別再行動:幸太①
遅れに遅れて申し訳無い……
再び別行動になり、廊下を研と逆に曲がり扉を開けるまで、状況の整理に時間を使った。
僕自身脱出などは今は結構どうでもよく、いざとなれば警察を呼べばどうにかなるものだと考えている。
Wi-Fiは研が僕の携帯も彼の家のWi-Fiを登録してくれているから、隣というコトもあり脱出はかなり気楽な心構えでいられると思う。
……まぁ助けてもらったあとどうやって入ったかは非常に言い訳に困るのだが……気にしないでおこう。
そんな感じで自己完結が出来ているから、僕的にはギミックや仕掛けを存分に体験したいと思ってる……あれ、これ研にちゃんと話したっけ……。
記憶の糸を引っ張る前に扉に着いたから、回想は始める前に中断した。
整理したし、もともと躊躇う理由などないので思いっきり扉を開く。
目に入った光景は、至って普通の、有り体に言えば勉強部屋のような配置になっていて、勉強机が左端に置いてあったり、使用されたように見えないサッカーボールや野球バットが部屋の右端に張り付くかのように寄っていた。
扉から垂直に見える壁の床近く辺りに、45度くらいだろうか?左下に傾けられたカメラと、壁の中央、カメラの上方向に張り紙が見えた。
勉強部屋と呼ぶに相応しいこの部屋では異質と呼ぶに相応しいその2つに興味を持った僕は、その壁へと一直線に進んだ。
よく見ると白いこの部屋の壁がこのカメラの周りの一部にヒビ割れのような物が見えたが、今は張り紙を優先する。
張り紙に書かれていた文字はこう。
【トリックアート】
「へ…………?」
予想よりも遥かにヒントになってない張り紙を見て、唖然とする。
トリックアートと言われても、この部屋にアートと呼べる絵どころか、紙すらもこの張り紙以外に存在しない。
壁のヒビも調べたが、カメラが若干ガタつく事と、このカメラがカメラの形をしたタダの模型ということしか分からなかった。
勉強机にいくつかのノートなどがあったが、全てのノートが新品特有の開き癖のない状態だったからここに絵があるという考えは捨て去った。
「……ひとまず置いておこう」
そう考えノートを机に乗せたとき。
足を不思議な感覚が襲った。
それに一度では無く、何度も何度も跳ね返るような感触が足やふくらはぎを叩き、最後に左足をなにか重い物で前に払われバランスを崩しどわっと声を出しながら尻もちをつく。
「え……うぇ?」
我ながら謎反応をしたなと思いつつ、足元を襲った物体を確認する。
物体はボールなどの、球体や丸い面を持ったものだった。
「でも……」
ここで誰もが行き着くだろう。
何故転がって、しかも全て一斉に来たのだろうか。
ここは一軒家で、ましてや二階。
斜めになるなんて有り得ない。
仮にここが欠陥住宅で━━お風呂やキッチンが無いことは別として━━部屋が斜面になっていたとしても、それなら初めから前後左右いずれかの壁にくっついているはず。
初めから傾いていても平行でも、動くことは……。
そこまで思考が行き着いてから、とある考えが直感的によぎり整理するよりも先にその方向へ首を回した。
向けた方向は、扉を開けて最初に目に止まった場所、カメラ。
カメラは、最初に左下に40度程傾いていた。
今は、部屋とほぼ平行と見える角度になっている。
つまり、傾いていたのは家じゃなくて━━
「この部屋1つが傾いていた、てことか……」
━━━━6年程前、僕が小学生3年生の頃。
親に連れてかれて、今は高校の寮に行っている高1の姉とトリックアートに特化した博物館に行った事がある。
大体が見れば見るほど矛盾に気づく絵や、大きさが違って見える絵の中、1つだけ異様に目立つ体験部屋らしきものがあった。
中に入り映る光景は、1つの部屋が壁も床も置物も、立つのはまだしも歩くのは少し辛い程の角度で傾いた空間を、6人程の幼い子供がはしゃぐものだった。
最初はそういう斜めの錯覚を楽しむ物かと思い、慣れず混乱しながら楽しく歩き回った。
ひとしきり満足して体験部屋を出たときに、母親が1つのカメラ画面を見ていた。
好奇心のまま僕も画面を覗き込む。
そこに映るのは、何の変哲もない部屋に不自然に斜めに立ち床にへばりつく子供たちの姿だった。
最初はわけが分からなかったが、見覚えのある家具の配置と斜め立ちの後転ぶ姉を見て気づく。
この部屋はさっき僕がいた部屋なんだと。
部屋を傾け、カメラも同じ角度傾けることで、そこに立つ人間は傾けた分だけ地面に倒れそうな角度で直立し、寝転がったと思いきや不自然に転がって壁まで転がる姿が撮れる。
体験しているときはただの体幹耐久だが、映像としてみれば立派なトリックアートとなる、更にトリッキーなトリックアート。
━━━━つまり、この部屋は重心の傾きで部屋が左右に傾く、ということだろう。
カメラはあえて部屋とリンクさせないことで、おそらくギミックへと繋がるのだろう。
カメラの周り、ヒビを再び凝視する。
ヒビはカメラの根本から床へ垂直に伸びていた。
ガタつくカメラはあそこに差込むためのものなのだろう。
カメラを正面に横方向ににガタついていたカメラを縦のヒビに調節するには、並行とは逆の直角、右に傾ける必要がある。
行動を決定し、ボールに邪魔されながらも右端へ移動する(やはりコケたが、確認したところ野球バットが犯人(犯物?)のようだ)
自覚できない程ゆっくり傾くから、傾きを示すサインとしてボールがあるのかもしれない。
そう思いながら、6年ぶりの歩きづらさを感じつつカメラに手を触れ、傾きによりカメラの幅に開いたと思われるヒビにカチッとハマるまで差し込んだ。
「…………あれ」
何も起こらない、こんな事もあるのだろうか。
30秒ほど待ったが、仕掛けが作動しないなら仕方ない、手順化何かかもしれないと思い、この部屋の探索を切り上げることにした。
手順と思い、2回全てに何かしらの仕掛けがあるのかもしれないと考えスマホを起動する。
何故か異様に酸素経路の確認を要求するメッセージを確認した後、僕も研に向けメッセージを送る。
【1個目の部屋】
白い壁に木材のフローリング
空気の道は平気だけど、何が知らせたかったんだ?
気になるものは見つけた。
床の端ら辺が少し削れているのと、一個のボタン。
ボタンは押してみたけど何も起きてない。
あ、そうそう。
床には気をつけなよ?
「そーしんっ」
送信のロード時間もまともに確認せずにスマホをスリープにしポケットに突っ込みながら、ボタンって表現あってるのかな?と思いつつ気にせず扉に手をかけ開けた……までは良かったのだが。
「い…………た……」
扉は傾かないが部屋は傾いている、そうなると必然的に斜めの段差が出来てしまい、そこに気づかず足の指先をガツッとやってしまった。
痛みに耐えながら部屋の角度調整を行い、ボールは1番最初の右端の位置に落ち着いた。
開いたままの扉から廊下に出る。
次の部屋はどんなギミックが待ち受けているのだろうかと、今からワクワクが止まらない。