表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/66

《 第35話 私はこうして閉じ込められました 》



 風が窓ガラスをカタカタとゆらす音で目が覚めた。

 室内には誰もいなくて、外に出ようと扉のノブを回したら、なぜか鍵がかけられてて外には出られず。

 外に護衛騎士がいるはずだから、扉を何度も叩いたよ。でも、反応はなかった。



 モニカさんもカミーラさんも、護衛騎士もいったいどこに行っちゃったの?

 三人揃ってちょっとそこまでお買い物……って、窓の外真っ暗じゃないの!

 吹雪の中お買い物は行かないでしょう。

 みんなひょっこり現れて、眠そうだったからそっとしといたよー。

 なんて事にはならないか。



 ここ、アオバの会のサロンに、モニカさん達と来たのが昼間。

 今は何時くらいだろう……夜には間違いない。

 今頃、皇宮内で大騒ぎになっているかも。

「そもそもどうして私が閉じ込められるの!?」

 モニカさん達と話していて急に眠くなった原因は、お茶かシフォンケーキのせいだと思う。

 どっちかに眠り薬が入っていたに違いないよ。



 私、あの二人に何か嫌われたり恨まれるような事したかなぁ。

 睡魔に襲われる前に、何か言ってた。たしか……。

「私が偽物だとか、異常気象がどうとか」

 思い出せない。あの時、もっとしっかり聞いていれば良かった。



 それにしてもこの部屋寒いな。

 私は温まろうと暖炉の前に移動して肩を落とした。

「暖炉が冷え切ってる」

 薪はおろか、火をつける道具も見当たらない。

 こんな時に火打ち石があったら良かったのに。



 カミーラさんがここは冬は使われていないって言ってたし、この小屋は庭園の奥の方にあるから人が訪ねてくる事はまずない。

 寒い小屋の中に一晩どころか、このまま閉じ込められたままだったら。

 誰にも発見されず最悪……。



 それはイヤだ!

 なんとかしてここから脱出しないと。

 でもどうやって?

 私は辺りを見回した。

 あの窓ガラス割れないかな。

 何か割れそうな物は……そうだ!

「この花瓶投げたら割れるかな」

 私は棚の上に置いてあった陶製の花瓶を手に取った。

 中には何も入ってないね、よし行くよ。



「とりゃぁぁーーっ!」

 窓に向かって放り投げた花瓶は目的の的に当たり。

 ガシャーーン!

 花瓶は見事粉々に砕け散ったけど、窓ガラスは無傷でヒビさえ入っていない。

「ちょっと何よ。意外と頑丈なのね」

 他に投げられそうな物はないかなぁ。

 椅子なんてどうかな。



 なんだか滑稽だよね。

 私はこれでも一国の王女だよ。

 あ、今は大国の仮面皇太子妃か。

 ティーカップより重い物は持てませんわ、って言える身分なのにね。

 それが今は、椅子を持ち上げて窓を破壊しようとしているだなんてね。

 淑女らしくお淑やかに、とは無縁だなぁ。



 え、そんな性格じゃないだろうって?

 わかってますよ。

 でもね、花瓶を投げるのも、椅子を投げるのもこれが初めてなんだから。

 誰かがいたらこんな事出来ませんけど。脱出するためよ。



 姉様達に言ったらどんな反応するか楽しみだなぁ。

 みんなに会いたいよ。

 父様には一言文句を言わなきゃ気が済まないけどね。

 ラルエットにいた頃は、何かあるといつも姉様達が助けてくれたっけ。

 でも、今回は姉様達を頼れない。



 自分で乗り切るしかないんだから。

 私は抱えていた椅子をいったん下に置いて、頬をペチペチ叩いた。

「セシリア、あんたはラルエットの王女でしょ。弱気になったらダメだよ。あの、姉様達と同じ血が流れているんだからね。しっかりしなよ!」

 良しっ。ラルエット王女の根性見せてあげる!



 再び椅子を抱えて、窓に向かって投げようとした時。

 窓の下枠に小さな雪の塊が、もぞもぞ動いているのが目に映った。

 何だろうと思って窓まで近づいて確認すると……。



「グリ?」

 頭や背中に雪を被った黒リスグリが、小さな手で窓をペシペシ叩いている。

 中に入りたいから開けてくれって、言ってるみたい。

 前にクラウスが逃げたって言ってたけど、本当に鳥籠から逃げられたんだね。



 アメジスト色の瞳が私を見上げている。

 グリの瞳は邪神ネストの瞳と同じ色だって言ってたけど、グリが邪神だなんてそんな事あるわけないよ。

「グリ、誰か人を呼んできて!」

 窓越しで聞こえるかどうかわらかないけど、グリは賢いリスだからね。

 困った時のリス頼みよ!



 グリが首をちょこんと傾けたままこっちを見ている。

 宝石のような輝きを見せるつぶらな瞳。

 そのポーズ可愛すぎる〜、じゃなくて。

 外は相変わらず風が強そう。聞こえないかなぁ。

 こうなったら、身振り手振りで何とかグリに伝わらないかな。



 私は窓が開かない事をグリの前でやって見せた。

 するとグリはふわふわなしっぽをパタパタ振ると、その場でぴょんと飛び跳ねた。



「やっぱ伝わらないかぁ」

 あきらめかけた時、グリは私から背中を向けどこかへ走って行っちゃった。

 伝わったのか伝わらなかったのか、どっちだろ?

 う〜ん、グリを待ってる間に椅子を投げつけてみよう。

 そして数分後、私は嘆く事になった。



「この窓いったい何なのよーー! もしかして特殊な強化ガラスで出来てるの!?」

 なんと大破したのは椅子の方で、窓ガラスはビクともしなかった。




 どれくらい経ったかな。

 風は相変わらずゴーゴーと弱まりそうにないし、雪も止む気配がない。

 グリが誰か呼んで来てくれると良いんだけど。

「あっ、グリは皇宮では邪神扱いされてるんだった!」



 誰か呼んで来てって、グリが誰かの目の前に現れたら、その人はきっと驚くか怖がってグリから逃げるよ。

 最悪、守衛を呼んでグリを捕まえようとするに違いない。

 グリを危険な目に合わせちゃうなんて。

 私ってば、なんてバカなお願いしちゃったの!



 自力でなんとかここから脱け出さないと。

 窓ガラスがダメなら他にどこか出られそうな所はないかな。

 出入り口は窓か正面からの扉のみ。

 扉の鍵さえ開ければ外に出られるのに、フォークもナイフも試したけどダメだったんだよね。



 後は、暖炉をよじ登ってみるしかない。

 子供向けの昔話で、暖炉から赤い服の太った妖精が、子供達にプレゼントを配る話があるくらいだから出入り可能?

 暖炉を下から見上げていたら、上から何かが落下して来た。

 私が顔を引っ込める前に、落下物が顔にベタッと張り付く。



「うわっ、何か降って来た……って、このふわふわなしっぽは、グリ!」

 グリを両手で捕まえ、テーブルの上に降ろした。



 テーブルの上に二本足で立ったグリは、私に背中を向けしっぽをふりふり。

 暖炉の中を通って来た割に体にススが付いていないのが不思議だ。

「あれグリの背中。さっきは何も持ってなかったよね?」

 グリは小さな背中に、手の平サイズの手提げ袋を背負っていた。というか手提げ袋をミントグリーンのリボンで巻かれていた。

 まるでプレゼントを背負った黒リスだ。

 袋の中はきっとどんぐりかクルミかな。



「リボンが可愛いなぁ」

 グリが背中を向けたままこっちを振り返った。

 ん? なんかジーッと見られてる。何かを訴えかけられてるような。

「もしかして、私に袋を開けろって言ってる?」

 グリのアメジスト色の瞳が明るく光ったような気がするよ。



「わかった。袋の中を見せてもらうね」

 ミントグリーンのリボンを解いて手提げを背中から降ろしてあげた。

 パールホワイトの滑らかな生地に、小さなカボチャやトマトが刺繍された手提げ袋。

 あれ、この手提げ袋。よく見ると見覚えがある。

 確かあれは、フェストランドに旅立つ日。

 姉様達が非常時持ち出し袋だってマーヤに持たせていた手提げ袋だ。



「グリ、もしかしてマーヤのところに行ってくれたの?」

 グリの頭を撫でて聞くと、グリは返事代わりにしっぽを一振りした。

「そっか〜、じゃあこの中に何か脱出に使える物が入っているかもしれないね。ありがとね」



 手提げの中は日常で使う小物類が入っていた。

 陶器で出来た小さな丸い容器はラルエットの古代文字入りで、サビーナ姉様秘伝のクリームが入っていた。



 薔薇の装飾が見事な銀の筒状の小さな容器は、ターニャ姉様がくれた口紅。

 淡いピンクの花びらがたくさん付いた花の髪飾りは、お洒落とは無縁なカティヤ姉様から。



 アリーサ姉様からは緑とオレンジ色の綺麗な羽根が付いたペンをもらった。

 この羽根ペンは見た目普通の羽根ペンと変わらないんだけど、実はアリーサ姉様が作った羽根ペンで細工がされている。

 羽根の部分と持ち手の部分が仕掛け細工になっていて、分解すると中からくるくる巻かれた真っ白な紙が二枚出てきた。



 紙の隅に模様のように小さな水瓶の刻印が刻まれている。

 この紙にももちろん仕掛けがされてある。



 私はティーセットが乗ったワゴンから、お湯が入っていたポットを見つけた。

 今から優雅にティータイムってわけじゃないよ。

 お湯は冷め切って水になっちゃっているけど、その方が火傷しなくていいから好都合。

 ポットの冷めたお湯をティーカップに注ぎ、私はティースプーンでカップの水をすくった。

 真っ白な紙に水をかけ、紙全体が濡れるようにスプーンで水をすくって紙を濡らしていくと……。



 濡れた紙に文字が浮かんできた。

 一枚目の紙には姉様達のそれぞれの筆跡で、手提げ袋に入っている道具の使い方が簡単に書いてあった。

 もう一枚の紙は、マーヤからの手紙だった。

 前半は私の身を心配する内容で、マーヤも私みたく行動が制限され、常に護衛騎士が側にいて自由がなく窮屈だと書いてあった。



 後半は……。

『 実は見てしまったのです!』

 マーヤは一体何を見たの?





注意①:花瓶は投げる物ではありません。

注意②:椅子も投げてはいけません。

良い子の皆様は真似をしてはいけませんよーー!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ