第六十二話 汝を如何にせん
まず、袁術については無視することしよう。
大体、こっちはそれどころじゃないしね。
それに洛陽には董卓もいるし、袁術の下に孫堅がいるとしても単独では無理だろう。
うん? いや、それ以上に袁術が帝を殺して簒奪したら、その時は大手を振って討伐出来るんじゃ?
そうなれば流石に孫堅も袁術を見限るだろうし、僕が袁術を倒して劉協か劉寵を帝にすればゲームクリア?
うおお! そう考えれば俄然、やる気が出てきた!
「何じゃい? いきなり変な大声を上げてからに……」
「い、いや。気合を入れなおしたのだ。大した意味はない」
「それならば良いがのぉ……」
「それはそうと、陳勝と呉広の居場所は蘭陵城で間違いないのか?」
「いや、そこではないようじゃ。蘭陵城ではなく海州(現在の連雲港)に近い森の丘の場所らしいのぉ」
「何でまた、海州近くなんぞに……」
「……近く、ここから逃げるからじゃよ」
「何故?」
「どうも陶謙が天帝教のカラクリに気づき始めたらしいぞい」
「……では、鄭玄や孔融の出獄も時間の問題か?」
「それは分らぬ。陶謙が出獄の命令を下す前に。天帝教の者どもが殺す可能性も否定出来ぬしの」
「……では、陳勝、呉広どころではないではないか」
「鄭玄や孔融の居場所も突き止めたぞい。流石に両方は無理じゃろうが……」
「ならば鄭玄、孔融らが先決だ。陳勝、呉広は捨て置くことにしよう」
「分った。ならば利城じゃ」
「我らだけで勝てるか?」
「幸い天帝教の孔鮒は我らと通じておる。それに城主の曹宏は天帝教の幹部じゃが戦さに慣れておらぬ」
「……どんな人物だ?」
「陶謙に仕える佞臣じゃよ。陶謙の目を醒まさせるつもりなら、彼奴は斬り捨てるべきじゃろうのぉ」
「成程。そして、助け出した後はどうする?」
「海へ向かい船に乗るのじゃ。そこから青州か広陵の張英がいる陣営に向かえば良いじゃろう」
「……船はどうやって用意するのだ?」
「案ずるな。既に用意してある。お前さんが贔屓にしている麻婆さんの伝手を借りてな」
「……麻婆さん?」
誰かと思ったら、劉繇さんのところに居る行商問屋の隠居の婆さんのことでした。
皆さん! お年寄りは大切にすると良い事があるようですよ!
因みに麻婆さんの豆腐と茄子の料理は辛いけど美味しいです。
僕と范増、陳平、彭越、周倉、許褚、そして新たに加わった太史慈と応援に加わった呂岱らと共に利城へ向かった。
許褚が連れてきた侠客百人や彭越、陳平が味方に引き込んだ盗賊連中も入れると合計数は約三百。
敵の本拠地とはいえ、こっちは精鋭揃い。
助け出したら、さっさと逃げるしね!
そして、移動している最中に9月も終わり……。
なんか、長い9月だったな……。
気のせいじゃないと思う。うん……。
それはそうと、なんか久しぶりな政略フェイズです。
やり方を忘れちゃいないだろうな……。
確認の為、先月のパラメータを見てみよう。
衡陽パラメータ
農業896(1500) 商業865(1500) 堤防93 治安100
兵士数45283 城防御183(600)
資金4058 兵糧50000
臨賀パラメータ
農業1000(1000) 商業1000(1000) 堤防100 治安100
兵士数57244 城防御440(500)
資金3447 兵糧70200
零陵パラメータ
農業1300(1300) 商業1300(1300) 堤防100 治安100
兵士数53646 城防御449(500)
資金9460 兵糧173400
長沙パラメータ
農業1200(1200) 商業1500(1500) 堤防100 治安100
兵士数64973 城防御600(600)
資金9980 兵糧93000
桂陽パラメータ
農業1000(1000) 商業900(900) 堤防100 治安100
兵士数52282 城防御420(500)
資金8376 兵糧144700
武陵パラメータ
農業1200(1200) 商業800(800) 堤防100 治安100
兵士数44345 城防御498(500)
資金9167 兵糧135000
改めて見ると、よくもここまで発展したものだなぁ……。
これも優秀な内政要員を掻き集めてきた上に、大規模な戦争をしていないからか……。
まぁ、吉兆の効果もあるんだろうけどね。
でも、もしもだよ。袁術が豫州から先の都まで攻め入り、董卓、何進らを蹴散らして禅譲迫って帝になったら……。
そうすれば堂々と大軍勢を率いて都に入れるじゃないか!
という訳で袁術よ! 僕は応援しているからね!
……無理だとは思いますけど……。
長沙は韓曁が銀山採掘。
桂陽は李通が城壁補修。
零陵は厳顔が城壁補修。
邯鄲淳、潁容が劉君、歩君、蒋君、沈君、竹千代、そして新たに加わった孫君と裴君に講義。
臨賀では劉先、邴原、文聘が城壁補修。
衡陽は……。
張範、趙陀が帰順。
顧雍が治水。
蔡邕、桓階、杜襲、是儀、満寵、陳端、張紘、国淵、徐奕、金旋、王儁が開墾。
繁欽、尹黙、趙儼、灌嬰、張昭、秦松、王烈、孫乾、劉度、管寧、鄧芝が街整備。
来敏、李孚、張承、厳畯が引き続き宿場町増設と周辺の街道整備。
衡陽パラメータ
農業1046(1500) 商業1004(1500) 堤防91 治安100
兵士数46683 城防御183(600)
資金2662 兵糧154600
臨賀パラメータ
農業1000(1000) 商業1000(1000) 堤防100 治安100
兵士数57244 城防御474(500)
資金4147 兵糧170200
零陵パラメータ
農業1300(1300) 商業1300(1300) 堤防100 治安100
兵士数53646 城防御460(500)
資金10660 兵糧303400
長沙パラメータ
農業1200(1200) 商業1500(1500) 堤防100 治安100
兵士数64973 城防御600(600)
資金14480 兵糧213000
桂陽パラメータ
農業1000(1000) 商業900(900) 堤防100 治安100
兵士数52282 城防御430(500)
資金9176 兵糧244700
武陵パラメータ
農業1200(1200) 商業800(800) 堤防100 治安100
兵士数44345 城防御498(500)
資金9967 兵糧255000
金も兵糧も随分と入ったことだし、あとは北伐の大義名分を得るだけだ。
けど、その大義名分が中々上手いこと手に入らないからなぁ……。
大体、劉表と劉岱の協力が必要な訳だしね。
そして、数日かけて蘭陵県に向かう途中の宿にて、范増が汚らしい物乞いの親子連れを僕の前に引き出してきた。
子供の方は十六歳前後ぐらいの娘だ。
でも、凄く酷い臭いだし、普通はフラグなんて立ちませんよ。
……てかね。これでフラグを立つ展開なんて話、聞いた事がありません。
僕が訝しんでいると、范増が話しかけてきた。
……何だろう?
一応、ジンちゃんで応対しよう。
フクちゃんだと良い応対出来ないだろうし。
「我が君。こちらが蘭陵城の手引きをする者達でございます」
「成程、そうですか。しかし以前、お会いした事があるかな?」
「良く憶えていなさるな。以前、臨賀での弁論大会におった孔鮒殿じゃよ」
……ああ、あの時に張宝に論破されたその他大勢の一人か。
確かに一人だけ少し落ち着きがないのが居たけど、その人なのね。
でも、それなら何で物乞いなんかに化けているんだろ?
まぁ、まずはその事を聞いてみるとするか。
「これは孔鮒殿。ご協力、感謝致しますぞ」
「何をおっしゃられます。協力して貰うのは某の方で御座います」
「いやいや。天下の名士を救いだすのは、正しく天下の為です」
「……無礼な。それでは貴殿がまるで帝のようではないですか」
「あ、いや。これは失敬。そのようなつもりでは……」
「やはり貴殿は天下を狙っているのですかな?」
「……これは手厳しいですな。しかし、帝を狙うつもりならば、今頃佞臣どもに賄賂を貰って、このような場所におりませんぞ」
「ハハハ。これは一本取られましたな。ご無礼の儀、ご容赦下され」
「ハハハ。して何故、そのような恰好をしておられるのですかな?」
「実は恥ずかしいことに私が范増殿と通じているのが露見致しましてな……」
「何と!? それでは蘭陵城に真正面から向かうしかないと?」
「いえいえ。辛うじて、その手段だけは確保致しました」
「……手段ですと?」
「はい。この虞という娘でございます」
え? 虞? ……まさか、虞美人?
確かに顔は黒く汚されているけど、洗えば凄い美人っぽい……。
けど、何で虞美人が手段になるんだ???
「……何故、その娘御が手段となるのだ?」
「はい。この娘御は陳勝、呉広らの妾でありましたが、絶世の傾国であるが故、帝に献上しようとしていた者です」
「……なんと御労しい。しかし、このような娘御に、そのような扱いなぞ」
「これも天下の為で御座います」
「……いや、いかん。そのような婦女を囮にして入るとなると、この娘御も無事で済むかどうか分らぬではないか」
「……しかし、虞もそれを望んでおられますぞ」
「貴殿が唆したのではないのか?」
「……なっ!? 某が唆したと申すか!?」
「ご無礼は承知の上で申す。余はそのような婦女の命まで危険に晒したいとは思わぬ」
……難しい選択だなぁ。
個人的にはボンちゃんこと、僕自身もそんな事したくないけど……。
で、その時、いきなり范増に怒鳴られた。
「こら豎子め! あれほど『婦人の仁に感化されてはならぬ』と申したではないか!」
「……亜父よ。許せ。余はこの娘が憐れでならぬ」
「娘一人の命と天下の名士らの命、どちらが上かは自明の理じゃろうが!」
……ううむ。どうしよう。范増が激怒しちゃった。
やはり、ここは……。
「情けねぇな。ボンちゃんよ。まぁ、それ以上に情けないのは腐れ儒者だが」
「フクちゃん?」
「俺に任せろ。悪い様にはしねぇから」
「……う、うん。それじゃあ……」
「お待ち下され! 凶賊に任せるのは……」
「ジンちゃん、御免! フクちゃんゴー!」
という訳で、ここはフクちゃんに任せることにした。
どう范増をやり込める気なんだろ?
「亜父よ。他に方法があれば、娘を囮に使う必要がないではないか?」
「……他に方法だと?」
「そうだ。もっと良い方法があるのに、それを使わずして娘御を使うというから間違っておるのだ」
「……どのような方法じゃ?」
「囮は娘御ではなく、孔鮒殿に任せるとしよう」
「なっ!?」
「既に孔鮒殿が虞という娘を連れ出している事は知られておるのであろう? ならば好都合ではないか」
「どう好都合なのじゃ?」
「もし虞であれば、そのまま陳勝、呉広の所へ早馬で連れ去られる可能性もある。その点、孔鮒殿であれば、尋問して虞の居場所を吐かせようとするであろう?」
「……む」
「連中が尋問している最中であれば隙が生まれやすい。故に孔鮒殿を囮に使うのだ。なぁ、孔鮒殿。貴殿が命を惜しみたいのであれば……」
「この孔鮒、友の為に命は惜しまぬ! 宜しい! 某が囮になろう!」
……上手くいったのかな?
良く分からないおっさんと国民的美少女のどっちが上となれば、そりゃあ当然、国民的美少女の方が上でしょ。
まぁ、孔鮒が囮を快く(?)引き受けてくれたので、万事目出度し……と。
そのやりとりを見ていた虞は、そっと僕に近づいて囁いた。
ドキドキするなぁ……。
臭いけど……。
「あの……有難うございます」
「いや、お礼を言われる程でもありませんから」
「……宜しければお傍に置いて下さいませ」
まさかの虞美人からのアピール!?
ど、ど、ど、どうしよう!?
フクちゃんはヤバそうだからジンちゃんにタッチ!
「ふむ? 『お傍に』とはどういう意味かね?」
「……そのような事を私の口から申せとおっしゃるのですか?」
「いや、そのようなつもりは無いのだが……」
……虞美人は黙ってしまった。
本当にどうしよう???
「いいじゃねぇか。妾にしてやれば」
「ちょっ!? フクちゃん!?」
「正室じゃなければ良いだろうに。少しは楽しめよ」
「………無理!」
「……何故?」
「項羽が転生していたら僕に死亡フラグが立つからに決まっているじゃないか!」
「……その後、下げ渡せば良いだろう? どうせ陳勝、呉広のお古なんだし」
「待て凶賊! 今の発言は見捨ててはおけぬ!」
「黙っていろ! 腐れ儒者! こういう時だけデカい顔するな!」
「ああ……もう、どうしよう……」
振り返って虞美人を見ると、何故か怯えている。
范増や孔鮒もこっち見ているし……。
しまった……。また、やっちゃった……。
けど、どうすれば良いのかなぁ……。
「ボンちゃん。ここは私に任せて下され」
「ジンちゃんが?」
「上手く取り計らって御覧にみせまする」
「う、うん。じゃあ、任せた!」
僕には到底、無理な話ですのでジンちゃんに任せるしかありません。
そりゃあ「どうせゲームなんだし」って頭に過りましたよ。
けど、項羽が仲間になってくれるキーアイテムかもしれないと思うとね……。
人を物として考えているみたいですけどね……。
でも、これってゲームの世界ですから!
……けど、現実に戻ったとしても、同じような考え方しか出来なかったらどうしよう……。
まぁ、それは「その時に考える」ということで……。




