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《 第60話 ナミスとルンテ 》

 



『耳障りだ騒ぐな小動物』

『聞こえているわ』

 球体の中に神経質そうな声と、おっとりとした大らかな声が流れてきた。

 さっきネストが言っていたルンテとナミスの声だ。

「聞こえているなら下に降ろしてくれ」

『黙って聞いておれば、我々の娘に馴れ馴れしくしおって。湖底に沈めてやろうぞ』

「なんだとぉ。この陰険腐れ神!」

 ネストとルンテって仲が悪いんだね。

 思い出したこの二人、元恋敵同士だったよ。



『その口聞けぬようにリスに戻してやろうぞ』

「力を使うなんざ卑怯な奴がする事だ。剣で勝負しろ!」

 神のルンテ相手に喧嘩を売るネスト。

『クックックッ、リスの姿になった暁には剣なんぞ持てぬぞ。リス用の剣でも使うか?』

 ルンテが小馬鹿にしたように笑えば、ネストが湖の下に向かって人差し指をビシッと突きつけている。



「軟弱な奴め。お前は神失格だ!」

 声と声から火花が飛んでいるみたいだ。

 ネスト、神様にそんな口を聞いたらダメだよ。

 ルンテの神様、あなた大人気なくないですか?

 とかまあ、色々ツッコミどころが多過ぎる二人。



 ぽかんと二人の会話を聞いていた私にナミスが声をかけてきた。

『騒がしくしてゴメンなさいね。あの二人いつもああなの』

 喧嘩が本格化して地上に被害が及んだら困るよ。

「放っておいて大丈夫ですか? フェストランドやラルエットを破壊されたら困ります」

 ナミスは私の耳にだけ聞こえるように小さな声で囁いた。



『大丈夫よ。本当は仲良しさんなの』

 仲良しには見えない。

 二人をよく知るナミスが言うのだから、ケンカするほど仲が良いのかも。

 カティヤ姉様とターニャ姉様みたいな感じかな。

「さっきルンテさんが言っていた我々の娘って私の事じゃないですよね?」

 ナミスに聞いたつもりが返事を返したのは。



『セシリア、我々の事はダディかマミーと呼ぶが良い』

 いや、それは無理。なぜ神様と伝説の守り姫をダディマミー呼びしろと?

「ええと、それは不敬に当たるかと」

『気にせずとも良い。照れておるのだな。やはり娘はかわゆらしい』

 ダメだ、話が通じない。



『ルンテ、セシリアが困惑してるわ』

 ナミスの言葉に水を得たとばかりにネストが賛同する。

「そうだぞ。じじぃの分際で何がダディだ。図々しい」

『じじぃではない。それを言うならお前とて何百年生きておる』

 また始まっちゃったよ。



 今度はナミスがすぐに止めに入ってくれた。

『どっちもどっちよ。地上の世界ではあなた達はおじいさんをとっくに通り越しているわ。ちょっと静かにして』

 ナミスの言葉にネストもルンテも口を閉じた。

『セシリア、わたしとルンテの事は名前で呼んでくれて構わないわ。それと敬語もなしね。娘というのは、わたし達が勝手に言っている事だからあまり気にしないでね』

 特に意味がないのなら気にしないよ。

 敬語禁止かぁ。本人がそう言うのなら。



「わかった。聞きたい事があるのだけれど」

『何かしら?』

「ルンテはどうしてネストに暴発するような力を与えたの?」

 答えはルンテから返ってきた。

『ネストは我々とセシリアを繋げる橋渡しのようなものだ。いわば使い魔というものだな。だから力を与えてやったのだが、制御出来んとは情けない』

 ネストは邪神じゃなくてルンテとナミスの使い魔だったんだね。



 聞いていたネストはすごくイヤそうな顔をしている。

「俺はルンテのパシリだったのかよ。最悪だぜ」

『使い魔の任を解いてやっても良いが、力を失ったただのリスとして一生どんぐりを漁るが良い』

「勘弁してくれ。せっかく人間の姿に戻ったってぇのに」

『人間の姿に留まりたくば、力を制御する事だな。まあ、お前には無理だろう』

 嘲笑うルンテにネストはなんだか得意げな顔をした。



「いいや、今回は訳が違う。セシリアのお陰でどうにかなりそうだからな」

『やれるものならやってみるが良い。制御出来ず暴発させ、この地を守るどころか悪影響を及ぼすようなら氷漬けにしてやろう』



 仲が悪そうに見える二人だけど、ナミスの言葉がちょっとわかったかも。

 二人とも罵り合っているけれど、なんだか生き生きしている。

 ルンテがどうしてネストに力を与えたのかもわかっちゃった。

 ナミスを助けるために湖に入ったネストの命を救うために力を与えた。そんな気がする。

 そう思いたい。だってルンテは神様でしょう。

 ネストはルンテに水攻めされたって言っているけどね。



 真実は当時の人々によって湖の底に沈められちゃったけれど、このまま真実を沈められたままにしておくわけにはいかない。

「ルンテ、フェストランドの民は異常気象をネストの祟りだと信じて、ずっと怯えているんだよ。このままにしておくのはどうかと思うの」

『お前は優しい子だな。心配する事はない』

『ネストの問題ですもの。彼に任せれば大丈夫よ』



 なんと、ネストに丸投げですか!

 そんなんで大丈夫かなぁ。すっごく不安だけど、湖の神と伝説の守り姫二人が言うのなら。

 二人はネストを信じているみたいだから、私は頷いた。

「わかったよ。ところで二人と話せるのはこれが最後?」

『我々と話がしたいのか?』

「知り合ったのも何かの縁だからね。昔話とか聞きたいなぁって」



『ナミス、やはりセシリアを我々の』

『ルンテ。セシリア、わたし達はずっとここにいるわ。だからいつでも会えるわよ』

 私は頷いた。ルンテもナミスも良い人だね。



「ルンテ、そろそろ降ろしてくれ」

『セシリア、我々のところに再び会いに来るのだぞ』

「約束するよ必ず行くね」

『少し眩しくなる。目をつぶっているが良い』

 ルンテに言われた通り目を閉じると、ふわりと体が浮き温かなものに包まれた。

『ネスト、セシリアの事をお願いね』

「わかってる、任せときな」




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