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《 第65話 安らかな夢を 》

 


 宿に戻るとクラウスに寝ろと言われてベッドに直行させられたのだけど。

 色々あり過ぎて疲れてクタクタなはずが、なぜか目が冴えて寝つけずにいた。



 朝日とともにグリの姿となったネストはシュナル殿と騎士をしごくのに楽しみを見出したとか言って、シュナル殿に付き添う騎士と同じ部屋に居座っている。



 私が寝付けない理由の一つにクラウスが入っている。

 階下の食堂で護衛騎士と一緒にいたはずのクラウスが、なぜか私の部屋にいるんだよね。

 一昨日宿に着いた時はルディと一緒の部屋だったのが、私は別の部屋に移動させられた。

 一昨日泊まった部屋より広くてソファーセットに大きなベッドが一つ。調度類も凝った造りをした物が並んでる。

 宿屋で一番高そうな部屋みたい。

 ベッドが一つなのが気になるけれど。

 クラウスは部屋に入ってくるとソファーに座り何か書き始めた。



 仮面とはいえ夫婦だから一緒の部屋にされるのはわかるのだけど。

 最近では就寝時に私の部屋にやってきては、ずっと居座り続けていたから今さらでもあるのだけれど……。

 クラウスの本音とあの強引な口づけの後ではなんだか余計に落ち着かない。

 そういえば二度もされたんだよ。

 うう〜っ、顔から火を噴きそう。



 私はクラウスにされたあれやこれやを頭から追い払ってベッドから起きると、クラウスの向かい側のソファーに座った。

「急ぎの仕事?」

 クラウスはペンを走らせる手を止め顔を上げた。

「陛下に報告する書類だ。なんだ寝つけないのか?」

「まあ、そんなとこかな。外も明るくなってきちゃったからね。湖の畔一帯に出来た野菜畑はどうするの?」

 クラウスが気になって寝られませんとは言えないし。



「邪神の話によると食べても害はないらしいが、確認次第問題がなければ収穫するように伝えてある」

「ふむふむ、なるほどね〜」

 あっ、こっそり味見するのを忘れてた!

 今から収穫の手伝いに行こうかなぁ。

「収穫した物をいくつか宿に届けさせるが、あと数時間後には町を出る。おまえは寝ろ」



 うっ、考えている事がばれた?

 収穫作業に皇太子妃が混ざっているのがバレたら大騒ぎになっちゃうか。

 あの時の光景を絵にしておけば良かった。

 仕方ない大人しくベッドに入って寝たふりでもしてようかな。

 私はベッドに潜り込もうとしてクラウスを振り返った。



「もう皇都に戻るの?」

「今回の件で色々対策を練る必要があるからな」

 今までも忙しかったのに、皇宮に戻ったらまた忙しくなるのなら。

 ネストの問題はまだまだ解決とは言えないけれどせめて今くらいは。



「クラウスも休んだほうが良いよ。あ、私がソファーで寝るからクラウスがベッド使って」

 皇都から湖までの長距離移動で疲れていると思うから。

 ベッドを明け渡すために、脇に移動しようとしたら。

 クラウスも眠くなったのか書き物を中断しソファーから立ち上がると、ベッドにやって来た。



「仕方ない。つきあってやろう」

「つきあうって?」

 ブーツを脱いでベッドに乗り上げてきたクラウスに手を引っ張られた。

「わぁっ、急に何するの!?」

 クラウスが伸ばしてきた手を避けるより早く、私の身体はベッドに倒されクラウスの腕の中にすっぽり収まってしまった。



「クタクタになればぐっすり眠れるぞ。試してみるか?」

 クラウスの長い指が頬に触れ、顔を上げさせられ視線が合う。

 ドキリとするほどクラウスの顔が近くて、青紫の瞳がとても綺麗で思わず魅入っちゃいそうになる。

 クタクタになるような事が何か、なんて聞かないに限るよ。

 大体もうすでにクタクタなんだから。



「ま、間に合ってます。ソファーで寝るから腕を解いて」

 距離を開けたくてクラウスの身体を腕で押しやってもびくともしない。

 それどころか、顔をさらに近づけてくる。

 これは貞操の危機かも!

 身構えるとクラウスが私の耳元でふっと笑った。

「冗談だ。こんな田舎町の安宿で初夜を迎えるつもりはないから安心してベッドで寝ろ。寝付けない妃のために添い寝してやろうってだけだ」



 安宿じゃなかったら……なんて考えるのはよそう。

 タチの悪い冗談は心臓に悪いよ。

 クラウスに頭を撫でられて悪い気はしない温かくてすごく落ち着くから。

 でも……。

「子供じゃないんだから……」

 添い寝はいらないと言おうとして、突然押し寄せてきた睡魔に自分の意思を逆らって瞼が閉じる。



 いつ頃からかな。

 クラウスが側にいるだけで、悪い夢を見なくなった気がするのは。

 最近毎晩寝る時に私の部屋にやって来ては、私が寝付くまで部屋に居座っていたのって……。

 私が悪夢にうなされていたのに気づいてたから?

 そうだったら嬉しいけど、都合がよすぎる考えだよね。

 いつか聞いたら答えてくれるかな。



「セシリアに安らかな夢を」

 遠くで優しくささやく低い声を聞いた。

 瞼に柔らかで温かい何かがそっと触れていった時には、私の意識は現実から遠い宙に彷徨い出していた。






「リア様……、セシリア様」

 夢か幻聴か懐かしい声が聞こえる。

 この声はマーヤだ。

「どうかこのマーヤに愛くるしいお顔を見せて下さい。セシリア様!」

 体をガクガク揺さぶられ目を開けると、久しぶりに見るマーヤの顔が飛び込んできて突然抱きつかれた。



 起きろと言っておきながらのしかかられていたら起きれない。

 久しぶりに会っても相変わらずな、マーヤの主人第一主義のセリフには聞こえなかった事にしよう。

 それより青ざめた顔で瞳に涙をためて、何があったの!?



「落ち着いてよマーヤ」

 私はとりあえずマーヤの背中をポンポンと軽く叩いて落ち着かせると、マーヤは体を離してくれた。

 起き上がって周りを確認。

 ここは私室棟の私の部屋じゃなくて湖の近くの町の宿だね。

 マーヤの手が私の顔や肩に腕を触ったり曲げ伸ばしたりと確認してくる。



「どかこかお怪我は? 痛むところはありませんか?」

「ちょっとマーヤ、くすぐったいったら! どこも怪我してないし、痛いところもないよ。そんな事よりどうしてマーヤがここにいるの?」

 マーヤは一通り確認して気が済んだのか安堵のため息を吐く。

「クラウス様から報せを受けたギルベルト様から、セシリア様が侍女に扮した間者と湖に向かったと聞いたのです」



 侍女に扮した間者ってルディの事だね。

 クラウス、いつの間に皇宮にいるギルベルトさんに連絡したんだ。

 マーヤは私の両手をぎゅっと握った。

「町に着くなりセシリア様が湖に身を投げ出されたと聞かされ、マーヤは心配で心配で気が変になりそうでした」

「心配させちゃってゴメン。でも、よく皇宮を出られたね」

「クラウス様が許可を出されたのです。ですがマーヤはあの方が許可を出さなくてもここに来るつもりでした」



 ふんっと鼻息を荒くするマーヤ。

 そうだね、マーヤならきっと来てくれると思う。

「マーヤ、ありがと」

 なんだか照れくさくなって笑うとマーヤがまた抱きついてきた。

「セシリア様〜っ!」

 こうして私とマーヤは久しぶりの再会を果たした。



 身支度を整えた頃、部屋の扉がノックされた。

「入るぞ」

 クラウスが部屋に入ると後ろからギルベルトさんにシュナル殿、そしてルディが部屋に入って来た。

「ご無事で何よりです」

 ギルベルトさんが眼鏡の奥で穏やかに微笑むと、その隣でシュナル殿が居心地悪そうに頭をかいた。

「ゴメン、じゃ済まないよね。僕、色々しでかしてるから。先に謝っとくよ」

 シュナル殿はその場に片膝をついて頭を下げる。



「今回、いやその前から私サムエル・シュナルは妃殿下に許されない罪深い事をしました。ここに陳謝しどのような処分も受ける所存です」

 ええっ、と叫びそうになる声を私はなんとか飲み込む。

 いつものシュナル殿じゃない!?

 私は間抜けにもぽかんと口を開けたままシュナル殿の謝罪を聞いていた。

 シュナル殿が言葉を終えると、今度はルディが床に膝を着いた。

「主人の命とはいえ、妃殿下を危険な目に合わせたのはこの私です。謝罪申し上げます」

 膝を着き頭を下げたまま動かない二人。



 え〜と、起き抜けにいきなりこれは面喰らう。

「クラウス、どうなってるの?」

 クラウスは長ソファーに座ると、無表情で隣をぽんぽんと叩いた。

「とりあえず座れ」

 隣じゃなくても座るソファーはあるのになぁ。そこに座れって事ですか。

 話を先に進めるために私はクラウスの隣に座ったよ。






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