探索開始
靴を脱ぎ、玄関に背を向け間取りを確認する。
廊下の一本道。
下駄箱のすぐ左に階段が見える。
この家は2階建てなのは流石に下見以前に知っている。
そこから左右に1つずつドアが見える。
そして一番奥の空間、リビングだろう。
「見えるエリアから進んでいこう」
幸太も肯定の意を示す。
彼は某ゲームのセリフを言ったところから謎解きとかを期待しているのだろうが、家の中に鍵があちこちに置いてあったり暗証番号があったりなんて現実ではまずないだろう。
10m程の廊下を歩きつつ、今度は天井を軽く見る。
照明の確認だ。
LED電球だろうか?
電気はついていないが、昼間なので明るい。
近くにスイッチが見えるが、つく保証はない。
そう考えると、日暮れまでには切り上げて帰らなければならない。
玄関は鍵が閉まって出られないが、今はそれほど意識して出口を探す必要はないと結論つける。
「ボーッとしてるよ〜考え事?研」
そんなことを頭に乗せながら幸太の問に軽く返事しながら歩き、リビングへ辿り着く。
幸太は普段通りの表情に見える。この時間に何を考えていたのだろう。
リビングに足を踏み入れ、電気をつける。
そして早速、視野を広く持って周りを見渡す。
ビビリなら慎重にスキャンしながら進めばいい、下見のときに決めていたことだ。
リビングは至ってシンプルだった。
右端にテレビ、ソファ、いくつかのゲーム機に、DVDレコーダーその上にはエアコンが確認できる。
向こうの壁には1面本棚が敷き詰めてあった。
機械、罠、トリック、仕込み…?
機械科の類と思われる本がたくさん詰められた本棚が右側に、漫画や小説など趣味の本が左の大半を占めていた。
左の壁には完成されたパズルが額縁にハメて飾られていた。
1000〜2000ピースだろうか?
幸太なら暇つぶしにやりそうなものだな…
「生活感が結構あるね〜」
そんなことを考えていたら幸太は相変わらず能天気な動きをしていることに今更気がついた。
パズルはそこそこ興味があるようで、今は眺めている。
左側の壁には手前側に扉が見えた。
他の部屋があるのだろう。
それともキッチンスペースか何かか。
廊下のあった手前側の壁は右から扇風機、電話機、そして台の上に加湿器らしきものが置かれている。
左の扉の前だからうっかり蹴ったら危なそうに見えたが、しっかり固定されているようなので問題はなさそうだ。
そこまで確認して、ようやく足を動かし、リビングを調べ始めた。
幸太と10分程探し、ゲームのソフトを二人で漁りはじめたあたりでふと我にかえる。
こんなところまで来て何をやっているんだ俺は。
「っとぉ…探索ってこういうことじゃないだろ」
幸太もいつの間にか目的が変わっていることに気がついたらしい、ふと手が止まる。
この家はサバイバルゲームもアクションゲームも幅広かったから名残惜しいのは分かるが、軌道を修正する。
「んで、何か気になるとこあった?」
「なーんにも。やっぱ研が早とちりしただけの普通の家なんじゃないの?」
「う、うーむ…」
いま一番言われたくない言葉をグサッと刺され、
そこには触れるなよ…と毒づく。
なにか言い訳を探そうかと目をグルグル回す。
「なーに探してるのさ」
「何って言っても…ん?」
粘って視界を動かした末、本棚の壁の左上━━本棚は天井まで続いていない━━壁に付いている四角い物が目に入った。
幸太が俺の視点を探り、同じものを見る。
「換気扇?」
「換気扇、だな」
そう、換気扇。
下見の時に回っていた換気扇。
予想通り今は止まっていた。
今思えばいつ誰が止めたのだろう。
自動?
故障?
しかし、今は問題はそこではないのだ。
下見の時、換気扇の下にカーテンに閉められた窓が見えた。
窓があったから、鍵が閉められても重要視せず、探索をしようと攻めた発言をしたのだ。
今一度よく見ると、本棚の天辺あたりにカーテンレールが確認できる。
つまりは、窓は脱出手段にすることは出来ないようだ。
2階にもいくつかの窓は見えたが、2階から降りるのは流石に無謀だ。
「…換気扇が、どうかした?」
幸太が不思議そうな目をこちらに向ける。
彼は下見などしていない、でも下見をバレるのはなんとなく嫌だから、遠回しに説明する。
「ここの金属、カーテンレールか?」
「んーそうみたいだね、てことは窓?」
「鍵が閉まっちゃったし窓から出れると思ったんだけどなぁ」
「窓から出れるなんて密室犯みたいだな」
「お前を殺して俺は逃げる!」
「僕を殺しても何も進展ないでしょーが。あとミステリー興味ないお前は鍵閉めれないだろ」
「食料は節約できるんだ!」
「お互いの趣味を乗せた茶番はヤメタマエ」
まぁこの状況じゃミステリーもサバイバルも大して役に立たなそうだけど…そう思いながら再び探索をし、加湿器の台の裏に何かが見えた。
最早この家に対する恐怖心などかなり薄れていたため、特に躊躇わず見えたものに触れる。
「…レバーかな?」
独り言を呟いたが、自分でも気にせず引いてみる。
途端…
ゴン!ガラララ……
家に木が擦れ合うような、連鎖していくような音が流れる。
突然のことに、心拍が跳ね上がる。
幸太は驚きつつも少し楽しそうな顔をしている…。
そして…
…ガキン!
最後は金属質の音がなり、振動は収まった。
何だったんだ…
「今、何かしたの?」
幸太が少し目を輝かせて聞いてきた。
心拍の影響で視野が狭まり、思考が分散されているが、黙秘する理由もないので伝えていく。
「加湿器の奥に…レバーがあって…それを引い、た」
「ふ〜ん…」
あ、何か彼の中で繋がったようだ。
こ〜ゆ〜のを真面目に考えるのは若干苦手なので、ここは幸太に任せきる。
聞きながら、心拍と思考を整えよう。
「それじゃあ…推理ショーの時間ですか、ね?」
焦りでイントネーションがおかしくなっているのは自覚している。
一度深呼吸して口調を戻す。
「そのとおり。と言っても今回は短いけどね」
へぇ、まぁ短いほうが整理は早くて助かる。
「右の本棚の方は、仕掛けやギミックやイタズラの本で溢れてるだろ?」
「そうだね。持ち主の趣味か何かだと思ってるけど…」
「あぁ趣味だろうよ。趣味なら試す場所があるだろ?」
「サバゲー的な感じか?」
「やたらと今日サバイバル系統に飛ぶね。まぁいいや」
別に俺はサバゲーには行かない。
どちらかというとFPSオンラインオンリーだ。
まぁ今はそんな言い訳どうでもいいが。
「この持ち主は家に色んな仕掛けを仕組んだんだろうね」
「へぇ、ギミックハウスか。ますます某ゲーム感が強くなってきたな…」
「謎があるなら楽しみだよ」
「でもあくまで趣味の家だ。
人を招き入れると思ってない。
現にレバーはノーヒントだし、俺なら絶対に手がかりの紙は置かない…つまり、暗証番号の扉が出たらそれで詰みだろうよ」
「う…まぁでも、抜け道を潜ませてるとも考えられるし、念入りに探索する価値はありそうだね」
さっさと帰ろうと思ってた分ちょっと面倒くさいなぁ…と思ったのは内緒である。
諦めて、俺も意見を提示する。
「ノーヒントなら、手数を増やすしかなさそうだな」
「む、アリだね。別行動、研は大丈夫なのか?」
「うっせぇやい」
慎重さなら少しは自信はある。
この家が怖くないと言ったら嘘になる。
人の気配がしないのに生活感があるだなんて、不自然にもほどがあるんだ。
それにこの家…リビングにキッチンが存在しない。
キッチンスペースだと考えていた左の部屋は鍵がかかっていた。
キッチンのあるはずな場所に施錠式の扉があるのはおかしいし、下見で見た外見と照らし合わせると、換気扇も窓もあの部屋にはないのだ。
幸太と別行動は少し、いやかなり躊躇ったが…更に探索を続けよう。
静かな一軒家…ではなく、得体のしれないカラクリの一軒家を。
お疲れ様です
別行動が本格化していきます
研はさらにゆっくり
幸太はズカズカ探索していきます
幸太はこういうのに興味津々で
幸太は楽しんで捜索していく感じを
研は慎重に一歩ずつ探索していく様子を
描写していこうと思います