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第100話 作戦会議

「あまり時間をかけられなかったから、簡単なものにしてみたけれど……」


 そう言いつつ皆の前に並べられた夕飯は、とてもそんな風には思えない程に凝ったものだった。

 実家の厨房を手伝っていたというだけあって、どれもこれも有り合わせとは思えない。


「十分です。流石料亭の家を手伝っていたってだけはありますね」


 感嘆しながらお世辞でもなんでもない言葉を口にすると、大げさよと言いつつも照れながらも嬉しそうに絵梨奈さんは笑った。


「味付けもですけど、包丁さばきなんて本当にすごかったです!」


「味付けはねー、一眞が調味料一式を提供してくれたからよ?」


 時刻は既に8時を回ったところで、あと1時間もすれば警戒を始めなければならないのだけれど、意外と皆は落ち着いているようだった。


 若干オリヴァーさん達は緊張しているかなーと思えるけれど、それは昼間に酷い目にあったからだろう。


 俺と同じようにゴブリンに切り込んでいった田所さんなんて、余程に腹が空いていたのかガツガツ食べているし。


 勿論プリシラはいわずもがなで、口に食べ物を放り込んでは、ほっぺたを手で押さえておいしいおいしいを連発している。


 



「じゃあ、さっき男だけで決めた作戦というか配置を言います」


 男だけという言葉に、レイニーさんがエッ?という顔を一瞬だけした。

 俺何か変な事言ったか?


「どうしました?レイニーさん」


「あ、ううん、何でもない」


「じゃあまあ、時間もないので食事をしながら聞いて下さい」

「はい」

「わかったわ」


「全員で警戒する時間は9時前から日付が変わって1時頃までとし、それから日の出の5時までは2時間ごとに交代で」


「交代人員は私たちも含まれるの?」


「そうですね、一応そのつもりで居てください」


「わかった」

「っ」


「次に配置ですけど、南門と北門があるけど、いっそのこと北門は土魔法で塞いでしまいます」


「じゃあ塞ぐのは一眞の役目ね?」


 土魔法を使えるのはこの中で俺だけなので、必然的にそうなる。


「はい、俺がこの後直ぐに塞ぎに行きます。なので警戒するのは南門だけで済むから、オリヴァーさんと相馬さんが南門に立って警戒してください」


 俺の言葉に相馬さんとオリヴァーさんは無言で頷いた。


「残った7人で巡回するんで、二組に分けます。俺とプリシラとレイニーさんの組と、シルヴさんとマルタさんと田所さんと絵梨奈さんの組に分かれてください」


「私も巡回させてもらえるのね?」


「はい。装備があるんで大丈夫だと思いますけど、気をつけてください」


「うん、分かってるわ」


 そう言いつつレイニーさんは頷いた。

 すると絵梨奈さんが口を開く。


「香炉はどこに置くことにしたの?」


「香炉は、南門に被さるようにして、村の内側に設置します」


「北門は物理的に塞いで、南門は香炉で塞ぐって訳ね?」


「その通りです。どこに設置するのがいいか迷ったんですけど、こっちの構成を見てみると後衛が3人なので、引き篭って戦うのは不利だと判断しました」


「わかったわ」


 納得してくれたのか小さく頷いてくれた。

 メインで戦う場所は、村の南側。

 今晩は半月でかなり明るいから見通しの良い場所の方がいいと思って。


 ただし、あまり村から離れ過ぎないように。

 回復支援の都合もあるから。

 そう思いつつ説明を続ける。


「あと、ゴブリンが来るとすれば、最初は偵察だけだと思います」

「そうね」


「なので、ホブゴブリンを煽る為に、その偵察を絵梨奈さんか俺が火魔法でまずは派手に分かりやすいように殺します。まあ、俺のINT値はしょっぱいんで、出来れば絵梨奈さんにお願いします」


 ゴブリン同士は同じゴブリンに仲間意識なんてものは無いそうだが、ホブゴブリンが居れば、必ずと言って良い程突撃命令を出すらしい。

 そして、ホブゴブリンが倒されるまで、気が狂ったように攻撃を続ける。


 手下がやられて激高するから攻撃命令を出すのかどうかは分からないけど、とにかく攻撃一辺倒になるんだそうだ。 


 もしもこれで逃げるようなら、ホブゴブリンはその場に居ないという事なので、明日にでも森の巣穴を見つけてゴブリンを瞬滅すれば済むという事。


「分かったわ、任せてちょうだい」


「あとは、ゴブリンやホブゴブリンの習性から言って、二手に分かれて攻めて来るとかは無いみたいなんで、攻めて来た場所に戦力を集中させます」


「じゃあ私からお願いがあるわ」


 ここでレイニーさんがそう言ってきた。

 なんでしょうか?と思い聞いてみると、


「物見櫓があれば良かったんだけど、そんなものは無いみたいだから、出来れば砦の内側に土魔法で台を作って欲しいの。私はその上から矢を射るから」

「あ、それあたし達も」

「そうですね」

「っ!」


 後衛職の全員が身を乗り出して来た。


 とはいえ確かに必要かも。


 攻撃する場所は俺達が居ない離れたところを中心に攻撃して欲しいし、支援するにも高いところからの方がし易いだろうし。


 問題は石灰岩の上に積もった土の厚さ次第か。

 硬い岩盤ばかりだと俺の魔力では削り切れないから。


「いいですよ。でも、ここの地面にどれだけ土があるかわからないんで、魔法を使って見なきゃ高さは分からないけど、因みにどれくらいの高さが必要です?」


「そうね……3メートルとか、無理なら2メートルでも良いわ」


「わかりました。あ、まだ俺って魔法の調節が思うように出来ないんで、まっ平の土台でいいです?」


 熟練の土魔術師ともなれば、城壁にあるような広い歩廊や胸壁とかも平気で作れるらしい。


 しかも一度作ってしまえば1か月程度は魔力が持続して崩れないというから、俺も早くそうなりたい。俺が”アースウォール”で作った土壁なんて、数時間もすれば魔力の抜けたただの土嚢だし。


「構わないわ。ディルクが作った置き盾が何個か有るはずだから、それを置くわ」


 置き盾を設置するなら広めがいいか。

 アースウォール2枚重ねで大丈夫だろう。


「じゃあ広めの土台を作ります」


「お願い」


 レイニーさんはすっかりやる気だ。

 この村に戻って来た時はどうなる事かと思ったけど、やっぱり家族や家を守るってのは自身の力になるんだろうな。


 ふいに七海や義両親の事が頭を過って寂しく思いつつ、それを振り払って説明を続ける。


「次は戦闘に突入したらを説明しますね」


「はい!」


 元気よくプリシラが返事を返してくれた。


「ゴブリンは隊列なんて無く、好き勝手攻撃して来ると思うんですけど、俺と田所さんとシルヴさんはなるべくお互いから離れないで戦う事にします。相馬さんとオリヴァーさんは少し下がって俺らが打ち漏らしたゴブリンの処理をお願いします」


「おーけい」

「わかった」

「任せろ」


「んで、さっきも言いましたけど、今日の夜は半月なのでそこそこ遠くが見えると思いますが、門から離れ過ぎないように注意をする事が大事ですね」


「うむ」


「蓮司が一番心配なんじゃない?」


「そ、そんな事は無い」


 田所さんは図星を突かれたのか、若干焦っている。

 それを見て絵梨奈さんはニヨニヨと笑っているけれど。


「じゃあ次は後衛組ですけど、3人はゴブリンメイジとゴブリンアーチャーをメインで狩って、その後は各個撃破で」


 矢や魔法が飛んでこなくなるだけで、不測の事態は避けられる。

 それが分かっているからか、レイニーさん達は大きく頷く。


「任せて」

「はい!」

「まっかせて!」


「最後にマルタさんは、傷を負った人よりも、毒を受けた人を優先に治して貰った方がいいかもです」


「っ!」

「あ、そうね。わたしも昼間戦ってその方が良いって思ったわ」


「あの時は皆が思うように動けなかったからな……」


「でももう平気ね!」

「ああ!」

「っ!」


 皆やる気に満ち溢れている。

 勿論それは俺も同じだ。


「次に、ホブゴブリンがいた場合ですけど、なるべく優先的に倒した方がいいみたいです。レベルは15~20までで、体格的にはオリヴァーさんくらいの大きさで、ゴブリンのように単調な攻撃じゃなくって多彩な攻撃方法を用いてくるようですね。それと、魔法は使って来ません」


「多彩な攻撃がどんなもんなのかさっぱりわからんが……」


 田所さんの言葉も尤もだ。

 解体新書を読んでもそこまでは書いてない。


「単調ではないという事だけでも覚えておけば対処もしやすいかもです」


「そうね、でもまあ、真っ先に倒すのは間違いないし、見つけたら直ぐに処理するわ」


「お願いします」


 打ち合わせはこれくらいか?

 漏れは……。


 ないかな?


 そう思っていたら、レイニーさんから根本的な質問を。


「今更聞くのもあれだけど、今晩来るってどれくらいの確率で思ってる?」


 ああ、そりゃ当然思う事だろうな。


「俺は9割以上の確率で来ると思っています」


「その根拠は?」


「まず、ディルクさんが受け取った情報から考えて、日が経てばたつほど確率は上がっていく。というのは分かりますよね?」


「ええ」


「恐らくは昨日の晩も、その前の晩も夜に偵察をしにきたと思うんですけど、当然ながら村民は村に居なかった。というより居るかどうかをゴブリンには判断ができなかった」


「そうね」


「でも、今日は人が居ると奴らに確実に分かります。これが確率が高くなる二つ目の要因。で、三つ目の要因は、昼間にオリヴァーさん達が襲われた事にあります。あと、俺達も同じように餌にされかけた。これは村に余計な戦力を来させないようにする為だと思います。俺達がギルドの依頼を受けて動いているってのは御者の男も知っているんで」


「ああ、そういう事か。なるほど」


 シルヴさんは分かったらしい。

 プリシラも当然分かっている。

 相馬さんや絵梨奈さんも分かっていそうだ。


 田所さんは……よく分かっていないか。

 今も天井を向いて考えている。


「つまりは相手は急ぐって事だね」


「そうです。これは人の手が介入していると仮定してなので、確実とは言えないんですけど、俺は100%人が介入していると思っていますから」


「昼間の襲撃が成功していても失敗していても、相手側は早く動かなきゃならないって事か」


「そういう事です。それに封鎖をしたって事は、それだけでも近々に動くからという理由になります。村に誰も入れたくないと考えているでしょうから。だから今晩来ると思っているんです」


「なるほどな、漸くわかった」

「ええ、よく分かったわ、ありがとう」


 

 俺の説明に田所さんとレイニーさん達全員が納得顔を見せ、とりあえずは打ち合わせも終了した。


 あとは、もう出たとこ勝負みたいな所は否めない。

 なにせ俺等はまだゴブリン退治に慣れていないのだから仕方がない。


 とはいえ昼間に戦った感触から想像するに、そこまで警戒するようなものでもない気もするけど。

 いや、油断は禁物だ。

 いつどこで死を想起するような状況に置かれるかなんてわかった物じゃない。


 つい2週間前に一度死にそうな目にあった時の事を思い出し、緩みそうになった気持ちを首を左右に振りながら追いやり、再度気持ちを引き締めた。


 何が起こるかわからないんだから。

 命はたった一つなんだから、命を大事に。



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