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《 第13話 仮面妃とガーデンパーティー 》


「血筋とお家柄重視のパーティーなんて、堅苦しくて行きたくないーーっ」

 皇宮公認の社交クラブ『アオバの会』。

 若い年齢層、特に上位貴族の子息令嬢を中心に結成された組織。



 何をするかって?

 それはね、交流と情報交換。

 なんて言ったら聞こえは良いけど、要するに、ニコニコしながら相手の腹の探り合い。

 私が一番苦手な社交分野なのよ!

 クラウスが出席するって言うから、セットで妃の私もパーティーに駆り出されたわけ。



「断ればいいのに」

「これも公務の一つだ。妃としての務めを果たせ」

 クラウスに腕を引っ張られ、引きずるようにして歩かされる。

 只今、アオバの会主催のガーデンパーティーに連行され中です。



「上辺だけのお世辞に、永遠と続く自慢話なんて。無駄に疲れるだけじゃない〜〜っ」

 本音を隠したごますり貴族に、婚姻の相手を探す令嬢達。

 繰り広げられるのは、言葉の裏を探る水面下での駆け引き。

 そんな戦場を優雅に立ち回れるのは、ターニャ姉様かアリーサ姉様くらいだよ。



 クラウスは立ち止まると、盛大なため息を吐いた。

「まったく、世の中に社交嫌いな王女がいるとはな。おまえ、本当に王女か?」

「世の中広いのよ。王女じゃなかったらラルエットに帰してくれる?」

 あ、本音がつい出ちゃった。

 二人の間に妙な沈黙が流れる。

 その沈黙を破ったのはクラウス。

「退屈なパーティーかどうかは、行ってから判断しろ」



 帰してくれ、は無視ですか。

 私の切実なお願いだったのに。

「行かなくてもわかるよ。妃は風邪で病欠という事で!」

 キリッと真面目に病欠申請してみました。

「今回の主催者はエルナだ。出ないとうるさいからな、行くぞ」

 まるっとスルーしたなぁっ。

 さっさと歩いて行くクラウスに、私は恨めしげな視線を送る。

 別に帰してやる、なんて言葉は期待してないけどさ。

 苦手な社交に、クラウスとの仲良しごっこ。



「憂鬱だ、神経すり減る。行きたくないよぉ。ご褒美がなきゃやってられないよーー!」

 愚痴くらい言っても良いじゃない。減るもんじゃなし。

 のろのろスローペースで、クラウスの後ろをついて行く。

 すると痺れを切らしたのか、ぐりんっとクラウスが振り返って、私の所まで引き返して来た。



 両腕をお腹のあたりで組んで、仁王立ち。

 その、不敵な笑みにはイヤな予感しか感じないんだけど?

「俺に抱き抱えられて人前に出るか。自分の足で歩くか。どちらか選べ」

 最初の選択肢は却下!

 そんな恥ずかしい真似出来ません!!

「自分で歩きます!」

 私が自棄になって言うと、クラウスは満足そうに唇の端を持ち上げたのだ。

 手の平の上で転がされてる感じがする!




 ガーデンパーティーは大庭園の一角で行われた。

 楽団が奏でるゆるやかな音楽。

 テントを張った下で、談笑する人々。

 軽食が置かれたテーブルで食事をする人。

 顔ぶれを脳内貴族リストでざっとチェックしてみると……。

 出席者は青年貴族や令嬢だったり、エリート騎士や文官と様々。

 上位貴族の中でも、将来有望な人材が集まっているよ。



 軽食の量もすごいね。

 お皿に積まれたサンドイッチに、カラフルな焼き菓子の塔はマカロン。

 グラスに注がれた果実酒も、赤や紫にオレンジ色。緑色はなんの果実酒だろう?

 料理人が特設された窯で、野菜やお肉を焼く香ばしい匂い。

 料理人のテーブルを見ると……おおっ!

 ラルエットにはない食材や、珍しい品種の野菜がたくさん並んでいるじゃないの!



「各領地の特産物を集めましたの」

 エルナさんの一声で、これだけの食材が集まるなんて、すごい!

 イヤだったガーデンパーティーが、一瞬で楽園に見えるよ。

 気軽な会だというので、私とクラウスは挨拶を交わしながら、一言二言世間話をして回った。

 もちろん私は大人しくクラウスの横に引っ付いて、相槌を打ったりにっこりよそ行き用のセシリアスマイルも忘れずにね。




 会場中を動き回っていたエルナさんが、私達のいるテーブルにやって来た。

「準備ご苦労だったな」

「これくらい大した事ありませんわ」

 クラウスの労いの言葉に、エルナさんは嬉しそうに軽く淑女の礼をして返した。

 気軽な会なら、主催者も少しは休憩しても許されるはずだよね。

 エルナさんはさっきから動き回っていて、大変そうだったもん。



 私はトングを手に、焼き菓子をいくつかお皿に載せた。

 なるべく小さい一口サイズの物をチョイス。

「せっかくのパーティーなんですから、エルナさんも楽しんで下さい」

 エルナさんに焼き菓子のお皿を渡すと、横から伸びてきた別の手が割り込んできて、お皿を持って行かれちゃった。



「気がきくな」

「クラウスっ」

 私はエルナさんにあげたのに、なんで横からクラウスが入ってくるかなぁ。

 クラウスは何事もなかった顔をして、クッキーを一つ取ると口の中に入れちゃったよ。

「エルナさんに取り分けたのに」

「堅い事を言うな」

 私が軽く睨むと、お皿を突き返してきた。

「欲しいならやる」



 話が噛み合ってないよ。

 すぐにいらなくなるなら、横から奪わないでよ。

 何がしたいのかわからない。

 私は気を取り直して、ぶどう酒のグラスを手に取った。

「エルナさん、喉乾きませんか?」

「ありがと……あら」



 エルナさんが受け取ろうとすると。

「ちょうど喉を潤したかったところだ」

 また、横からクラウスの手が割り込んで来て、グラスを奪って行った。

「クラウス〜っ」

 平然とした顔で飲んでる!

「これは昨年のぶどう酒だな」



 私の事は無視ですか!?

 せっかくエルナさんと仲良くなれるチャンスだったのに、クラウスに邪魔されたよ!

 クラウスはエルナさんがグラスを受け取ろうと差し出した手に、アイスティーの入っているグラスを渡している。

 エルナさんは目をぱちくりさせ、少し戸惑ったような微笑みを浮かべているよ。



「え、ええ。数百年に一度と言われた高品質の物らしいですわ。芳醇な香りで奥深い味わいに出来上がったと、お祖父様が仰って増したわ」

「最近シュナル侯爵には会わないが、変わりなく健在か?」

「ええ、変わらずですわ。領地運営に忙しくて、皇宮になかなか顔を出せないと、嘆いていらっしゃいましたわ」



 シュナル侯爵って、シュナル殿のお父様の事かな?

 脳内貴族リストをめくる。

 婚礼の時に挨拶した覚えがあるような……。

 確か、シュナル殿と同じ赤い髪に灰色の瞳をした、初老のおじさんがいたよ。

 ちょっとおもいだした。あの人がシュナル侯爵で、シュナル殿のお父様だね。

 エルナさんのお祖父様でもあるとなると……。



「先日、隠居暮らしはまだまだ叶わないと、父に愚痴っていらっしゃいましたわ。父に相談するお祖父様もお祖父様ですが、歳の離れた弟だからとサミーを甘やかし過ぎる父にも問題が有りますわ」

 エルナさんとシュナル殿って叔父と姪だったんだね!



 やれやれとため息をつくエルナさんに、クラウスが苦笑で返している。

「そうか。サムにたまには実家に顔を出すように伝えておこう」

 姪にお説教される叔父さん。

 う〜……ん、どうなの?



 それより、クラウスとエルナさんの美男美女の組み合わせだよ。

 お似合い過ぎて、なんとなく入って行きづらい雰囲気。

 ほら、周りの人も遠巻きに二人を眺めているよ。

 ため息を吐く人、悔しがる人、うっとり見つめる人もいる。

 この絵面に平凡な私が混ざるのはちょっとね。

 二人から離れていようかなぁ。



 クッキーを選ぶフリをしながら、テーブルの端の方に移る。

 知り合いの少ないパーティーって、こういう時に困るよね。

 クラウスに突き返されたクッキーを齧りながら、会場を見渡した。

 むふふっ、あっちのテーブルにサラダが並んでいるじゃないの!

 あっ、サラダに気を取られていたら、二人と離れちゃったよ。



「セルトン領のベリーの生育状態はどうだ?」

「味に問題はないのですが、昨年と比べると今年は粒が小ぶりで実りも少ないようですわ」

 なんだか真面目な話をしているね。

「そうか」

「あちらのテーブルに、実家の領地で実った、ベリーのタルトやパイを用意してありますわ」

 二人は会話を続けながら、別のテーブルに移動。



 ありゃ、私って置いてゲボリを食っちゃった。

 二人を追いかけて、会話に加わる?

 なんか熱心に領地の話をしてたから、そこに割り込むのもねぇ。

 それに果物は守備範囲外だから、会話に混ざれないよ。

 こんな事なら、果物について勉強しておけば良かったかな?

 タルトやパイが並べられたテーブルを眺めるクラウス。



「確かに粒が小さいな。エルナのお勧めは?」

「そうですわね……こちらの木苺のタルトなどいかがですか? 味も香りも良くて、タルト生地にも乾燥木苺のチップを入れて焼き上げてありますのよ」

 エルナさんにタルトを取り分けてもらったクラウスは、フォークで一口切り分けて食べると、満足そうに頷いている。



「ベリーの栽培に関しては、西のセルトン領に勝る領地はなかなか無いな」

「父にクラウス様のお言葉を伝えたら喜びますわ」

 クラウス、気ままにやってるみたい。

 私がずっとクラウスに引っ付いて歩かなくても良さそうだね。

 じゃあ、私も自由に動き回ろ!



 サラダテーブルに行こうかな。

 それとも、野菜をグリルしている所を見に行こうか。

 迷っていると、どこからか声をかけられた。

「クラウスにくっついて行かなくて良いの?」



 誰だろ?

 声のする方をキョロキョロ。

 うわぁっ、テーブルの向こう側から突然、ニョキッと腕が出て来たよ。

 ぎゃあっ、こっちに向かって手を振っているよーー!

 ひぃっ、真昼のホラー!?





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