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《 第50話 これがラルエット流です 》



「この前の雪見茶会での二人の行動、そして今聞いた話から、あなた達は友人思いで優しい人なのだとわかりました」

 私の言葉に二人は意表を突かれたようにポカンとしている。

 眠り薬を盛って、寒空の下冷え込む小屋の中に置き去りにした相手から誉められたら訳がわからないよね。

 友達思いのこの二人、根は悪い人達じゃないと思う。

 さて、ここからが本題。



「ですが、あなた達のした事は同じ方法で処罰されても当然の事ですよね?」

 二人はゴクリと喉を動かした。

「私達は毒を飲んで償えば良いのですか?」

「いいえ、私が飲まされたのは毒ではなく眠り薬です。閉じ込められましたがなんとか助かりましたし、その後あなた達からさも私に非があるような発言をされた私は散々な目にも遭いました。でも、真実が明るみになったので私の汚名は拭われたと思います」



「では私達はどうしたら……」

 はっきり言って人を裁くなんてやった事ない。でも私はアリーサ姉様を真似してみようと思う。

 にっこりセシリアスマイルを発動させた。



「私はこれから二人にとても厳しく、過酷な罰を与えなくてはなりません。あなた達はその罰に耐えきれなく逃げ出したくなるかもしれません。ですが逃げ出す事は許されません」

 私の言葉に二人が不安に震える瞳を向けてくる。

 命を取ろうだなんて考えてないけれど、私が何を言い出すのか二人には見当がつかないんだろうな。



 あまり長引かせるのも可哀想だからこの辺で締めくくりますか。

 私は二人の顔を交互に見てからゆっくり告げた。

「二人には皇宮にて住み込みでの奉仕活動を命じます」

 瞬きをする二人とエルナさん。そして眉を寄せるクラウス。

「罪を犯した人間を皇宮に入れるのか?」



 普通に考えたらそうくるよね。

「皇宮といっても二人の行動範囲は制限されます。モニカさんには図書室で、カミーラさんには温室で奉仕活動をしていただく予定なので」

「この二人をメイドとして働かせろと?」

「図書室も温室も外からはあまり人が出入りしないので、大事になる事はないと思いますが。理由が必要なら行儀見習いを理由にするとか。二人の行動に信用できないと言うのであれば、監視役を付ければ良いだけのことです。なんなら私が」

「却下」



 わかってますよ。被害者の私が加害者の二人を監視するなんて普通に考えておかしい事くらい。

 だからって即答しなくても良いじゃないの。

 言ってみるのはただでしょ。

 またメイドのシシーに戻れるかも、なんて期待はほんのちょっぴり持ってたけどね。



 私から今後について聞かされた二人は、困惑顏で顔を見合わせた。

 きっと国外追放や辺境の地に幽閉、領土の没収とか考えてたんだろうな。

 処罰らしからぬ処罰に戸惑っているって顔をしているよ。

 奉仕活動なんて言われても、普通のお嬢様には想像がつかないのかも。

 二人からしたら未知の世界、とまではいかないけど別の世界だろうから。



 私は二人に手を貸しながら立ち上がらせた。

 皇宮に来るからときっと着飾ってきたんだろうドレスがシワくちゃになっているよ。

 清掃担当のメイドさん達が、綺麗に掃除してくれてあるから汚れはしないだろうけど。



「実際に私が決めた職務に従事すれば、私が言った事の意味がわかると思います。とても辛いと感じるかもしれません。ですがそれ以上に得られる事もあると思います。気をしっかり持ち期間を全うして下さい」

 二人が私に祈るような視線を向けてきた。

「セシリア様が慈悲深い方でいらしたなんて……」

「恩情に感謝いたします」



 ちょっと大げさだなぁ、二人とも。

 とりあえずセシリアスマイルで曖昧に笑っておこう。

 二人とエルナさんが淑女の礼をする。



「ありがとうございます。セシリア様、あの……父の事ですが」

 あ〜、それが残ってたね。

「父の処罰が決まるでわたくしにも何か罰をお与え下さい」

 お与え下さいって、私は神様じゃないんだけどな。



「エルナさんが伯爵の罪を被る必要はありません。伯爵にも然るべく処罰を下しそれに従っていただく予定なので。詳しくは伯爵が皇都に戻られてから、改めてお伝えするつもりです」

 真剣な面持ちで頭をさげるエルナさん。

「承知いたしました」



 やっと終わった。疲れたよ〜。

 あ、最後に一つ伝えておく事があった。

 私は今までずっと和やかな微笑みを絶やさず、その場に待機しているギルベルトさんを見た。

「ギルベルトさんにお願いがあります。聞いていただけますか?」

「何なりとお申し付け下さい」

 笑顔でメガネの縁をクイッと持ち上げるギルベルトさん。

 その笑顔は慣れない事をしてすり減った私のメンタルにじんわりと効く。



「彼女達の持ち場や細かい詳細についての相談と、関係者の方々へのフォローをお願いしても宜しいでしょうか?」

「お安い御用です」

 クラウスの執政補佐官として忙しいギルベルトさん。

 お願いするのはかなり心苦しいけど、他に頼める人もいないからね。

 引き受けてくれてまずは一安心だよ。



「二人をお願いします」

「殿下、しばし席を外す許可を」

「ああ、構わない」

 ギルベルトさんが退室の挨拶を述べ、なぜか再び青い顔をしているモニカさんとカミーラさんを促し部屋を出て行く。

「愚父を呼び戻すため、わたくしも御暇いたしますわ」

 ギルベルトさん達に続いてエルナさんも、優雅な礼をすると部屋を後にした。



 扉が閉まると私の口から長いため息がこぼれて、ため息と一緒に力が抜けちゃった。

 床にぺたりと座り込む。

 慣れない事はするものじゃないね。






今回はちょっと短く区切ってしまいました(・・;)

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