別行動:研
前回と同時刻の別視点でござる
「別行動ねぇ…んじゃとりあえず、すぐそこの2部屋からにする?」
そう言いながら幸太は来た道にあった2つのドアのあたりを指差した。
別行動と言うにはショボくないか?でもそんな事を言ってしまったら幸太の事だ。
好き勝手家中歩き回るだろう。
「…そうだな、そうしよう」
目と声のトーンでわかるぞ…
幸太は早く探索したくて堪らないんだ。
波動拳を見て必死に撃とうとしてる子供みたいな目になってるし…
と考えながら幸太を眺めてたら突然本棚に顔を向けた後スッキリした顔でこっちに向いた。
えナニナニ怖い。
「じゃあ、僕はこっちで」
え?
今の何?
ちょっと幸太さん?
なんの挙動??
こちらの思考を察知してくれるわけも無く、正確には見向きもされず。
幸太が玄関から向かって右側のドアに触れたタイミングでそんなことを言われた。
そしてそのまま部屋に突入していった。
今の出来事だけで俺の思考の中に幸太は不思議っ子というラベルが付いた。
だけどもともと結構不思議なヤツだったわ。
藁人形とか藁とあと藁。
「うぐぅ…」
言い出しっぺの俺がこの状況から一番逃げたいと思ってる…
窓があったら割ってでも飛び込んで帰りたいくらいには。
そんな葛藤があったが、仕方なく向かい側のドアに手をかけ、開け…られない。
「ん?あ〜カギか」
ドアノブを見ると真ん中の独立した横円柱に横向きに1本刻まれた掘り目がロックを示していた。
「こういうのは……」
俺の自宅のお風呂場のロックも似たようなもので、爪や10円玉を堀溝に引っ掛けて回せば簡単にアンロックできるのだ。
気が進まないがやるしかないのでやる。
カチッと控えめな音が解錠を知らせた。
ゆっくり念入りに開けたが、俺はその2秒後には慎重さは無かった。
「……ん?」
部屋は、至極シンプルな洋式トイレだった。
ドアに向かって正面に設置されていて、右にトイレットペーパーが自宅と同じようにセットされていた。
緊張からのあまりの落差に、思わずため息をする。
「年のため、調査…?」
頭の中の割合は調査するべきが2割、なんか白けたに2割、そして触りたくないに6割ほどあった。
やっぱ10割かも。
嫌〜な気持ちに支配されながらも、まずは便座を上げ、便器の中を見る。
水のラインが出来ているが、使用された形跡は見当たらない。
無意識に口呼吸で嗅覚を遮断していたが、軽く匂いを確かめてみる。
水の匂い以外は感じられない。
「トイレは使わず、キッチンで料理もしない…」
探索すればするほどこの家で生活している予感がしない。
少し掘り下げれば普通の家に見え、細かく見れば矛盾が生じている。
なんなんだ、この家。
「…ここも細かく見なきゃだめなん?」
俺自身がで至った考えに俺が質問する。
答えが帰ってくるわけではないが、まぁ一応見るだけ見ることにしよう。
10分ほど経過しただろうか。
未使用のトイレだから、ある程度の探索は行った。
念の為便器の後ろの水タンクも取り外せないか挑戦したが、どうやら取れないらしい。
けどトイレを探索という精神負荷があるから、後で手を洗おう。
やはり探索してみて、水は自動で入れ替わっているようだが使用されてはいないようだ。
電気もつかず、便器の後ろにある鉄格子付きの窓からの光だけだ。
やっぱ普通のトイレじゃん。戸思って出ようとした。
突然。
「し…けの起動げ…、と…か考え……ない…!」
幸太の叫び声が聞こえた。
驚きのあまり便器に座り込む。
便座は全て閉じてある。
「仕掛けの…なんて?」
聞き返しても答えるわけ無い。
小声だもの。
簡単に推測してみれば、なにか閃いたのだろう。
察するとしたら、仕掛けを見つけたのだろうか?
にしても、仕掛け、と、しか考えられない?
つまりは、仕掛けのためだけに存在している何かでも見つけたか?まぁ、トイレ探索民には関係のないことだ。
無視してトイレットペーパーのセットされてる家具に手を置き、立ち上がる。
「まてよ?」
この家、このトイレ、この便器。
ここは未使用で、電気もつかないため入っていたかも怪しいのだ。
何度も言うが人がいなければ埃は出ない。
なぜ、トイレットペーパーがセットされている?誰も使っていないのに。
しかも2個あるセットスペースの内の何故か外側。不自然が重なる。
幸太のシャウトが蘇る。
5秒くらい前だけど。
用途がなければ仕掛けだ、とでも言うような発言だった。
トイレットペーパーは取り外していない。
「…試してみよう」
そう決め、トイレットペーパーを巻いてみる。
両手を使ってクルクル…。
何も起こらない。
ショートカットと思い至りトイレットペーパーを引っ張り抜こうとした。
手前に。
トイレットペーパーはミスリードだった。
ペーパーをセットさせている家具の方が、仕掛けだったのだ。
引くことでトリガーとなるように、仕掛けられていた。
「あれ?」
どうしたことだろうか。
引っ張りきられたはずだが、仕掛けは何も作動しないのだ。
音もしない、振動もしない。
仕掛け源の家具をもっと引っ張ったり、上下に下げたり、戻しても見た。
変化はない。
「…故障か?」
結局ただの何の変哲もないトイレという自己完結に終わり、トイレを出て、爪で鍵を外側から閉める。
幸太はまだ部屋にいるらしい。
「さーて幸太を待とっと」
ぼうっと携帯を眺め幸太の探索終了を…待とうとした時、地面に微かな振動を感じた。
直感的に幸太の見つけた仕掛けだと察する。
そして
自分がいたトイレの方からも音が聞こえる。
どうやら彼の見つけた仕掛けはトイレ側のスイッチの事前起動が必要だったようだ。
とりあえずでONにしていて正解だった。
微かな揺れが収まり、カチッと言う音がどこかから聞こえた。
そういえば最初に押したレバーはどこに繋がっていたのだろう。
押した今では知る由もない。
このまま幸太の帰還を待とう。
ここで俺は、何故か出てきたときに彼がどんな顔をしているのか不安になった。
理由は多分部屋に入る前なのだろうが、家のせいで狂ってたら?
と思うとゾッとする。
そんなことをビクビクしながら考えていたとき。
ゴゴン!という重々しい音が家に鳴り響いた。
考え事で驚き足の力が抜け、力なく尻餅をつく。
一体何なんだ…。
ぼうっとしていると、幸太がなんともなさそうな顔で部屋から出てきた。
放心気味だった為、会話はちょっと覚えてない。
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リビングに再び戻り、彼がさっきの仕掛けで開いたと言っていた、左側、パズル額縁の左にあるドアの前に来ていた。
あの程度で記憶がパッパラーになるのはどうにかしないとな…
なんてどうでもいいことを考えている俺は何をしているのか…。
「ここ見終わったら2階?」
幸太が質問を投げかけてきた。
反省を置いておき、反応する。
「いや、あと一部屋あるはずだよ」
…ん?幸太が不思議な目をしている。
何かを見抜いた名探偵のような……。
「今研自分で下見済みって言ったようなものだよ?」
「へ?」
「間取りを外側から見てないと残り一部屋なんて的確な判断はできないよ〜」
「…その記憶ごと命をいただく」
「お昼はもう食べたでしょ?お腹いっぱいなのにいただくん?」
適当な冗談をさらに返されてしまった。
やっぱり幸太に頭脳面は勝てないな、と思う会話であった。
うん、ウザかったからチョップしたけど。
投稿ペースぅ…