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《 第16話 絵文字手紙って何ですか? 》


 フェストランドの秋は駆け足でやって来る。

 今朝は空気が少しひんやりしているからちょっと肌寒い。

 収穫が終わった畑は順番に耕して、次の種まきの準備に備える。



 今日はどんな仕事が待っているかな?

 菜園に行くと、モーナさんを発見!

 花壇の前でしゃがみ込んで、何をしているのかなぁ?

「モーナさん、珍しい花でも咲いているんですか?」

 振り返ったモーナさんは笑顔で迎えてくれた。



「絵を描いていたの」

 そう言って見せてくれたのは、一枚のメッセージカード。

 カードには色鉛筆で、グラスに入った赤紫色の水と、その中に生けられた一輪の黄色い花が描いてある。

「モーナさん、絵が上手なんですね。この絵の花は、花壇の花ですか?」

「ええ、その通りよ」



 花壇の花は生き生きしているよね?

 でも、この絵の花はなんだか元気がない。

 花がヨレっとしていて茎はクタっとしているように見えるんだけど。

 カードと花壇の花を交互に見ていたら、モーナさんがふふっと笑った。



「花が枯れてるのはどうして? そんな顔ね」

 言い当てられてしまった。顔に出てたかな。

「カードの花が元気がないのはどうしてかなって。ちょっと気になりました」

「夫にお説教の絵文字手紙だから、わざと枯らした花を描いたのよ」

 楽しそうに笑うモーナさん。



 カードには文字はなく、枯れた花の絵がどうしてお説教になるのか、全然わからない。

「これからメッセージを書くんですか?」

 モーナさんが首を振った。

「この絵がメッセージよ。シシーは暗号文とも呼ばれている、絵文字手紙を知らないの? 」

 暗号文に絵文字手紙……アリーサ姉様が好きそうな単語だけど、私には聞き慣れない単語だ。



「何ですかそれ?」

 聞き返す私に、立ち上がって腰に手を当てたモーナさん。

「もう、シシーったら若いのに勉強不足よ! 絵文字手紙と言ったら、恋人達のコミュニケーションの一つじゃないの」

 めっと怒られちゃった。

「いや〜、その手の話に縁がなくて」

 苦笑いで返すしかないよ。

「そんなんじゃダメよ。ちょっとこっちにいらっしゃいな!」

 モーナさんは私を近くのベンチまで引っ張って行った。




 ベンチに二人並んで座ると、モーナさんが絵文字手紙について教えてくれた。

「花言葉は知っているかしら?」

「花に付けられた、友情とか親愛みたいな言葉ですよね?」

「その通りよ。その言葉を上手く組み合わせて一つのメッセージにするのが、絵文字手紙または暗号文。恋人達の遊びよ」

 ふ〜ん、フェストランドでは変わった遊びがあるんだね。

 モーナさんがカードをもう一度見せてくれた。



「それじゃあ、花が元気がないのにも意味があるんですか?」

「もちろんよ。枯れた花が、ぶどう酒の入ったグラスに生けられている。そこがポイントですもの」

 赤紫色の水はぶどう酒だったのね。

 それにどんな意味が隠されているのか、さっぱりわからないけど。

「なんだかメッセージを解くのは難しそうですね」



「あら、簡単よ。この花の花言葉は健康。でも、ぶどう酒に浸かって枯れているでしょ? お酒に関するメッセージなの」

「う〜……ん、飲み過ぎに注意。ですか?」

「その通り。飲み過ぎは不健康。だから注意しなさいって意味なのよ」

 なるほどね。モーナさんはお酒を飲み過ぎた旦那さんに、絵を使って釘を刺したんだね。



「奥が深い遊びですね」

 パズルを組み合わせるように、絵と言葉が一つのメッセージになるように考えて描かないといけないのか。

 私もスケッチはするけど、野菜限定だからね。

 絵を組み合わせた文を作るなんて、頭が痛くなりそうなゲームだなぁ。



「シシーの将来が心配になってきたわ。これをあげるから、しっかりお勉強なさい」

 モーナさんはスカートのポケットの中から、ピンクパール色の本を取り出した。



 表紙のタイトルは、『恋人に愛を込めて。絵で綴る単語辞典』……。

 本のタイトルについての感想は控えよう。

「私には必要ないですよ〜」

 仮面だけど夫のクラウスに送る?

 描いても鼻で笑われてゴミ箱にポイっ。

 メッセージになってるなん気づかないと思う。



 モーナさんには既婚者です。とも、夫はこの国の皇太子です。

 なんて、言えないけど。

 そんな私の事情を知らないモーナさんは、私の肩にぽんっと手を置いた。

「恋人が出来た時に役に立つわよ。持っておいて損はないわ」

 有無を言わせぬ笑顔で返品不可、って言われちゃったよ。

 使う時が来るかどうかはともかく、モーナさんからのご厚意だからね貰っておこう。

「ありがとう、モーナさん」




 今日の労働を終えて自室に戻った私は、モーナさんから貰った単語辞典を開いた。

 送る相手はいなくても、せっかく貰ったんだから、一度くらいはページをめくっておかないと失礼だよね。

 ペラペラめくると、どのページも文字がぎっしり。

 ところどころに小さな解説の絵が入っている。



 こんなにたくさん。

 これを組み合わせてメッセージにするなんて、私にはムリ。

 あれ、鳥にも言葉がついているよ。

 そういえば、この前クラウスの本に挟んであった絵。

 マーヤが、ミモザとアオバトだって言っていたっけ。

 ちょっと調べてみようかな。

 私はページをパラパラめくった。



「アオバトは……秘密の愛。ミモザは……止められない衝動」

 これを文にすると……。



「秘密の愛は、止められない?」



 こんな感じかな。

 クラウスの本から出てきたあの絵が絵文字手紙で、私が訳した文が正しかったら。

 なんだか危険な恋の匂いがするね。

 絵の裏に小さく記されてあったあの文字。



『アルへ、エルより』



 エルという人物がアルという人物に宛てた絵。

 その絵を大事に本に挟んで持っていたクラウス。

 アルとエル、そしてクラウス。

 三人はどんな繋がりがあるの?

 自分のプライベートをクラウスに干渉されてない私が、クラウスのプライベートに深入りしたらダメだよね。

 でも、気になっちゃうよ。

 アルとエルっていったい誰なの?





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