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《 第27話 仮面妃と暴言クラウス 》


 こんなのどうって事ない、気のせいだよ。

 考えない、考えない!

 …………でも、これどうしよう。

 エルナさんにせっかくやってもらった別人セシリア、今二人の前に出て行って見せるの?

 私にはそんな勇気はないよ。

 二人の話を聞くまでは、ちょっと楽しみだったんだけどな。クラウスがどんな反応するか。



 馬子にも衣装、って言われる可能性の方が高いけど、もしかしたらって思うじゃない?

 私のあまりの変貌ぶりに、驚くクラウスの顔が見れるかなって、期待したりして………。

 それで少しはクラウスの態度が柔らかくなったら良いかも、なんてね。

 別に恋人のエルナさんに接するみたく、優しくしてほしい訳じゃないよ。

 ただ、ちょっとだけ。

 シュナル殿やギルベルトさんにするのと同じように、眉間にシワを作らずに接してほしいだけなんだけどな。



 ねえ、クラウス。

 お飾りの仮面妃とは、親しくしたくない?

 私達って親が勝手に決めた政略結婚の犠牲者同士だよ。ある意味、運命共同体じゃないのかな。

 動物以下じゃなくて、仲間や友人……せめて知人でも良いから、私の事認めてくれても良いと思うよ?



 今の私にはその資格はないか。

 クラウスに迷惑かけてるみたいだから。



 カーテンの隙間から見えるバルコニー。

 クラウスに笑いかけるシュナル殿と、シュナル殿に笑い返すクラウスが目に映った。

 楽しそうで良いなぁ。

 私にもあんな顔、見せてくれないかなぁ。



 何を考えているんだろう。

 考えない考えないって、頭に言い聞かせれば言い聞かせるだけ、頭が勝手に考えちゃうよ。

 今日の私はなんだか変だ。

 あの、毒吐き意地悪クラウスと、親しくなりたいなんて考えてる。

 グリや邪神の事、エルナさんの側妃の事。

 立て続けに色んな事を聞いちゃって、疲れてるんだよ。重症だよ。



 最近監禁生活で、農作業してないからだよ。

 二人を見ていたら余計におかしな事を考えそう。

 私はそっとカーテンの中から出た。




 長い廊下を歩いていると、吹き抜けのエントランスホールに出た。

 広間のにぎやかさに比べると、ここは静かでのんびりくつろげそう。

 私は壁際の一角、目立たない場所にソファーを見つけた。

 座って手を高くあげ、伸びをする。

「う〜……ん、気持ち良い!」



 エルナさんにやってもらった別人メイクに新しい仮面。これさえあれば、私が皇太子妃だってバレないよね。

 二人が話していたことより、グリのことを考えよう。

 百年か、二百年に現れる邪神ネストの化身。

 グリと特徴が一緒らしいけど。

 フェストランドで異常気象が起きている事と、グリが皇宮内に現れた事。何か関係があるって言ってたけど。



 どうして、黒リスと異常気象が関係しているのかそこのところがわからない。



 グリは本当に良いリスなんだよ。

 う〜〜…………ん。

 グリが本当に邪神の化身なのか調べなくちゃね!



 グリについてあれこれ考えていると。

「セシリア様ーー」

 広間につながる長い廊下から、エルナさんがやって来た。

 クラウスにこの別人セシリアを見せに行ったまま、広間に戻ってこないから心配して探しに来たのかも。

 エルナさんを見つけ、手を振ろうとして固まった。



 うっ……後ろからクラウスまでついてくるじゃないの!

 今はクラウスと顔を合わせたくないのにーー。

 ああ、最悪だよ。

 モヤモヤグルグルする感情なんて、忘れようとしてたのに。

「ここにいらしたのですね。クラウス様を探し歩いて疲れてしまわれましたか?」



 敵前逃亡をした小心者の私を、気づかってくれるなんて優しいね。

 クラウスとシュナル殿の会話を盗み聞きして、一人ダークな気分になってました。

 なんて情けなくて言えないな。本人目の前にいるし。

 チラッとクラウスに視線をやると、無表情なんですけど!

 正確に言うと、仮面の下から若干眉間にシワが寄っているのが見える。

 うわぁ、もしかして、機嫌悪い?



「心配かけてゴメンなさい。慣れないヒールで足が疲れてちょっと休憩していたんです」

 エルナさんは私の手を取ると、優しく笑った。

「わたくし、メイドに何か飲み物を頼んで参りますわ」

 エルナさんは背後にいるクラウスにわからないようにウィンクをし、クラウスを置いて広間の方に行ってしまった。



 ちょっとちょっと〜!

 自分の恋人、置いてかないでよー!

 無表情無言のクラウスの視線が、上から下へ注がれる。

 そして、また上に。



 興味がないなら、そんなに眺めなくても良いじゃない。

 無表情で向けられてる視線に、妙な威圧感を感じて怖いんですけど。

 沈黙が気まずい……こうなったら、必殺開き直り!

「そんなに見つめないでよ。照れちゃうじゃない。自分の妃の可憐な姿に惚れ直しちゃった?」



 おどけた感じで、ドレスの裾を持ってお辞儀する。

 顔を上げた先には暗く冷たい青い瞳。

「似合っていない」

「直球!?」

 バッサリ切り捨てられて、心臓に穴が開いた。

 ちょっとは考えようよ。

 私だって乙女の端くれだよ。お世辞でも良いから誉めるとか……クラウスは言わないか。

 私は、は〜〜っとため息をついた。



「ノリが悪いなぁ。妃と仲が良い皇太子だったら、見違えるほど綺麗になったなって、誉めなくちゃ」

 私をまっすぐ見下ろしてくる青い瞳。

「芝居でも言う気になれんな」

 そこまで拒否しなくても良いじゃないの!

 動物以下の私には着飾ることより、首輪や紐がお似合いだ、とか思ってるんじゃないよね?

 私のこの姿って、クラウスには不快なものに映ってるの?



 深呼吸して、落ち着こう。

 意地悪なのはいつもの事。

「クラウスになんと言われようがまあ、良いや。私はエルナさんに大人っぽくしてもらって気に入ってるし、エルナさんと楽しくおしゃべり出来たから、その暴言は聞き流してあげるよ」

 少しでもわたしとクラウスの関係が改善出来るかなって、思ったんだけど。

 そう簡単にはいかないね。



 クラウスの横を通ろうとして、腕を掴まれた。

「どこへ行く?」

 掴まれた腕を反対の手で引き剥がそうとしたけど、クラウスの手は放れなかった。

「まだ舞踏会終わってないでしょ? 戻らなかったらエルナさんも伯爵も心配するんじゃないの?」

 私はクラウスから顔を逸らし、掴まれたままの右手に視線を向ける。

 早くその手を離してよって、意味を込めて。



 でも、クラウスはなかなか離してくれない。

 それどころか外に出る扉に向かって歩き出した。

「ちょっとどこ行くの! 舞踏会は!?」

 引きずられるようにして、歩かされる。

「充分だ。皇宮に帰る」

 言葉の後半は扉の外に控える護衛騎士に向けて言っていた。



 主催者に一言もなく勝手に帰ったら、失礼にならないの?

 今夜はクラウスの恋人エルナさんの、誕生日のお祝いなんだよ?

 クラウス、何考えてるの?

 馬車に押し込められ皇宮に向かう中、クラウスはむっすりと不機嫌な空気を醸し出しながら、青い瞳を閉じていた。

 もう、なんなのよ!?






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