能天気と臆病 暖と寒 明と暗
1階をあらかた探索し、2階へと続くだろう階段の前に俺達はいる。
「それじゃあ、2階に行こう」
本音を言うならば行かずに本棚をずらして窓を割ってでも外へ出たい。
人のいない家だもの。
空き巣と思われるのがオチだと思うのだが…それをやったら幸太も共犯になってしまうので抑える。
幸太を先頭に(無理矢理)立たせ、階段を登る。
ここでバレないように逃げ出すことを考えなかったといえば嘘になる。
自分の知らない領域に俺は異常に臆病になると最近知った。
階段が想像以上に長い。
余計な思考が、更に広がる。
俺はこんな逃げ腰思考に支配されているが、彼高須幸太はこの状況をどう感じているのだろうか。
お昼を食べたのが12時程、後に家に入り、そこから一時間強探索しているのでそろそろ14時辺りだろうか。
よく考えたら携帯を使えば良いのだが、それに気づくことは少なくとも階段を登っている間はなかった。
いつの間にか俺より少し進んでいた幸太を少々早足で追いかける。
この階段、30段ほどあっただろうか。
パッと見一段が約20cmだとすると、1階から6m程…少し高すぎないだろうか?
頭の中でまた1つ謎を呼びつつ、何故か最終段で停止している幸太へ向かう。
最終段まで辿り着き、幸太が停止、正しくは状況整理している理由を悟った。
階段を登り一番最初に映る光景は廊下だと思っていた。
ある意味では正解だった。
進む道は廊下である。
だが、歩む道は前ではなかった。
階段を登り、前を見る。
前には、部屋でも空間でも何でもない、ただの壁が広がっていた。
一瞬戸惑ったが、よく見ると左右に木材が使われた廊下が見える。
(何故、こんな構造になる?)
もう何回この思考に至ったか数え切れないが、この考察に行き着くし長いだろう。
目の前に壁、左右に廊下。
スペース的に廊下は家の外枠通りに一周しているのだろう、さすがに迷路化されているとは考えにくい。
「っ……とりあえず、進むか、研」
更に考察しそうになっていた思考を一時中断する。
慎重になりすぎるよりここは動いて情報を得たほうが良さそうだ。
目を合わせ頷く。
幸太を先頭にし、もし迷路になっていたときのために右手を壁に触れる。
頭の中に何故か浮かぶフレミングの右手の法則を放り投げる。
こんな時に頭は幸太レベルの能天気さを発揮しているが、実際は多分焦ったゆえの思考なのだろう。
改めて思考を整理し、2つある廊下のうち右に曲がる。
…まぁ、筆頭の幸太についていくだけなのだが。
少し落ち着いたことで気がついたが…この階、照明が1階と比べかなり暗く、気温は14時というのに1階にいた時よりも下がっているように感じる。
気のせい、ではないだろう。
何がここまで気温を下げるのかを不気味な雰囲気を紛らわすために考え…
「…なーにやってるのさ、研」
「うみゅう…」
考えることに夢中になりすぎた。
曲がり角に気が付かず、鼻をペタッと壁にぶつけた。
音は控えめだが、その実結構痛い。
痛みが鼻周りにじんわり広がり、痛みが少しずつ弱めの麻痺感覚になるのを感じながら、鼻をつまんだ時のような声で返答する。
「スマン、ちょっと考え事を…」
「考え事もいいけどとりあえず目の情報も仕入れようよ」
「反省ひもふ…」
「多分分かってるから良さそうかな」
相変わらず表情で察してくるあたりがちょっと変な感覚になる。
心を見透かされると思うと何か…キモチ悪くならない?━━━━
そんなことを考えながら周りを見つつ、廊下を歩き3分。
廊下は家の外枠を沿って一周になっていた。
常に暗めな照明で恐怖心で滅入りそうだったが、残りの空間、廊下の内周側に4つの部屋があることが確認でき、おそらく4部屋きっちり4等分されているのだろう。
そう願いたい。
てかぶっちゃけ調べず帰りたい。
帰れなかったわ。
頭の中である程度の整理と一種の覚悟ができたあたりで、幸太と目があった。
「まぁ、パッと見4部屋、だよな?」
「うん、そうなるだろうね」
「2階も長いな…」
「研さんよ、何言ってんのさ」
聞きなれない呼び方とその他諸々含め違和感を感じ顔を見る。
悪巧み、イタズラを閃いた子供のような顔をしている…何か妙案を思いついたらしい。
「一人で、2部屋ずつ探索すればいいじゃん」
「…え?…マジか…」
少し前に言った別行動案がここぞとばかりに足元をすくう。
幸太はこの雰囲気には適応したらしい。
というか気にしていないようだ。
精神力もお前と同じとは思わないでほしいな…と思いつつ、別行動案を断ることはできなかった俺であった。
携帯で連絡を取るというルールを取り付け幸太と別れ、彼は左廊下の手前部屋、俺は右廊下の手前部屋に来た。
「別行動はもう、勘弁してくれ……」
墓穴を掘る、とはまさにこの事なのだろう。
そう感じながら、小さめのため息まじりにドアを押し開けた。