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《 第5話 どうしてこうなった?》


 神殿でのフェストランド流婚約式は、緊張と拷問締め付けドレスのお陰で上の空。

 司祭様からのありがた〜いお言葉も、酸素不足の脳には入らず。

 意識を失わずに立って入られたのが不思議なくらいだ。



 式が無事終わると皇宮まで馬車移動。

 皇宮に入って皇帝陛下や皇后様と皇子の四人で晩餐。

 二人からも何やらお言葉を頂戴したけど、拷問ドレスの呪縛で頭に入るはずもなく。

 晩餐のメニュー?

 酸欠で視界が霞んで何が出たのかよく見えなかったし、拷問ドレスが常にお腹や胸を締め付けてくるから、食べ物がお腹に入っていかなかったよ。



 上機嫌で笑う皇帝夫妻の話に相槌を打つのが精一杯でした。

 公衆の面前や皇帝夫妻の前でドジをしなかったのがまさに奇跡!

 その後は今夜の泊まる部屋に案内してくれる、と言うから最後の気力を振り絞って皇宮侍女について行ったよ。



 案内されたのは、春宮と呼ばれる皇太子の私室棟。

 私が正常な判断ができたなら。

 あれ、貴賓室じゃなくて私室棟?

 って真っ先に疑問に思ったよ。

 でも悲しいかな、ボーっとした今の私の頭は通常通り働いてくれない。



 部屋に入ると皇宮侍女が三人寄って来て、拷問ドレスを剥ぎ取ってくれた時には涙が出ちゃった。

 ギチギチのドレスからやっと解放された。助けてくれてありがとう! ってね。

 脳に酸素が周りようやく頭も動き出した時には、髪を解かれてバスルームに押し込められていた。



 人間緊張から一気に解き放たれ身体が緩和状態になると、思考回路も緩くなるらしい。

 温かいお湯に浸かると特に、自分が丸ごとゆるゆるになっちゃうんだね。

 今日一日色々あったけど、今はな〜んにも考えたくないや。明日考えれば良いか〜。

 なんて頭がふやけかけてきた頃、のぼせそうになってバスルームを出た。



 侍女が私の髪を乾かしてくれると言うからお願いすると、髪に甘ったるい匂いのする香油を塗り込もうとして、私は慌てて断った。

 そんなの塗ったら、甘い匂いが気になって安眠できなくなっちゃうからね。

 後はベッドに潜って一日の疲れを癒すだけ。

 ベテラン侍女が寝室まで案内してくれた。



「では、こちらでしばらくお待ち下さい」

 ベテラン侍女はそれだけ言うと寝室を出て行った。

 待てって何を?

 入浴で頭がゆる〜くなり過ぎてた。何かおかしいよ。

 まずは今いる部屋のチェックしよ。

 暖色系の色で統一された室内に、大きな天蓋付きベッド。

 一人用にしては大き過ぎじゃない?

 五人横になってもまだ余裕がありそうだよ。



 部屋には扉が二つ。私はあっちから入って来たんだよね。

 じゃあ、反対側にあるあの扉はどこに繋がっているの?

 侍女はここで待てって言ってたけど、こんな夜に誰かが訪ねて来るって事?

 何が何だかさっぱりわからない。

 取りあえず座り心地の良さそうなこのソファーに座って、今日一日の出来事を振り返ってみよう。



 白いドレスと神殿。皇宮で皇帝夫妻との晩餐。

 う〜…ん、式の事や誰かと話した内容が思い出せないなぁ。

 あの拷問締め付けドレスのせいで意識が飛びかけていたからだ。

 部屋に入る前に侍女が何か言っていた……思い出した!



 私が今いる場所は皇太子の私室棟だよ!



 なんで私が皇子の私室棟に通されたの?

 無駄に大きなベッドに、誰かを待つように告げた侍女。

 そして今日一日の奇妙な出来事。

 私と皇子って、婚約中の身だよね?

 婚姻前の男女が、日も落ちた夜に部屋で二人っきり?



 全身さーっと血の気が引いていくのを感じた。



 …………そんなまさか。



 神殿でやった儀式は婚約式じゃないの?



 座っていられなくなり、ソファーから立ち上がって頭を振る。

 婚約中だからって、皇子のプライベートエリアに通されるのはおかしいよ。

 私ってば、知らぬ間に婚礼の儀をしちゃったんじゃ……。



 いやいや、今日のが婚礼の儀だなんてそんなはずない。

 フェストランド流婚約式のはず。

 誰かに確認したわけじゃないけど。

 父様の話ではすぐに婚礼にはならないって、言っていたんだから。



 今回の私のフェストランド訪問理由は、皇子との顔合わせのはず。

 記憶をたどってあの時の事を思い出してみよう。



 父様に執務室に呼び出されたあの日は……。

 皇帝が約束事に厳しい人で、破るとラルエット王国存続の危機だって言われたんだよ。

 父様は窓際に立って、外を眺めながら深刻な話をしていた。



 大事な話をする時は、いつも向かい合って話をするのにあの日は違ったんだよね。

 戦の話も出て、頭の中は最悪な事態を考えちゃって細かい事に気がつかなかったけど。

 今思えば、あの日の父様は変だった。

 どこかよそよそしいって言うか。

 顔を合わせずに大事な話をされたのもあの時が初めてだ。



 父様に騙されたかも!?



 窓の外を見ていたのは、私と顔を合わせて話が出来なかったからだよ!

 嘘をついていたから。

 私にフェストランド行きを決意させるために、言葉巧みに誘導して……。

 私を騙す事への罪悪感で顔を見られなかったんだよ。



 婚礼までには期間がある、今はまだ婚約期間だ。

 自分の目で皇子がどんな人物か見て来い。

 なんて言っていたのは真っ赤なウソ!

 まだ猶予があると思い込ませておけば、私がフェストランド行きを了承すると思ったに違いない。



 父様が渡してきた戦の事が書かれた歴史書。

 あれもきっと情に訴えるための父様の策略かも。

 そう考えると全部しっくりくる。

 姉様達だって、婚礼の事を知らされてない。

 知ってたら反対するし、私だって断固拒否してフェストランドになんか来てないよ。



 父様が言ってた皇帝は約束に厳しい人物だって、それも怪しい。

 怒りがふつふつと湧いてきた。

 信じられない、親が娘を騙すなんて。

 許せない、あのタヌキ親父〜〜っ!

 この状況って、新婚初夜じゃないの!

 皇子に確かめなくちゃ。

 全部打ち明けて、この婚姻をなかった事にしてもらわないと!






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