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第15話 再び森の妖精

本日3話目です。

「ただいまー……あら?お客さん?ってエミリアじゃない」


 姉と同じく薄緑色の髪をサイドテールに纏めた、少し活発そうに見えるエルフの女性はエミリアさんを見つけるや否や、パタパタと近寄って来た。

 しかし傍に俺がいる事に気付いた途端に足を止める。


「えっと、転移者さん?」

「あ、はい、今日来ました一眞=司馬です」


「ふぅん……」


 俺を見て、いみじくも姉と同じような反応を示した。

 ……かと思いきや、姉以上に興味がわいたかのように耳をピコピコ動かしながら、俺をつま先から舐めるように見上げた。


「リュミ、ちょっと失礼よ?」


 余りにあからさまに見やっていたのを、お姉さんのヘルミーナさんが窘めたけれど……。


「あ、ごめーん」


 ペロっと舌を出し、申し訳なさそうな表情を見せつつ謝ったけれど、大して本気で悪いとは思っていないかのような。

 それでも不快に思わないのは、やはり超絶美人だからだろうか?だとすればやはり美人は特だ。


「わたしはリュミールよ。んで?この人って――」

「違いますから!ええ違いますよ!」


 テンプレになりつつある質問を皆まで聞かず、遮る形でエミリアさんは否定をした。

 随分対応に慣れたようだ。

 質問を遮られたリュミールさんは、少し唇を尖らせているけれど。


「まだ何も言って居ないし……」

「質問の内容は想像がつきます」

「あら、お姉ちゃんも聞いたの?」

「ヘルミーナさんどころかガニエおじ様や、ミランダおば様まで全員です」

「やっぱり?」

「どうしてですか? そんなに私が男性を連れてくるのは珍しいですか?」


 少し憤慨した様子でそうエミリアさんは口にするけれど。

 リュミールさんはきょとんとしつつ、


「え?いや、だってエミリア初めてじゃない?ここ数年間どころかずっと。お店に限らず、男の子と歩いている姿を誰も見た事ないって噂よ?」


「うぐ……そ、そうですね……」


 リュミールさんの指摘で苦虫を嚙み潰したような表情を見せたエミリアさんは、それ以上何も言えなくなったらしい。


 どうやら冒険者同士の協定は、驚く程強固のようだ。

 こんなに美人で愛想もよくて性格もいいのに……良すぎるのも問題なんだな。


 そう言えば柊さんも良すぎて近寄りがたい雰囲気があったし、性別は違うけど、天地も似たようなもんだった気がする。女っ気がありそうで無いみたいな。

 とは言っても天地の場合は、柊さんが居るからってのも有ったが。


「それで?そんなエミリアはこの彼に装備をプレゼント? やっるぅ~」

「ち、違います!装備を揃えるお手伝いをしているだけです!……もう!」


 このぉこのぉっと口にしつつ、軽く肘でエミリアさんを小突いた。

 しゃべり方が軽快だなこの人。

 親しみやすいとも言えるかもしれないけれど。


 とはいえエミリアさんは度重なる攻撃で、少々うんざりしているようだ。

 小さく溜息を吐きながら、俺に向けてさっさと揃えて帰りましょうと小声で言ってきた。

 仕方がない、俺の方からもフォローを入れて置くか。


「あの、エミリアさんはステータスが低すぎる俺を気にかけてくれて、それで装備を揃える手伝いをしてくれているだけです」


「あら……そうなの? でもステータスが低いってシバさんは転移者さんなのよね?」


 何となくこのくだりも慣れた気がする。

 エミリアさんの知り合いだからという事が大きいけれど。


「はい。でも、なんていうか、史上最低のステータスを貰った転移者らしいです。っていうかこっちのヒュームより低いとか」


「冒険者の?それとも一般の?」

「一般の同年代のヒュームよりもです。それに加護も貰えなかったですし」


「ふぅん……」

「あらららら……」


 姉妹で少し違う反応を示した。

 姉のヘルミーナさんはやはり意味深な表情を見せ、リュミールさんは不味い事聞いちゃった的な表情で。


「でもその割には悲観に暮れてはいないみたいね?」


「さっきガニエさんにド叱られましたし、何時までも悩むのもかっこ悪いかなって」


 頭を掻きながら恥ずかしそうにそう言えば、


「そう、ふふふふ。何だか私も気にいっちゃったわ」


 そう超絶美女のヘルミーナさんが、少し目を細めながら口にした。

 その視線にドキリとする。

 すると何を勘違いしたのか、エミリアさんがボソッと口を開く。


「ヘルミーナさん76歳ですよ?シバさんよりかなり年上ですよ?」

「へ?」


 ああ、やっぱりエルフは長寿なのか。そう言えば土方さんが言っていたな。

 こういう所も空想通りなんだなと。って、まてよ?……本当に空想なのか?

 不意に疑問が湧き、思わず意識が違う所へ飛ぶ。


 だが耳が良いと言われるエルフのヘルミーナさんは、エミリアさんの小声をばっちりと聞き取ったようで。


「酷いわねえ、すーぐそうやって私を年寄り扱いするんだもの。これでもエルフ基準で言えば、まだ成人したばかりなのよ? あと220年は若いままで居られるわよ? それに300歳を越えて子供を授かったエルフも沢山いるわよ?」


「わたしはまだ250年くらいは若いままね」


「えっと、失礼ですけどリュミールさんさんは何歳なんです?」


「全然良いわ。呼び方もリュミで良いし。んで、わたしの年齢は48歳よ。だからまだまだ子供ね。成人もしていないし」


 48で子供って……。

 まあ、だから姉よりも慎ましやかなのか。

 とは言ってもそれなりにあるみたいだけれど。

 ただ、やはりここまで聞いたら聞いてみたいことが有る。


「エルフの人って寿命はどれくらいなんです?」


「そうね、だいたい350歳ちょっとかな?400歳を越えて元気なエルフも偶にいるけれど」


 答えてくれたのは妹のリュミさんだった。

 リュミさんで良いと言うのだからリュミさんと呼ぼう。

 とはいえ、平均350歳くらいなのに、300歳近くまで若さを維持できるというのは驚きだな。


「やっぱりエルフの人って若さを保てる時期が長いんですね」


「あら?ヒュームの女性も獣人の女性もドワーフの女性も大体同じよ?寿命は違うけど」


「え?」


 どういう事だろうか?

 ドワーフはまだしも獣人も人間も?

 疑問に思いつつエミリアさんを見やる。


「ふふ、シバさんが疑問に思われるのも当然です。そもそも私達はそれが当たり前だとずっと思っていたのですけれど、転移者さんが現れてから分かった事があるんです」


「それってどんな?」


「ヒュームと獣人の男性は普通に老化しますが、女性のヒュームと獣人は50歳くらいまではある程度若さを保ったままで居られるんです。シバさんが居た世界は違うんですよね?」


 なんだと……。


「は、はい、男女とも20歳くらいがピークで、そっから徐々に老化が進んでいきますね」


「一説には魔力や魔素マナの影響だと言われていますけれど、最初に来た転移者さんはまだ5年しか経っていませんし、シバさん達がどうなるかは分かりませんが、こちらのヒュームは母娘で並んでいても少し年の離れた姉妹にしか見えないばかりか、稀にどちらが母親なのかすら分からない事もありますね」


「それに体内魔力が多いと、更に寿命も延びるみたいよ?」

「100歳を越えても若々しいヒュームの魔法使いって結構居るものね」

「そうですね。私の知り合いにも何人かいらっしゃいます」


 こいつは驚いた。

 魔素マナが老化をある程度抑制する説か。しかも女性のみ?


「そう言えば、エミリアのお母さんも結構若く見えるわね」

「あー……確かにそうですね」


 まじか……。


「てことはエミリアさんのお母さんは、エミリアさんと見た目が殆ど変わらないんです?」


「殆どではないでしょうけど、そうですね。私の母は40代ですけど、まだ20代前半くらいには見えると思います。魔法使いではないのですが、魔力は高いので」


「魔素が理由なのか、それとも他に何か理由があるのか……面白いですね」


 根本的に遺伝子情報が異なるとか。

 男は普通に加齢を重ねるというのが何か引っかかるけど。


「ですから親子で一人の男性に同時に嫁ぐなんて事も結構あります。この世界の女性は基本的に独占欲?というものは薄いですし」


「薄いというか、無いわね。特にわたし達エルフの女性は。男エルフは嫉妬深いけど」


 リュミさんがそう付け加えた。


「そう、なるのか……」


 合法親子丼だ。

 倫理観もへったくれもないな。

 とはいえ郷に入れば郷に従えなのだから、俺も早めにこちらの価値観に慣れなければ。毎回驚いていたら相手に失礼になる。


「じゃあエルフさんとかだと……」


「あはは。さん付けが笑えたけど、エルフやドワーフはそもそもの寿命が長いからか、子供がとても生まれにくいの。だからエルフもせいぜい親子でってところね」


「へぇ……貴重な話をありがとうございました」


「いえいえ、あ、話が大幅に脱線したわね」


 なんでこんな話になったのだろうか?

 ヘルミーナさんとリュミさんと俺は三人で顔を見わたし、そしてエミリアさんの方を三人とも向く。


「エミリアちゃんが余計な事を言うから……」

「うぐ……済みません……」


 年齢を小声で俺に告げたところからだ。

 突っ込まれて、エミリアさんは肩を窄めてしょぼくれた。


「それで?ステータスが低くて加護も無いって事だけど、成長指数は?どう?」


 お任せするのだから全部伝えるべきだろう。


「成長指数は全て”C”です。レベルが5でステータスも全て10なので」


 しょっぱいステータスを全部ぶっちゃけても、姉妹の表情は一切変化が無かった。

 それどころか何か違う思考を働かせているかのような。


「ふむふむ……お姉ちゃんどう思う?」

「そうね、面白いかもしれないわ」

「やっぱり?」


 ど、どこが?

 少し驚いてエミリアさんを見やるが、彼女はやっぱり涼しい表情だ。


「わたし的にはステータスが綺麗に揃っている部分が気になる所ね」

「そうですね。私もそれは思いました」


 え?どういう事?

 

「ま、いずれにしても、何とか生存させたいのね?エミリア的に」


「はい。なんだか、何となくですけど、サポートをしなさいって勘が働いたんです」


 真剣な表情で、エミリアさんは姉妹へ伝えた。


「ふぅん」


「私はもうそれに乗ってるわ?」


「そっか。じゃあわたしも乗っかるわ。ポーション関係は任せて」


 自身の胸を叩きつつ、快活な笑顔と共にそうリュミさんは言った。


「は、はい、よろしくお願いします」


 何が何だかわからないうちに俺に乗っかるという話になったけれど、俺はそんな事よりも、今日出会った目の前の優しいエルフ姉妹に感謝の気持ちしか浮かばず、大きく頭を下げる事しか出来なかった。



 その後残りの装備やポーション類を纏めて売ってもらい、価値も分からず大銀貨3枚を支払ってお店を後にした。


 その他にも本来ならば道具屋で野営用の道具を揃える必要があったり、野営用の食材を買う必要があったり、雨天時用に雨具を用意する必要があったのだが、最初は日帰り以外は駄目だし雨の日はおとなしくしていて下さいと念を押され、必要になったらその時に買う事にした。


 あ、一応大き目のタオル5枚と歯磨きセットだけはサクッと買った。夜に体を拭く時にも使うし、普段時も清浄クリーンが有るとはいえ、水分などには清浄クリーンの効果が発揮しにくいとの事で。


 とはいえ、もうまるでエミリアさんがチュートリアルもかくやの如く世話を焼いてくれて、俺としては非常に助かるのだけれど、世話を焼く切っ掛けでもある、彼女が再三口にした、勘が働いたという言葉は聞いても曖昧にしか答えては貰えなかった。


 本当に分からないっぽいので、答えようが無かったのかもしれないけれど。



 因みに、リュミさんに教えて貰ったのだけれど、怪我や疲労を回復するポーションを”治癒ポーション”と呼び、体内魔力を回復するポーションの事を”エーテルポーション”と呼ぶらしい。


 そして中にはポーションの色で区別する人も結構居るらしく、治癒ポーションの色が乳白色だから”白ポ”とか、エーテルポーションの色が青いから”青ポ”とか略しているらしい。


 まあ、戦闘中に発言する言葉は略されるものだし、特に違和感は無かった。



明日は0時12時18時予定です

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