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《 第52話 仮面妃、あれこれ考える 》



 このままじゃダメだと思う。

 モニカさんやカミーラさんのように私が偽の王女か本物か、確かめようとする人が出てくるかもしれない。

 たびたびどこかに閉じ込められるのも困るけど、それより命の危機にさらされる事になったらたまらない。

 何よりこれ以上クラウスの迷惑になるような事は避けたいから。



 同じ事が繰り返し起こる事を防ぐためには、噂の根っこを引っこ抜かないと。

 私が本物のラルエット王女だと証明できたら、私と異常気象を結びつけて考える人が減るかも。

 そのためにも今の状況をなんとかしないとね。



 私が本物だってどうやって証明すればいい?

 シュナル殿は物じゃダメだと言っていた。

 私はシュナル殿から届いた手紙を読み返した。

 シュナル殿の手紙には湖に行く必要があるとだけ書いてある。

 ネストとナミスが出会ったと言われている、フェストランドとラルエットの国境沿いにあるトール湖。

 そこに行けば何かわかるかもしれない。



 私はシュナル殿に手紙を書いて、前にアスタが借りてきてくれた本『野菜の冒険』にはさんだ。

 内容はシンプルに一言だけ。

『湖の件について詳しく教えて下さい』

 いくつか借りっぱなしだった本と一緒に、オルガさんに返却をお願いした。



 雪見茶会の誤解は解けても、私は相変わらずのインドア生活だからね。

 理由はアスタに赤い粒を売った人物が見つからないからだ。

 基本外出はクラウスと一緒じゃないと許可が下りない。

 なんだか最近クラウスが過保護な親に見えてきたよ。



 私は返事がはさまれていないか確認するために、怪しまれずに大きな図書室に行ってみたいとお願いしてみた。

 そしたらクラウスが中央棟の図書室に連れて行ってくれる事になった。

 皇宮で大きな図書室と言えば、中央棟の図書室だから。



 本を返却してもらってから三日後。

 私はクラウスと中央棟の図書室に来ていた。

 クラウスは図書室の中央にある物書き机に持ち込んだ紙の束を広げて、ギルベルトさんと政務の事で何やら話し込み始めた。

 一緒に図書室に来るといつもこんな感じだ。

 私が本を探している間、クラウスは報告書と睨めっこか、ギルベルトさんとミニ会議。



 私は『野菜の冒険』の棚からこの前返却した巻の次巻を取り出してペラペラめくる。

 あっ、あった!

 ページの後ろの方にミニカードくらいの小さな封筒がはさまっている。

 それをドレスのポケットにしまい、『野菜の冒険』とは別にいくつか本を選んだ。



 部屋に帰ってから小さな封筒を開くと、中から二つ折りにされた小さな便せんが出てきた。



『親愛なるメイドのシシーちゃんへ。

 君の気持ちはわかったよ。僕が力を貸してあげる。

 クラウスを足止めしておくからその隙に抜け出せるように手配してあげるよ。

 ルディという侍女に話をしておくから、詳しくは彼女から聞いて。

 最後に周りやクラウスには湖に行く事は言わない方が良いと思う。君にはすごく過保護なパパになるみたいだからね。

 湖で会おう 救世主より』



 いつどうやって皇宮を出るのかは書かれていない。

 ルディという侍女に聞けば良いらしいけど、彼女の特徴も書かれていないから探しようがないなぁ。

 色々ツッコミどころがある内容に私は困り果てた。



 最後のクラウスに言わない方が良いって言葉には納得できるんだけど。

 過保護パパ……シュナル殿にも言われているよ。

 抜け出す時には置き手紙をして行こう。

 事情を書いて皇宮を出れば、手紙を読んだクラウスが上手くやってくれそうだ。

 その辺の手まわしは得意そうだからね。



 出発がいつかわからないから今のうちから準備をしておこうかな。

 旅行用の荷物をまとめておいたら、衣装部屋に入ったオルガさんに変に思われるかも。

 う〜ん……大きな荷造りはできないか。

 私は夜ベッドをこっそり抜け出して衣装部屋で一人あれこれ悩むのだった。



 シュナル殿から返事の手紙を受け取って三日後の日が暮れる前。

 クラウスから急用ができたから、晩餐は先に食べているようにと伝言がきた。

 最近は仮面夫婦を徹底したいのか、朝食も晩餐も二人揃って食べているんだよね。

 政務で忙しいならわざわざ私室棟まで戻って来なくても良いのにね。



 フェストランドに来てからはほとんどお一人様食事だったから、二人に慣れちゃうとまたお一人様に戻った時にその光景に慣れるのに苦労しそうだから。

 なるべくクラウスとは距離を置きたいのに。



 最近のクラウスは私のプライベートにずかずか入って来る。

 図書室や姿絵の広間に連れて行ってくれるのは嬉しいけど、二人の時間に慣れたくない。

 何よりクラウスに負担になるような事をさせたくないから。

 過保護な父親となったクラウスパパに私の心は複雑だった。



 久しぶりのお一人様食事を済ませて、入浴を済ませ寝支度が整うと、オルガさんが就寝の挨拶をして部屋を出て行った。

 私は皇宮を抜け出した時のためにクラウス宛に手紙を書いた。

 クラウスはまだ政務に追われているのかな?



 最近のクラウスは寝る前に私の部屋にやって来て、なぜか読書を始める。

 自分の部屋で読めば良いのにね。

 一向に部屋に戻らないクラウスにいつも根負けして、クラウスより先に私がベッドに潜る事になるのだ。

 クラウスの理解不能な行動。何をしたいのかわからない。



 きっとこの部屋が居心地良くなったに違いないよ。

 あの意地悪クラウスが乙女趣味に目覚めたのかも。

 正妃の部屋、つまり女性向けの部屋が居心地良いなら、自分の部屋をリフォームしたら良いのにね。

 そんな事を考えながら私はベッドに潜った。

 乙女趣味なクラウスが夢に出てきそうだ。



 乙女趣味なクラウスを頭の隅に追い払い、私は皇宮を抜け出し湖に行く事を考えていた。

 勝手に抜け出してクラウスは怒るだろうな。

 でも、結果良ければ全て良しだよ。

 私がラルエット王家の血を引く王女だと証明できたら、クラウスの負担を一つ減らせるんだから。

 あれこれ考えるとなぜか寝付けなく、私は借りてきた本を読んで過ごした。




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