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忘却の命彩  作者: うどんこくろな
3/23

第二色 赤く染まった左腕

  胸が熱い―――肺と気管が焼き貫かれたようだ、息を吸おうとしても吸えない、吸えたとしても苦しいまま肺が、空気を含まない、虚しく空気の抜ける音が聞こえるだけ。

 「あまりにもふざけた事を言うから狙いが外れちまったよ、まぁ、苦しんで死にな、ははっ。」

  悔しい、あの男に馬鹿にされるのが悔しい、あの男に胸を貫かれたのが悔しい、あの男に勝てないのが悔しい、自分は何も悪くないのに殺されるのが悔しい。

―――死にたくない―――

 男はゆっくり去って行く。

 「ヒュー…!」

  待て!と言ったつもりだった、声すら出ない。 足掻いていると、 去ったはずの男が戻ってきて、僕の頭に手を当てた。

 「気が変わった、今すぐ死ね。」

 「!!!!」

 その言葉に僕は怒髪天を衝いた、残った左手に全ての力を込めて、男の腕を掴んだ。

 「おーおー頑張っちゃって、オラどうした、掴むだけか?」

 残る力を全て振り絞ったせいか、だんだんと意識が朦朧としてくる、そして視界が闇へと変わった。



 「…………―い……おーい…」

  声が聞こえる、起き上がってみると辺り一面が真っ暗だ。

 「おーい!!」

 「わっ!?」

 耳元で何者かに叫ばれかなり驚きつつも声が聞こえた方を見てみる、そこには1人の女の子が少し怒った様な顔で立っていた。

 「もー!呼んでも全然返事しないんだから!」

 「君は誰?ここはどこ?僕はどうなったの?」

 とりあえず疑問に思ったことを聞いてみる。

 「物怖じしないのね…まぁ急いでるからいいんだけど、ええとね、わたしは蛍くんの左手だよ!」


 「?????」


 なにを言っているんだこの娘は?と思ったが口には出さずにただ頷く

 「それでね、ここはきみの意識の中、時間が勿体無いから分かったら頷いてね!」

 釈然としないが、首を縦に振る

 「最後にきみはどうなったかだけど...。」

寒気がする、もう大体察しはついた。

 「あともう少しで死んじゃうの、んで、わたしはそれを助けに来たんだよ!」

  予想は当たった、当たり前の話だ、ん?助けに来た?

 「どうすれば助かるの?」

  思わず聞き返す。

 「簡単に言うと、戦えばいいんだよ!」

 「どうやって!僕はもう死ぬんだぞ!」

 あまりにもふざけた返答に声を荒げる、現に僕はもう動ける体じゃない。

 「ひゃうっ、おこらないで…ちゃんと説明するから。」

 自称金髪幼女の左手ちゃんは縮こまってしまった。

 「ええとね、きみの左手はただの黄色いだけの左手じゃない、すごい力をもってるんだよ。」

 「うーん、どう表現すればいいんだろう、」

  頭を抱えて考え込んでしまった。

 「まだかな?」

  呟く、そして、彼女は唐突口を開き

 「ごめんね!時間ももう無さそうだし頑張って!」

と、言ってどこからでもなく降りてきた紐をぐいっと引いた、すると急に世界が真っ白になり気が遠くなっていく。


  あの娘の顔、最後まで前髪で見えなかったなぁ。



  目が覚める、全身の痛みが消え右手も元に戻っている、そして何より、左手が眩く光っている。

 「なっ、なんだてめぇ!!」

  声が聞こえ、すぐさま立ち上がる、男は光に気づき、振り返る。相変わらず怒った様な顔でこちらを見ていた。

 「死ねやぁ!!」

 男は光る掌をこちらに向け光線を放つ、狙いは頭、驚いた僕は咄嗟に左手で頭を庇う、光線は光る左手に当たり大きな火花をあげて散った、左手にはなんの怪我もない。

 「これなら…戦える!」

  身体を前傾姿勢にし、地面を思い切り蹴って走りだす。自分でも信じられない速度で走ることが出来た。

 「ナメやがってええええ!!」

  男は凄まじい怒りの表情で光線を連射、僕は身体能力だけでなく視力も上がっているようだ、10数メートル先の男の目が僕の身体のどこを狙っているかが分かる。

  放たれた光線のうち第1射は走りながら首を僅かに左へ傾け避ける、第2射、 高く跳躍して避け第3、4射は体を捻り、避ける。

 「跳んじまったらもうよけられねえだろ!馬鹿がァ!」

  男は少しの間に力を貯め、光線を連射した。

 「確かにもう避けられないな...ざっと13本か、なら問題なさそうだ。」

  僕は迫り来る13本の光線を左手で全て弾いた。そして男のすぐ目の前に着地した。

 「ほら、問題ない。」

 「なっ、て…てめぇ!なにしやがった!その左手といい、さっきまでの情けねえてめぇはどうした!演技か!?」

 「見えなかったのか?光線なら全部弾いてみせただろう、あと僕のこの左腕は元々黄色いぞ。」

  僕は微笑しながら適当に答えつつ、少し調子に乗ってしまっている。それが仇となった。

 「死ねぇぇぇぇ!」

 男はスキを狙って僕の頭を右手で掴み、光線を撃った。

 「い゛っっ!」

  激しい痛み、だが頭には貫かれていない、どれだけ体が強化されているんだ? そんなことより先程の痛みに強い怒りが湧いた。

 「げっ、これでも死なねえのかよ!バケモンか!?」

  今もなお僕の頭を掴み、光線を撃とうとしている男の右手を思い切り弾く 。

 ”ぶちり”という鈍い音と共に男の右手首はちぎれ、遠くへ飛ばされた。

 「ぎゃああああああああ!!!ひっ、ひいいいい!」

  男は右手を抑えながら叫び声をあげ、僕に背を向けて逃げ出した。

 「待てッ!!」

  怒りが収まらない僕は地面を蹴り、逃げる男の所まで接近し、左手の拳を握る、心なしか光も増している。

  そのまま僕は男の背中を全力で殴りつけた。


 かしゅっと軽い感触の後、拳は空気を切る感覚がした。

  僕の拳はやすやすと男の身体を貫通し、その衝撃波でその穴は広がり、直径30センチほどの大穴を開けていた。

  男はぐらりと前のめりに倒れた。その大きな傷口からは鮮血がどくどくと流れ出ている。

  頭に昇った血がどんどん下がってゆく、極めつけに僕の黄色い手は今や男の血で真紅に染められている、そこでようやく僕は自分のした事の重大さに改めて気づいた。

―――僕は―――


ーーーヒトを―――


ーーー殺した―――


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