家の中へ
今回は展開がゆっくりです。
前回詰め込みすぎたせいもあります
玄関に手を伸ばし、手を引っ掛ける。
ひやりとした冷たさが手を伝う。
どうやら金属製のようだ。
「何?なんかあった?」
背後から脳天気な声が聞こえる。
冷たさに驚いて一瞬ピクッとなったのが見えたのだろう。
「なんでもないよ…ん?」
そういいながら少し俯きかけていた頭を上げようとした。
だが、その視界に気になるものを見たためこの動作はしばらく延期だ。
気になるものは2つあるが、1つは今の所無視する。
「ん?なんだこれ?」
幸太も同じことに気がついたらしい。
流石推理好き、周りをよく見ている。
俺よりも遠い位置で俺と同じタイミングで気がついた。
俺達が見ているものは、玄関と家との間に挟まっている丸い物体だった。
これが玄関が閉まるのを止めているようだが、何故?
やはり換気だろうか。
しかし、今日は家に向かった風が流れていない。
おそらく換気扇は閉まっている。
「これは…タオル…?」
丸い物体は繊維のようなものの塊に見えた。
タオルかそれに近いもので間違いないだろう。
「にしてもなんで…」
「細かいことは関係なさそうだし今は平気でしょ。手を掛けっぱなしだけど、入るの?帰るの?研」
彼には怖気付いてるように見えただろうか。
ある意味事実だ。
この家は不可解な部分が多い。
不気味に思うのは自然な反応のはずだ。
言い訳をしつつ決意も固め、スライド式の玄関に添えていた右手を右へスライドさせる。
おはじきのように潰れていたタオルを回収し、ついに一軒家へと足を踏み入れた。まぁ、下駄箱だが。
幸太も一軒家へ入れ、玄関から手を離す。
支えを無くしたスライド扉は、斜面でもないのに自然と閉まってゆく。
どうやら電動のようだ。
それを確認し、靴を脱ごうと体制を低くした。
カチャン
ただ扉が閉まり、家と噛み合った音だ。
流石にこれにビビるほど、俺もビビリではない。
それにもしそうなら下見なんて行けるはずが…
ガチッ
「「…え?」」
お互い靴が脱ぎかけなことを忘れて、幸太は後ろの、俺は目の前にあるこの玄関。
幸太は静かに、俺は少しだけ荒い息で眺めていた。
幸太が玄関に左手を添える。
さっきと逆の行動なだけだが、今は空気と温度の圧が違う。
幸太が左手に力を入れる。
視界が微かに揺れ動く中、やけに長く感じる数秒が経った。
言わなくてもわかってる。
鍵がかかっている。
思えばこの家、鍵穴がないのだ。
でも、鍵はかかる。
なんなんだ?
そこまで思考が回ったところで、幸太が一つの仮説にたどり着いたようだ。
「ここの玄関、電動だよね」
「あぁ、俺はそう考えてる」
「この家、多分元々自動施錠だったんだ」
そこまではなんとか理解できる。
しかし、解錠機器が見当たらないのだ。
確認していないだけかと思い、狭まった視界を必死に動かし、見える視界から機器を検索した。
無いなと思った頃、幸太が仮説の続きを説明し始めた。
「機器は多分壊れてて、修理か何かで回収されているんだ、と思うけれど自動施錠はオフには出来ず、閉まらせては行けないからストッパー、及びタオルを挟み込んだ」
吸った酸素をあらかた使い尽くしたようだ。
確かに自分も玄関前で、石を敷き詰めたデザインの地面の中、そのデザインが一切されていない不自然な箇所が玄関横に見えたのだ。
横目でちらりと見て、家の中。
木材の地面にも太陽で焦げ焼けてない部分があった。
加速される思考を整理したところで、幸太は少し深めに呼吸をし、残りを一息に説明する。
「タオルを選んだ理由はおそらく、空いているとバレると何が起こるかわからない。
そこで潰れやすいタオルを使い、できる限りの隙間を減らした。現に僕達もよく見ないと空いているかどうかは分からなかった」
一気に言い切った様子なので少し落ち着かせる。落ち着いてきたところで考えをまとめる。
「今の状況じゃその考えが一番現実的だな。
流石推理好き、色々見てるな」
「伊達にミス部入ってないからね」
「ヤバい奴しか居ないだろ…」
お互いの雰囲気が大分落ち着いたところで、もう一度辺りを見回す。
焦っていたときには気が付かなかったが、家の中も全く汚れていない。
地面の焼け方からしてそこそこの年月が経っているのだろうが、やはり人の気配は感じない。
「中は思ったよりキr」
「幸太、それ以上は盛大なフラグだ」
過去に遊んだゲームがフラッシュバックされる。
確か登場人物が四人、主人公は白髪の理系。
舞台は館で、主人公の2倍以上の身長がある鬼から逃げながらストーリーを進めるゲームだった。
この物語の最初の一言が、「中は思ったより綺麗だな」なのだ。
たまたまセリフが被りそうだったから止めたが、彼のあの不服そうな顔を見るあたりどうやら元ネタを知っていたようだ。
「元ネタ知ってんじゃん」
「このタイミングで言うことはないだろ…」
気を取り直し、中の探索へと頭を回す。
外とは違って、家の中が綺麗なのはそこまで不自然ではない。
人が居なければ、埃もあまり増えない。
「とりあえず、生活感がしないけど近くの部屋に入ろう?研」
「…りょーかい。行こうか」
そして、目の前の扉を開け、リビングへと足を運…ぼうとして、二人して仲良くコケた。
靴を脱ぎ忘れるからこうなる…また下らないことしてんな、と俺は大きくため息をついた。
伏線をまた意識。幸太のミス部らしい行動を
意識しました。そういう目線で動いてる。
ここから少しずつ別行動化していく予定です
お楽しみに〜