夢の駅
気分転換&酔った勢いで書いてみたものです。
ここは夢の駅。
現実と夢の世界の狭間の限りなく夢の世界に近い場所にある。
だから、人々は目覚めた時にはこの駅のことを覚えてはいない。
「53923ホームからスパイの夢行きの電車が出発いたします」
「986438ホームから大好きなアニメ世界の夢行きの電車が出発いたします」
絶え間なく続くアナウンス。
続々と出発する夢の電車。
私は行き交う人々にもみくちゃにされながらも一枚の切符を握りしめ、自分の乗る電車のホームを探しさ迷い歩く。
雪崩のように次々と人々の波が襲ってくる。
腕を引かれ、構内の壁へと導かれた。
「不躾な真似をしてしまい申し訳ございません。何か困っているご様子だったのですが、あの場所では話を聞くことも満足にできないと判断し移動させていただきました。それで、何かお困りでしょうか?と言っても貴女はここに意識がある状態で来てしまって戸惑っているのですね」
ようやく人心地がつけ、心に余裕ができた。
顔を上げると、何処にでも居そうな眼鏡を掛けた駅員さんが目の前に立っていた。
私は必死に説明をする。
ベッドで寝ていたはずなのに気が付いたら切符一枚握りしめて駅構内に立っていたこと。
訳も分からず困っていることを。
駅員さんは相槌を打ちながら最後まで私の支離列滅な話を聞いてくれた。
お陰で多少私は落ち着くことが出来た。
「分かりました。とりあえず切符を拝見させていただけませんか?」
その言葉で私はお守りの様に握りしめていた切符を駅員さんに渡した。
手汗と握りしめてしまったせいでよれてしまった切符。
そんな切符を嫌な顔一つせずに駅員さんは受け取り、真剣な目で見ている。
「大切なあの人に会いに行く夢行きですね。もうすぐ出発してしまいますね…急ぎましょう」
駅員さんは腰にぶら下げていた鍵の束を手にし、壁に挿した。
壁だったところにはぽっかりと真っ暗な穴だけがある。
私の手を取り、駅員さんはためらうことなくその穴に足を踏み入れた。
恐くて反射的に目をつむる。
「間に合ってよかったです。さあ、この切符を持ってこの電車に乗って下さい」
駅員さんと繋いでいた手に握らせられたのは切符。
背を押され足を踏み入れると背後でドアが閉まる音がした。
目を開け振り返るとドアのガラスを隔て、笑顔を浮かべている駅員さん。
「良い夢を」
手を振り送り出してくれる駅員さんがゆっくり右へを流れていく。
訳も分からず勝手に電車に乗せられた私は混乱しきっている。
勝手に出発してしまった電車。
力なく誰一人いない電車の中、空いている席に腰をかけ頭を抱えた。
「切符の確認をさせていただきます」
顔を上げると真っ黒い人型の存在が立っていた。
どうにでもなれと投げやりな気持ちで切符を渡すとぐにゃりと視界が歪む。
「良い夢を」
次に気付いたのは懐かしいあの日が待っていた。
愛する彼が私の目の前にいた。
何故か私はいつも通りに彼に接する。
大好きなのに素直になれなくて憎まれ口を。
大好きなのにわざと彼を困らせるようなことをして。
それでも彼はいつも通りの笑顔を見えてくれて。
あぁ、幸せ。
隣に彼がいてくれるだけで私は幸せに満ち溢れている。
ぎゅっと強く彼の腕に抱き着くと、彼は私の頭を強く撫でた。
「そろそろ起きる時間だよ」
彼の言葉に急に色々な事を思い出す。
そうだ、彼はもう…死んでしまったんだ。
私の表情で彼も察したのだろう。
笑顔に悲しさが混ざっている。
「元気でな」
そんな言葉と共に私の意識は浮上した。
携帯のアラームが喧しく鳴っている。
早く止めなきゃと思いつつも、今は溢れる自分の涙を止めることに専念する。
「あー、久しぶりにあの人の夢を見ちゃったな」
嬉しさと悲しさが混在する中私は起床する。
二度自分の頬を叩き、自分自身に喝を入れる。
「さーて、今日も仕事頑張るぞ!」
ここは夢の駅。
現実と夢の世界の狭間の限りなく夢の世界に近い場所にある。
だから、人々は目覚めた時にはこの駅のことを覚えてはいない。
だけど、夢で逢った死んでしまった者達のことは覚えている。
夢の世界なら死んだ者達も介入しやすい特殊な世界故の事か。
今夜の貴方はどんな切符でどの夢の行き電車に乗って行くのでしょう?
「夢の駅は24時間年中無休で運営しております。疲れた際はお越しください」
作者は夢の駅で見たい夢の切符を買う想像をしながら寝てます(笑)