RESTART!
目が醒める、そして緩やかに視界が鮮明になっていく。
「……こんな感じにログアウトするんだなぁ」
先ほど人生初のVRWを体験し、そして人生初となるVRWからのログアウトを経験した。
やはり人生初というのは大きさそれぞれあるがいつも心躍らせるカルチャーショックをくれる。
「…さてと、お昼食べないと〜♪」
ログアウトをした理由、昼食を食べに真琴は自分の部屋を出る。
「にゃーん」
ドアを開けた先に居たのはチィちゃん…うちの猫だ。
「おっ、チィちゃ〜ん♪ 迎えに来てくれたのー?」
愛らしいそのチィのお顔に手を伸ばす…
「――ニャァ"ッ"ン"!!」
――刹那、僕の腕は一瞬のうちにして現れた白腕によって床に叩き落とされるッッ!!
バシィィィッッッッン!!!
「――あ"だ"ぁ"ッ!?」
まともに喰らった、相変わらず恐ろしい速さとパワーだ………
「いったた…… もう! 少しくらい触らせてくれたって良いじゃない!」
「ニァ"ン"?」
「――ゥッ」
―威圧ッ!! そう、それは野生を忘れ、弱肉強食の恐怖を無縁のものとした人間でさえ感じざるおえない程の本能的警鐘ッッ!!!
「……ス…スミマセンデシタッ……! ゴメンナサイ許して下さい!!」
頭を下げる、いや下げるしか無い、この目の前の獣様に平伏するしか僕が生きる道は無い。
「………ニャ、」
何かを言い残しチィが去って行く。
「…………はぁー」
僕が拾ってきたニャンコ、チィちゃん。
あんな事をするのは僕を嫌っているからでは無い。
その証拠に先ほどの『白の殴撃砲』時に爪をだしては来なかった。
……彼女はただ触られるのが好きではないだけである。
「小さい頃は全然触っても怒らなかったのになぁ〜…….」
拾ってきたばかりの頃を思い出す、あの頃は本当に愛嬌があって可愛くて…いや今も可愛いけど! でも本当に可愛くて……
「――マコトー、ご飯だぞ〜」
その時、父の呼ぶ声が聞こえてきた。
「あ、はーい!」
その声に真琴は階段を降り、1階へと向かう。
…ふわりと香る食卓の匂い、今日も今日とて父は至高の料理を作ってくれたようだ。
そんな胃をキュっとさせる素敵な香りに引っ張られるようにして真琴はリビングへやってくる。
「来たわね♪」
「おはよう我が弟」
「よし、みんな揃ったね」
食卓にはもう家族の皆が席についていた。
僕もそそくさと席へ座る。
「おはようお兄ちゃん、…今日はいつ起きたの?」
「お、さっきだな、」
「相変わらず遅いね……」
メガネと青髪、まさに優男という言葉通りのような人で真琴の父である伊織 誠士。
黒橡色の髪、年中家でパソコンやプログラムなどを作って過ごし、真琴の兄である伊織 和樹。
真琴の祖母……であるのだがどう見ても20代にしか見えない朱色で長い髪の女性、伊織 鈴子。
「にゃ〜ん」
「ワォン」
……それと猫のチィちゃんと柴犬のナナ
こうしていつもの面子が揃い、
「「「「いただきます」」」」
と、僕らの血となり肉となるものへ感謝の言葉を述べてそれから十数分。
「ごちそうさまでした!」
再度、感謝の言葉を残して僕は席を立つ。
「さてと♪」
お皿を流しに置いて父に「すいません! お皿洗いよろしくお願いします!」と一言断ってから自分の部屋へ急行する。
コミュニケーションは確かに大切だが今は断然あのゲームが優先、極上レストラン級の食事のスタミナが切れる前に全力で進めたいのだ。
………こうして真琴が立ち去ったリビングの中、
「ケータイでんわ? ってピコピコが出た時も驚いたけど、今のピコピコは中に大きな国が創れるんでしょう? 最近のピコピコは本当に凄いのね〜♪」
あらあらウフフといった風に頬に手を当てて鈴子が言う。
「そのうちピコピコで出来たヒトが出てくるかもよ〜」と和樹が笑う。
「えー! それってあれ? 『アイルビーバック』のあの映画みたいな?」ワクワクとした様子で鈴子が聞く。
「いやいや流石にアレみたいな物騒なものじゃないでしょ……!?」と誠士。
「えぇ〜、面白くないの………」
そう言ってしょんぼりとする鈴子に
「「いやそうはならんやろ」」
と、思わず突っ込む誠士と和樹
そんな気の抜けた会話が続くリビングであった。
そして一方その頃………
(――ちょっとしたハプニングはあったけど今は12時過ぎぐらい…! 晩御飯までは約6時間! これだけあれば装備を買っておすすめクエストを粗方終わらせられる程の時間は十二分にある……!!)
これからのゲーム進行を空想する、もう人生これ以上無い程の期待感だ。
もうすっかり慣れたVRWゴーグルの準備、10秒足らずでプレイ環境をセットし――
「イクゾー!」
そして真琴は再び、銃と機械、闇と光の混沌渦巻くEAOの世界へ旅立つのであった。
■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■
―――〈Rouxさんがログインしました。》―――
「…帰ってきた!」
眼を開ければそこは先程ログアウトしたあの場所、だが例の恩人の姿は無い。
(さすがに居ないか、まあ別れの挨拶もしたしな……)
またすぐ会える、そんな確証もない予感があったのだがそんなことはなかったようだ、残念!
「……それはそうと!」
心の中のワクワクが溢れているような声音で、ルーは少し細い道の先、他の建造物よりも遥かに高くとても目立つ巨大な塔がある方を向く
「さっさと探索者登録して装備を整えますかぁ!」
ルーはそう言うと、セントラルタワーがそびえ立つ中央部へ駆け出して行く。
細い路地を抜け明るみに、そしてそこからしばらく走れば……
「着いた!」
目の前には馬鹿でかい黒鉄の塔がそびえるこの場所『アステッド・セントラル』……都市の中央、まさにそのままと言った名称であるが、
まあそんなどうでも良いことは置いておき、ルーはタワーへと足を踏み入れた。
……セントラルタワー、この都市『アステッドシティ』を統治する施設であり同時にプレイヤー、探索者の管理もする言わば『国そのものが運営するギルド施設兼役所』的なものだ。
全25階層で、1階は依頼受付、酒場、交流広間など、まあ完全に異世界にあるギルドみたいな感じになっている。……ちなみにプレイヤーが最初に探索者登録をするのは5階である。
――そういうこともあり、ルーは上へ続く階段に向かう。
人混みで溢れ、賑やかさが常に絶えない場所……言い表すならこれだろう。
カウンターに座り、ガラスジョッキに入ったお酒のようなものを嗜む傭兵風の見た目のプレイヤー
己の武勇伝を語る優男、そしてそれを囲む複数のお姉さんアバター
自慢の装備を盛んに仲間と見せつけ合っているプレイヤー集団
……横目で見る人影たちは皆、各々のロールプレイ、ゲームライフを楽しみ、この世界を心の底から満喫しているようであった。
「はぁ〜」
ロマン溢れるこの光景、ルーは思わず感動のため息を漏らす。
そして2階の〈武器・防具ショップ〉3階の〈武具強化施設〉4階の〈タワー評価確認スペース〉を過ぎ……
「あっ! こんにちは、探索者希望者さん! 登録はこちらから出来ますよ!」
5階にやって来たルーに、カウンター越しからNPCであろうSFチックな服装の金髪受付嬢が話しかけてくる。
……喋り方にどこか聞き覚えがあるのは気のせいだろう。
そんな謎の親近感を感じつつカウンターへと足を運ぶ、
「いや〜、最近は希望者さんが少なくてアステッド管理本部も困ってましてねぇ〜、ホント。」
「そ、そうなんですか……」
最近のNPCって完成度高いんだなぁ〜、とそんなことを思いつつルーは登録を了承する。
「ショウダクありがとうございます! それでは、探索者の説明からさせて頂きますね〜」
相変わらずのテンションで彼女が言葉を続ける。
「まず! 探索者、サーチャーとはいかなる存在なのか? それはもちろんあなたも知っての通り我々人類が地下から再び地上へ……」
―――十数分後
「――と、言うワケです!」
満面の笑みで彼女が説明を終える、まぁ…内容は全部ネットで予習済みなんだけどね。
「あ、はい……説明ありがとうございました。」
「えぇ? そこ盛り上がるところじゃないんですか!? もっとこう『うぉおお!!やる気出てきたゼェ!』って感じで!」
「いやそうはならんやろ、」
「えぇ…そうですか、じゃあ手続きしますね……」
ガックシとした様子で彼女はカウンターの下から何かを取り出す。
「ヨ"ッ"コ"ラ"シ"ョ"イ"っと!」
可憐な見た目に似合わない野太い掛け声と共にゴトンッといかにも重そうな音を立てて置かれたのは、博物館で飾ってそうな足跡の化石の石板……を何か金属で再現したようなものだった。
「じゃ、ここに手を置いてくださーい。」
金属板の手形を指差す彼女、形から見るに右手をはめるのだろう。
……それでは、
「そぉい!」
勢いよくカウンター上の板に手を置く……すると次の瞬間、金属板は手を囲むように光り輝き始めた。
「おぉ…!」
なんか凄そうな雰囲気に心が躍る。
――そして、
「はい、登録完了です! これでアナタも立派な探索者さんですよ♪」
ニコッと元気な笑顔を見せて彼女が手続きを終える。
「あとはランクとか何やら色々ありますが……まあそれはメニューからヘルプでも見て確認して下さい! 」
「なるほど、えと…じゃあこれで僕は依頼とかも受けていいんですよね?」
「はい! もう依頼を受けようが煮ようが焼こうがあなたの自由です♪」
「お、おう…」
僕の相手をするのが面倒になってきたのか随分と大雑把な対応をする彼女、まあとにかく登録が完了したのであればここに居る必要はない。……というワケで、
「えーと、僕はもう行きますね?」
「はい! 初任務がんばってくださいねー♪」
彼女の声に見送られてサーチャー登録所を後にするルー。
「さてと、」
サーチャーとなったは良いものの僕が持っている武器はアーク・グレネードのみでありこれは消耗品、まだハンドガンは愚かナイフの一本も持っていない。
グレネードは一回使えば終わりだし、拳で攻撃しても一応敵にダメージは入るらしいが僕はそんな脳筋ではない、そもそもそんな事が出来るほどのステータスもない。
……つまり、これから僕がする事は。
「――買い物だ!」(筋肉モリモリマッチョマンの変態風の声で)
先ほども通ったタワーの2階、装備ショップと向かう。
《Central Armed Shop》……プレイヤー達から愛情を込めて『安心と信頼の店、CAS』と呼ばれているこの店は、この都市一番の品揃えを誇るギルド直轄の店であり、武器を購入する前にお試しができる演習場が特に広い店で、初心者や中堅にオススメされている店である。
「たしか所持金は……」
【所持As】 :10000As
【所持Mr】: 0Mr
歩きながらメニューを開くと、視界左上のHPバーの下に見慣れない単語が二つ現れる。
(アース…この世界の一般通貨って設定だったけか?)
現人間社会の公共通貨、アステッドの頭をとってAsとネットで見た説明には書いてあった、そしてMrは上級通貨、1Mr=10000Asで買うことができ、より価値が高い物を売買する時に使われるらしい。
まあMrの方は初心者の僕が使うことはまず無いし、普通のハンドガンが2500As前後で売られているこの世界、少し物足りないだろうが初心者クラスで必要な火力は十分に確保できるだろう。
――と、そんな事を頭に浮かべ歩いているうちに店の入り口前までやって来た。
「うわぁ……」
透明なガラス越しに並ぶ、艶消しの効いた黒、黒ッ、黒ッ!
《ガトリングガン》や《アサルトライフル》、《スナイパーライフル》に《グレネードランチャー》、《ハンドガン》が少々に《ロケットランチャー》そして数多数々のこれら武器の弾薬たち、……よく見たら端の方に黒いアーマーが並んでいる。
「わーすっごい、手榴弾が一個でも弾けたらタワーが吹っ飛びそうな品揃えだ……」
思わず率直な感想を口にするルー、だが実際ここで誰かが火気を使い、弾薬や爆弾一つにでも誘爆したらこのタワーがローマにあるコロッセオのようになるのは間違いない。
「いらっしゃいませー!」
そんな物騒なことを考えつつ入店したルーに掛かる声、……先ほど見た受付嬢と同じような格好をしたNPCだ。
「ご来店ありがとうございまーす♪ 私はお客様の疑問や演習などのお手伝いをさせて頂くガイドスタッフでございます! 武器や防具、アイテムの事などについて聞きたいことがあれば"何でも"聞いて下さいね!」
接客員のお手本のような対応をする彼女
「あ、すいません…じゃあ10000As以内で買えるオススメの銃ってありますか?」
今までのゲームじゃ中々受け答えの出来ない質問、だがこれまでのNPCとの会話を鑑みれば………
「ハイ! お客様の探索者ランクは1ですね? そのランクで購入出来て10000As以下のオススメの銃となりますと………」
(――ビンゴ! 本当に最近のNPCってスゴイなぁ〜♪)
高度な会話だけでなく店の接客まで難なくこなすNPCに感心するルー。
「はい! オススメの銃はあちらの棚にありますのでついて来てください!」
10秒待たずしてスタッフさんのエスコートが始まる。
……スゴイ便利だ。
「――こちらがオススメの銃の棚でございます!」
着いた棚はアサルトライフルやスナイパーライフルなどの主兵装が並ぶ棚だ、
「どれも10000As以下、そしてランク1でも購入出来るモノとなっております!」
「おぉ……」
ネットではそこまで細かく解説されていなかったが、これだけでも相当な武器の数だ。
ネットで紹介されていたオススメの武器はこの棚の中の『全て』――つまりはどの武器も強く、お試しをして自分に合った武器を選べと書いてあった。
(別にいきなり対人しようってワケじゃ無いからな、やっぱり対エネミー向きのエネルギー武器が良いかな?)
実体、エネルギーどちらの武器種もpvpやpveどちらでしか『使えない』という訳ではないがやはり性質上向き不向きがある。
そしてこの後に受けるクエストはアイテム採集や敵エネミーの討伐、また敵エネミーの素材納品クエストなど対人のクエストは全くない。
……そうなると、やはり軽量でインベントリ重量を圧迫しないエネルギー武器に軍配が上がるというものだ。
(それで近距離から遠距離で対応出来なくはない武器と言ったら……)
「すいません、エネルギー武器のアサルトライフルは何処にありますか?」
サブマシンガンのように遠距離では使えない訳でもなく、スナイパーライフルのように近距離では扱いにくい訳でもない武器、それはアサルトライフルだろう。
「はい! EタイプのARとなりますとこちらのコーナーになります。」
そう言って彼女が左の方にあるARコーナーに手を向ける。
どうやら棚を中心から割って右側が実弾、左側エネルギーの武器になっているらしい。
・《―『E:AR_α型』―》
・《―『E:AR_β型』―》
・《―『E:AR_γ型』―》
武器の商品名はこう表示されている。
「それぞれα型は高火力・低連射、β型はバランス、γ型は低火力・高連射という特徴があります。……もし良かったら試射しますか?」
わかりやすい説明と共にお試し射撃の提案がされる。
「あっ、はいじゃあそうします。」
………ということで、
――ババババババッ!バババババッ!!
少し眩しい光と熱を発して銃口から紅の弾が放たれる、そして人型のハリボテを貫き弾道を焼いていく。
「参考になりましたでしょうか?」
3つの銃を撃ち終えた僕に聞く定員さん
「はい、これが良いです!」
そう言ってルーが選んだのはγ型のE:ARだった。
これを選んだ理由は、当てることさえ出来れば一番DPSが高いのと、何より撃ってて楽しい事だ。
「はい! それでは本体価格が7500As、初回購入特典でAR用弾薬エネルギーパックを5個サービスしますね〜」
弾薬パックは一つで50発分、250発では少々心もとないだろう。
「あ、それと追加でその弾薬パック5個下さい。」
「はい、弾薬パック5個で250As…まとめて7750Asになります!」
(残りは2250Asか……たしか回復アイテムが1つ100Asで5個は欲しいからなぁ〜)
実質残りは1750As、こうなると流石に買える武器はグレネードとかナイフぐらいだろう。
………となると、
「裏通りに行ってみようかな………?」
そうと決まればさっさと向かおう。
会計を済ませ、1階でクエストを受けてからタワーを出る。
こうして向かうはここから北西、裏通りにて賑わうプレイヤー達の出店エリア……通称『闇市』だ。
「多分ここら辺に………あった!」
メインストリート脇の細道を進み、少し経った所にある壁に刻印されたネズミマーク、これが闇市のシンボルマークだ。
「では、参る!」
人気のない道へ足を踏み入れたルー、所々ライトで照らされてはいるがやはり暗い。
(少し暗いな………こんな時にまたあのギルド勧誘の人達みたいな人が出てきたらちょっと……)
心の内でちょっぴりと不安を感じながら目的地へと進む。
……そして。
「――2000メタル出す!」
「2200メタルッ!」
「2500ッ!!」
「3000メタル、」
「「「おおッ………」」」
歩き始めてから2分ちょっと、ルーは小さな広場のような場所にたどり着く。
……どうやらオークションを開催しているようだ。
「3000メタルッ! これ以上出す者は居ないかッ?」
オークション会場の中心、少し高い舞台の上で主催者であろう中年風な男のプレイヤーが声を張り上げる。
「あの銃は……まさかAKか?」
ゲームでよく見るあの形状と特徴的な木製ストック、とんでもなく種類が多いため型番までは解りはしないがあれは間違いなくアサルトライフルの代名詞『悪魔の銃:AKライフル』だろう。
ちなみに言っておくと、先ほど僕が購入した『E:ARシリーズ』を見ても分かる通りこの世界には現実世界に存在する銃がほぼ無い。
というのも、このゲーム世界で現実にある銃は『Legacy Weapon』と呼ばれ、『超』に『激』を足すような希少品であり、
武器としての強さも『ユニーク・ギア』を除き最強クラス、それこそ持っているだけで畏怖されるような存在である。
……そんなものが今ここで誰かの手に渡ろうとしているのだ。
「すげぇ………」
お安い銃を求めここへやって来たのに、この世界最上位の銃を見ることができるなんて思ってもいなかった。
「……5000メタルだ、」
深くフードを被った男が主催者に言う。
「「「「「………………………」」」」」
静まり返る会場、そしてしばらくして……
「ご、5000メタルッ! ほかにこれ以上出す奴はいるかッ!!」
――沈黙、答える者は誰もいない。
「……そ、それではッ、これにて競りを終了しますッ!!」
ひときわ大きな声を上げ、主催者がハンマーを振り下ろした。
「――いやぁ〜、イイもん観させてもらったゼぇ……」
「へぇ!?」
僕のとなり…いつの間にかそこに居た腕を組んでいるいい年したオジさん風のプレイヤーが笑顔で話す。
「あぁ…俺はそっちで店を出してるモンだよ、驚かせて悪かったな!」
「あっ、いえ! こちらこそ驚いたりしてすいません!」
ガッハッハ! と豪勢に笑う店主のおじさん……そして
「おう! ……しかし珍しいな? 初心者がこんな所に来るなんて。」
そう僕に聞いてきた。
「えっと…ゲームを始める前にネットで色々調べたので……今日は安い副兵装を探しに来ました。」
「へぇ〜、サブウェポンか………」
そう言いおじさんが顎に手を当て、少し考えるような仕草をしてから。
「……予算は?」
先ほどの明るい雰囲気とは打って変わり、真剣な眼差しで僕に問う。
「あっ、はい! えと…1750Asです!」
僕もそれに慌てて答える。
そしてそれを聞いたおじさんはワンテンポ経ってから、
「なるほど……付いてきな! きっと気に入るモンがあるぜ!」
と僕に言ってどこかへ歩き出していく、
……まあこうなったらついて行くしかないだろう。
こうして広場から少し離れ、人の声があまりしない場所に来ると……
「ここが俺の店だ! 少しチィせぇが品揃えはいいんだぜ?」
と、小屋を指して言った。
少しボロっちいが『Black Bullet』というこの店の名前であろう立派な看板が付いており、中々存在感がある。ただ……
「なんか…あんまり気付いてもらえ無さそう所にあるんですね………」
周りは背の高い建造物が軒を連ねており、店の正面あたりに来ないとこの看板は見えなかった。
また、広場から近いとは言っても人気はほとんど無く、この道を通るプレイヤー自体は少ない様にルーは感じた。
「ああ、知ってる。」
(あっ…)
悲壮感…そう、それは何か大切なモノを忘れてしまった大人のような………
「あっ、でも品揃えが良いってコトはちゃんとお客さんが来て繁盛してるってことですよね!」
そうだ、品揃えが良いという事はそれだけの品を揃える力があるということだ、つまり来店する人が少なくてもリピートする客が――「居ないからな。」
「………え?」
「品を仕入れても、それを買う客が居ないからな。」
(あっ…)
――なるほど! どれだけ商品を仕入れてもそれを買うお客さんが居ないなら店の品は増える一方、そりゃあ品揃え良くなるか!
……って、
(――救いようがじゃねぇかこの店ぇッ………!!)
なんで繁盛しないのにこの店やってんの? 思わずそう聞きたくなるほどの経営状況だ。
店の利益がないのに品を仕入れられるってコトは間違いなくこの店主は実力者だが、これではこの店がただの倉庫である。
「あー、えーっと、お客さん……増えると良いですね。」
「あぁ…増えたら良いんだけどな。――っと忘れるところだった!」
さっきまでの空気を消し飛ばし、活気が戻ったおじさんが言う。
「今ここに居るお客さんに気に入る品を見せるんだったぜ!」
ここに来た本来の目的を思い出した店主さん、店の扉を開けて僕を手招きする。
「お前さんは2ヶ月ぶりの来店客だからな! 安くしとくぜぇ?」
「えっ………あ、有難うございます。」
なんと2ヶ月も客が来ていないようだ、ハハッ! 知りたくなかった……
「じゃあ、お邪魔しまーす?」
恐るおそる店へ入って行くルー、そしてそんな彼を出迎えたのは……
「…俺のダンガンを見てくれ。 こいつをどう思う?」
「すごく…いっぱいです……」
棚や壁一面に飾られた大小様々な銃の弾薬たち、その種類はなんと優に100を超える程の数だ。
「コイツらは全部おれのハンドメイドなんだ! どれもそんじょそこらじゃ手に入らない火力が出るんだゼェ?」
ドヤァとこちらを見る店主さん、褒めて貰いたいのだろうか?
「それは、凄いですね……」
僕が賞賛を送るとおじさんは嬉しそうに含み笑いをする。
「……ところでサブウェポンは?」
ここに来た目的である副兵装、だが店内にはナイフやハンドガンなどの武装は一切見当たらない。
「ああ! ちょっと待ってな。」
そう言ってカウンター奥の部屋へ入って行き、しばらくして。
「こん中のどれでも一つ1750Asで売るよ。」
と、両手で抱えた大きな木箱いっぱいのハンドガンを持ってきた。
「えっ、そんなにあるんですか!?」
よーく観てみると探索者ランク2で購入できるようになる武器もあり、それを1750Asで買えるというとんでも無くお買い得な取引だということが分かる。
「敵からドロップしたりトレジャーボックスから出て来たやつだ。俺は使わねぇし売っても大した金にならねぇからな、だからお前に売ってやる。」
「あっ、ありがとうございます!」
「ハハッ、良いってこコトよ!」
こうしてルーは木箱の中にある拳銃たちの吟味を始めた。
(――スゴい…! どれも初期に買えるものよりもステータスが高いものばかりだ……!!)
……そして2分の時が経った頃、
「カッコいい……!!」
ルーは一丁のリボルバーを手に取る。
普通、リボルバーはオールドな雰囲気があるがこいつは全くもって逆、まるでSF映画に出てきそうな程に先進的でスタイリッシュなデザインをした銃であり、そして同時に珍しい構造をしている銃でもある。
一般的にリボルバーのマガジン部分、すなわちシリンダーは円筒状の形状をしているがこの銃は六角形、また弾丸が撃ち出される銃口が低い位置にあるという他のものとは明らかに異なる特徴的な銃だ。
「――お! そいつはRhinoだな。」
店主が言う。
「……ライノ?」
「そう! Chiappa・Rhino、イタリアの会社が出してるリボルバーさ、そいつはそのロングバレル型だな。
おじさんが得意げに銃の説明を始める。――っていうかッ!
「――イタリアの会社って、この銃リアルにあるんですか!?」
「えっ、あるけど? 知らなかったのか?」
――驚いた! こんなカッコイイ銃が現実にあるなんて思ってもいなかった。 ―というかッ!!
「ていうか、現実にある銃って…これレガシーウェポンじゃないんですか!?」
先程オークションにかけられていたAKのようにこのゲームで現実にある銃は滅茶苦茶レアだ、それが1750Asってそれってどういうことなのだ!?
「―はぁ!? お前コレは違ぇよ! 」
僕の問いにおじさんも驚いたように答える。
「こいつは作製武器、いわゆる再現武器だよ………多分。」
店主が言葉を濁しそう言う。
「……たぶん? 」
「あいや、ダンジョンに潜ってたらドロップ欄にあったんだ、でもってそこに出現するエネミーの中にはプレイヤーの武器を盗んでくヤツも居る、……だからタブンだ。」
店主が言葉を続ける。
「…それに、そいつのステータスを見てみろ。ステータスはそれなりにあるが、スキルが何一つとして付いてない。レガシーウェポンってのは普通、スキルガン盛りの強つよ武器なんだ、……だから少なくともレガシーウェポンではねぇよ。」
なるほど、そこまで根拠を言われたら納得せざるおえない。
「そうですか、………でもっ」
こんなにカッコいい銃は中々ない。――それに、中盤ぐらいで使うならまだしも、今は序盤も序盤、プレイ開始数時間程度である。
どうせ僕が今入手出来る武器なんてのは弱いものばかり、スキルなんてものは元から付いてない武器が多いし、こんなステータスが高い武器は序盤では買えない。
「――これが良いです!」
元気良くルーはそう言う。
……するとおじさんは、
「あい分かった!」
と、腰掛けて居るヒザにパンっと手を鳴らし立ち上がり、僕にトレード交渉申請を送ってくる。
そしてもちろん僕はその申請にYesをし、1750アースをトレード金額欄へ入れる。
――ちょうどその時、
「……そういえば、お前こいつの弾は持ってんのか?」
サラッっと、こんな事をおじさんが聞いてきた。
「―あっ」
――ウカツ! 彼は憧れのVRWゲームを始めたことに浮かれ過ぎた結果、サブウェポンの弾というモノを頭から完全に消炭にしていたのだ!!
(やっばどうしよ!? これじゃあライノがただの鈍器じゃ無いか!! 500アースで弾を買うか? ――いやでもそしたら回復薬が………)
想定できていなかった事に焦りだすルー
「お? 持ってないんだったらウチで買ってかねぇか?」
そんな僕を見かねたのか店主が僕にそう提案してくる………が、
「あー、いや……」
『お金がないので弾を無料で分けて下さい!』なんて言える訳がない、何せもう好意で武器を格安で売ってくれている。
「イチオウ、あと500Asはありますが回復薬を買いたくてですね………」
ボソボソと、ルーは今の状況と心境を口にしだす。
「あー、金がねぇのか? まあ見たところ始めたばっかりだもんなぁ……」
おじさんがそう言った後、しばらくの間を空け……
「じゃあその500アースで回復薬も弾丸も売ってやるよ!」と、豪快な笑顔を見せてそう答えて見せた。
「――えっ? いやいいですって! もうこのリボルバーをこんなに安く買わせて頂いてますしッ!」
気持ちは嬉しいがさすがにここまでくると悪い気がしてくる。やはり断るべきだとルーはコレを遠慮する。……だが、
「んー、そうか………あ! じゃあお前、ここの常連になってくれよ! これはお得意様価格ってヤツだ!」
と、そんなことを言い出してきた。
「えぇ……」
いきなりだ、だが悪い条件ではない……というか、
(断りにくッッッッ!!)
さっき店先で見た事や、この店主が言っていた「2ヶ月振りの客」という言葉を思い出してルーは苦悩する、それもそうだ何故なら断るイコール店主のおじさんの傷を抉るに等しい行為だから。
「あ… じゃあ常連になりますね………」
まあ、ルーは折れるほか無かった。
「おお! じゃあ、交渉成立だな!」
そう言っておじさんはアイテム欄に回復薬5個と40口径弾30発を追加し、僕も500Asを金額欄へ入金して……
――《トレードが完了しました!》――
システムメッセージが流れ、ライノ、回復薬と弾が僕の所持品に追加された。
「よし、…お前はこれから外に行くんだろ? 頑張ってこいよ!」
「はい! ありがとうございました、店主さん!」
わざわざ店先まで見送ってくれる店主さん、互いに笑顔で手を振って別れる。
「マグナだよ、俺の名前はマグナだ!」
別れ際、店主のおじさんは自分の名を名乗った。……そう言えばまだ自己紹介もしていなかったな。
「はい! それと僕の名前はルーです! 本当に、色々とありがとうございました、マグナさん!」
「おう、いいってことよ!それに、ルーちゃんみたいなカワイイ嬢ちゃんが常連になってくれればウチも客が増えるだろうからな!」
「……………はい?」
『マグナさん、それ勘違いです……!!』という言葉がルーの口まできた上ってきたが、言うと何かややこしい事が起きるという気もしてきた。
「え、えーっと………また会いましょうね〜!」
結果、ルーはそのままマグナさんに勘違いをさせたままにする事にしたのであった……
「あいよ! 嬢ちゃんも達者でな〜!」
………そしてその会話を最後に、ルーはメインストリートへの道へ入っていった。
どうも、筆者の音狐 水希です。
うん、まあ言いたい事は分かる。
「お前一ヶ月以内には頑張るとか言っておいて二ヶ月以上書いてねぇじゃねえか!! どうしてくれんのこれ!?」
とか、
「自分で言ったことぐらい責任持てよ?」
とか、
「くたばれ(直球)」
などなど色々あると思いますが、やっぱり一回途切れるとなんか書きずらいといいますか、次の文が浮かんでこないといいますか、そんな感じでして。
もう謝っても「行動で示せやオラ」という状況でしょうし(レビューや感想はまだ一つもきたことがないので思われてないかも知れない。)、とりあえず次の話も頑張っていきます。
サーセン、