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夏色!!  作者: 雨月 照琵
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第1話:夏休み

7月中旬の満員電車の中、奥津莉真(りま)は涙目で必死に声を殺していた。

―どうしよ…。声だしたいけど…。誰か助けて!

必死にこらえていると男の手がスカートの中へと侵入してきた。

「―!!」

髪の毛がつきそうな肩を小さくふるわせる。

―あと…二駅もあるの……

そう、考えている莉真を抱き寄せる手があった。

「おい、おっさん。俺の後輩に何してんだよ」

莉真はぱっと顔を見上げて目を見開いた。

その声の先には同じ高校の制服を着た、ショートヘアといった感じの髪の少年が立っていた。

「今里先輩!?」

「てめぇも助けを呼べ!!」

どなり声にびくっと肩を震わせ抱き寄せられた体から離れた。

「あ…ありがとうございました」

電車を降りてからの道のり隣にはぴったりと先ほどの先輩…今里(みどり)が歩いている。

「あの…」

「何?」

「少し離れてくれませんか?」

莉真はうつむきぎみに静かに呟いた。

莉真の訴えに碧は小さく舌打ちをしてすたすたと歩いて行った。

その背中を見て大きくため息をつく。

―幼馴染だからって…親じゃあるまいし、少しうっとしい…

駅から学校は近く数分歩けばすぐ着くというところにある。

莉真は教室に着くと机に突っ伏した。

莉真の様子を見た友人、秋元萌が話しかけてきた。

「どーした?また、今里先輩となにかあった?」

顔をあげたその先には短髪の活発そうな少女が腰に手を当てて立っている。

「そーなの。せっかく明日から高校入ってから初めての夏休みなのに…」

また顔をうつむかせ頭を抱える。

「最悪だぁ」

「あの人もしつこいねー。だけど、校内で一番もててるんだよね…。あんなののどこがいいんだか」

「萌ちゃん…。その発言は全校の女子を敵にまわしちゃうよ?」

顔をあげてそう言うと萌は莉真の頭をくしゃっとなでる。

「んー?あんたが見方でいてくれればそれで十分だよ」

「萌ちゃん…」

莉真は困ったようにクスッと笑う。

「あんたは笑ってる顔のほうが可愛いよ」

萌は腕を組み考え込むように唸った。

「まぁ…今里先輩の気持ちもわからなくはないけど…」

その言葉に莉真は首をかしげて萌の顔を覗き込む。

「なんで?」

萌はあきれたという顔をして溜息をついた。

「だって…ってしょうーがないか…。あんた鈍感ちゃんだもんねー」

「それとこれとは関係ないでしょ!」

鈍感と言われた莉真はむっと頬を膨らます。

その顔をみて萌はくすくす苦笑する。

「関係あんの!結構あんた男子からモテてるんだよ!?そりゃー先輩も気が気じゃないよね」

莉真は目を見開いたが、すぐに平然とした表情に戻る。

「へー」

「うわっ、何そのいかにも興味ないです的な返事は!」

「だって…、あんまり男性に関して嫌な記憶しかないから」

「まぁねぇ…。でも、悪い奴ばっかじゃないとあたしは思ってるけど」

莉真は視線をそらすように目を伏せる。

「そんなこと…わかってるけど……」

萌が口を開きかけたと同時にチャイムが鳴り担任が教室へと入ってきた。



「やったぁ!終わった終わったぁ」

莉真は朝のテンションとは違いウキウキとした様子で鞄に荷物を入れている。

―朝のテンションはなんだったのだろうか…

萌やクラスメイトは口をぽかんと開けて莉真を見ている。

視線に気づいた莉真は首をかしげる。

「あれ?みんな、ポカーンとしてどうしたの?」

にこにことした表情でクラスメイトに問いかける。

男女問わず人気のある彼女のその笑顔にときめいたクラスメイトは何人いたことか。

―やっぱ、かわいいよねー。妹にほしいわぁ

―告白したいけど、今里先輩が怖いし…

「「なんでもないよー」」

「ふぅん…。変なの」



自宅にたどり着いた莉真は元気よく玄関をあける。

「たっだいまー」

そして足元を見ると見知らぬ靴が数足置いてあり、リビングからは賑やかな声がする。

―隣のおばさんたちでも来てんのかなぁ…

リビングの扉を開けると母・友子が笑顔で迎えた。

「あらっ、莉真おかえりー」

「ずいぶんにぎやかだね。誰か来てんの?」

「えぇ、前にほら言ってたでしょ?」

「あぁ、一ヶ月間くらい海外の別荘で過ごすっていう?」

にこにこしながら母はうなづいた。

「そうそれ、百合子さんたちと行くことになってるからね。今夜から百合子さんちの息子さんたちと一緒に過ごすのよ」

莉真はあっけにとられ鞄を落とした。

その鞄を友子はあらあらと言いながら拾った。

「えー!!一緒に行かないとは言ったけどそれは聞いてないよ!?」

友子は頬に手を当てうふっとほほ笑んだ。

「だぁって、言ってないもの。私たちは今日これから出発しちゃうからあとよろしくね」

納得のいかない顔で莉真はうなづいた。

「うん…」

(すい)君と清也君はすぐ帰ってくると思うから」

リビングのへと入ると父と今里家の夫婦が楽しそうに話していた。

父・久雄が莉真に気づき、そのあとで碧の両親・百合子、文次も気づく。

「おかえり、莉真。その様子だとお母さんからはもう聞いたみたいだね」

「留守の間大変だろうけどバカ息子たちをよろしく頼むわ」

「はぁ…」

友子は時計を見て大変とつぶやく。

「そろそろ、タクシーが来る時間だわ。じゃあ、あとよろしくね」

「うん。いろいろと納得はいかないけど…気をつけて」

親たちが出て行ったリビングで一人ソファーに寝そべる。

「碧はともかく…。清也さんと翠さんは久しぶりに会うのかぁ」

急に睡魔に襲われ、そのまま目をつぶってしまった。


『莉真ーっ。大丈夫か!?』

莉真は熱いアスファルトの上でうずくまって泣いていた。

『あ〜あ。こんなに血が出てる…。ほら、早く洗いに行こう?』

幼い少年の手が同様に幼い莉真のてを引いた。

『ふぇ〜ん。いたいよぉ、碧おにいちゃぁん』

『〜〜〜。ほらっ、いたいのいたいのとんでいけー。もう、大丈夫!』

泣きじゃくる莉真の頭をなでながら碧は呪文を唱えた。

『ほんとぉ?』

嗚咽をあげながら問いかける莉真に優しく笑いかける。

『うん!俺、うそつかないだろ!?』


小さい頃は優しかったのに…。いつからあんなになちゃったんだっけ……


重たい瞼をあげると、長髪の顔立ちの整った男性が顔を覗き込んでいた。

「あ、目さめた?だめだよ、女の子がこんな無防備で寝てたら…」

寝起きでぼーっとしてる頭で莉真は一生懸命考える。

―この人誰だ?

じぃっと顔を凝視する莉真に男性は苦笑して、頭をかいた。

「まぁ、しょうがないかぁ…。何年も会ってないからね。俺、清也だよ、覚えてる?」

やっと莉真の思考回路がつながる…と同時に莉真は顔を真っ赤にさせた。

「お、覚えてますよ!お久しぶりです」


―忘れるはずがないです…。ずっと…ずっと見てきたんです


『ただいまー』

いつも声が聞けるのはこの時…清也さんが大学から帰ってくるときだけ…

いつも2階の自分の部屋の窓から清也さんの背中を眺めてる…

―話したいな…。清也さんは私のこと覚えててくれてるのかな?

小さい頃の“憧れ”はいつしか“好き”という気持ちになっていた。

でも…、いつも碧先輩の邪魔で会話なんてすることはできなかった…


「どうかした?顔真っ赤だよ?」

「ほぇ?な、なんでもないです」

清也はにこりと笑って莉真の髪にふれる。

そのしぐさに莉真はどきっとした。

「きれいになって…見違えちゃったよ」

「あっあの…。――っ」

突然莉真はビクンと肩を震わす。

清也の指が髪から肩へ…そして頬へとなぞった。

二人っきりの音は蝉の鳴き声だけの静かなリビングで二人は見つめあった。

―はわわ…。心臓の音聞こえちゃうよ!!はずかしいんですけどー

「莉・真…」

「な、なんです?」

「なーんて、驚かせてごめんね。ほら、スカートがしわだらけになっちゃうから着替えておいで」

清也は意地の悪い笑顔を浮かべて莉真をソファーから立たせた。

そして、急に顔を近づけて耳元でささやく。

「なんなら、俺が着替えさせてあげよっか?」

「もうっ、からかわないでください!自分で着替えられます!」

莉真は少しむすっとしながら自分の部屋へ向かった。

その後姿を見て清也はクスッと笑った。

「かわいいなー。碧が会わせてくれなかった理由もわかるな」

―碧に負けないよう本気でいかなとなぁ…


莉真は一人部屋の中で着替え終わったあとボスボスと枕を叩いていた。

―恥ずかしいー。ひとりでドキドキしてバッカみたい…

「…でも、かっこいいなぁ…」

動悸を抑えてリビングへと入ると碧と翠も来ていた。

短髪の髪の男性が腕を広げて莉真を迎えたが、莉真は苦笑してスルーした。

「あ、莉真ちゃん。久し振りー。って…ちょっと冷たぁい」

「お久しぶりです。あ、お部屋のほうは一人一部屋で用意しておきました」

「サンキュー、莉真」

近づいてきた碧から莉真はさっと後ずさる。

―そうだった!すっかり、忘れてた。このひともいるんだった!!


さぁ、なんだかひと波乱がありそうな予感…莉真の夏休みはどうなるんでしょうか?

夏休みのお話しということで連載ですが短くやらせていただきます。


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