第六十六話 その賄賂はありえない…
前回の続きです。
ジンちゃんの策ねぇ……。
「まず、始めにですが、豫章郡は揚州です」
「うん。それで?」
「ならば本来であれば、討伐するのは楊州牧の袁術であるのがスジというものでしょう」
「うん。それはそうだよね」
「故に『袁術の了承なくして攻め込めぬ』と申せば宜しいのです」
「……けど、袁術が了承したら?」
「それならば我らは『あくまで援軍としてならば向かう』と申しましょう。それで袁術が納得しないのであれば、袁術は楊州牧としての義務を果たしていないことになります」
「袁術が動いた場合は?」
「その場合、我らは一応、軍勢を率いて豫章に向かいます。そこで只管、何もせずに対陣しておれば宜しいでしょう」
「袁術や朝廷が納得するかなぁ?」
「我らはあくまで『荊州牧としての任務のみ忠実に果たす』と申せば宜しいのです。それ以上は『権限がない為、動けぬ』と断れば良い」
「つまり『権限の中でのみ義務を果たす』と言えば良いのね?」
「左様。朝廷からしてみれば、我らにそれ以上の権限を与えるのは躊躇する筈ですので」
「成程。それに豫章に攻め込んだ際、前もって張宝と示し合わせれば、こちらの兵の損失も0か……。よし、それでいこう」
僕は政庁に行き、長旅の疲れを取ることにした。
政庁は自宅でもあるからね。
翌日は一日中ごろ寝して、英気を養う。
ゲームの世界でも疲れるんですよ。
肉体的にも精神的にもね……。
そして翌々日の会議となり、一同を会議室に集合させた。
僕は荊州牧になる旨を皆に明かし、それと同時にジンちゃんの策を申し述べた。
結果は満場一致で可決。
問題は馬日磾がどう出るかだな……。
謁見の間に馬日磾を迎え入れ、僕はその事を馬日磾に述べた。
すると、馬日磾はにこやかに二つ返事で了承したのだ。
……どういう事? 絶対、抗議すると思ったんだけど……。
馬日磾が去った後、僕は蔡邕に聞いてみることにした。
スンナリ受け入れたことに疑問しか湧いてこないからだ。
「蔡先生。馬少府君は何故、何も言わず了承したのでしょう」
「翁叔殿(馬日磾の字)は袁術も警戒されておるからです。それ故でしょう」
「……話が見えませぬ」
「……清流派も一枚岩ではないのです。此度の我が君への荊州牧就任は楊太僕(楊彪のこと)らが仕向けたらしいですので……」
「……成程。袁術が後ろで糸を引いていた訳ですな」
「そういう事です。なので、翁叔殿からしてみれば丁度良い条件と言えましょうな」
「……馬少府君も人が悪い。それならば一言、言ってくれても良いのに」
「彼はあくまで勅使でやって来たのです。致し方ないと思います」
まぁ結果的に上手く行ったようで、まずは一安心。
袁術としては面白くないだろうけど、やるなら自力で豫章を攻め取って下さい。
そして、もしもそうなった場合、僕は豫章に兵は送れないけど武器や兵糧は送るつもり。
そして、僕が茶を飲んで一服していると張昭がやって来た。
神妙な面持ちでだ。何の用だろう……?
「荊州牧就任おめでとうございます。これで荊使君となった訳ですな」
「え? ああ。これも貴方方の尽力の賜物です。礼を言いますぞ」
「そのような事はどうでも宜しい」
「……は?」
「太守を任命して下され。まずはそれからですぞ」
「う……うむ。そうだな……」
「一言申し上げておきますが、それなりの実績のある者にお願いしたくございます」
「……と、言うと?」
「いきなり茂才で登用したばかりの若輩者はお止め下さい。我が君はその辺が無頓着過ぎますからな」
「……それもそうだな。では、誰にしようか」
「御自分でお決めなされ。しかし、若輩者はいけませぬぞ」
「……安心せよ。分っておる」
「それと太守に任じられた者は、おいそれと任地から移動出来ませぬ。良いですな」
「………」
何度も釘を刺さなくて良いのに……。
けど、面倒だなぁ……。
一番は忠義者であるのが条件だけど……。
まずは張任、厳顔だ。
これまでずっと太守同様の扱いだったし、実績からしても問題はないだろう。
年齢も既に三十代半ばだし、文句は出ない筈だ。
なので、厳顔を零陵太守、張任を武陵太守にすることにした。
益州を見張る上でも益州出身であれば、対応は楽そうだしね。
問題は長沙郡、臨賀郡、桂陽郡の三郡か。
南郡は蔡瑁を任命しないと劉表とか曹操とかにも怒られるだろうし、江夏郡は劉祥を任命するしかないからなぁ……。
悩んだ末、僕は長沙太守に邴原、桂陽太守を王儁、臨賀太守を満寵とすることした。
全員三十代前後だし、邴原と王儁は名声もち、満寵は統率も高く県令を経験している上、守備にも定評ありそうだからだ。
衝陽も新たに郡とし、太守には王烈を任命。
これで衝陽を暫くは地所として運用することになる。
そして11月の内政フェイズなんですが、特に書くことがありません。
いや、さぼった訳じゃなくて、荊州牧就任の祝い事にこじつけた祭りや配下達へのボーナス。
人事異動云々での処理、そして鄭玄に約束した書物購入や弟子たちの旅費などで全て終わってしまったんです。
良質の筆や紙を使用するにも、かなりの出費がかかる訳でして……。
まさか、ここまで金がかかるとは思わなかったよ……。
それ以外にも周辺の街道や宿場町の整備というのもあったしね。
そして、意外にも私塾の創設に大金がかかっているのです。
全員が太学に入れる訳ではありません。
まず文字が読めないと話にならない。
そこで私学校というか私塾を創設し、そこで文字を教えているのです。
そして私塾から才ある者を選出し、太学に入れさせる訳ですね。
なので、余計にお金がかかるんですよ……。
さて、配下の皆は凄く忙しそうだけど、僕はのんびりすることになった。
非常に有難いことです。
まぁ、戸籍やら何やらの処理とかの雑務まで僕は無理ですので……。
僕が暫くのんびりと数日間過ごしていると、交州から使者が来た。
交州の別駕をしている董承が来たとか……。
就任の挨拶かな? 嫌な予感するけど……。
謁見室へ赴くと小太りで如何にも偉そうにしている男を発見。
こいつが董承か……。能力値は……。
董承 能力値
政治3 知略6 統率6 武力6 魅力5 忠義5
固有スキル 歩兵 補修 讒言 罵声
まさかの讒言持ち!?
どういう事だ? 忠義も思ったより低いし……。
僕が困惑していると、董承はいきなり大声で話しかけてきた。
「まずは荊州牧就任。いやぁ、おめでたいですな!」
「……あ、いや。有難うございます」
「つきましては我が兄上も交州牧になられました! そこで就任祝いを貰いたい!」
「……就任祝い?」
「臨賀郡の割譲で手を打ちましょう! 悪い話ではないですな!」
「……はぁ?」
いきなり何を言い出すと思えば……。
急に来て早々、訳が分からねぇ……。
「……お待ちを。既に臨賀郡には太守を任命致しました」
「罷免すればよろしかろう!」
「……簡単におっしゃいますな。そもそも、何故臨賀郡を割譲せねばならぬのか分りませぬ」
「簡単であろう。臨賀郡は交州の領内であった筈だ」
「それは違います。あの一帯は荊州と交州の何れに属するか、線引きが成されておりませんでしたぞ」
「だから、こうして割譲を申し出ておる」
「それにです。あの一帯は荊南蛮や山越の民が多く、双方ともに統治出来ておりませんでした。そこを我々が統治する形になったのですぞ」
「そんな事は知らん。大体、そなたと我が兄では権威が違うではないか」
「同じ州牧の筈ですが……」
「そなた、噂通りの分からず屋だな。我が兄は元驃騎将軍だぞ」
「……それが何か?」
「おい! 『何か?』とは何だ! つまり『お前と我が兄とでは格式が違う』と言っておるのだ!」
「………」
一体、何なの? こいつ……。
言っている事が滅茶苦茶すぎて話にならないよ……。
……どうしたものかな?
「私にお任せを。ボンちゃん」
「ジンちゃんか……。上手く纏められる?」
「少し自信はありませぬが、やるだけの事はやってみます」
「……そうか。なら頼んだ」
流石に今回もジンちゃんは自信なさそうだ。
話の通じる相手とは到底思えないから仕方ないか……。
「董別駕殿。いきなり『割譲せよ』と申されましても、それでは領民も納得しますまい」
「そんな事はどうでも良い! 早く書を認めて割譲すれば全ては丸く収まるのだ!」
「……それは『領民を蔑ろにせよ』と申されるのか?」
「どうせ不服を申すのは漢の民ではないのであろう。ならば問題あるまい」
「大いに問題有りです! そもそも、そのような考えだから交州は内乱を起こしておるのではないですか!」
「ほざくな! お主はさっさと割譲すれば良いのだ! そうすれば後々、良いように取り計らってやる!」
「……今、何と仰せられた?」
「近く協皇太子をこちらへ行幸させ、帝に即位なされるのだ。その時、この衝陽を都にしてやる。有難く思え」
「……話にならぬ! お引き取り願おう!」
「何だと!? この田舎孺子めが!」
「貴殿のような痴れ者では話にならぬ! 早々に出て行くがよい!」
「言ったな! 後悔することになるぞ!」
「力づくで臨賀郡を掠め取るつもりか!? ならば、こちらも容赦はせぬ! 左遷された分際で何処まで出来るか、お手並みを拝見してやろう!」
「きっ! 貴様!! 後で吠え面かくなよ!」
……いやぁ、お話になりません。
これじゃあ、ジンちゃんを責める訳にはいかないね。
しかし、僕が知っている董承とは印象が大分違い過ぎるんですけど……。
幸い臨賀郡の太守に就任した満寵が未だに衝陽に居たので、念のため注意を促すことにした。
あそこまで滅茶苦茶だと何やってくるか分らないからなぁ……。
「満府君。粗方、周囲から聞いたと思うが……」
「ご安心を。そのような痴れ者に遅れは取りませぬ」
「うむ。しかし、油断はするなよ」
「はい。心得ております。念のため、何名か校尉か都尉の方を連れていきたいのですが」
「それならば李通、文聘、趙陀をつけよう。それで問題はないかね?」
「その三名でしたら心強い限りです。必ずや守り通してみせましょう」
董承みたいな雑魚ばっかりなら問題はないと思うけど、一緒に洛陽から誰を連れて来ているかだよなぁ。
それ以前に交州で起きた反乱は治まったのかなぁ……?
「満府君よ。交州の状況なのだが、既に乱は鎮圧したのかね?」
「粗方治まったようですな。ですが、地所がまだ定まっておらぬようです」
「……というと、董承は臨賀郡を地所にするつもりだったのか?」
「恐らくそうでしょう。臨賀郡は御承知の通り、既に街も農地も仕上がっておりますしな」
「ふざけた話だ……」
「全くです。賄賂として『郡ごと寄越せ』なんぞという話は聞いた事がありませぬ」
その後、僕は満寵から現在の交州の状況を聞いた。
何でも随分とややこしい状況なようだ。
まず、天帝教団というのは二派に分かれているということ。
これは闕宣らが始めたものと、章河の流れを組む本来の天帝教があるという。
章河の流れを組む天帝教は比較的、太平道や五斗米道に近いもので、闕宣のものと相反するぐらい違うものだ。
当然、両者ともいがみ合っており、交州だけでなく揚州の会稽郡にまで諍いが及んでいるらしい。
黄巾党が落ち着いたと思ったら、今度はこれかよ……。
宗教って面倒くせぇなぁ……。
僕は満寵との会談の後、今度は范増を呼ぶことにした。
章河の流れを組む教団であれば、どうにか交渉出来そうだからだ。
という訳で、フクちゃんモード発動。
「亜父よ。交州の件なのだがな……」
「また面倒な奴が来よったのぉ……。で、どのような件じゃ?」
「天帝教のことよ。大きく二派に分かれていると聞いたが…」
「名前だけ同じで全くの別物じゃぞ…」
「うむ。それは満寵から聞いた。どうにかして、章河の流れを組む連中を味方に引き入れたいのだがな」
「……また面倒な事を思いついたな。それは骨が折れるぞい」
「何故だ?」
「我らは黄巾党の連中との接点が多いからじゃ。そ奴らも黄巾党を快く思っておらぬ」
「……はて? 黄巾党が言う太平道も教義は似たような物なのだろう?」
「章河の一派は自分らの方が元祖だと思い込んでおる。それに闕宣が黄巾党上がりいう事もあり、根深いものになっておるぞ」
「……確かにそれは面倒だな」
「章河派の連中は少数であるし、皆殺しにしたとしても問題はない。一緒くたにいっそ……」
「……いや、それは不味い。荊南にも章河の一派はおるのであろう?」
「しかし、じゃな……」
「上手く太平道と融合させる道を模索しよう。時間は掛かるかもしれぬが、それ以外ない」
「……ふぅむ。上手く行くかのぉ?」
「それは余も分らん。だが、やるしかない」
「やれやれ、仕方ないのぉ……。儂もやるだけの事はしてみるぞい」
いやぁ、返す返すも宗教ってホント、面倒くせぇなぁ……。
こうやって色々と宗教の分派って作られていくんだろうか?
闕宣のやり方みたいのは、まず有りえないんだろうけどさぁ……。
それはそうと荊州牧となった僕は、領内の人事配置を改めて刷新することにした。
南郡の蔡瑁と江夏郡の劉祥は一切ノータッチだけどね。
その結果、こうなりました。
長沙郡
太守邴原
韓曁、鞏志、周泰、蒋欽、陳端
武陵郡
太守張任
甘寧、朴胡、趙儼、沙摩柯、杜濩
桂陽郡
太守王儁
賀斉、徐盛、灌嬰、太史慈、金旋
零陵郡
太守厳顔
劉度、游楚、張承、是儀、鐘離昧
臨賀郡
太守満寵
李通、文聘、趙陀、劉先、李孚
衡陽郡(地所)
荊州牧司護、太守王烈
頼恭、厳畯、来敏、国淵、桓階
杜襲、尹黙、孫乾、繁欽、秦松
張範、鄭玄、范増、周倉、許褚
蔡邕、徐奕、顧雍、陳平、潁容
張紘、張昭、管寧、鄧芝、邯鄲淳
陳紀、彭越、陳羣
こうして見ると随分な概要だなぁ……。
董承も良く喧嘩売る気になるよ……。




