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《 第41話 災難は災難を引き寄せる① 》



 違和感を感じたのは数日前の晩餐から。

 前菜の温野菜サラダを口に入れた瞬間だった。

 口の中に渋い苦味と、舌に残るピリッとした刺激。

 野菜にかけられたドレッシングには、イチゴの粒に似た小さな赤い物がいくつも入っていた。

 一口で気づいたこの味は、食べたらマズイものだって直感したよ。



 いつ頃だったかな、カティヤ姉様が騎士団の遠征先から食材をたくさん仕入れて来た事があった。

 遠征に出る前にカティヤ姉様はターニャ姉様から、美容について何か言われたらしい。

 遠征先を周るついでに、各地から美容に良いという食材を探し周ったと言っていた。



 カティヤ姉様はその食材を使って闇鍋パーティーを開いたのだけど……。

 最初は見た目も味もそれなりに普通のお鍋だったのにね。

 具材をちょっとずつ入れていくのが面倒になったカティヤ姉様は、大鍋に移し替えて具材を手当たり次第入れ始めたんだよ。



 その具材の中に、組み合わせの悪い食材でも入っていたのか、人体への影響未確認食材でも入っていたのか、お鍋の味が途中から変化したんだよね。



 私とアリーサ姉様、サビーナ姉様はすぐに味の異変に気付いて食べるのをやめたから、症状は軽く済んだ。

 でもカティヤ姉様とターニャ姉様は、美容効果をたくさん得ようと、お鍋をお酒のおつまみに二人で競うように食べてたんだよ。



 その結果、二人は闇鍋の被害をもろに受けちゃって。

 症状は食べた量が少ない私達は、胸焼け程度ですんだ。

 たくさん食べた二人の姉様は、頭痛に目眩や吐き気と胃痛を起こして、食欲不振で一週間は寝込んでたよ。

 今では王宮では、カティヤ王女の地獄鍋として語り継がれているけどね。



 サビーナ姉様が闇鍋に入れた食材を調べた結果、原因は赤い粒と判明。

 大量に食べると食中毒を起こす、危険な果実の種だと判明した。

 そして悪魔の赤い粒は、お酒を飲むと味覚を鈍感にさせる反応を起こすらしい。

 その果実の種は地獄鍋以来、王宮持ち込み禁止物てしてリストに追加されたのだ。




 まさかフェストランド皇宮で悪魔の赤い粒に出会うなんて思わなかったよ。

 あの果物は本来は、温暖地域の特定エリアで育つ珍しい果物。もちろん市場に流通していない。

 フェストランドにも自生しているなんて、知らなかったよ。

 クラウスが私と同じ物を食べているかわからないけど、平気なのかな?

 何か問題が起きていたら大騒ぎになってるはずだよね。



 悪魔の赤い粒は、フェストランド人には耐性がある可能性もある。

 私だけ被害を被ってるだなんて、なんだか複雑だなぁ。



 悪魔の赤い粒はドレッシングやソースに混ざっていたり、スープの中に入っていることもある。

 時には香辛料のように魚やお肉にふりかけられていたり。

 食べると身体に悪い症状が出る食べ物だけど、毒ではないから言うに言えず。

 苦手な食べ物だから、なんてわがままを言うわけにもいかないし。

 食べ慣れれば身体に症状が出ないのかもしれない。



 私は悪魔の赤い粒に身体が慣れる事を祈って少しずつ食べる事にした。

 見た目でわからなくても、一口食べて赤い粒の入っている量が多いと、舌に電気が走ったようにピリピリする。

 それ以上は食べるなと、脳が危険信号を発するのだ。



 赤い粒が食事に入るようになって数日、自分で気をつけて食べるようにしていたのだけど……。

 ここ最近は続けて食事に入っている事が多いんだよね。

 ランチと晩餐とか、晩餐と次の日の朝食とか。

 これが二日とか三日続くと、まともに食事が摂れないから、これは正直きついよ。

 慣れようと思っても体が拒否反応を示すから。

 過酷なダイエットをさせられている気分。



 自分では微量を口に入れているつもりでも、チリも積もればなんとやら?

 体に蓄積されていっているのか、食欲は減っちゃうし。

 唯一の救いはパンや紅茶には入っていないから。

 パンを紅茶で流し込んだり、カティヤ姉様から持たされた緊急用保存食を水で流し込む日もある。



 緊急保存食は、騎士団の野外訓練用に作られた携帯食で、堅パンやら干し肉に果物の砂糖漬け。

 さすがに毎日は食べられない。

 体調が悪いと気まで弱ってくるみたい。

 最近は悪夢をよく見るせいで、よく眠れなくて体力と気力まで削り取られている気がするし。



 そんな日が続いたある日、久しぶりにクラウスと晩餐をする事になった。



 テーブルに並べられた料理を見る限り、赤い粒々が入っている様子はない。

 今夜のメニューは、野菜の酢漬けとポテトボール、オニオンスープとローストポークに丸いクルミパンだ。



 私の正面に座り、ポテトボールにナイフを入れているクラウスの様子を観察してみた。

 変わった様子なく食べているところを見れば、赤い粒は入っていないのか、クラウスは平気なのか。どっちだろ?



 スプーンで黄金色に透き通ったスープをすくって、少しずつ慎重に口に運ぶ。

 スープは大丈夫そうだね。

 ポテトボールは、茹でて潰したじゃがいもを丸めて、中に具を入れてから蒸したり茹でたりして作るフェストランドの伝統料理。



 今夜はブラウンソースがかけられている。

 ポテトボールにナイフを入れると、中からとろ〜りとチーズとコーンが出てきたよ。

 具はその日によって違うけど、もちもちしてて美味しいんだよね!

 なんだかちょっとは食欲が出てきた気がするよ。



 ポテトボールにブラウンソースをからめて口に入れた瞬間……!

「うっ……」

 舌にピリッと痛みが走り、小さく呻いてしまった。

 ああ、この刺激は悪魔の赤い粒だ。

 ポテトボールのお皿をよく見ても、小さな赤い粒状のものなんてどこにも入っていないのにどうして?



 じゃがいもやチーズに入っていたら色でわかる……もしかして、すり潰して入ってた?

 すり潰してブラウンソースに入れれば見た目わからない。

 今まで粒がはっきりしてたから、すり潰して料理に入ってくるなんて思わなかったよ。

 は〜……、せっかくのポテトボールが食べられなくなっちゃった。

 なんだか一気に食欲が……。



「どうした? さっきから食事が進んでいない様だが」

 不審そうな声をかけられ顔を上げれば、クラウスが食事の手を止めこっちを見ていた。

 黙々と食事に集中していると思っていたのに見られてたの!

 今のため息も聞かれちゃったかな?

 とりあえず笑って誤魔化そう。

「な、何でもないよ!」

 クラウスの眉間に軽くシワが刻まれてるよ。

 笑顔がちょっと不自然過ぎたかな。



「どこか具合が悪いのか?」

 そうだ! 具合が悪い事にすれば晩餐をパスできるよ。

 でも、クラウスと久しぶりにご飯食べるんだよね。

 調子が悪いなら部屋に戻れって、言われるかなぁ。

 一緒に食事するなんて滅多にない事だから、クラウスと何か会話がしたいのだけど。

 今のポテトボールで食欲が一気に減っちゃって、これ以上は食べられる気がしない。



「黙り込んでどうした?」

「えっ……と、ああ! お茶の時間にお菓子を食べ過ぎたみたい。エヘッ」

 とっさに出てきた言い訳がこれだよ。

 なんでもっと気の利いた事を言えないかなぁ。

 自分の情けなさは、とりあえず笑顔でかき消そう。

 うっ、クラウスが鋭い視線を飛ばしてくるんだけど!

 苦し紛れの言い訳を怪しまれちゃったかな?



 クラウスは壁際に目を向け、控えている侍女オルガさんとアスタに声をかけた。

「妃に何か消化に良い物を」

「畏まりました」

 クラウスの命を受けて、アスタが部屋を出て行った。



 クラウスが私に気を使ってくれるなんて……これは現実?

 夢でも見ているのかなぁ。

 私は目をこすったり、テーブルの下で手をつねってみた。

 うっ、痛い。これは現実みたいだ。

 なんだかちょっと嬉しい……なんて思ってないよ!

 だってクラウスが私に気を使うなんてしないと思う。

 きっと、優しい仮面夫のお芝居だよ。



 数分後、アスタが銀のトレーを手に戻って来た。

「熱いのでよく冷ましてお召し上がり下さい」

「ありがとう、アスタ」

 アスタは私の前に湯気が立ち上るミルク粥を置くと、一礼して壁際に戻って行った。

 クリームイエローのお粥の上に、茶色いパウダーと紫色のソースがかかっている。

 見た感じ、赤い粒は入ってないね。



「食べないのか?」

 一瞬ポテトボールが頭をよぎった。

 見た目わからなくても、すり潰して入っていたからなぁ。

 油断して食べたら最後、たった一口が数分後には胃を直撃だよ。

「猫舌だから、冷めるのを待っているんだよ」

 ああ、なんて苦し紛れの言い訳なんだろ。

 猫舌は事実なんだけどね。



 あれ、どうしたんだろ?

 クラウスが自分の席を立ってこっちにやって来る。

 クラウスの動きを目で追っていると、クラウスは私の横の椅子に座った。

 急にやって来て、私に何か用?

 なんで隣に座るかなぁ。



「わがままなヤツだな」

 私の手からスプーンを抜き取ると、ミルク粥をすくい息を吹きかけた。

 私は何も言ってないし、ふーふーしてなんて一言も言ってないし!

 仲良し仮面夫の演技でも、そこまでしなくても良いと思う。

 子供じゃないんだから。恥ずかしすぎる。

「自分で冷ませるよ」

 クラウスは冷ましたミルク粥を私に近づけて来た。



「ほら」

「な、なに?」

 冷ましてくれるだけじゃないの!

 その不敵な笑みは、アレをやれって言うんじゃないよね?

「口を開けろ」

 やっぱり、あ〜んですか!

 無理無理、そんなの無理だよ。

 私は頭をぶんぶん横に振る。

 演技でも恥ずかしすぎる。そんなの人前で出来るはずないじゃない!






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