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《 第47話 仮面妃が婚儀の仲介役をする? 》



 姿絵を飾った広間を出て私室棟に戻る途中、回廊でエルナさんに声をかけられた。

「少しお時間をいただいても宜しいでしょうか?」

 真剣な表情でクラウスを真っ直ぐ見据えるエルナさん。

「例の件か?」

 何か大事な話みたいだね。席を外した方が良いかな。

「私は部屋に戻ります」



 足を一歩踏み出そうとしたら、クラウスに腕を掴まれた。

「おまえも来い」

「セシリア様もいらして下さい」

 クラウスの言葉に賛同するエルナさん。

 なんだかよくわからないけど付いて行こう。




 案内された部屋に入りソファーに座る。

 エルナさんは向かい側のソファーの横に立ち、心痛な表情で口を開いた。

「セシリア様にはなんとお詫びしたら良いか……いえ、お詫びなどと軽い言葉では済まされませんのに」

 顔色が悪いけど大丈夫なの?

 私はエルナさんに座って下さいと、ソファーを勧めたのだけど、エルナさんは首を振って瞼を閉じてしまった。



「エルナ、こいつはなぜこの場に呼ばれたのか知らない」

「何のことですか?」

 エルナさんにお詫びされるような事はないと思うのだけど。

 クラウスの言葉にエルナさんは驚いた顔をした後頷いた。



「わかりましたわ。わたくしからご説明いたします。セシリア様、わたくし昨日まで領地におりましてクラウス殿下からお手紙をいただくまで、皇都で何が起こっていたのか知らずにおりました」

 クラウスがエルナさんに手紙……ラブレター!?

 申し訳なさそうに告げられてもエルナさんが何を言いたいのかいまいちよくわからない。ラブレターは良くない内容だったのかなぁ?

 根掘り葉掘り聞くわけにもいかないから、当たり障りのない返事をしておこう。



「それでは雪の中の移動で大変でしたね。疲れていませんか?」

「優しいお言葉をありがとうございます。幸い天候にも恵まれ、移動には苦になりませんでしたわ。それにわたくし吹雪でも皇都へ向かうつもりでしたの」

 クラウスからの手紙一つで吹雪の中を皇都に来ようとしちゃうなんて、エルナさんって情熱的なんだね。



「エルナさん、私が言うのもなんですけど吹雪の中の移動は危険です」

 エルナさんは首を横に振った。

「いいえ、友人から話を聞いたからには吹雪だからと、言ってなどいられませんわ」

 さっきから話の内容がよくわからない。

「なんの話ですか?」



「殿下からの手紙に雪見茶会について、モニカとカミーラにさり気なく探りを入れるよう指示されたのです」

 ラブレターじゃなかったんだ。

 こんな所で雪見茶会の話が出て来るなんて思わなかったな。

 忘れかけていたのに。

 私は膝の上に置いた手に視線を落とす。

 あれは私がお茶会を抜け出して、勝手に庭園で遭難したって話になっているはずだから。



 今更蒸し返して、クラウスはどうしようって言うの?

 セシリア、顔を上げて笑いなよ。苦しい時のセシリアスマイル発動だよ!

「あはは、エルナさんの耳に入っちゃったんですね。ラルエットでは雪なんて滅多に降らないので、甘く見て痛い目にあいました。面目ないです」

 あれ、明るく笑い飛ばしたつもりなのに、エルナさんに悲痛な顔で見られているんですけど?



「セシリア様、そうじゃない事はすぐにわかりましたわ」

「え?」

 エルナさんは私が座っているソファーまでやって来ると、床に膝をついて私の手を取り自分の両手で優しく包み込んだ。

「殿下から手紙をいただいた時は何が何だかわかりませんでしたわ。すぐに皇都の邸に戻り、モニカとカミーラを家に呼んだのです。でも、二人に会ってすぐに変だと気付きましたわ」



「二人が変、ですか?」

 私はエルナさんの鳶色の瞳を見つめた。

「わたくし自邸で開かれた舞踏会以来領地におりましたから、二人とは久しぶりに会ったのですが、彼女達は会うなりわたくしを励ましてきたのです」

「はあ……?」

 先が読めなくて曖昧な返事になっちゃうのは仕方ない。



 エルナさんは話の先を続けた。

「殿下から言われた通り、わたくし二人から話を聞き出しましたの」

 なるほどね。私が言えなかった真実が明るみになりましたって事だね。



「二人はなんて?」

「セシリア様にわたくしをクラウス殿下の側妃に推薦するように進言し、良い返事をいただけなかったからと脅しのつもりで、セシリア様のカップに眠り薬入りのお茶を飲ませた事。そしてセシリア様の護衛に付いていた騎士を言いくるめた事。すべて聞き出しました」

 あの二人は全部しゃべっちゃったんだね。



 エルナさんの事をすごく慕っていたみたいだから、そのエルナさんから聞かれると全部話しちゃうんだ。あの二人はもしかしてエルナさん信奉者かも知れない。

 雪見茶会……事実を言ったところでその前に色々しでかしている前科ありの私だからね。

 クラウスに信じてもらえないと思って誤解されたままでも良いやって思ってたから、私の中では過ぎた事になっていたんだけどな。

 こうなったら自分の意見を二人に伝えるべきだよね。



 私は背筋を伸ばしエルナさんと向き合った。

「この件は二人にはっきりとした答えを伝えなかった私にも非があります。あの場で答えなかったのは二人の意思を聞いてから、そう思っていたからです。ですが、クラウス殿下は政務に忙しくエルナさんともなかなか会えずで、二人の意思を聞く事が出来ずに今日まで来てしまいました」

「セシリア様?」

「何を考えている?」



 戸惑っているエルナさんに、私の隣で怪訝な顔をしているクラウスが目の端に映ったけど私は話を進める事にした。

「もうお気づきかと思いますが、私とクラウス殿下は仮面夫婦です」

 複雑な表情を浮かべるエルナさん。

 やっぱり気づいていたんだね。

 女の勘は鋭いって事だよね。

「セシリア」

 クラウスが余計な事を言うなって空気を出して来るけど無視。



「政略結婚は国が絡むと解消は難しいそうです。ですが、エルナさんが殿下の側妃として皇宮入りする意思があるのでしたら、私が持つ正妃の権限はすべてお譲りします」

 私の言葉にエルナさんが手に口を当てたまま固まっている。

 クラウスが横槍を入れてくる前に私は話を続けた。

「私は正妃の部屋から出て、公の場からも身を引くつもりです」



 これは婚儀が解消出来ないってわかった時から考えていた事。

 やっと言えたよ。隠居生活万歳!

 と行きたいところなのにまただ。

 発作のように突然起こる赤い粒の後遺症。

 思わず顔をしかめそうになって、それを無理矢理笑顔に変えた。

「エルナさん、クラウス殿下の側妃になっていただけますか?」



 自分としては良い考えだと思ったのだけど……。

「まったく」

「何か誤解がありますわ!」

 左手で頭を抱えるクラウスに困惑顔のエルナさん。

 突然過ぎたかな?

 クラウスがエルナさんにプロポーズする前に、私が勝手に側妃推薦の話を持ち出したから戸惑うのも無理ないかな。



 クラウスからしてみても、色々段取りを組んでいただろうに、プロポーズ大作戦をメチャメチャにしちゃったからきっと後から大目玉だよ。

 でもこの際仕方ないよね。

 何かあるたびに閉じ込められたりしたらこっちだって堪らないよ。

 眠り薬で済まなくなる場合だってあるかも知れないし。

 そうだ、もう一つ二人に言っておかないとだね。



「エルナさんが側妃として皇宮に挙がってもラルエットには上手く言っておくので、国の問題については心配いりません。ですので、気兼ねなくお暮らしいただけるかと思います」

 姉様達は私の味方だもの。

 姉様達にかかればたぬき親父の一人や二人何とかなるよ。



 エルナさんは何か言いたそうにしているけど私の考えは伝えたから、後はクラウスの了解を取らないとだね。

 なんで他人様の婚儀の段取りを私が仕切っているのかわからないけど、この際なんでも良いよ。

「クラウスもそれで良いよね?」





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