第七色 うずめの後悔
―――わたしは、大好きな彼を殺そうとした―――
錯乱していたとはいえ、取り返しのつかないことをしてしまった事を、後悔してもしきれない。
どうすれば彼に許して貰えるだろうか。
――-何をすれば償えるのだろうか―――
最近はそればかりを考えている。
彼の眠る病室はとても静かだ、窓の外から聞こえる、鳥のさえずりと、心電図のモニターから一定のリズムで、流れるアラーム音くらいだ。
彼は目を覚まさない。”あの日”からもう一週間も経っているのに。
あの日、わたしは彼を殺そうとしたのに、彼は一切反撃せず、優しく抱き締めて止めてくれた。その代償に重傷を負い、緊急入院したというわけだ。
その夜、生死の境を彷徨っていると聞いた彼の両親はすぐにお見舞いに来て、何があったかを聞かれたが、わたしは何も答えることは出来なかった。2人はそれ以上は質問をしてこなかった。
次の日、古野くんがお見舞いに来た。傷だらけになり、両手を欠損して、ものを言わぬ彼をみて、平静を装っていたが、声が震えていたのが分かった。目にも涙を溜めて、必死に零さないようにしていた。
そのときもわたしは何も話すことが出来なかった。ぎゅっと手を握り締め、黙っていた。後で手を見てみると、血が滴っていた。
その次の日は彼のクラスの人達が放課後に来ていた。わたしはそのまま、走って帰った。もう耐えられなかった。自分が悪いのに、罪悪感に押し潰されそうになるのに耐えらない。
それでも毎日彼の入院している病院へ通うのはやめなかった。
目覚めるのを誰よりも最初に見たかったから、その上でちゃんと謝りたかった。
そして一週間が経った、今日も私は彼の病室にいる。
彼の痩せて骨ばった頬を撫でる、ほんのり暖かかった。
「お願いだからっ…目を覚まして…」
「わたしは、どうすればいいの?蛍くん…っ」
「古野君も、担任の先生も、クラスの皆も、両親も心配してるよ…ぐすっ。」
「おーい、ケイいるかー?」
唐突に後から声がした。急いで涙を指で軽く拭って声の方へ振り向く。
「はい、篠木 蛍くんの病室はここです…よ?」
能力者の気配、病室に入ってきたのは蛍くんのお兄さんの、篠木 司さんだ。相変わらず筋肉隆々の体をしている。髪型はイメチェンしたのか、前髪が真ん中に分かれている。
「あーあ こりゃひどくやられたな。
うずめちゃんがやったのか?」
「...…はい。」
「そうか。」
「私を咎めないんですか?わたしは蛍くんを殺そうとしたんですよ?」
声が震える。
「でも、君を助ける為だろう?ケイが自分で決断したんだ、君と戦うと。」
「助ける…?」
「力による恐怖に打ち負けて殺人をする。目覚めたばかりの能力者によくある事だ。うずめちゃんは少し違うと思うがな。」
「結果、君を助ける事に成功した。君は助かった。それの何処に咎める要素があるんだ?」
「それは…」
返す言葉が見つからない、蛍くんはわたしを必死になって助けてくれた。
「もしも誰かが君を咎めたとしたら、ケイが黙っていないだろうな。」
「それに、もう少しで ケイは、目を覚ます」
「えっ?何故分かるんですか?」
「能力者というものはこんなんじゃ死にやしないよ、死ぬ時は世界から消されるんだ。」
背筋が凍るような恐怖を感じた。彼が、この世界から消される。そんなの絶対に嫌だ。
「それに、ほら見てみな。」
司さんは彼の寝ている布団をめくった。驚いた、切断されたはずの左腕が治っている。心なしか右手首の方も少しずつ治ってるような。
「あと2日3日経てば完治して、何も無かったように動けるようになる。」
「よかったぁ…」
彼が目を覚ます事を知り、大きく安堵した。また彼と話せる。一緒に歩く事か出来る。そう考えると嬉しくて仕方がなかった。
眠る彼の頭を軽く撫でながら。
「ごめんね、そしてありがとう…蛍くん。」
いつの間にか目から流れていた涙を拭いながら言った。