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《 第55話 愁いをおびた麗人 》

お立ち寄り下さりありがとうございます^_^

作者がまた配分を間違えて今回もちょっと短いですm(_ _)m





 トール湖は真冬でも凍らない湖として古くから知られている。

 真っ暗な湖には薄雲のかかった月が淡い光を水面に降り注ぎ、風もない静かな夜だった。

 湖の周りは遊歩道になっていて、休憩用に東屋が設置されている。

 その東屋から湖を眺めるシュナル殿の姿を発見した。



 遊歩道を照らす街灯の灯りが東屋の中を斜めに照らし、女性と見間違うほどの美貌に光を当てていた。

 そこだけ夜の女神が舞い降りたような一枚の絵になっているみたい。

 シュナル殿の表情はいつもの明るいおちゃらけた雰囲気が消えていた。

 なんだか寂しそうな、どこか辛そうな感じにも見える。

 どうしたのかな?



 私は静けさを破るように明るい声でシュナル殿に声をかけた。

「おーーい、シュナル殿ーー」

 こちらに顔を向けたシュナル殿はいつもの微笑みを浮かべた後、私の顔を真剣な瞳でジッと見つめてきた。

「女の子が暗い夜道を一人で出歩いちゃダメだよ。悪いオオカミさんに食べられちゃうからね」



 そのオオカミさんにも選ぶ権利はあると思うよ。

 平凡娘な私より中性的な美貌の持ち主シュナル殿の方がよっぽど危ないから。

 男だと知らずに美女だと思って声をかける人がいてもおかしくないはず。

 そんな事は言えないけどね。

 私はシュナル殿の隣に座った。



「大丈夫ですよ。私にはお守りがあるから」

「お守り?」

「何かあった時のためにこの中に便利グッズが入っているんです。え〜とね〜」

 私は手提げ袋を開き中を見せようとしたら体が傾き……。



「え?」

 気がついたら頭や背中には硬い木の感触があたり、シュナル殿に見下ろされていた。

 私の顔の横に片手をつき、もう片方の手が頬に触れてくる。

「ほら、簡単に襲える」

 突然の事に心臓が飛び跳ねた。

 妖しく艶やかに笑う灰色の瞳に街灯を浴びた赤い髪。

 そして、シュナル殿から漂うお酒の匂い。



 シュナル殿は男性なのに、なんだか美女に押し倒されているような、危ない世界に迷い込んじゃったような錯覚がする。

 シュナル殿は女好きの冗談好き。深い意味はないよね。

 これはきっと一人で出歩いた軽率な私へのシュナル殿流の注意だよね。

「気をつけます」

 反省の言葉を口にすると。

「お利口お利口」

 頭を撫でられちゃったよ。子供のようなシュナル殿に子供扱いされているみたいで、なんだかちょっと複雑だなぁ。



 シュナル殿が私の上から起き上がると、体をかがめて地面から何かを拾い上げた。

 あ、手提げ袋。きっと押し倒された時に落としたんだ。

「ちょっと泥がついちゃったね……このカードは」

 手提げ袋の土をはらってくれていたシュナル殿の手がピタリと止まる。

「それは私の侍女がお守りの絵に似ていると言って、配属先から送ってきたのです。元の場所に返すつもりがうっかりしていました」

 シュナル殿はカードから目を離さず聞いてきた。



「お守りの絵?」

「シュナル殿が持っているその紙です」

 シュナル殿は紙を広げカードと似たような描き方、子供が描いた殴り書きのような絵を無言で食い入るように見つめている。

 もしかして、この絵に興味があるのかなぁ?

「あの、シュナル殿?」

 そんなに気に入ったならあげるべき?

 いやいや、師匠が私にってくれた絵を勝手にあげちゃっても良いのかなぁ。

 私が悩んでいると、シュナル殿は紙とカードを手提げ袋にしまい私の手に乗せた。



「ゴメンゴメン。インパクトがある絵に驚いて呆気にとられちゃった。ところで君は夜の湖に何をしに来たの?」

 そうだった。湖に来た目的を忘れちゃダメだよね。

「昼間シュナル殿が教えてくれた古文書の内容を考えていたら、夜の湖に何かあるのかと思って」

「君も調べに来たんだね」

「シュナル殿も?」

 シュナル殿は肩をすくめた。

「僕もそう思って調べてみたけど、昼に来た時と違った変化は何もなかったよ」

 シュナル殿はもうすでに調べていたのか。



「特に変化はないとなると……」

「ロザリー王女は湖畔の浅瀬を歩いて突然姿を消した……古文書の通り浅瀬も調べたけれど特になかったよ」

「あとは湖の中しかないですよね?」

 人差し指を頰にあてながら首を傾げるシュナル殿。

「湖の中か〜……ナミスは湖に身を沈めたと言われているから、ロザリー王女はナミスの加護を信じて湖に身を投げた……まさかそんな事するかなぁ」



 生き詰まっちゃったね、と笑うシュナル殿。

 ロザリー王女は身を挺して自分の疑惑を晴らしたの?

 やっぱり湖の中で何かあった……?

 考えを巡らせていると、シュナル殿が思い出したように声をかけたきた。



「あ、そうそうクラウスの事だけど。クラウスって疲労なんて何それって感じで、涼しい顔してなんでもこなしちゃうけど、最近はかなり疲労がたまっているみたいだね。少しの眠り薬で熟睡しちゃうなんて限界ギリギリかも」

 クラウスはそんなにも無理をしているんだね。

 私のせいでクラウスが倒れたら……そんなのはイヤだ。



「シュナル殿はクラウスの事をよく見ているのですね」

 ほんと、私って何をやっているのかな。クラウスの様子に気付きもしないなんて。

「僕とクラウスは付き合いが長いからね。あれ、元気ないね。どうしたの?」

「私は仮面でも妃という立場、クラウスを支えるべき立場なのになんだか情けなくて」

 こんな自分がイヤになって、膝の上に置いた手を見つめながら思わずポツリとこぼす。



「君には君にしか出来ない事があるはずだよ。だから落ち込まないの!」

 シュナル殿が元気づけるように、私の頭をポンポンと軽く叩いてきてくれた。

 いつでも明るいシュナル殿の声と、頭に触れる手の温かさになんだか元気づけられたよ。



 私がシュナル殿にお礼を言おうと顔を上げた時。

 町がある方角から湖に向かって遊歩道を歩いて来る人影を見つけた。

 街灯の明かりに照らし出されたあの姿。



 え、嘘でしょう……。

 なんでこんな所にいるの?

「シュナル殿……」

 私は困り果てて横に視線を向ける。

 シュナル殿もこっちに一直線にやってくる人物を見つけ声を出した。

「あっ」

 シュナル殿の表情が驚きから、形の良い唇が持ち上がり微笑みへと変わる。

 灰色の瞳の中で何か光が揺れたように感じたのは気のせい?




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