3.テンプレにすがらなければならない「理由」
「なろう」の流行テンプレを見ていて、不思議に思った事があった。
「異世界転移」「異世界転生」「チート」。このあたりはまだ分かる。
「現実世界ではダメダメな俺だけど、異世界に高飛びしてチート能力さえ身につければワンチャンあるで!」
「嫌われ者でも! 憎まれっ子でも! やられ役でも! 主役を張れるって証明したい!!」
きっと私を含め「世の中クソだな!」と思った事のある人なら、一度は夢見る事じゃなかろうか。
しかしよく分からなかったのは「悪役令嬢」「婚約破棄」といった流行テンプレだ。
あ、もちろん言葉の意味そのものは分かるよ? でもコレ、一体どういうジャンルなんだ?
興味が湧かない以前の問題で、まるで意味が分からなかった。
前者の3ワードはなんとなく、どういう話なのか想像がつくし、流行する理由も推測できるのだけど、後者の2ワードはよく分からない。
「悪役令嬢」を考察するエッセイとかも幾つか読んだけれど、いまいちピンと来ない。「婚約破棄」に至ってはまともなエッセイすらない。
ところがである。基本的に作者は皆、無意識の内にポイントを欲しがっている。
正確に言うとポイントそのものが欲しい訳じゃなくて、多くの人に見てもらって、あわよくば承認欲求を満たしたい。
そう考えると──「悪役令嬢」「婚約破棄」といった、一見意味不明な流行テンプレに皆が乗っかる理由も、見えてこないかい?
何年か前と違い、「なろう」は人が増えすぎた。
無名の人が、ただ書きたい小説を書いても、一瞬で更新が流され、誰の目にも留まらず埋没してしまう。
「ほんのわずかな人でも、自分の作品を楽しんでくれてるって事が分かればいいな」
そんなささやかな願いすら、無慈悲に踏みにじられてしまうぐらい、今の「なろう」の荒波は容赦ない。
じゃあどうすればいい? 一人でも多くの人の目に留まるように、工夫するしかない。
だから今流行のテンプレに頼るんだ。
異世界に行く必要性が薄いテーマであっても、主人公は最初に異世界に飛んでいってしまうんだ。
だからタイトルを、本来つけたかった表題をしまい込んでまで、長々とした文章みたいなのにしてしまうんだ。
少しでも多くの人の目に留まってもらうために。読んでもらうために。そして認めてもらうために。
内情を知らない、外の世界の人間からすれば、滑稽に思えるかもしれないが、理由がちゃんとあったんだよ。
文章が上手い下手とか、あんまり関係が無い。
就職したい会社があったとして、告白したい恋人がいたとして。
履歴書すらも見て貰えなかったら? 会う事もできなかったとしたら?
それと同じだよね。そもそも読んでもらえなければ、スタートラインにすら立てないんだから。
だからこそ、「なろう」の中の世界を知らない外の無責任な人たちや、内情をよく知らない読者からも、
「この話で異世界転生する必要ってある?」
「チート無双すりゃいいってもんじゃあねえぞ」
「このキャラそもそも悪役令嬢じゃないじゃん」
「主人公が婚約破棄してないし!」
とかなんとか言われちゃう訳だ。
書き手も多分、好きこのんでテンプレに乗っかってる訳じゃないんじゃないか?
テンプレを使わないと、そもそも目にすら留まらないんだもの。
本当にテンプレものが書きたくてやってる訳じゃないなら、上記のような意見が飛び交い、テンプレワード自体の定義もあやふやな理由も、分かる気がする。