書斎
下見がバレた挙句渾身のドヤ顔まで食らってしまった。
隠し事ってバレるといいことないな、と幸太にチョップで反撃しつつ反省する。
どのみち先に言っても揚げ足とられただろうし、演技上手くなったほうがいいのだろうか…。
関係のない方向に行きそうになった思考を戻し、目の前のドアに手を伸ばす。
幸太が開いたと言っていたドア、ここも再度よく見ると玄関同様鍵穴がない。
本当に仕掛けのための部屋だな…そう考えつつ、俺はドアノブに手をかけた。
幸太の言うとおり、ドアにかかっていた鍵は解錠されていた。
「うん、開いてるね」
「僕の言うことが信じられなかったのかい?」
幸太が頭を軽く押さえながら言う。
ちょっと強くチョップしすぎたかも。
「入ってからお前挙動不審だからな」
「研も大概だと思うんだけど…めっちゃぼーっとするし」
「考え事だぁよ」
「にしても魂抜けてそうだったけどなぁ。
扉、開けられる?」
「…ああ、動きそう」
閉まってたらよかったのに…と相変わらず帰りたい精神の強い俺。
探索を始める前の不思議さは消えた、けど相変わらずの能天気さを見せる幸太。
なんだかんだいつも通りなのではと思いながらと気づきつつドアを開けた。
「…埃っぽいな…」
この部屋は書斎だった。
押して開けるドアだったため、左側の壁には本棚が無い。
だがそこ以外に壁は見えず、すべてが本棚と本になっている。
「この家…本棚多くない?」
読書をする方ではない俺はこの本の山━━全て本棚に整理されているのだが━━を見て少し頭痛がする。
「リビングにあった本とはジャンルが違うね」
頭痛を感じながら幸太の発言を受け止める。
本の数に圧倒されてジャンルなんて見ていなかった。
確かリビングにあった本は漫画やからくりとかだったような…
この部屋の本は大体が教材のようで、中3の俺達でもよくわからない並びが多い。
まぁ、中3が知ってる知識なんて些細なものなのだろうが。
普通の家ならただの書斎ということで落ち着けるのだが…
「わざわざ手の混んだ鍵をつけた理由…」
「そこだよね」
幸太も同じ結論に至ったらしい。
この見た目通りなら鍵なんか必要ないのだ。
仮に先に施錠システムがあったとしても、態々ここに本をしまうのは手間ということだ。
つまり必然的に、ここには何かしらあるはずなのだ。
ちなみに下見で見たもう1つの部屋(仮)の空間はここではない。
そういえばそこへ向かうドアが見当たらなかったが、今は無視する。
「じゃあ、ぼちぼち探そうか」
とりあえずの提案に幸太も同意し、探索を始めた。
この一軒家に入ってから、そろそろ1時間だろうか。
書斎部屋の探索にかれこれ30分くらい使っているだろう。
リビングと別々に探索した部屋では合計でも30分は使っていない程度に進められていた。
けどここはどうにも仕掛けがあるように感じられないのだ。
あるのかもしれないが、ヒントがない、なさ過ぎる。
チラッと幸太を見る。
粘り強く探しているが、半ば諦め気味のようにも見て取れる。
こんな様子の幸太を見るのは初めてだ。
「一旦置いといて、他に行くか?」
気分の切り替えにもなるだろうと考えて提案。
幸太と後でここの探索をし直す口約束もして、謎多き書斎を出た。
「さて、じゃあ1階の残りの部屋に行く?」
様子からしてもういつも通りみたいだ。
切り替えの早さは見習いたい。
「あったら探索するけどドアが見当たらないからあとでいい?」
最早下見したと宣言したような発言だが、お互い気にしていない。
「ちなみにそこって何処?」
幸太に促され指を指す。
書斎部屋から出て向かい側、テレビが配置されていた壁の方向。
幸太が別行動で探索していた場所の横。
「まぁ部屋があったら探索しよか」
「いつになったら帰れるんだ…」
「少なくとも仕掛け全部見つけるまで僕は帰らせないよ!」
「謎解きゲームじゃないんだから全部なんてわからんぞ」
「気の済むまでやってやるさ。
あと今僕達出られないんだよ?」
「……忘れてた。
とりあえず、次は二階に行こう?」
「図星突かれると先に進もうとしてない?」
その指摘も図星なので無視。
カラクリと脱出、優先すべきは脱出。
頭で整理しつつ、この家風呂なくね?と思ったが、気づきつつも気にかけることはなかった。
風呂場がない。
キッチンがない。
人の気配も無い。
あるのは仕掛けと…トイレ。
頭の中で密かに「なんでこうなる」となったけど事実なので無理やり納得させる。
2階でも基本はスイッチ探し。
やることは、多分変わらない。