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《 第25話 仮面妃 VS クラウスの恋人? 》


 ソファーに向かい合わせに座ると、エルナさんは突然頭を下げてきた。

「今夜はセシリア様に気を使わせてしまっただけでなく、ご迷惑をお掛けし申し訳ありませんでした」

 ええっ、いきなり謝罪?

  側妃に立候補しますわ、みたいな話じゃなかったのね。



 突然謝られるなんて思ってなかったよ。

 だいたい私は気を使った覚えも、迷惑を掛けられた覚えなんてないんだから。

「顔をあげて下さい。なんの事ですか?」

 顔を上げたエルナさんは申し訳なさそうに眉を下げた。

「ダンスのパートナーの事と、父の事ですわ」

「父の事……伯爵の事ですか?」

 エルナさんは顔を紅潮させ、両手で拳を握ると眉を吊り上げた。



「そうです。今回の件は全て父が企てた事だったのです」



「なんの話ですか?」

「わたくしのパートナーを酔わせ、クラウス様に代役を頼む。そうなるように父が仕向けたんですの。これは父の策略ですわ!」

 策略とは穏やかじゃない。

「伯爵はなぜそんな事を?」

「恐れ多くもクラウス様のお側に相応しいのはわたくしだと、招待客に見せつけるためですわ。父は困り果てたふりをして、セシリア様のお優しい気持ちをも利用したのです!」



 伯爵、娘を思ってした事が裏目に出ちゃったんだね。

 伯爵はきっと、周りにだけじゃなくて、私に二人の親密さを見せたかったのかもね。

 クラウスとエルナさんが仲が良かった昔話とか、側妃がどうのとか、話したのも私とエルナさんの違いを見せつけるため。いかに自分の娘がクラウスの正妃に相応しいか。



 エルナさんのパートナーを酔い潰さなくても、私は正妃の座を返却してもいいんだけど。

 まさかそんな事言う訳にもいかないからね〜。

「え〜…と、伯爵の策略がどうあれ、最終的に決めたのはクラウスですし。私は気にしてないって言うか、ちょっとお節介で口を挟んだだけですよ」

 エルナさんは首をゆるゆると横に振った。



「クラウス様はセシリア様のお願いだから、お聞きになっただけですわ」



 それはないでしょう!

 エルナさんのピンチだから、クラウスは渋々了承したんだと思うよ。

 言えないのがもどかしいな。

 もう、公言しちゃえば良いのに。

 ねえ、クラウス。いつまで隠しておくつもり?

 クラウスが私の立場を考えて、エルナさんとの仲を公言しないとか……。

 まあ、私も一応一国の王女として嫁いだわけだし。私にって言うより、私の立場に気を使ってるとか?



 いつかはエルナさんが側妃になって、正妃の座を争って私とエルナさんのバトル、なんて事になるのだけは遠慮したい。

 仮面妃と本命側妃、皇太子の寵愛取り合い合戦。

 そんなのには巻き込まれたくないなぁ。

 私は二人の仲を邪魔するつもりはないんだから。むしろ協力できるんじゃないかと思うよ。

 ごちゃごちゃ考えるのは好きじゃない。

 こうなったら直球でいこう!



「エルナさんはクラウスの妃になる意思はありますか?」



 エルナさんは鳶色の瞳をまん丸にし、その後再び顔を赤くすると目を吊り上げた。

「やはり父が何か言ったんですのね!」

 美人が怒ると迫力があって怖い。

 怒られたのは私じゃないのに、思わず後ずさっちゃったよ。

「エルナさん落ち着いて下さい」

「わたくしダンスの途中で、父がセシリア様と何か話しているところを目撃しましたの」



 あの人混みの中でよくわかったなぁ。

 エルナさんはソファーから身を乗り出した。

「セシリア様、父の言った事は全て忘れて下さい」

「は、はい」

 美人が真剣な顔で迫って来るのも迫力があるね。

 思わず頷いちゃったよ。

「それと、わたくし妃になどなる気は全くありませんわ!」



 きっぱりはっきり言うエルナさんに、私はますます混乱する。

 クラウスの事が好きなら、妃になりたいって思うんじゃないの?

 今の秘密の関係が心地良い、って事?

 ターニャ姉様が、『秘密の恋ほど燃え上がる』って言ってたし。



 それとも、二人は恋人じゃないとか……。

 でも、この目でしっかり見たんだよ。二人が親密なところを。シュナル殿だって目撃者だ。

 二人並ぶと、周りがうっとりするくらいの美男美女カップルなんだよ。



 それに何より、私とエルナさんとじゃ、扱いの差が違いすぎるじゃない。

 エルナさんには意地悪を言っているところも、しているところも見た事がないよ。

 嫌いな物まで食べてあげるくらい優しいじゃないの。

 それってエルナさんがクラウスにとって特別だからだよね?



 私なんて酷いものだよ。規格外だの鳥頭だの、珍獣扱いされてるんだから。

 クラウスは仮面なしで私と会話する時は、眉間にシワかため息で、上から目線の命令口調だし。

 それだけじゃないよ。好きな菜園の仕事取り上げられた挙げ句、外出禁止だよ。

 バルコニー菜園まで撤去させられてさ、マーヤやグリとも会う事を禁止されてるんだからね!



 壺があったら叫んでやる〜。



 差別だ、贔屓だ、理不尽だーーっ!



 なんて今は叫べませんけど。

 ああ、なんだか愚痴になってきちゃったよ。

 は〜〜っ、と内心でため息一つ。

 これほどまで差があると、腹が立つよりなんだか凹むね。

 これが本命と仮面を被った妃の差、なんだろうけど。



 別に羨ましいわけじゃないよ。

 エルナさんに向ける優しさをちょっとくらいは、私に分けてくれても……なんて思ってないよ。

 なんでこんな事、考えてるんだろ?

 頭がグルグルしてきたよ〜。



「う〜……ん……」

「セシリア様、なんだかお顔の色が」

「えっ、ああ。ちょっと考え事をしてただけです。大丈夫ですよ」

「わたくし、セシリア様を悩ませるような事を言ってしまいましたか?」

 しゅんと項垂れるエルナさんに、私は慌てて首を横に振って、言ってないですと否定する。

「エルナさんの言う通り、伯爵から聞いた事は忘れます」



 エルナさんはほっとしたように胸をなでおろし、表情をキリッと引き締めた。

「父にはきつく言っておきますわ。セシリア様は変わらずクラウス様のお傍にいて差し上げて下さいね?」

 本命の隠れ彼女に、傍にいてあげてね、なんて言われても困るよぉ。

 でもここは、仮面を被っておこう。



「わかりました。クラウスが望む限りは」



 まあ、どうせ私はクラウスにとっては利用価値があるから、私に仮面を被らせて正妃の座に座らせているんだろうけど。

 利用価値なしと判断されたら、きっと仮面を被らなくてもよくなるはず。

 その時、私は自由になれるのかな?

 あれ、なんだかちょっとモヤモヤするのはなんだろう?



 もしかしたら、あの拷問お芝居に情が移った……いやいや、ないない、そんな事ないってば!

 私は仮面クラウス苦手なんだから!

 その時が来たら、エルナさんとの事もはっきりするよね。

 今はまだ、エルナさんが妃になれない事情があって、秘密の関係を続けてるって可能性もあるよ。



 ここまで二人が隠し通している事を、部外者の私が根掘り葉掘り聞くのは気がひける。

 仮面妃の私がクラウスの私生活に口を出す権利はないと思うから。



 あれれ、よぉ〜く考えたら。クラウスはわたしの私生活に思いっきり口出してるじゃない!

 なんか不公平だ〜〜っ。私も口出してやる〜〜!

 でも、抗議したら倍返しされそうで、怖くて出来ない……。

 だって、クラウスには口でも力でもかなわないんだもん。私ってなんて小心者で情けないひ弱妃なんだろう。



 エルナさんは何か言いたそうな顔をしたが頷くと、気を取り直したように明るい声を出した。

「セシリア様、髪飾りがずれていますわ。宜しかったらこちらで」

 後頭部に触れると、髪飾りの位置が傾いて取れかかっている。

 私はエルナさんに勧められるまま化粧台の椅子に座った。



 髪飾りを外そうと、頭に手を伸ばすと。

「わたくしがお手伝いしますわ」

 私の後ろに立ったエルナさんが、髪飾りを外してくれた。

「ありがとうございます。後は自分で」

 髪飾りを渡してくれるのを待っていると。

「あの、もし宜しければ、セシリア様の髪をわたくしに整えさせてはいただけないでしょうか?」

 鏡越しに遠慮がちに聞いてくるエルナさん。



「私の髪をですか?」

 聞き返すと、エルナさんは両手を胸のあたりで組んでキラキラとした瞳で大きく頷いた。

「わたくし一度、セシリア様の髪を可愛くアレンジしてみたくて」

 整えるから、アレンジになっているんだけど?

 髪をいじられるのは、ターニャ姉様やマーヤで慣れている。

 私がやるより、器用そうなエルナさんに頼んだ方が良いよね。



「私の髪で良かったらお願いします」

 私の言葉に微笑むエルナさん。

「セシリア様の髪はどなたが?」

「いつもはラルエットから一緒に来た侍女にお願いしているのですが、今は私のそばを離れていて。自分でやってます」

 やると言っても、マーヤがいつもしてくれるみたく、編み込みやアップにしたり、凝ったヘアアレンジなんて私には無理。

 髪飾りを付けるくらいだ。



 エルナさんはブラシを手に、優しく丁寧な手つきで私の髪をとかしてくれた。

「皇宮の侍女に頼まないんですの?」

「彼女達はいつも忙しいようなので、できる事は自分でするようにしています」

 世間話だと思って言った言葉に、鏡越しのエルナさんはブラシを動かす手を止め、驚いたように鳶色の瞳を見開いた、そして……。

 あれ、どうしたんだろ。エルナさん表情暗く沈んじゃってない?



「もしかして、私の髪型変でした?」

 サイドの髪を後ろに持っていって、適当に髪飾りで留めただけの髪型。

 仮面舞踏会という華やかな場で、髪飾りだけってシンプル過ぎたかな?

 シンプルと言うより、雑すぎたか!



 エルナさんは私の心の中を知ってか知らずか、明るい表情に戻り首を振った。

「いいえ、セシリア様のプラチナブロンドは髪を飾り立てなくても、とても綺麗ですわ。手触りもとても良いですし」

 ほ、褒められちゃった!?

 エルナさんが一瞬見せた暗い表情は気になるものの、美人のエルナさんに褒められるとなんだかむずむずする。



「自分ではまとまりが悪い猫毛がコンプレックスだったんですけど。エルナさんにそう言ってもらえて嬉しいです」

 なんか照れちゃうなぁ〜、と笑っていたら、エルナさんが鏡越しにウィンクしてきた。

「自信をお持ちになって。でも、せっかくの綺麗な髪ですもの。時々は髪を遊ばせるのも乙女の嗜みですわ」

「おとめのたしなみ」



 私が言うと何かの呪文に聞こえる。ピンとこない。

「わたくしにお任せ下さいな。セシリア様をとってもキュートに可憐に、変身させてみせますわ!」

 鏡越しに見るエルナさんは、鳶色の瞳を爛々と輝かせ顔が活き活きとしている。

 私、エルナさんのやる気満々スイッチを入れちゃったかも。




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