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第103話 シルヴの問い


 うん。最初から見せ場なんて無かったんだ。


 そう思う事にしつつも、下唇を突き出しながら絵梨奈さん達をジト目で見やる。


「え? 一眞なに? どうしたの?」

「ふぇ?カズマさん、どうしたんです?」


「いえ別に」


 何故俺がそんな顔を見せているのかなんて、皆目見当もつかない絵梨奈さんとプリシラは、頭を捻りながらも目の前に広がる光景に眉を顰める。


「凄い数だったわね……」


「びっくりしました……まさかこんなに攻めてくるなんて」


「うん、わたしも……」


 追撃を終えた相馬さん達も、遠くの方から歩いて戻って来て居る。

 が、まともに真っすぐ歩けない程に、ゴブリンの死体がそこら中に転がっている。


「いや、凄いねこれは」

「まったくだ」


 相馬さんとオリヴァーさんも、振り返って眺めた景色に呆れた表情を見せる。

 確かに300人の村を根絶やしにするならこれくらいの数は必要だろうけど、それにしても多い。


「結局どんだけ居たんだ?」


 そう言った田所さんは、恐らくは自身のギルドカードを開いている。

 そして数を見やったのだろうその瞬間、目を見開いて固まった。


「いくつカウントしてます?」

「今、80だ……」


 え?そんなに?


 俺も急いでギルドカードのステータスを開く。


「ギルドカード、オープン。……う、うわぁ……」

「ほんとだ……」

「村に来る前が8でしたから、72カウントですね……酷い数です」


「という事は9人で割ってるから、今回だけで648体以上!?」

「そ、そうなるのか……」


 全員の顔がこれ以上ない程にドン引き状態だ。


「俺達は最初が少ないからだが、それでも74カウントだ……」

「それくらいになるわよね。……だって矢のストックが半分以上無くなったもの……」


 オリヴァーさん達も自身のギルドプレートを見つつ、そう呆れていたのだけれど、シルヴさんは驚きつつも少し懸念があるようで、オリヴァーさんに向けて口を開く。


「これは……オリヴァー殿は誤魔化すのが大変では? 数が少なければ誤魔化しようもあるが」


 え?どうして?……あ!

 オリヴァーさん達ってまだカッパーじゃないか!

 どうなるんだ?こういう場合。


 シルヴさんが言った言葉をオリヴァーさんも理解したのか、渋い表情を見せた。


「やっぱり怒られるとか、カウント無効とかですかね」


「どうだろう? 私が前いたエルデスという町は無効になった筈だが、トレゼアは分からない」


「なん……だと……」


 シルヴさんの無情な言葉に、オリヴァーさんはがっくりと膝をつく。

 レイニーさんとマルタさんは、ほんの少しだけ残念そうな表情を見せているだけだけれど。


 そもそも狩っちゃ駄目なら、カウントしないようにしろよ!

 そう思ったけれど、出来ない理由があるんだろうなあと。


 しかし惨いな。

 確定ではないけど、もしも無効なら何とかならない物だろうか?

 せめて討伐報酬くらいは。


 哀愁が漂う背中を見て、なんだかとてもオリヴァーさんが可哀そうになってきた。

 目的はレイニーさんの為とはいえ、それはそれこれはこれだろうし。


 がっかりもするだろう。


 そしてホブゴブリンもゴブリンも、同じ1体でカウントしているらしい事も判明。


 まあ、ホブゴブリンを倒したのって俺じゃないけどね。





「それで、このゴブリンの死骸はどうするつもりだ?」


 たっぷり時間をかけ、無事復活を果たしたオリヴァーさんが聞いて来た。

 先ほどレイニーさんやマルタさんが慰めていたから、きっと良い事でもあったんだろう。


 っと、それよりもゴブリンの処理か。


「どうしましょうか」


「集めてもいいけど、この数を集めるだけでかなり時間が必要よ?」


 絵梨奈さんは、少しうんざりした表情を見せつつそう言ったけど、ほんとどうしようか。


 9人で集めるとしても一人70体以上。

 しかも千切れたりしているものも多数。


 …………。


 いやいや、こりゃ1時間やそこらじゃ無理だろ。


 数を勘定して見て無理だと悟ると、俺の表情をみていたシルヴさんが何やら妙案があるらしく、悪いイケメン顔を見せつつ、


「ならばこうすれば良いのではないか? 頭の足りない村長が依頼の数を誤魔化していたのだから、集めるのは村長以下村の人にでもやって貰うと。それくらいは当然だと思うのだが?」


「良いわね。それで」

「っ!っ!」


 辛辣な言葉と提案をシルヴさんが口にし、それを絵梨奈さんが肯定し、マルタさんがコクコクと頷いた。

 村人のせいじゃないんだけど、ここはまあ、村長の責任として村の人に言ってもらうのも有りか。


 ただ、このままにしておいて魔獣とかは出ないのかどうか。


「魔獣とか出ないですかね」


「大丈夫よ。この辺りにはゴブリンを食べるのってゴブリンしかいないもの」


 レイニーさんがそう言った。けれど……。

 共食いしやがるのか、こいつら。


「そ、それなら大丈夫ですね。今晩はもう来ないと思いますけど、今23時か……一応見張りを3人ずつ、2時間交代で起きておきましょうか」


「そうだね。村長に提供してもらった家は大きいから、二部屋に分かれて3人ずつくらいなら寝られるでしょ。女の子と男に分かれて――」


「あ、それなら番をする人で1部屋使えばいいんじゃない? 寝てるのを邪魔するのも悪いもの」


 相馬さんが相槌を打つように部屋割り的な提案をしようとしたのだけれど、それを遮るかのようにレイニーさんがそう言った。


 まあ、俺は別に気にしないけど、でも大丈夫なのか?マルタさんとか。


「男と同じところで寝るのが嫌じゃ無ければですけど……」


「気にしないわよ。襲われるなんて考えても居ないし」

「っ!っ!」


 レイニーさんの言葉にマルタさんも頷いている事だし、それでいいか。

 田所さんも相馬さんもヒュームに興味ないし。

 俺は勿論人畜無害だし。


「当たり前じゃないですか。じゃあそれで良ければそれで。それなら最初は俺とプリシラと――」


「私が最初の夜番をしよう」


 シルヴさんが立候補してくれた。

 これで3人。


「じゃあそういう事で、次の番は相馬さん達で良いです?」


「いいわよ」

「うん、それでいい」

「そうと決まればさっさと寝る!」


 そう言った田所さんは、さっさと村の中へ入って行った。


「あはは、じゃあ皆さんゆっくり……とはいかないでしょうけど、休んでください」


「ん、分かったわ。後は任せるわね」

「済まないけど先に休ませてもらう」

「っ!」


「いえいえ」


 そう言ってオリヴァーさん達も寝室へと向かった。

 そして戦闘が終わったからか、マルタさんは俺の目を見て喋ってくれなくなった。


 ほんとに戦闘時には性格変わるんだなー。





「それで、番をする場所は決めているのか?」


「はい。借りた家のリビングで良いと思います。下手にバラけると何かあった時困るんで。どのみちゴブリンは村には入れませんから」


 今日これから再度戦うくらいなら、明日以降に森に入って巣を見つけて瞬滅した方が余程いい。

 その意図が分かったからか、シルヴさんも頷いた。


「確かにそうだな」


「あ、香炉はどうします?」


「香炉は俺らが寝る前にもう一度魔力を注げば朝まで大丈夫」


 そうして俺たちは最初の番をする為に、リビングへと向かった。

 リビングと言っても、囲炉裏みたいな火を焚く囲いがある場所だけど。



 簡素な造りの椅子にそれぞれが座り、何も無いでは手持無沙汰だろうと思って、昨日買ったペペアとママンゴを袋から取り出して渡す。


「うむ、不揃いだがなかなか熟していて美味しいぞ、これは」


「ですよね。市場の入り口近くで獣人のおじさんが串焼き屋台を開いてるんですけど、その隣で姪っ子達が売ってるんですよ」


「ほう……見かけたら今度私も買うとしよう」

「可愛い子達ですよ~」


 ペペアとママンゴを両手に持ちつつ、プリシラも美味しそうに食べている。

 プリシラたんは何時でも美味しそうに食べているけど。


 とはいえ前から気付いていたのだけれど、このレイヴさんというお方、喋り方が少し変わっている。

 変わっているというか、なんというか、良いところの出のお方?みたいな喋り方。


 少しかたっ苦しい言葉遣いなのだけれど、俺の周りにそう言った言葉遣いの人が居ないせいか、少しばかり気になる。


 冒険者に成った理由は言えないと言っていたから、もしかしたらやんごとなき事情があったりするのだろうか?


 まあ、他人の出自なんて大して気にもならないけれど。

 それ言ったら俺の出自なんて、知りません!だし。





「よければ幾つか質問をしていいか? 転移者と話をする事なんて無いからな。興味が湧く」


「どうぞ。って、あまり面白くないかもですよ?」


 ありがとうと言いつつ、シルヴさんは俺に聞きたかった事を口にした。

 元に居た世界はどんな世界だったのかとか、どうして呼ばれたのかとか、離れ離れになった家族は心配ではないのかとか。


 確かに興味はあるだろう。

 逆の立場でもきっと興味津々だっただろうし。


 そしてそういう話を殆どしていないプリシラも、かなり興味をそそられたようで、次は何を聞かせて貰えるのかと、あからさまに表情に現れていた。


 聞きたいなら聞けばよかったのにと思ったけれど、そこは遠慮の塊のプリシラたん。やはり聞き辛かった内容なのかもしれない。


 あと、宗教の事を聞かれた時は少し困った。

 育った施設は確かにカトリック系の施設だったのだけれど、俺個人は無神論者でしかない。


 朝晩必ず聖書を朗読させられたけれど、記憶力の良い俺が殆ど覚えていないくらい宗教などどうでも良かった。

 それよりも毎日の食事の方が気になって居た位だし。


 それをそのまま伝えても良いものかどうか迷ったのだけれど、嘘を言っても仕方がないのだからと、正直に話をした。


 すると……。


「やはり宗教など飯のタネにもならないのだろうな」


「どうですかね。プリシラはどう?」


「わたしもカズマさんと同じく無神論者ですね。神様に祈っても作物は育ちませんし、魔法も上手になりませんでしたし」


「ハハハ……」


「村の人が一生懸命に育てた作物を、教会の神父様はいつも『神の思し召しです、感謝しましょう』って言うんですよ?もしもそれが本当ならば植えた作物に手を加えなくても、祈ってさえいればちゃんとした作物が出来るってことじゃないですか。ありえません」


「ハハハ……確かに君の言う通りだ」


 辛辣な言葉を並べられて、シルヴさんは何て言って良いのか分からない風の表情を見せた。


「人の努力を全て神様のおかげにして、そのお零れを貰いたがっているとしか思えないので、わたしは少なくとも宗教は嫌いです。神様はいると思っていますけど」


 プリシラが育った村には余程に酷い神父がいたのだろうか?

 妙に辛辣でエキサイトしたプリシラを見やってそう思った。


 とはいえ、宗教か……。

 そうだな。


「宗教って、心の拠り所でしかないんだと思います。それ以上でもないしそれ以下でもない」


「拠り所?」


「はい。人って弱いですから、何かに縋らなければ平穏な心が保てない人は大勢いると思います。宗教ってのはその中の一つでしかないんじゃないかなって思いますね」


「拠り所の一つ……か」


「本来、拠り所って自分で探して見つけるものだと思うんですけど、宗教ってわざわざ向こうからやって来るでしょ。だから教えを信じる人が多いんじゃないかと。その方が楽だし」


「でもシバ殿は無神論者なのだろう?」


「それは単に、俺が育った国が特殊だったんじゃないかなって今なら思えます。俺がいた世界を見渡しても、宗教は重要なものと位置付けている国や人々はいっぱいいましたから」


「そうか……」


「でも、この世界のように、神と呼ばれる存在が身近に感じられたなら、もしかしたら俺も違ったかもです。ほら、この世界って神様が居ないと思う方が無理がある現象ってあるじゃないですか」


「そうかな?」


「うーん、もしかしたら神様じゃなくって別の何かかもしれないけど、自分が理解できない事象ってのが続くと、やっぱり神様っているのかも?なんて思いますよ」


「あ、それわかります!」

「そういう物かもしれないな」


 俺がこっちの世界に神様がいると思ったのは、俺が体験した出来事によるもの。

 人為的に行われたとは到底考えられない出来事が続けて起こったゆえに。


 やはり俺も、現代日本で育ったからか、世の中の事象は全て化学で解明できると思っていた。


 けれどこちらに来てから、それらが全て崩壊してしまって、とても科学で解明できそうにない事象も沢山存在する。


 例えば魔法。

 例えばスキル。

 例えば加護。


 もしかしたら魔法とスキルは科学で解明できてしまうのかもしれないけれど、加護だけはどうにも難しいのではないか。


 才能と言えばそれまでだけれど、元の世界での才能とは、決して目に見えるものでは無かった。

 そして、全員が似たり寄ったりの才能を持って居て、それを環境によって、努力によって伸ばしていた。


 この世界のように、明らかに作為的な、誰かが意図しているとしか思えないような加護の有り様は、どう考えても不自然極まりない。


 それが、俺の加護に対する評だった。



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