 VITかける10の数値が大体の体力数値なんじゃないか?などと先人転移者達の検証結果は出ているらしいけど、それを鵜呑みになんて出来やしない。


 なので必要だとは思いつつも、VITを任意で上げるのは当分後にしようと心に誓った。





 一仕事を終えれば当然腹がすく。そういえば昼飯を食って居ないなと思いつつ、モアモア鳥がたむろしている場所付近で宿屋の女将さんが作ってくれたおにぎりを食する事に。


「うめえ……梅だけにうめえです…………」


 口に出してしまい思わず赤面する。

 誰に見られている訳でもない、見ているのはモアモア鳥くらいだろうに、それでも恥ずかしかった。


「コップがいるなあ……今日戻ったらコップを買おう」


 生活魔法のウォーターで、水は問題なく指の少し先から湧き出てくるのだけれど、それを器用に口に入れるのには少しコツがいる。


 色んなポーズで試してみたり、指を真上に掲げれば噴水のようにならないかとも思ったけれど、さほど勢いが良くない。だからといって指をちゅーちゅーするのも何となく恥ずかしい。なのでコップが必要だと思ったわけだ。


「生活魔法にもINTが関係するって言ってたしなあ」


 ある程度のINT値があれば、それ以上は組み込まれた魔法式によって威力を自動で抑えるらしいけど、INTが少なければどうしようもない。足らないんだから。


「せめてINT20くらいは欲しい感じかな」


 指先からちょぼちょぼと流れ落ちる水を、水道の蛇口から出ているように飲みながら、そんな事を考えていた。



「さてっと」


 腹も満たし、もう一度はぐれモアモア鳥でも狩ろうかと一瞬考えもしたけれど、もう既に時間は午後2時近かった。なので今日はもうここで戻ろうと決め、午後5時過ぎの馬車に乗る為に森を引き返すことに。


 生活魔法の”マップ”と”コンパス”を使用しつつ来た森を戻る。



「お、ファブリたん発見~」


 すっかりファブリが危険生物ではないと自信をつけた俺は、ファブリたん覚悟ぉ~と口ずさみながら、スキップをするかのように近寄る。


 そして10匹程の集団をサクサクっと狩っていき、あと3匹という所で少し変な個体が。


「動かないけど、死んでるのか?」


 何となく皮膚が変色して硬くなっているような気もしなくもない。だけど、よくあるサナギの形もしていない。


 サナギになる直前なのか?


 が、動かないならこれ幸いにと急いで近寄る。

 けれどそれがいけなかった。


「せーの、どっせえええいううええ?!」


 掛け声と同時にグラディウスを振り下ろそうとしたその時、ファブリの背中がバリッと割れたかと思いきや、次の瞬間、中から変な虫がいきなり飛び出して来た。


「ちょっ!ぅおい!」


 そう声を出してもふり始めたグラディウスは止まらない。


 もっと筋力があれば止められたのだろうけど、ファブリの汁が付着するのが嫌で、めいいっぱい振りかぶってしまったグラディウスを止める事は叶わず、結局、ファブリから飛び出て来た何かにグラディウスがぶち当たった。


――ガキンッ!


 硬い石でも切ったかのような鈍い音が響く。

 それと同時に腕が痺れる。


 そうとう硬い物を切ってしまった感触に顔を顰めるが、次の瞬間にとっさにヤバいと感じる。


 おい、これって……。


「う、うわあああああああああ!」


 ややややっちまった!


 エミリアさんに教えられた情報を思い出す。『クルンミーは絶対に相手にしてはダメです!モアモア鳥より格段に危険ですから!最低でもレベル15の個体しか居ませんからね!』と言われていたことを。


「やばいやばいやばい!」


 瞬間的にぶわっと背中から嫌な汗が噴き出し、結果など何も見ずにその場から脱兎の如く逃げ出した。


……


 どれくらい走っただろうか?

 数百メートルくらいは走った頃に、後ろから何も追い掛けてこない事に気付き、走りながら振り返ってみる。


「こ、こない??」


 追いかけてきていない事に気付き、歩を緩める。

 そして次の瞬間に体の力が抜け、本日二度目の腰砕け状態でペタリと地面に座り込んでしまった。


「ぶぅはぁぁーーーーーーっ……こ、こええ……すっげえこええ。ダメージ全く受けていないのにめちゃくちゃこえええ!つーかサナギ状態ってあの動かない状態だったのか……」


 どれだけチキンなのかと思うけれど、それは仕方がないところだと自分に言い聞かせる。

 それと共に、元の世界の常識などあてに成らないと思い知らされる。


「み、皆こんな怖い思いをしてるんだろうか?」


 そう思うけれど即座に違うなと。

 このステータスだから余計に怖いんだと。


 そう思いつつステータス画面を開いてみれば――


「あ!?あえ?」


 レベルが10まで上がっていた。





 腰を引きつつ恐る恐る現場に戻ってみる。

 偶然事件を起こしてしまって逃げた奴とか、もしかしてこんな気分なんだろうか?


 レベルが上がっているのだから既に死んでいる事は分かっているのだけれど、それでも腰が異様にひける。


 現場近くに戻り、木の陰から先ほどクルンミーをぶっ叩いた場所を見やる。


「そ~っと……お!?」


 そこには動かなくなったクルンミーが地面に転がっていた。


 姿形は名前の通り口吻こうふんがやたらとでかいチョウチョだなと。相変わらず”ミー”の部分が分からないけれど。


「信じて無かったわけじゃないけど、運よく即死させられたって事か……」


 見れば一番弱い部分だったのだろう。頭の部分と胴体部分の丁度継ぎ目にグラディウスが当たったらしかった。

 それをみてまたもやゾッとする。


 もしも他の部分だったならと。

 羽の部分なら、もしかしたら同じような結果だったかもしれないけど、即死じゃなければ近接状態でどんな攻撃をしてくるのかすら知らないのだから、そう考えれば恐ろしくて仕方がない。


「も、もうファブリはやめよう……どうせもうレベル10だし」


 人とは違い、魔獣や魔物にはレベルというものは存在しない。だからこそ討伐推奨レベルという指針があるのだが、その推奨レベルと自身のレベル差が開けば開く程、数を狩ってもレベルは上がりにくくなる。


 それはモンスターから入る経験値が減るわけではなく、次のレベルに必要な経験値がグンと上がるからだとか。


 なのでレベル5の時にファブリを30匹近く狩ってもレベルが上がらなかった事を思えば、恐らくは数百匹狩っても次のレベルには成らないのではないかと。


「生き延びたな、お前ら」


 2匹残って、うもうもと相変わらず新芽を食んでいるファブリを放置し、軽そうだったからあまり気にすることも無く、倒したクルンミーをマジックポーチに放り込んでさっさとその場を後にした。


 


「それにしても怖かった」


 その後は帰りの道すがらも薬草を拾いつつ、ファブリの群は放置しつつ街道へ戻って行った。


 途中、歩きながらステータスを見ればSTRは+18、INTは+3、AGIは+9、VITは+6、DEXは18も上がっていた。急所を偶然ついたからだろうか?


【カズマ=シバ】

【ヒューム 17歳 Lv10】

ATK=40+60 MATK=15

STR=40 INT=15

AGI=25 DEX=36

VIT=20

DEF=20+99 MDEF=15


 入れられる総重量は1360kgか。


「随分増えたなぁ。ステータスも、入れられる総重量も」


 このままのペースでステータスが増えるのか、それとも途中で上りが悪くなるのかは分からないけれど、このままレベル20までは割と早くレベルは上がるらしいので、そうなれば少しは楽に狩りが出来るかもしれないなと。


 とはいえ、こんなにレベルが早く上がるものなのだろうか?

 いやまあ、とてもその時のステータスでは本来は倒さないモアモア鳥とクルンミーを倒したからという事もあるだろうけれど、それでも何となく上りが早いような。


「もしかしたら転移者特有なのか?……んなわきゃないか」


 自分には何の恩恵も無い事を思い出す。


 いずれにしてもガニエさん謹製のグラディウス様様だなと。

 石を叩いたかのような衝撃を受けても、刃こぼれ一つしていなかった愛刀グラディウスを摩りながら街道へ出れば、馬車を待っているパーティーがちらほら居る事に気付く。


 その中には午前中に挨拶したパーティーも居た。

 そして一人で入って行ったと思われる魔法使いの女の子もいた。どうやらその女の子は転移者ではなく、こちらの世界の人らしい。


 何故そう思ったのかと言えば、マジシャンハットから覗く髪が薄ピンク色だったし、顔の造りがハーフっぽかったから。


「やあ、無事もどってこられたみたいだね」


 リーダーらしき人からそう声をかけられ近寄って見れば、疲労感満載の表情が見て取れた。

 とはいえ俺も恐らくは似たような感じで見えるのだろうけれど。

 なんていうか、10歳くらい年をとったような感じ。


「何とか生きてます。凄く恐怖を感じましたけど」


「そっか……僕らもちょっと危なかったけど、殆ど怪我もしなかったし、初日にしては音の字かな」


「ですね」


 そう言いつつお互いの無事を称え合った。


 こういうのも、なんだか良いな。



 そんな風に思いながら、まだ日が沈んでいない街道で目を細めつつ帰りの馬車を待ったのだった。




 その日の晩。

 昨日と同じように、女将さんが作る美味しい料理を食し、獣人の女の子達にお湯を運んで貰って体を綺麗に拭いた後、さあ寝るかなとなってベッドに横になって、何気なくステータスを開く。


 上から順に、今日一日だけでかなり上がったなぁなどと思いながら流して見て、あまり見たくない加護や魔法やスキル、装備などがわかる第2ページを溜息交じりに開いたら、何やら見慣れないものが追加されていた。


【原初の胎動】

【火属性適性】【土属性適性】【生活魔法ALL】【言語変換魔法】


「……あれ?……え?え?え?」



 そう、いつの間にか俺にも加護が生まれていたのだった。


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