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《 第48話 雪見茶会の黒幕は? 》



 クラウスの顔を見た私は思わず距離を取る。

 ソファーに深く腰を下ろし長い足と両腕を組んだ無表情のクラウスから、不機嫌オーラがバシバシと飛んでくるから。

 クラウスさ〜ん、ご機嫌斜めですねぇ。どうしましたか?

 なんて聞けたら苦労はしないよ。



「話を勝手に曲げるな。エルナを呼んだのは雪見茶会の真相を追求するためだ」

「そうですわ。それ以外に理由などありませんわ」

 雪見茶会の話に戻るのね。

「過ぎた事だよ。モニカさんもカミーラさんも友達のエルナさんを心配してあんな手段に出ちゃったわけで、元をたどれば悪いのは政略結婚を勝手に決めたうちの父王と皇帝のせいなんだよ」

 私は気にしてないと手をひらひらさせるが、クラウスにその手は掴まれた。



「あの場で俺は周りの証言から判断したが、よくよく考えると腑に落ちない点に気付いてな。エルナに調べさせて正解だったって訳だ」

 うっ、クラウスの顔迫力あり過ぎ。

 悪い事してないのに視線が泳ぐ。

「自分が罪を被れば良いとでも思ったのか? あの場で事実を言わなかったのはなぜだ?」

 なんで私が責められなきゃいけないのよ。

「もう良いじゃない、済んだ事だよ」

「セシリア」



 言わないと解放してもらえないらしい。

 わかった、言いますよ。言えばいいんでしょ!

「言おうとしたよ。でもクラウスから事実と違う事を言われて、私の言葉は信じてくれないと思ったんだよ。言っても信じてもらえないなら無駄でしょ!」



 頭をよぎるのは高笑いするクリスタと癇癪を起こしたウリカの顔。

 ああ、ダメだよ視界が暗ぼったい。これは頭痛の前兆。

 私は掴まれた腕を振り払うように、クリスタとウリカの顔を頭から追い出した。

 最近悪夢を見たり赤い粒の後遺症、そして頭痛まで。こんなのばかり続く。

「だからと言って、なぜそうやってお前は」

 クラウスが納得がいかないと呟いた。



 部屋に沈黙が流れ、それを破ったのはエルナさんだった。

「お二人が争うのは間違っていますわ。悪いのはわたくしの父ですのに!」

 どうしてここでセルトン伯爵が出てくるの?

 私とクラウスから視線を向けられたエルナさんは、目を吊り上げて言葉を続けた。

「モニカとカミーラにあらぬ事を吹き込んだのは父ですの」



 エルナさんの言葉にクラウスは眉間にしわを寄せた。

「セルトン伯爵か……いつだったか正妃の補佐として、側妃をつけろとか言ってきたな」

 あ〜、それは私が田舎王女で正妃らしくないからだよね。

 いや、でも。私がしでかした王女らしからぬ行動はクラウスが噂になる前に根絶やしにしているはず。



 私生活はともかく公での仮面妃の時は、がっちり分厚い仮面被ってるんだから。

 プライベートのアレヤコレヤがバレていなければ、私ってそれなりに正妃らしいと思うよ?

 伯爵はきっと娘の事を思って、エルナさんを側妃にしたいって考えているんだろうな。

 伯爵邸で開かれた仮面舞踏会の時、そんなような事言ってたからね。



「伯爵はあの二人に何を吹き込んだ?」

 クラウスが顎に手を当てエルナさんに先を促した。

「父はわたくしが領地に帰っているのは、精神的に疲れきっているからだと、二人に話したのです。顔を合わせていないのにぬけぬけと言ったのですわ。わたくしが領地に行った理由は、父が仮面舞踏会で余計な事をしたからだと言うのに……」



 伯爵はエルナさんがクラウスの事を好きだと思って、精神的に疲れてるつまり恋煩いだと、モニカさんとカミーラさんに言ったんだよね?

 恋煩いならそれをクラウスに伝えて側妃になれば解決するのに。

 顔わ赤くしたエルナさんは、体をわなわなさせて怒りに耐えているようだ。

 今のエルナさんからは恋煩いって感じはしないけど。

「わたくし精神的に疲れてなどおりませんのよ。まったく父ときたらお門違いも甚だしいですわ!」



 伯爵の勘違い?

 私はなんだか引っかかりを覚えた。

「エルナさんは側妃になりたくないとか?」

 思わず口から出た言葉は、しっかりエルナさんの耳に届いていたらしい。

「セシリア様、やはり誤解をしてらしたのですわね。わたくしそんなモノになるつもりなど、これっぽっちも有りませんわ」

 これっぽっちもって、綺麗な人差し指と親指で潰れた輪っかを作るエルナさん。



 温室の裏で二人は良い雰囲気だったのに……う〜……ん。

 クラウスの片思い。

 それか、恋人だけど側妃にはなりたくない、つまり肩書きに縛られたくない訳ありな関係だとか?

 絵文字手紙を見ても、どう考えたって二人は恋人なんだよ。



 恋人のエルナさんに思いっきり拒まれたにも関わらず、クラウスは無表情なんだけど?

 その反応はエルナさんの答えがわかりきっていたから。

 エルナさんはクラウスが私と仮面夫婦を演じても動じないと、わかっているから。

 だから、クラウスは堂々と仮面を被れる。

 だって、そこには二人の強い絆があるから。

 信じ合っているから秘密の関係のままでいられる。



「セシリア、何を考えている? 言っておくが、俺もエルナを側妃にするつもりはまったくない」

 ほらね。やっぱり隠しておきたいんだ。

 割り切った関係が築けるのも、二人の絆が深い証拠。

 秘密の恋ほど燃え上がるってターニャ姉様も言っていた。



 政略結婚をするまでの私は、いつか恋人ができたら、いずれはその人と婚姻を結ぶのだろうな。なんて思っていたから私には理解できない大人な関係。

 私が理解できなくても、二人がそのつもりなら、私もそれに付き合うべきなの?

 う〜……ん。



 ダメだ胸焼けみたいになんだかむかむかしてきて、頭がぐわんぐわんしてきた。

「セシリア様?」

「聞いてるか?」

 そうだ、話題を変えよう!



「大丈夫聞いてるよ。話を戻しましょう。モニカさんとカミーラさんは、伯爵に言われて雪見茶会で私のお茶に眠り薬を入れた。私としては気にしていないのですが……」

 真面目クラウスから見たら、私の考えは甘いって思うだろうな。

 こうしてエルナさんを呼んで調べさせたりしてるくらいだよ、きっと二人には規則に則った厳しい罰を言い渡すつもりだ。

 一族諸共島流しとか、国外追放だなんて言い出しそう。



「これはお前だけの問題じゃない」

 やっぱり険しい顔してる。

「わかっています。皇族に薬を盛る事は重罪だって理解してます。でも、この件は私に任せていただけませんか?」

 島流しも追放もダメだよ。



 アスタの事はクラウスに決められちゃったけど、今回は自分でケジメをつける。

 だって女だったら自分の事は自分で解決する。しっかりケジメをつけろって、カティヤ姉様がよくターニャ姉様に言っていたから。

「何をするつもりだ?」

 クラウスの顔に、お前に二人を処罰出来るのかって書いてあるよ。

 私は真剣な表情を作った。

「ここはラルエット流でいきます」






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