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《 第30話 早朝からクラウス出現! 》


「てっぺんまでもう少し!」

 私はひたすら塔の頂上目指して階段を上る。

 足はガクガク、息も苦しい。

 最近畑仕事をしてなかったせいか、体力が落ちたかな。

 昨夜あれこれ考えていたら、眠れなくなって気がついたら太陽が昇りかけていた。



 モヤモヤする頭の中で、メイド仲間のモーナさんが言っていた言葉を思い出したのだ。

 悩んでいる時にこの塔から景色を眺めるとスッキリするって。

 昨日もクラウスは私室に帰ってくるのが遅かったから、まだ寝ているはず。



 今は朝も早い時間帯だから、ちょっとくらいなら良いよね。

 クラウスに迷惑にならないように、さっと行ってすぐに部屋に戻ればクラウスに気づかれないと思う。



 やっと最後の一段を登りきった時、塔の頂上で私が見たものは………。



「ク…………ラ、ウ…………す」



 驚いてるのは私だけじゃなかった。クラウスも珍しく驚いた顔をしている。

 せっかく見張りの騎士を買収、いや味方に引き入れて抜け出したのに。

 一番会いたくない人に会っちゃうなんて、私ってば運が悪すぎるよ。

 あの長い塔を登って来たのに、苦労は水の泡。

 もう、ダメ………。



 気力も体力も尽きちゃったよ。

 私は地面にへたり込んで両手をついた。

「部屋の前に護衛がいたはずだ。どうやって抜け出した?」

 頭の上からクラウスの声。

 やっぱり怒られるよね。

 チラッと見上げると、クラウスは無表情で私を見下ろしていた。

 その無表情が一番怖いんですけど!



「あ〜……、それは……」

 私が胸に手を当て息を整えながら言葉を濁すと、クラウスは無言で話の先を催促してきた。

 言わなきゃダメだよね。クラウスが見逃してくれるわけないか。

「一人で来たんじゃないよ。騎士のヨルクさんも一緒だよ。頂上まで付き合ってもらうのも悪いから、下で待ってもらってる」



 クラウスの眉がピクリと動いた。

「宿直はヨルクか。剣術馬鹿を色仕掛けで落としたのか?」

 剣術馬鹿だなんて、酷い言い方だ。

 ヨルクさんとは、以前にクラウスの執務室でグリを捕まえようとしたクラウスの護衛騎士だ。

 グリに敗北しちゃったんだよね。



「色仕掛けなんて高度な技術を持ってたら、もっと早くに自由を満喫しているよ」

「それもそうだな。ではどうやって抜け出した?」

 ちょっと、真面目な顔で頷かないで。地味に傷つくんですけど。



「ヨルクさんの落し物を届けたついでに、ちょっとお願いしただけだよ」

「落とし物?」

「前に懐中時計を拾って渡しそびれてたのを返したんだよ」

 大事なものだったらしく、すごく感謝されたんだよね。

 それ以上は、ヨルクさんのプライバシー保護のため言いませんけど。

 懐中時計の中に誰かの姿絵が入ってたとか、その姿絵の人物が予想外の人物で、とか言いませんよ。



「ヨルクは自宅謹慎、減俸処分だな」

 ヨルクさん、ゴメンと謝っておくよ。

 ここまで連れて来てくれたお礼と、巻き込んじゃったお詫びは、後日たっぷりするからね。



「おまえはこんな所に何しに来た?」

「この塔から皇都の景色がよく見えるって聞いたから、気分転換に街を眺めに来たんだよ」

 ヨルクさんに協力してもらったのに、脱出は失敗。

 気分が晴れるどころか、ダークだよ。

 は〜……、私は心の中で長〜いため息を吐いた。



 いやいや、まだだよ。諦めちゃダメ。

 ここまで来て、諦めてなるものか!

「少しだけ、少しだけだったら景色見ても良い?」

 外出禁止のヤツが図々しいとか、俺の命令に背くのは許さないとか。

 いつもなら怒られるはずなんだけど、今のクラウスから怒りや不機嫌オーラは感じない。

 いつまた、外に出られるかわからないんだから、これはチャンスだよ!



「ちょっと景色を眺めたらすぐに部屋に戻るから、ちょっとだけ気分転換させて?」

 私はちょっとを強調してお願いします、とクラウスを拝み倒した。



「好きにしろ」

 やったぁ、許可が下りたよ!

 それじゃあ、クラウスの気が変わらないうちに遠慮なく。

 塔から見た景色は最高だった。

「わぁ……空が綺麗!」

 まだ太陽が昇りきっていない空は、藍色の夜空と朝日で淡いオレンジ色に染まりかけた空のグラデーションを作っていた。



 塔は少し肌寒く、深呼吸をすると空気はひんやりしていた。

 それがほてった身体には爽快感と清々しい気分にさせてくれた。



「これが皇都……丘の上にあったんだね」

 眼下に広がるのは皇都の大きな街並み。

 皇都に向かう途中、馬車のカーテンを閉められちゃったから、皇都の街並みを見るのは今回が初めてだ。

 皇都の丘の下には田園地帯。

 その向こうに森や、頭に白いベールを被った山々が小さく見える。



「クラウスもこの景色を眺めに来たの?」

 クラウスが私の横で皇都の街を見渡していた。

「皇都が一望出来るからな」

「こんな綺麗な景色が見られるなら、あの長い階段を上ってきたかいもあるね」

「奇特にも上ってきたのか? ご苦労なことだな」

 ん? その含み笑いは何か引っかかる。

「もしかして、階段を登らなくても頂上まで来れるの?」



 クラウスが顎で指した先を視線で追う。

 そこには私が今来た出入り口とは別に、もう一つ木製の扉が石壁にはめ込まれてあった。

「俺の執務室から近いからな」

 まさかの、別ルートがあったのね!

 なんだか無駄な労力を使った気がするよ。

 あれ、クックッと肩を揺らしクラウスが笑っている。

 明日は槍が降るの?



「ここがそんなに気に入ったか?」

 何を突然言い出すんだろう。私はもちろん大きく頷いた。

「もちろん!」

「ここから見る夜空もなかなかだ。ああ、そう言えばもうじき流星群が見られる時期だな」

 それは絶対に見てみたい!

 でも、勝手に抜け出しちゃったから、許可は下りないよね。

 ダメ元で聞いてみようかな。



「流星群を見に来ても良い?」

 私の質問にクラウスは質問を重ねてきた。

「一緒に見るか?」

 い、今のは幻聴かな?

 クラウスから流星群の見物に誘われた気がする。

「良いの?」

「お前を手の届くところに置いておけば、監視の手間が省けるからな」



 な、んだ。そういう事。

 そういうオチだよね。

 ちょっと嬉しかったのにな。

 セルトン伯爵邸での舞踏会で、色々言われて怒ったりショックを受けたりもしたのにね。



 今はこんな風に自然な感じで、クラウスと会話をしている自分がいる。

 なんだか不思議な感じがして、むずむずするよ。

 この際細かい事は良いや。

 皇都に登る朝焼けが嫌な事を覆い隠してくれるのか、私の心が広いのかどっちだろう。

 そして、朝焼けはクラウスの毒を抜く解毒効果もあるのかも。



 今日のクラウスからは、舞踏会での不機嫌さは全然感じない。

 いつもの意地悪クラウスが、どかに行っちゃったんじゃないかと思うくらいだ。



 今なら私の知りたい事も、聞いたら教えてくれるかな?

 一人で考えていても余計にモヤモヤするだけだから。

「クラウス、あのね」




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