プロローグ
彼は正義感が強く心優しい人だった――-。
神の悪戯か、残酷な運命を背負わされた不幸な人間の1人。
―――戦わなければ、死―――
―――殺さなければ、死―――
殺しても記憶に残らない戦い。
大切な者が殺されても、その存在は、世界から消されてしまう。
生きる為に、自分の正義を貫く為、彼は何人も殺した。
それは、自分自身のエゴを押し付けているだけかもしれない。
殺した者の存在は既に世界に”初めから無かったもの”にされている。
ある日、かけがえのないものを殺され、目の前で消された。
―――彼の瞳から光が消えた―――
彼は多くの友人を失った、だがそれすらも、消されている。
それでも
―――生きろ―――
と言われたから。
失っていても、記憶に無くとも、それだけは覚えている。
彼の既に光の無い、真っ黒な瞳は何を見るのか。
力を持ったが為に何人、何十人も殺した、忌まわしい左腕か、それとも今も足元で横たわり、存在が消されつつある、人の骸か。
――殺しては――殺した事を苦悩し--記憶を消され――また殺す――
記憶は消されても殺したということが認識出来る。
それでも彼は戦う、己の正義の為、大切なものが自分を待っているから。
これは”彼”が、自身の人生を彩る、命の物語である。