第12話 下品なゆるキャラ
本日6話目です。
宿屋で部屋を借りた後、今度は一番大切な装備を揃えに。
街並みを見やりながら歩いて直ぐに分かったのだけれど、この町は元世界のように高層ビルなどは全くなく、高くても宿屋や中心部のアパートの5~6階建てが精一杯のようだ。なのに人口自体は結構多く10万人以上住んでいるそうで、必然的に町自体がやたらと大きいらしい。
ドローンを飛ばして全景を見てみたいものだ。
そして、もう一つ気付いた事。
「案外と町が綺麗ですね」
「そうですか?」
「はい。もっとこう……ゴミゴミした町というか不衛生で埃っぽい町を想像していたんで」
「あぁ……異世界のイメージですね、なるほど」
「ここは町の造りに余裕があるというか、あり過ぎるというか」
流石にギルド会館が建っている町の中心部分は5階建ての建物が乱立しているけれど、ちょっと外れれば2階建てや3階建ての建物ばかりになってくる。
「この町がカルデラ内に存在するという話は聞きました?」
「はい」
「元々は人の往来も少なく比較的小さな町だったのですが、国の政策によって今の大きさになったのは比較的最近なんです。しかも計画的に作ったので、区画の余裕があるんですよね。ですから、もしかしたら他の町は不衛生で雑多な雰囲気に感じてしまうかもしれません」
なるほど。
大通りだからか結構な道幅だし、石造りの建物も極端に古くは無い。
この町にもスラム街はあるらしいけれど、ここまで見た限りではそんな陰は微塵も感じない程に綺麗な町だ。
「それに転移者も会わない。会いたくないけど」
「ふふふ、でも装備や道具を売っている区画はある程度纏っていますから、もしかしたら一人二人はお会いになるかもしれませんね。とは言っても黒髪のままの方はそう居ませんけど」
「諸星にさえ会わなきゃそれでいいかな……」
思わず本音がポロリとこぼれた。
「昼過ぎにちょっかいをかけてこられた方ですよね?」
「はい。あいつは俺と同い年で、同じ学校に通っていたんですよ」
「そうですか」
「恥ずかしい話、俺って友達が居なくって、そのせいかどうか分からないけど、いつもからかわれていたんですよ。……ハハハ」
実際には虐められていたんだけど。
ここに来る前の下駄箱事件を思い出すと腹が立つ。
「それがまた一緒に……」
「ですね。何の因果か……はぁ……」
無意識のうちに溜息が零れた。
「ここだけの話ですけど、あの方を担当された方もあまり良い印象を受けなかったみたいです」
そりゃ金貨100万枚くれとか聖剣くれとか、無理難題を言えば嫌われて当然だろう。
「……こっちに来る前より酷くなったような気もするし」
「ですがあの方は《青鋼の騎士団》に入られたそうなので、殆どお会いする事は無いと思います」
「そう、です?」
「はい。金ランクや白金ランクのレギオンともなれば、初期の装備や必要な回復ポーションは当面は無償で支給しているでしょうし、冒険者ギルドにも、依頼を受けに来て完了報告と同時に素材をお売りになられるくらいしか用はないと思いますし」
「へぇ~……」
羨ましい。なんて思っても仕方がないな。
そう思い直したころには、武器防具を売る鍛冶屋に到着した。
そこは隣り合わせで武器と防具を売っているようで、同じような店の造りからして親戚かなにかのような感じだった。
当然ここもエミリアさんお勧めだとか。
「親父さんがちょっと下品で口が悪いのですが、心根と腕は良い人なので安心してくださいね」
「大丈夫です」
悲しいかな暴言とかへの耐性は十分ある。
とはいえ初っ端から暴言を吐かれたら凹んでしまいそうだけれど。
さっさと扉を開けて先に入るエミリアさんに、ドキドキしつつ引っ付くように俺も中へと入った。
結構広いな……。
中に入って最初の印象がそれだった。
様々な武器が綺麗に陳列されていたし、どれも造りは良さそうだった。と言っても目利なんてものは無いので単なる勘だけど。
「こんにちは~……あ、いらっしゃいますね」
「おう!エミリアちゃんか。どうしたんだ?……お?転移者か」
俺らが入ったと丁度のタイミングで、分厚いエプロンを首からぶら下げた男性が、店の奥からのっしのっしと歩いて来た。
んが……どう見てもその男性は俺がイメージをするドワーフにしか見えない。
身長はそれこそ140センチ程度しかないのに腕や足が丸太のようにめちゃくちゃ太く、正面からみたらまるでどこかのゆるキャラにしか見えなかった。
そのくせ顔はいかつく鼻はでかい団子鼻で、想像通り髭がボーボー。
本当に居るんだな……。
俺は初めて見るドワーフに目をひん剥いて凝視してしまった。
「ん?どうした小僧」
俺が目をひん剥いて凝視したまま固まってしまったからか、訝し気な表情を見せつつ小僧呼びして来た。
思えば失礼極まる態度だなと。勿論俺が。
なので慌てて挨拶をする。
「あ、すみません……初めてだったもんで、つい」
「ほう……ドワーフは思った通り足が短いってか?」
「ちがっ!」
秒速で否定をした。
そんな事は思って居ません!
それに気づく前にドワーフという事に驚いただけです!
「大酒飲みなんだろうな、どうせこいつもとか思ったんだろ?」
「思ってません!」
「酔ったままハンマー握ってマシな武器作れんのかって思ったんじゃねえだろうな?」
「それも思ってませんって!」
「ふん、どうだかな」
なんだろ。確かに偏屈というか口が悪いというか……。
ジロリと俺を見やるドワーフの親父さんらしき人にタジタジになる。
「もう!シバさんが困ってるじゃないですか!」
「ん?……んんん?」
助け船を出してくれたエミリアさんを見て、俺を見て、またまたエミリアさんを見てそれから俺をもう一度下から舐めるように見やった後、鍛冶屋の親父さんらしきドワーフは、どこかで見た事があるようなニヨニヨ顔になった。
そして――
「ほほう!?もしかして小僧はエミリアちゃんのコレか?」
そう口にしつつ古すぎる仕草をして見せた。
具体的に言えば親指を立てた。
こっちでもそう表現するんだなーなどと思っていたら、エミリアさんが即座に否定に走る。
「ちがいます!」
「ん?じゃあズコズコパコパコやっただけか?」
そして今度は左手の指でわっかを作り、右手の人差し指をその輪に差し込む仕草をしてみせた。
おい!……それは……。
「「……」」
「俺らドワーフにとっちゃあ、ちーっと縦にデカすぎるが、ケツは十分デカいからきっと丈夫な子を産むぞ? ああ、乳袋もデカいから乳もしこたま出るぞ? きっとな!ガハハハハ」
「「…………」」
ニヤけた表情も相まって、なんて下品なんだ。最低だ。
その言葉と仕草に、俺もエミリアさんも思わず死んだ魚のような目になった。
とはいえこれでは話が進まない。
「……違います。宿屋の女将さんにも言われましたけど、エミリアさんは俺の担当員なだけです」
「そ、そうですよ。その手の話は小鳩亭でお腹いっぱいですよ!」
「チッ……つまんねえなぁ。せっかく酒の肴が手に入ったと思ったのによ……」
舌打ちした!!
つか、肴にするなよ!
「ほら、言った通りでしょう?」
「ハハハ……ハハ……」
エミリアさんは俺を見やりながら眉根を下げて困った表情をみせた。
けど、これはちょっと下品というレベルなんだろうか?
慣れている筈のエミリアさんも盛大にあきれ返ってしまったようだし。
「まあいい、んで?ここに連れて来たって事は、武器と防具を買いに来たって事で良いんだな?」
「そうです」
そう返事を返しながらエミリアさんは俺を見る。
え?あ、目的!忘れてた!
「あ、はい。今日来たばかりなんで全くの初心者ですけど、なるべく良いものを一式揃えようかと」
インパクトがあり過ぎて、ここに来た目的が頭から飛んでしまった。
そんな俺の動揺など気にもしない親父さんは、腰に手を当てて俺を見上げつつ、
「いい心がけだ。武器と防具をケチる奴は早死にするって決まってんだよ」
「そうだと思います」
特に防具をケチると、俺なんて瞬殺されるに違いない。
「分かってるじゃねえか。じゃあ小僧のレベルとステータスを教えろ。あと、加護もだ」
やっぱそうだよな。しかも加護はあるもんだと思ってるよな。
でも言わなきゃアドバイスもへったくれもない。
俺は現実に戻り少し凹みつつ、ステータスと加護無しを告げる。
「レベルは、ご、5でステータスは、ぜ、全部……じゅ、10で……す」
「なに!?」
「それから、加護もありません……」
「!……」
そうなるよね。
聞き間違いかと言った具合でエミリアさんに無言で確認をするが、エミリアさんも小さく頷いた為に、少しばかり言葉を失ったようだった。
「ってことは成長指数も低いな……」
「はい、オールCです」
「……こいつはたまげたな」
「ですよね?ハハハ……」
こんなステータスじゃあ生きていけないと思われても仕方がないだろう。
笑われないだけマシだと思いつつ、自虐的に自分で笑ってしまった。
明日からは3話ずつになると思います。6時12時18時予定。