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《 第22話 クラウス VS グリ? 》


 クラウスは私が来る事を知らなかったの?

 騎士に入室の許可を出したのは、クラウスかギルベルトさんじゃないの!?

「ちょっと待って! 勝手に入ったわけじゃないよ。そこにいた騎士が入って良いって言ったから、入ったんだってば!!」

 護衛騎士の腰には長い剣。

 全身に嫌な汗が流れる。

 扉の外を指差す私に、クラウスはいつになく真剣な顔。



「何をしている。早くそこから離れろ!」

「言っている意味がわからないんだけど?」

 離れろって、囚われるのは私じゃないの?

 じゃあ、誰を捕らえるの?

「妃殿下、こちらに」

 クラウスの後ろからギルベルトさんの姿が見えた。

 手招くギルベルトさんまで、珍しく焦っているみたい。

 私はクラウスと護衛騎士の視線の先をたどった。

 二人が睨みを利かせているのは、私じゃなくて…………グリ?



 いやいや、そんな事ないよね。

 騎士がジリジリと詰め寄って来た。

「妃殿下、そのリスは大変危険です。私が見張っているので、ゆっくり離れて下さい!」

 クラウス達が警戒しているのって、グリなの!?

「ちょっと落ち着いてよ。相手はリスだよ。なんでそこまで警戒するの?」

 窓枠に座っているグリを見ると、ふわふわな尻尾を楽しげに振っている。



 もしかして、クラウスがリスアレルギーだとか?

「ソレは邪神だバカ。早くそこから離れろ」

「バカはないでしょ、バカは! グリが邪神なわけないじゃん。こんな小さなリスに何が出来るって言うの?」

 私は腕を広げてグリを背中にかばう。

 クラウスは眉をぴくりとさせ、瞳を鋭くさせた。



「グリだと……ソレは おまえのペットか?」

 なんだなんだ、そんな怖い顔して。

「ペットじゃないよ。人慣れはしているみたいだから、誰かが飼っているのかも知れないけど、よく庭園で見かけるから野生の可能性もあるよ」

 疑るようなクラウスの視線。

「ソレに何か芸を仕込んだのはおまえか?」

「芸? グリ、何か芸が出来るの?」



 後ろを振り返れば、グリはキョトンと首を傾げた。

「鍵のかかった部屋に侵入し、室内を荒らさせたのはおまえじゃないのか?」

 なんか私、疑われてるし!

「私がそんな事する訳ないじゃん。そりゃあ、ちょっとは……って言うかかなり、クラウスには思うところはあるけど。これでも皇太子妃だからね、少しくらい自覚があるんだから。政務を滞らせるような事はしないよ」



「ほう……自覚とはよく言えたもんだ。今の状況から、おまえとソレが加担しているとしか思えないが?」

 クラウスって、私の事をまったく信じてないんだね。

 これじゃあ、ギルベルトさんや護衛のお兄さんに、私達が仮面夫婦だってもうバレてるんじゃないの?

 クラウスが誰より信頼している執政官と護衛騎士なら、バレても口止め出来るって判断なのかもしれないけどさ。

 そんな事より。



「グリはそんなイタズラしないよ。別のリスじゃないの?」

 グリは私の部屋に来る時、泥はもちろん土埃や草や葉を体に付けてやって来た事はない。

 好物のナッツ入りクッキーを食べる時も、周りにボロボロこぼさずに、行儀よく食べるのだ。

 部屋を荒らすどころか、逆に綺麗好きだと思う。

 身なりの綺麗なリス、と言うのも変な話だけどね。



 でも、クラウスは間違いないと、グリを指差している。

「俺が見間違うはずはない。黒い体に額の縞模様、そして紫の瞳。間違いようがないからな」

 クラウスの言葉にギルベルトさんまで頷いた。

「私も見ましたので、間違いないかと。皇宮内で発見されたリスの特長とも一致していますので」



 私はグリに直接聞く事にした。

「グリ、みんながこう言ってるけど心当たりはある?」

 グリは首を傾げると、アメジスト色のつぶらな瞳で、クラウスをジッと見つめた。

 クラウスは憎々しげにグリを睨む。

 一人と一匹の視線が交差し、奇妙な空気が流れ、それを破ったのはクラウスだった。



「まったく面倒な妃だ」

 ツカツカと窓際までやって来ると、私の腕を掴んだ。

「時間の無駄だ。おまえが関わっているにしろいないにしろ、邪神にも頭は付いているからな。邪でも神と名がつくくらいだ、従う相手を間違えるほど愚かでもあるまい」

 なんか今、遠回しに悪口言われた気がするんだけど?



「何の話?」

「他に首謀者がいるか、もしくわ邪神の単独犯か。その可能性が高いと判断したまでだ」

 よくわからないけど、私がグリをけしかけてクラウスの執務室を荒らさせた疑いは晴れたの?

「ちょっと、離してよ!」

 私はクラウスに引きずられるように、窓際から引き離された。



 どんなに引き剥がそうとしても、クラウスの手は離れない。

 馬鹿力クラウス〜〜っ。

「ソレを捕らえろ」

 クラウスの命令に護衛騎士が再び動き出した。

 一歩一歩慎重にグリに近づく騎士。

 身の危険が迫っているのに、騎士を気にすることなく毛繕いをするグリ。

「グリ、逃げて!」



 私の言葉にキョトンとして、前足で立ち尻尾をパタパタ振っている。

 く〜〜っ、可愛い!

 じゃなくて、状況を理解してないな。

 ああ、騎士がグリに迫っているのに、グリったら背中を向けちゃったよ。

 クラウスの腕が振り解けない。このままじゃグリが。



「この手を離して。動物虐待反対っ! グリは悪いリスなんかじゃ……むぐっ!」

 大声で訴えたら、クラウスの手に口を塞がれた。

「キーキー騒ぐな」

 私は猿じゃない!

 騎士が手を伸ばせば、グリに届きそうなくらい距離が縮まる。



 グリったら、どうして危機感がないのよ?

 人慣れしすぎてるから?

 逃げなきゃ捕まっちゃうよ。早く気づいて!

 騎士がそぉっと腕を伸ばし、グリに触れようとした時。



 グリがぴたりと毛繕いをやめて、振り返った。

 グリと騎士の目があう。

 今まで警戒心がなかったグリに油断し、一瞬出遅れた騎士。

 グリはその一瞬の隙に、騎士めがけてジャンプ。

 見事な飛躍力で、グリが着地した先は騎士の顔。

 騎士の顔にビタッと張り付き、尻尾をふりふり。



 グリの突然の襲撃に驚いた騎士は、わたわたしながらグリを剥がそうと手を伸ばす。

 が、グリは騎士の顔を蹴りジャンプし、本棚に乗り移った。

 上まで駆け上がると、そこから天井にぶら下がるシャンデリアにジャンプ。



「ああっ、お前そんな所によじ登るなんて、卑怯だぞ!」

 下からグリを見上げる悔しそうな騎士のお兄さんを、シャンデリアの上からお尻と尻尾を出してふりふり。

 騎士のお兄さん、グリに遊ばれてるなぁ。

 グリはシャンデリアから今度は執務机に飛び移った。



「このっ、ちょこまか動くな!」

 騎士がグリを捕まえようと手を伸ばすが、グリは軽々それを交わす。

 机の上にある書類の束や、分厚い本を器用に避けて、インク瓶も避け。

 騎士をからかうように、机の上をあっちこっちにちょこちょこと移動するグリ。

 机の端まで走ってくると、こっちを見て尻尾をパタパタ。



 騎士のお兄さん、グリに完全にからかわれてるよ。

「おい、それはやめろ!」

 何かに感づいたようにクラウスが焦った声を出す。

 騎士がグリに触れようとしたその時、グリが尻尾を大きくぶんっと振り……。



 小さく舌打ちをすると、忌々しそうにグリを睨みつけるクラウス。

 クラウスの一歩後ろでコレはまた、と困り顔をするギルベルトさん。

 あ、ちゃぁ。と額に手を当て声を漏らす護衛のお兄さん。

 あ〜、やっちゃった!



 動物のやった事だから仕方ないよ。

 悪気なんてないんだから。

 でも、派手にやったねグリ。

 机の上に広がる黒い液体。

 グリが尻尾を大きく振った瞬間、インク瓶に当たって、瓶がコロンと傾いちゃったのだ。

 瓶が倒れた先はなんと、運が悪い事に書類の束の上。

 書類は飛び散ったインクで真っ黒。



「早く捕獲しろ!」

 クラウスが拳をわなわなと震わせながら、騎士に命令を飛ばす。

 いつも余裕しゃくしゃくのクラウスを、ここまで取り乱させるなんて、グリってかなり大物だよ!

 グリは追いかけて来る騎士の手を素早く巧みに交わし、ためらう事なく書類の上を走る。



 さっきまで避けていたのに、今は遠慮なく走って小さな足跡をつけていく。

 あらら、グリの足跡サイン入り書類が出来ちゃったよ。

 グリが、騎士の顔にまた飛びかかった。

「うわぁっ!!」

 グリの足が早すぎるのか、護衛のお兄さんに俊敏さが足りないのか。

 どっちだろうね。



 護衛のお兄さん、顔がグリの足跡だらけだね。

 これはもう、グリに好かれちゃったんじゃない?

 グリは本当に巧く俊敏に、護衛のお兄さんの顔をよじ登って頭の上に乗っかった。

 何を思ったのか、そこから私とクラウスめがけて大ジャンプ!

 今度は、どこに着地するの?



 グリは私の真上を飛び交え、背後にいるクラウスに向かって飛んで行く。

 クラウスの顔に張り付く直前だった。


 パシッ!


「はい、そこまでですよ」

 のんびりとした声。

 意外な光景を見ちゃったよ。

 すごい、一瞬で。

 騎士でもなかなか捕まえられなかった、すばしっこいグリを、ギルベルトさんが簡単にキャッチしていた。

 それも片手でだよ。

 ギルベルトさんって、いったい何者!?

 思わず尊敬の眼差しを送っちゃったよ。



「イタズラはそこまでにして下さいね」

 あれ、でもクラウスも騎士のお兄さんも驚いた様子がない。

 みんなギルベルトさんの特技を知ってたの?

 グリを両手に包むように持って、やんわりお説教するギルベルトさん。

 ギルベルトさんとは反対に、私の隣から冷たい冷気をまとった声。

「ギル、ソレを処分しろ」



 処分!?

 私は口を塞いでいるクラウスの手を引き剝がし、首を背後に回した。

「処分反対!」

 インクが飛び散り、足跡のついた書類の束に眉をひそめるクラウス。

「おまえに決定権はない。この俺の執務室を荒らし、皇宮内に不穏な噂を蒔いた元凶には相応しい処罰だ」

 なんて冷酷な人なの!



「無理に捕まえようとするから逃げるんだよ。酷い事しなければ逃げないよ。お願いだから、グリに酷い事しないで!」

 クラウスの腕を掴んで見上げれば、顔をそらされた。

 クラウスに抗議しても無駄。

 グリはギルベルトさんの手の中で、必死に手足をばたつかせて抜け出そうともがいている。



「ギルベルトさん、グリを放してあげて下さい。今後、執務室や皇宮内に入らないように言って聞かせますから。お願いします」

 グリは人の言葉がわかる賢いリスだ。

 話せばわかってくれる可能性は充分にある。

 頭を下げると、ギルベルトさんは首を傾げた。



「これは困りましたね〜。妃殿下は慈悲深い方ですね。クラウス様、どうされますか?」

 判断しかねたのか、ギルベルトさんがクラウスにチラッと視線を送る。

 ギルベルトさんに訴えても、結局はクラウスに決定権がいくんだね。

 クラウスは不機嫌そうにむすっとしている。

 執務室を荒らしたリスがグリだったとしても、何か訳があるんじゃないの?



「グリに恨まれたり、酷い事としたり。執務室を荒らされる理由に心当たりはないの?」

「ふんっ、あるわけないだろう。こっちが聞きたいくらいだ。目障りだ、早く部屋から出せ」

 クラウスの考えが変わらないなら、こっちにだって考えがあるんだから!



「窓を開けたのは私だよ。だから私が責任をとる。グリを処分する前に、わたしを煮るなり焼くなり好きにすれば良いじゃない!」

 私は床に座り込んで腕を組んだ。

 楽しみを取り上げられて退屈な日常に、グリが癒しをくれたんだから。

 グリの命は私が守る!

 さあ、好きにすれば良い!






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